あの虹の向こうへ君と

「なんだか祈るって体力いるね。でも、届いた気がする」


 琴音は疲れているようだ。届いた気がするとも言っているので、もしかしたらあの時の僕と同じ感覚になったのかもしれない。


「きっと届いたよ。疲れているみたいだし、少し休もうか」


「うん。そうする」


 僕と琴音は長椅子に座りながら休みつつ、管理人のおじいさんを待つことにした。
 だが、彼が現れることはなく、陽が沈んでしまった。


「管理人のおじいさんに琴音のこと会わせてあげたかったけど、もう遅いから帰ろうか」


「そうだね。また今度来ようか」


「うん。次に来たときは会えるかもね」


 琴音はなにも言わなかった。僕達はそのまま教会を後にした。
 きっと二人でまたここに来れるはずだ。

 根拠はある。琴音と約束したからだ。最後の最期まで希望は捨てない。

 琴音との日々は夢のように過ぎ去り、ついに十一月八日を迎えた。
 最期の日。

 制服を着た二人は、この日もバスに揺られていた。今日だけは、普通の恋人同士として過ごすことができない。
 僕と琴音は学校へ行くふりをして、約束のあの丘へ向かっている。お互い学校をサボるという経験が初めであり、警察に補導されないか無駄にヒヤヒヤした。

 それでも、こうして電車を乗り継ぎ無事にバスに乗ることができた。

 バスが目的のバス停に停まる。二人はなにも言わずに降りた。
 快晴の空の下には田んぼが広がり、家がまばらにある。昔とあまり変わっていない、懐かしい風景だ。

「久しぶりに帰ったきたな」

「いい町だね」

 琴音は穏やかに、緑が豊かな風景を見渡す。制服の胸元から出したハート型の白い石がついたネックレスは、光を反射してキラキラと光っている。

 今日も付けてきてくれて、本当にうれしい。琴音の命の光もこのくらい輝いてくれたら、もっとうれしい。
 ゆっくりこの町を、琴音と楽しみたかった。だが、時間がそれを許してくれなさそうだ。

 今は晴れているが、予報では天気は大きく崩れるらしい。スマホで時間を確認すると、既に十一時を過ぎていた。


「ここから歩いて三十分くらいで着くよ。行こうか」


「う、うん」
 琴音から緊張が伝わってくる。


「大丈夫だよ」


 なにが大丈夫なのか、自分でもよくわらない。それでも、最後の最期まで幸せでいて欲しいため、琴音の緊張や恐怖を少しでも取り除きたかった。


「ありがとう」


 琴音はにっこりと笑った。

 その時だ。僕は思い出した。
 小学四年生の時、こことは違うバス停のベンチに座りながら泣いている、知らない女の子に遭ったことがあった。

 おそらく中学生くらいだった気がする。だが、泣いている顔を見るのは失礼だと思い、あまり見なかったためはっきりとは覚えていない。

 その女の子が心配になり声をかけたが、泣いているばかりでなにも答えてくれなかった。それでも放っておけず、僕も隣に座ったのだ。