「翼、大丈夫なの? 結構、高いよ? 別のにしようか?」
「大丈夫。今日はお金に、余裕があるからね」
「それなら、お願いしちゃおうかな。ありがとう、翼」
「どういたしまして」
危なかった。ギリギリ足りる。
琴音に会いに行った夜、行きもタクシーを使っていたらお金が足りなかっただろう。会計が終わると、ポイントカードをもらい店を後にした。
店を出ると琴音はすぐにネックレスを付けた。
「翼から私への最初のプレゼントだね。これ、もう絶対に外したくないよ」
「そう言ってくれてうれしいよ。ありがとう」
こんな普通の恋人のようなデートがなによりも価値がある。だから、あえて言わなかった。
ハートの形をした白い石のネックレスには、琴音の命の光が新たに輝いて欲しいという僕の願いが込められている。
ずっとそばにいて欲しい。僕が死ぬまで生きてそばにいて欲しい。そんなわがままな願いだ。
これを最期のプレゼントにしたくないという僕の思いは虚しく、命の光は無慈悲に輝きをなくしている。
それでも、琴音との思い出でノートをいっぱいにしていきたい。
二〇一八年、十一月一日、木曜日。
残り、七日。
他の生徒と混ざり、いつものよう登校していた。学校まで誰も歩みを止めない中、僕は道の端に止まる。
そんな異様な行動をする僕を、誰も気にしていない。学校での僕は存在していないのと同じだ。
だが、そんなことはもはやどうでも良い。ただ立っているだけなのにワクワクしている。早く会いたい。
少し待っていると、他の生徒がいない道から彼女がやってきた。
「おはよう、琴音」
「おはよう、翼」
無表情でありながらどこかうれしそうな彼女に、僕の顔も緩む。
琴音と歩いている時はいつも他の生徒の視線を感じるが、気にせず今日も二人で歩き始めた。歩きながらの会話は相変わらずない。
琴音と一緒に学校へ行くようになってから、まだ四回目だ。それでも、もうこれが自分にとって日常になってしまった。
日常でありながら強く幸せを意識できることが、なによりの幸せだ。
琴音の横顔を見てみる。鼻が高く、まつ毛も多いく、いつ見ても芸能人のようだ。
以前は常にゼロみたいな表情をしていたが、最近はプラスに感じる。
僕の表情はどうだろうか。おそらく、マイナスが一気にプラスになったと思う。
学校なんて楽しくなかった。そんな僕でも、琴音と恋人同士になってから、学校へ行くことが楽しみになっている。本当にこの学校に入学して、よかったと心から思う。
学校へ着くと、二人はそれぞれの教室に向かった。年齢差を気にしたことはないが、この時ばかりは同じ学年で同じクラスだったら良かったのにと毎回思ってしまう。
一人で教室のドアを開ける。