体調も良くなり、渡せなかったプレゼントを持ったまま家に帰ると、すぐに部屋に閉じこもった。
私、最低だ。
寿命を見せてしまったのは、私も知らなかったから仕方ない。
でも、自分が死んだ後の世界で、悲しむ人のことを全く考えていなかった。自分が死ぬまでに、楽しむことばかり考えていた。
いい思い出なんて一人でも残せる。映画だって、音楽だって、勉強だって、一人で楽しめるものはいっぱいある。
早速、音楽を聴くことにした。
こんな時だからこそ、サッドクロムで一番好きな曲が聴きたい。スマホに取り込んであった『この声』を探し、再生をタップする。
駆け出したくなるような疾走感に触発されたのか、涙がまた溢れてくる。
それは善斗さんに対する恋愛感情を洗い流し、罪悪感だけが残された。
この日から私は、人と関わることを極力避けるようになった。最初はみんな戸惑っていたけれど、すぐに人が離れていった。
狂った夜に震えているのなら
迷わず俺に電話すればいい
君の綺麗な細い手首が 傷で埋まる前に
この声を君に 君の声を俺に
二人の声で叫ぼう
悪い夢なら明日には終わる
晴々しい朝が訪れるから
苦しめる過去に別れを告げて 未来を目指して
この声を君に 君の声を俺に
二人の声で叫ぼう
大切な瞬間を ずっと抱きしめて
落とした物なら 拾わず行こう
この声を君に 君の声を俺に
二〇一八年、十月二五日、木曜日。
辛い時は今でも『この声』をスマホで聴いている。曲が終わったので停止をタップした。
今日はお母さんの最期の命日だ。
自室の窓ガラスは夜を纏い、私の姿と寿命を表す記号とハートを映す。
死ぬこと自体に対しても、ある程度は前向きに考えらるようになっていた。
それなのにどうしてだろう。もうすぐお母さんに会えてうれしいはずなのに、心が不安定だ。
大好きな曲を聞いても、辛かったことが止まらず頭から溢れてくる。
三年前のあの時を忘れたことはない。善斗さんに渡せなかったドッグタグネックレスは、私の後悔として重く首から下げていて、あの日から一度も外したことがない。
それでも、ここまで鮮明に思い出してしまうことはなかった。
こんな私が、お母さんに会う資格があるのだろうか。明るく生きられなかった私を、お母さんは受け入れてくれるのだろうか。
不安で壊れてしまいそう。
縋るようにスマホのメッセージアプリを開き、斎藤くんから届いたメッセージを見た。
【ありがとうございます。もし、辛い時がありましたらお話し聞きますね。あまり、うまいこと言えないかもしれませんが】
『狂った夜に震えているのなら 迷わず俺に電話すればいい』
斎藤くんのメッセージと『この声』の歌詞が重なる。今の私には優し過ぎる言葉だ。