あの虹の向こうへ君と

 寿命が見える現象について老人がなにか知っているのではと思い、言える範囲で探りを入れてみたが、どうやらそれに関してはなにも知らないようだ。

 結局、木村先輩の死を回避するための情報は、なにも得られなかった。それでも、ここに来てよかった。

 彼女もここに連れていきたい。老人に会わせたい。そんな思いを胸に秘めて教会を後にした。
 せっかくここまで来たのだ。砂浜が綺麗だったので、帰る前に散歩することした。

 砂浜の写真を撮り、メッセージアプリを開く。


【今日はこんなところに行きましたよ】


 写真と共に、木村先輩へと送信する。

 この日から、毎日一通ずつ彼女にメッセージを送ることにした。
 返事はないし、迷惑かもしれない。それでも、なにかあった時は少しでも僕を頼りやすように、繋がっておきたかった。

 だが、なにも音沙汰がないまま、日にちだけが過ぎた。

 このまま、木村先輩のためになにもできずに終わってしまうかもしれない。まだ、なんの役にも立っていない。焦る自分に「まだ僕がいなくても大丈夫な状況なんだ」と言い聞かせた。
 二〇一八年、十月二十五日、木曜日。

 スマホが規則的に震える音で目を覚ました。どうやら、着信のようだ。

 外はまだ暗い。こんな非常識な時間に、電話をかけてくる知り合いは誰だろうか。
 まだ半開きの目で、画面を確認する。その瞬間、眠気はどこかへと飛んでしまった。


『木村琴音』


 見間違いではない。考えるより先に、応答の文字をタップしていた。


「もしもし」
 返事がない。沈黙だけが受話器から聞こえる。

 もう沈黙でもいい。これは木村先輩と繋がっている特別な沈黙だ。

 しかし、しばらくすると啜り泣くような声が聞こえてきた。


「先輩! 大丈夫ですか!?」


 深夜にも関わらず、大きな声を出してしまった。
 冷たい汗が流れる。

 まだ、命の光が消えることはないだろう。それでも、木村先輩の身になにか悪いことが起きている。


「斎藤くん……」


 最後に聞いた声よりもさらに細く、今にも崩れてしまいそうだ。こんな状況でも、久々に声が聞けて心が躍ってしまった。

 だが、今は当然浮かれている場合ではない。
「どうしましたか?」


 木村先輩は声を震わせた。


「一人が怖い……」


 それは助けを求める少女のようだった。木村先輩が苦しんでいるのだ。

 思い当たる節が一つあり、日付を確認してみる。

 今日は十月二十五日、木村先輩の母親が亡くなった日だ。木村先輩にとっては最後の命日であるため、様々な思いが溢れてしまったのかもしれない。
 全ては憶測に過ぎず、今でも彼女がなにを考えているかわからない部分はある。

 だが、わからないということは、知りたいということだ。知りたいということは、好きということだ。

 僕は木村先輩が好きだ。木村先輩のためにできることを、木村先輩のためにしたいことをする時だ。