あの虹の向こうへ君と

 理屈として正しいかどうかはどうでもいい。善斗くんが僕にここまでのことを言ってくれた。それだけでもう、失敗する気がしない。


「わかった。僕、頑張るよ」


 僕が力強く頷くと、二人とも声を出して笑った。
 もう、時間も遅い。

 新たなる決意を胸に、星空を後にした。僕の家に着いた時、彼は言った。


「おまえは無茶しちゃうところあるから、そこだけは気をつけろよ」
 二〇一八年、十月十八日、木曜日。

 家に帰ってからずっと木村先輩のためにできることを考えていたが、答えはまだ出ていない。気がついたらベッドの上で日付が変わっていた。

 もう、夜も遅い。さすがに寝た方がいいと思ったが、善斗くんにお礼のメッセージを送っていないことを思い出した。それほど、木村先輩のことで頭がいっぱいだったのだ。
 メッセージアプリを開く。


『誕生日の友だち 木村琴音』


 大変申し訳ないが、この文字を見て善斗くんのことが頭から吹き飛んでしまった。

 すぐに、二週間以上止まっていたメッセージの画面を開くと、反射的に指が動く。
【お誕生日おめでとうございます】


【ありがとう】


 メッセージを送ったことを悩む時間もなく返事がきた。

 十八日ぶりの木村先輩からのメッセージに涙が溢れそうだったが、グッと堪える。その瞬間、木村先輩のためにできることが閃いた。
 誕生日プレゼントを渡そう。

 木村先輩にとって誕生日とは、死へのカウントダウンみたいなものだ。いや、もう死を受け入れた彼女は、それさえも感じていないかもしれない。

 だからせめて、喜ぶようなものを渡して、少しでも誕生日が来てよかったと思ってもらいたい。

 でも、一つ大きな問題がある。木村先輩の欲しいものがわからないのだ。あまり、いいやり方ではないとは思ったが、本人に聞いてみることにした。
【なにか誕生日プレゼントに欲しいものとかありますか?】


 送った直後に気がついた。僕は最低だ。なんてことを言ってしまったのだろうか。大切なことが頭から抜けていたのだ。


【なにもないよ】


 送信を取り消す前に返事が来た。
 十歳の誕生日、木村先輩は事故に遭っている。その時、母親を亡くして、自分の寿命が見えるようになってしまった。そんなことがあれば、誕生日がトラウマになっていても不思議ではない。

 もっと、そのことを考えてから送るべきだった。もしかしたら、中学時代の奈緒にフラれた原因の一つに、こうした無神経な部分もあったのかもしれない。
【木村先輩の気持ちも考えずに、勝手なこと言って申し訳ございませんでした】


【別に嫌な気持ちはしてないよ。欲しいものがないだけ】


 彼女は本当に優しい。一方、僕は気の利いたことが言えず、気持ちが空回りしてばかりだ。