あの虹の向こうへ君と

 どんなに走っても、最後に見た木村先輩の姿が追ってくるような気がした。

 怯えていたのか、悲しんでいたのか、怒っていたのか、もはや僕にはわからない。でも、傷つけてしまったことは確かだ。

 理由はわからないが、木村先輩は恋愛などしたくなかった。恋愛をしたくない彼女に恋愛感情をぶつけて、心を殴ってしまった。

 僕は彼女のことを、なに一つわかってあげられていなかったのだ。
 僕が一人で勘違いして、僕が一人で舞い上がって、僕が一人で昂って、僕が木村先輩を傷つけてしまった。


『またね』


 一緒にCDを見に行った時の笑顔が浮かんできた。木村先輩には、もっと笑って欲しい。それなのに僕はなんてことをしてしまったのだろうか。
 気がつくと駅まで着いていた。

 もう、なにも考えられない。今の僕にはなにもない。死んだような気持ちで電車に乗った。

 九月と共に始まった関係は、九月と共に終わりを告げたのだ。
 二〇一八年、十月十七日、水曜日。

 放課後、木村先輩に連れて行ってもらったCD屋である、ユニオン・チャイルドへ行った。死んだような生活をしているが、少しは気晴らしになるかもだろう。
 古びた店内には、おすすめを教えてくれる人はもういない。気になったバンドを何枚か手に取っては、棚に戻しているだけだ。

 なにを買ったらいいかわからず、ただ、虚しくなりながら店を出てしまった。

 続いて、レンタルビデオ屋へ向かった。
 木村先輩のお母さんが出演していた『奇跡と眠り人』を観るために、何度か足を運んでいるのだ。なにもやる気が起きなくても、これだけは続けていた。

 だが、運が悪いことに毎回レンタルされているのだ。それでもこの行動が、僕の命の光をギリギリのところで光らせていた。
 今日こそは借りられるだろうか。期待を胸に店に入ったが、藤田竜将のピックアップは終わっていた。『奇跡と眠り人』を探してみたが、どこにも見当たらない。

 どうすることもできずに、レジにいる店員に聞いてみた。


「すみません。『奇跡と眠り人』という映画を探しているのですが」


「申し訳ございません。レンタル落ち商品として売っていたのですが、売り切れてしまって」


「わかりました。ありがとうございます」
 あの作品は配信されていない。さらに、廃盤していてネット通販で買うこともできない。望みは無くなり失意と共に店をでると、外はもう暗くなっていた。

 そうだ。こんな時は、サッドクロムの音楽を聴こう。店の入り口の近くに立ち止まり、鞄からスマホを取り出す。
 もうこの画面に、メッセージの通知が表示されることはないだろう。

 木村先輩を傷つけてしまったあの日、ずっと続いていた連絡が途切れた。自分になにかを言う資格があると思えず、謝罪すら出来ていない。

 音楽アプリを開いた。サッドクロム以外の音楽が増えたため、探すのが少し大変だ。どのバンドも、木村先輩が教えてくれたものだった。