【話、聞いてくれてありがとう。あのさ、明日の予定とかある?】
もう、寝てもいい時間になっていた。寝るのが遅くなるので明日の予定を心配してくれているのだろう。
【特にないよ】
【それなら明日会わない? 映画でも見に行こうよ】
近くにある商業施設内の映画館のホームページが送られてきた。明日の予定はないと言ってしまっため、もう行くしかない。
だが、気が進まなかった。今更、どんな顔をして会ったらいいかわからない。
せめて観たい映画を観ようと思い、ホームページからスケジュールを確認する。
すぐにある映画が目に止まった。元々映画に詳しくない上にこのジャンルはあまり興味がないが、今はこの映画が観たい。
【いいよ。11時から始まる『太陽の蒼』はどうかな?】
【これ、面白そうだと思っていたんだ。これにしようよ】
【ありがとう。チケットは予約しておく】
観る映画が決まり、何通かやり取りをしてメッセージは終わった。
奈緒に会うと思うと、得体の知れない不安を感じてしまう。それでも、映画を観ること自体は楽しみだ。チケットを二枚予約してから、眠りについた。
二〇一八年、九月二十二日、土曜日。
急がないとまずい。僕は久々に走っていた。
寝る時間が遅かったためか、寝坊してしまったのだ。映画に間に合わないほどではないが、相手を待たせてしまっている。
待ち合わせ場所である大型商業施設の入り口が近づくと、すぐに奈緒を見つけることができた。
手入れがされていないプリンのような金髪はよく目立つ。今日も巻いた後ろ髪をツインテールにしており、服装も派手でフリフリしている。
中学の時は素朴な黒髪の女子で、髪をブリーチしたのは高校生になってからだ。SNSでそのことを知った時は、僕が知っている彼女の姿がなくなったような感じがして、とても辛かった。きっと、あの時はまだ未練があったのだろう。
今はどうなのかわからないが、はっきりとわかることが一つある。金髪の彼女を生で見るのは初めてだが、特に辛くはない。SNSで見慣れてしまったからだろうか。
奈緒の表情がわかる距離になった。かなり不機嫌そうだが、このまま怒られても文句は言えない。
彼女も僕に気づいた。すると、さっきまでとは打って変わって、満面の笑みを浮かべ手を大きく振ったのだ。
「斎藤くん。久しぶり」
「遅れてごめんね」
涙袋が強調された濃いメイクは、素朴だった昔の面影を消していた。自然に近いメイクをしている木村先輩とは真逆である。だが、それ以上に違うものがあった。
笑顔だ。
木村先輩の笑顔は、心の底から湧き上がったものように感じた。思い出すだけで、僕の心を躍らせる。
一方、彼女の場合は笑顔の仮面を付けただけにしか見えなず、申し訳ないが少し不気味だ。
変わったのは僕だろうか。それとも彼女だろうか。中学生の時は、そんなこと感じたことがなかった。
「大丈夫だよ。私も来たばかりだし」
「それでも、待たせちゃってごめん」
声までも、なんだか嘘くさいくらい上機嫌だ。それでも、怒られて空気が悪くなるよりは良い。
なにはともあれ合流できたので、映画館に向かった。発券機の前まで着くと、すぐにチケットを出して奈緒に渡す。
「ありがとう。映画、楽しみだね」
僕が知らない高そうなパスケースの中に、奈緒はチケットを入れてそのまましまった。その姿を見て、善斗くんが前に言っていた言葉が蘇る。