僕の身体が動かない。
映画館の席に座ったまま、声さえ出せずなにもできなくなった。こんなこと、十六年間生きてきて初めてだ。
エンドロールは終わっており、小さな館内はすでに明るくなっていた。他の客は次々と席を立つ。
学校生活がうまくいかず、死んだように空虚な日々を過ごしているとはいえ、さすがに身体の異常は怖い。このままだと、本当に死んでしまうかもしれない。
焦りとは裏腹に、さらに信じられないことが起きた。目の前にいる人達が、薄くなり消えてしまったのだ。首を動かせないため全体は確認できないが、少なくとも僕の視界は誰もいない映画館になっている。
もはや身体の異常などではない。今起きていることは超常現象だ。夢でも見ているのだろうか。いや、確かにこの小さな映画館は「ドリーム・シネマ」という名前であるが、間違いなく目は覚めている。信じられないが、紛れもなく現実だ。
映画が始まるように、館内は徐々に暗くなっていく。なにが起こっているのか深く考える間もなく、スクリーンに映像が映し出された。
最初は真っ白な背景だった。そこに見たこともない黒い記号が、右から左へ浮かび上がっていく。まるで、なんらかの言語で書かれた文章のようだ。
どういうことだろうか。全く見たことがない記号にも関わらず、意味を理解できてしまった。いや、理解したというより、本能が感じとったという方が近い。
例えるなら、目の前に正体不明の巨大な怪物が現れ、それを理屈に頼らずに危険と判断するような感覚だ。
その記号は、恐ろしいことを啓示していた。
『二〇一八年十一月八日、正午頃、この命の光は消えて終わりを迎えます』
記号を背景に、人の姿が徐々に映されていく。僕と同じ学校の制服を着た女子生徒だ。
うちの学校に通う生徒なら、彼女のことを知っていると言っても過言ではない。クラスメイトの名前すらあやふやな僕でもわかる。
彼女は木村琴音だ。
三年生の先輩で、全国レベルの学力を持っているにもかかわらず、なぜか偏差値が低いうちの学校にいる。おそらく、僕のように試験当日に体調をくず、二次募集で入ってきたのだろう。
スクリーンに映る木村先輩は、まるで女優のように整った容姿だ。日頃から放っている無愛想で近付き難いオーラも、画面越しから伝わってくる。
映し出された彼女の左胸に、ピンク色のハートが眩しく光った。これが命の光だろうか。もしそうならば、あの記号はこの光が十一月八日に消えることを意味している。
今見ているものは、彼女の死期だ。今日は九月一日であるため、あと二ヶ月くらいで木村先輩は死んでしまう。