その時だった。

「早く金を返さんかい!」

この場に怒鳴り声が響いたかと思ったら、乾いた音が同時に聞こえた。

「待ってください!

まだ準備ができていないんです!

後少しだけ待ってください!」

順子の泣きそうな声が聞こえたと思ったら、彼女が大山を抱えて現れた。

彼女に抱えられた大山は気を失っていた。

大山の頬は赤く腫れているうえに、唇の端から血が出ていた。

さっきの乾いた音は、彼が殴られた音だったみたいだ。

「返済期限はとうに過ぎているんじゃ!

とっとと返さんか!」

順子の借金取りたちが暴れていた。

「えっ、何?

何が起こったの?」

小祝は訳がわからないと言った様子でオロオロとしていた。

「どうした!?」

「ものすごい音が響いたけど、一体何があったの?」

その後から宗助と武藤と卓真が何事かと言うように、この場に現れた。
ミヒロは彼らに大山の彼女の順子が抱えている借金を話した。

「マジかよ…」

そう言ったのは卓真だった。

「何で相談してくれなかったんだ!」

小祝は怒鳴るように言った。

「ごめんなさい…」

呟いているような声で謝ったミヒロに、
「今はそんなことを言ってる場合じゃない」

宗助はそう言うと、順子のところへ歩み寄った。

彼に続くように、ミヒロたちも潤子のところへ行った。

「とっとと返せって言ってんだろ!」

「ごめんなさいごめんなさい…」

怒鳴り散らしている借金取りたちに、順子は土下座をしていた。

「待ってください!

借金なら俺が払います!」

大山が借金取りたちに向かって言った。
「えっ、清貴くん…?」

順子は顔をあげると、驚いた様子で大山を見つめた。

大山はジーンズのポケットから封筒を取り出すと、借金取りたちに差し出した。

「ここに250万が入っています。

残りは少しずつですけど、ちゃんと返します。

今日のところは、これで勘弁してください」

大山は借金取りたちに頭を下げた。

「そんな、清貴くん!」

「いいんだ、お金ならまた貯めればいい。

貯めていたバイト代はもちろんのこと、メンバーや友達、親や親戚に頭を下げて、やっと半分の250万が貯まったんだ」

順子の言葉をさえぎるように、大山が言った。

「大山くん…」

小祝は何も言うことができないと言った様子だった。
この場に沈黙が包まれようとしたその時、
「一択!」

それをさえぎるように、島田と婚約者父娘が現れた。

「一択くん、1週間が経過したよ。

1週間とよーく考えて出した答えを今すぐに聞かせてもらおうか」

カホの父親が小祝に向かって言った。

(どのタイミングできているんだよ…)

ただでさえややこしくなっているこの場がさらにややこしくなってしまったことに、ミヒロは両手で頭を抱えたくなった。

「親父!」

小祝はそう言うと、島田の前に歩み寄った。

「俺、会社を継ぐよ!」

そう宣言した小祝に、
「本当か!?」

島田は驚いたけれども、嬉しそうに返事をした。

「こ、小祝さん…!?」

さっきまでは会社を継がないと言った彼の急な変化に、ミヒロは戸惑った。

「いっちゃん、ホント!?

カホのお婿さんになってくれるの!?」

カホは両手をあげて大喜びをしている。
「だけど、条件が1つだけあるんだ」

小祝は島田に言った。

「まあ、お前が会社を継ぐんだったら何でも聞こう」

それに対し、島田は返事をした。

「彼女の借金を全額返して欲しいんだ」

小祝は順子を指差すと、そう言った。

「小祝さん…!」

大山は驚いたと言うように目を見開き、潤子は戸惑った。

(早い話が自分を犠牲にするって言うことなのか…?)

小祝の行動に、ミヒロはどうすればいいのかわからなかった。

「借金は500万もあるそうだ。

それを全額肩代わりする代わりに、俺は親父の会社を継ぐ。

共に苦楽を共にして、励ましあった仲間を放って置きたくないんだ!」

躰を2つ折りにして頭を下げた小祝に、
「まあ、いいだろう」

島田は返事すると、スーツのポケットに手を入れた。

「――ごめんなさい!」

順子がそう言って、小祝に土下座をした。
突然謝罪をした順子に、ミヒロたちは何が起こったのかよくわからなかった。

順子はガバッと顔をあげた。

その顔は、泣いていた。

「――ごめんなさい!」

順子はもう1度土下座をすると、
「本当の借金は、50万なんです!」
と、叫ぶように言った。

「ええっ!?」

大山が驚いたと言うように聞き返した。

「ど、どう言うことなんだよ…?」

武藤は訳がわからないと言う顔をした。

順子は顔をあげると、
「それを500万に上乗せして清貴くんから騙し取るって言う策略だったんです!

騙し取ることができたら借金自体をなかったことにしてやると、彼らに言われたんです!

断ったら妹がどうなっても知らないぞって脅されて、仕方なく…!」
と、声をあげて泣き出した。
「な、何だと…!?」

卓真の顔は怒り心頭だった。

「ごめんなさい!

本当に申し訳ありませんでした!

妹を助けるためには、彼らの言うことを聞くしか他がなくて…!」

順子は泣きながら謝っていた。

「このヤロー!」

彼女の自白によって詐欺行為がバレてしまった借金取りたちは、卓真以上に怒り心頭だった。

「裏切ったうえに、ベラベラベラベラとしゃべりやがって!」

借金取りが順子に殴りかかろうとしたその時、
「そこまでだ!」

制服姿の警察官2人がこの場に乗り込んできた。

「もう逃げられないわよ!」

そう言って影から現れたのは、
「えっ、青木さん?」

何故か清掃員の青木が登場してきたことに、ミヒロは驚いた。
青木はミヒロたちに顔を向けると、ズボンのポケットから何かを取り出した。

警察手帳だった。

「県警の青木です。

この辺りに詐欺集団が潜伏していると言う情報が入ったので、確証を得るために清掃員に化けて潜入捜査を行っていました」

青木はそう言うと、警察手帳をしまった。

「マジか…」

「知らなかった…」

「たった今知らされたんだけどね」

驚愕の事実に、この場はただ戸惑うばかりだった。

「さあ、逮捕よ」

青木の合図で警察官たちが借金取りに手錠をかけようとしたら、
「ここで終わってたまるか!」

借金取りがスーツから刃物を取り出すと、それを振り回した。

「危ない!」

警察官は刃物を避けると、ミヒロたちのところに行った。
「いや、何でこっちにくるんだよ」

思わずツッコミを入れたミヒロに、
「何とか隙を見て、ヤツらを取り押さえます」

警察官が言い返した。

その時だった。

「武藤さん、話ってなんですか?」

この場に心美が入ってきた。

「心美、逃げろ!」

彼女の姿を視界にとらえたミヒロ――宏美は叫んだ。

「えっ?」

心美が気がついた時には時すでに遅しだった。

目敏く心美を見つけた借金取りは、彼女を人質にとったのだった。

「心美!」

宏美は叫んだ。

「きゃあっ!?」

心美の白い首に刃物が当てられた。

「しまった、マズいことになったわ…」

「クソ、何と卑怯な…!」

心美を人質にした借金取りに、青木と警察官は悔しそうな顔をした。