〈涼音side〉
私の幼馴染の楓は無口。
だけど、私の前では控えめだけれど喋ってくれるんだ。
私は、そんな楓が好き。
「楓は私のことが好き?」って聞いてみたい。
そんな勇気、私にはないけれど。
私は、突然、不治の病にかかってしまった。
治療しなければ、余命は半年らしい。
自分の体にメスを入れるなんて怖くてできない。
でも死にたくない。
だって、私はまだ、お父さんとお母さんに貰ったこの命を全うできてないもん。
〈楓side〉
僕のお姉ちゃん的幼馴染、涼音ちゃん。
涼音ちゃんは可愛い。
無口でつまらない僕のことも可愛がってくれる、優しいお姉ちゃん。
僕は、物心ついた時から涼音ちゃんが好き。
涼音ちゃんを、“お姉ちゃん”じゃなくて、“彼女”にしたい。
涼音ちゃんの1番は僕。
涼音ちゃんが突然、病人になった。
余命半年の間に僕は・・・
今、私の顔の前に幼馴染の楓の顔がある。
あと少し前に出たら楓と口づけできそうなくらいな距離。
こうなったのは遡ること5分前
私はクラスメイトの香澄川かすみがわくんに休み時間視聴覚室に、呼びだされた。そして香澄川くんは耳や顔をこれ以上ないくらい赤く染めて私に言った。
「ずっと前から好きでした!僕とつっ!」
「つっ?」
「付き合ってください!あと将来、できれば結・・・婚・・を。」
一番大事そうなところ弱まってるし!
って、あの香澄川くんが、こんな突飛なこというなんて。
“あの”って言われても分からないよね。
香澄川くんは毎回、学年でトップの成績を取っている人で・・・
中間テストの結果が9教科満点ですごく有名になっていたと、親友の柚が言っていた。
私は情報通じゃない。だから、いつも柚に何かあったら教えてもらうようにしている。柚の情報量は親友の私でさえ驚くほどだ。
で、本題に戻る。
私は、香澄川くんとお付き合いする気はさらさらない。ましてや結婚なんて。
「どこの少女マンガの世界だよ。」と突っ込みたくなる。
香澄川くんの告白を断らなきゃ。
傷つけないように振る方法は?
「ごめんなさない!香澄川くんの気持ちには応えられません!」
とか?
でもこれだときっぱり断りすぎ?
うぅ、分からない。
あっ!
「香澄川くん、告白してくれてありがとう!生まれて初めての告白だったからとっても嬉しかったよ。でも私は香澄川くんの気持ちには応えられない。ごめんなさない。」
これ、いいじゃん!いいじゃん!
私は言う言葉を決めて、香澄川くんの目を見つめた。
うわぁ、こうしてよく見て見ると香澄川くんの目って澄んでるな。目の中に星とハートのエフェクトがあるように見えるよ。
そうこうしているうちに香澄川くんが「早く答えてよ。」と催促するように私を見てくる。早く言わなくちゃ。
「香澄川くんっ!」
勢い良すぎたかな?生まれて初めての告白に生まれて初めての振ることに緊張しちゃって。あはっ?
いや、“あはっ?”じゃないでしょ。私~
「こっ、告白してくれてあっありがとう!」
かみかみだ。でもいいんだ!香澄川くんに伝われば。
「生まれて初めての告白だったからとっても嬉しかったよ。」
よし、ここは1回もかまずに言えた。クリアだ。
「でも、私は香澄川くんの気持ちには応えられない。」
香澄川くんは心底がっかりした様子だった。でもすぐに立ち直ったようで、私の目を見つめ返してくれた。
「ごめんなさない!」
言えた!
すっきりしたぁ。
告白を断っているときは冷や汗が止まらなかった。
緊張を解いていると、唐突に香澄川くんが言ってきた。
「神田さんの気持ちは分かった。神田さんのことは諦める。だってこんなに潔く振られちゃったんだもん。でも1つ聞いてもいい?」
「いいよ!」
香澄川くんが頑張って告白してくれた。それを無下にした私に質問を答えないという権利はないと思った。
「神田さんが僕を振ったのは、神田さんの幼馴染の有馬ありま楓くんがいるから?」
えっ!
驚いた。香澄川くんが私の幼馴染の名前と存在を知っていたなんて。
私の体のどこかに監視カメラでもあるのだろうか。
確かに、私が香澄川くんのことを振ったのは楓の存在があるから。楓は私にだけ優しくて、暇さえあれば私に抱きついてくる可愛い幼馴染。
「涼音ちゃん!」
と言ってすり寄ってくる楓に、いつからだろうか、私が楓のことを好きになっていたのは。覚えていないくらいに、私は、昔から楓のことが大好き。
そのことを香澄川くんに言ってもいいのだろうか。でも、本当のことを言ったら香澄川くんが諦めてくれる、んだよね。
恥ずかしいけど、勇気を出さなきゃ。
手紙を読んでいるみたいに言えば恥ずかしくない。「すう」私は深呼吸をした。
「香澄川くん、私が、香澄川くんを振ったのは楓がいるからです。それだけでいいですか?」
さっき、香澄川くんを振ったとき以上に緊張した。
「胸の奥から込み上げてくる恥ずかしさがオーバーヒートして吐きそう」と思っているとまた、香澄川くんが言った。
「有馬くんとはどういう関係か、詳しく、教えて。」
“詳しく”のところを強調して言われたなと思うのと同時に、香澄川くんのわりに食いついてくるなと思った。
「えーとっ。どこまで聞きたい?」
本当は聞かれたくないけど。しょうがない。さっきも言ったけど香澄川くんの告白を無下にした私に答えない権利なんてないんだ。
「いつから幼馴染なのか、有馬くんのどこが好きなのか、マンションは隣なのか、とか、その他諸々。」
わあ、いっぱい聞いてくるな。私のプライドずたぼろじゃん。“その他諸々”っていうのも答えないと。
「香澄川くん、長くなるけどちゃんと聞いてよ。香澄川くんが聞いてきたんだからね。」
香澄川くんに忠告しておかないと。その他諸々とか言われたら全部言いたくなっちゃうんだから。
「楓と私は2歳からの付き合い。最初に私がマンションに住んでたんだけど、私が2歳の誕生日のときに楓が隣に越してきたの。最初、楓を見たとき、ビクビクしてて絶対に関わることも、友達になることも嫌だったの。」
香澄川くんは「聞きたくないけど、聞かなきゃ。」という顔をしながら私の話を聞いてくれている。たまに顔をしかめているけど。
「私が10歳の誕生日の日に楓が非常用の壁を蹴ったの。小さな穴が空いて。そして、楓がそこを通って来たんだよ。大声、上げちゃった。そのときは目が飛び出るとはこのことかと思ったくらいびっくりした。で、楓はまたすぐに自分の家に戻って行った。次の日も楓はまた抜け道通ってきて、私の目の前に現れて、『ここは僕達だけの秘密の通り道。誰にも言っちゃだめだよ。』って言って私に口づけしたの。」
あぁ、恥ずかしい過去言っちゃったよ。私の隣では香澄川くんが項垂れている。
「あいつっ。こんなかわいい人に何してくれてるんだよ。」
香澄川くんは真面目なのに“あいつ”なんて言うんだなと思った瞬間。
ガラガラッ
香澄川くんが項垂れているとき、突然ドアが開いた。
現れたのは少し茶色っぽい髪の毛の毛先を遊ばせている、楓、だった。
「涼音ちゃんっ!僕たちの過去なんで言っちゃってるの。誰にも言わないって約束だったじゃん!」