月が消えた日、主人公になった君

そして少しずつ寒さも緩くなってきた日々

外の蕾はより一層増えて

大きくなっていた

私のできないことは増えていった

周りにはクッションだらけで痛みを緩和しようとしてくれる

そんな日に久しぶりに紬と日向が2人揃ってやってくるのだ

それぞれ時間帯は違えど毎日顔を出してくれていた

でも2人揃ってなんて、外泊した以来でなんて久しぶりなのだろう

私はこんなにも心を躍らせながら鏡をみて顔色のチェックをしたのはいつぶりだろうか

扉の前が騒がしくなる

来たんだって思わせる

ノックして元気よく入ってくる紬とその姿を見て笑う日向

あぁいつ見てもお似合いだな

そう思えて何故だか安堵のため息が出た

「ゼリーなら食べられるじゃないかなって思って2人で選んできたんだよ」と紬は嬉しそうに紙袋の中身を広げている

「ほんと買った時からそうだけど、紬、食いじはってね?」

日向はからかうように笑って言った

「違うもん、月のためだもん」

紬はふくれてそう言い返した

私はその姿を見て笑った

そして紬は私を味方につけようと日向の愚痴をこぼして

日向も紬の真似するように紬の愚痴をこぼした

そんなこんなで一悶着を終えて2人に座ってもらった

「本当、2人とも賑やかだよね」

私はクスクス思い出して笑った

「「そう?」」

2人ともハモるように同じ言葉を言った

「そうだよ、本当に楽しいよ見てて」

笑ってくれるならそれはそれでいいけどと日向はつられて笑っていた

「あぁ2人に出会えて良かった」

なんでこんなこと言おうとした理由なんて知らないし分からない

でも伝えないとダメだと思った

「なんだよいきなり」少し照れくさそうに笑っている日向と

「私もだよ」って嬉しそうな紬がいる

「本当はねー…日向が好きだった」

日向には言って紬には言わなかったこと

日向は何も言わずに黙って
紬は驚いたように目を見開いた

「好きで素直になれなくて…紬さえ居なくなればとか思ってたよ」

私はずっと隠していた思いを伝えていく

「気づけば嫌なやつになってて。ダメだってどこかでは分かってたよ?けどね、止められなかったんだ」

私は誤魔化すように笑う

「でもね、紬と日向の笑顔を見た時に私じゃダメだって。そんな顔をさせられないなって思っちゃった」

少し甘酸っぱい気持ちが広がっていく

「お似合いって言葉はこの2人のためにあるんだと思った時、私の役目がようやく分かった」

2人をしっかりと見つめる

「主人公は紬で相手は日向。私は主人公をいじめる悪女でただのモブ。でもね2人のおかげで名前を持つことが出来た」

2人は少し驚いた様子だった

「ここまで主人公振り回した脇役なんていないよね」

私は目を伏せた

「これが私。こんな私に最後まで手を差し出してくれて本当に本当に」

私はニッコリ笑って

「ありがとう」

やっと言えた

やっと私の気持ちを素直に言えた
バカみたいに遠回りしたけど

2人のおかげでこの気持ちを持っていくことなく残していける

「バカだなあ、月は」

日向は少し悲しそうに笑う

「月は本当にバカだ」

紬も同じような顔をする

「え?」

戸惑う私に2人は手をそれぞれ重ねてくる

「ありがとうはこっちのセリフ。たくさんのものをもらったし、私達がどう生きたいか決めることできたよ」

紬は優しい笑顔で言ってくれた

「そうそう、それを今日言いに来たんだ」

日向もつられてそんな笑顔になる

「私」「俺は」

「看護師になる」「医者になる」

ハモると思った2人の言葉は少し違うくて

お互いもびっくりして顔を見合わせる

「ちょっと、日向、医者になんの?!」

「いや、紬こそ看護師なのかよ」

ここまでくるとコントか何かかなとも思える

私は言い合いする2人に声を出して笑った

その姿に2人は少しびっくりしてピタリと言い合いをやめた

「なんで2人はそう思ったの」

紬は「私の言葉、態度1つで病気を抱えた人に希望を与えられるのかなって月といるうちに思ったんだ」と希望に満ちた目で言った

日向は「俺は月みたいに苦しむ人を1人でも多く救いたい」としっかりとした眼差しでこたえた

私の安堵のため息はこのことを察知していたのかもしれない

「2人らしい夢だね!絶対2人ならなれるよ、そんな素敵な人に」

私はいつの間にか2人にとって大きな存在になって生きる道を決めてしまっていたようだった

それが嬉しくもあり、少し寂しかった

2人のその姿をこの目で見たかったのだから

私の散った花びらは無駄じゃなかった
散った花びらは道の上に落ちて絨毯になる

その道を綺麗な色に染め上げて

通る人を飾りつける

そう思うと散ることにも意味があって

どこかに消えるだけじゃないんだと気づかされた
あれから2人は日が落ちるまで居てくれて
一生分笑った気がした

ココ最近は寝た気がしなかったがお陰様で今日はちゃんと眠れる気がする

そのまま私は夜、ゆっくり目を閉じた

______夢を見た

いつの日か見た新月の夜の日
私はひとりぼっちでいた

そんな姿を今の私は客観的に見る

1人でいる私は寂しそうで泣いているように見えた

そして周りに日向と紬がやってくる
私をなだめて背中をさすってくれた

そして両親がやってくる
紬達と一緒に抱き合ってなだめる

すると一緒に笑っていた

そして真ん中にいる私は安堵して

その場から消えた

今度は紬と日向、両親が泣いていた

背中をさすってなだめる人間も
一緒に抱きしめ合う人間も

誰一人いない

失うことはこういうことなんだと思わされた

ただただ先の見えない辛さに泣くしか出来なくて

思い出が募れば募るほどその辛さは大きく波のようにやってくる

居てもたってもられなくて

私は何も考えずに近づいた

触れようとすればスっと通り抜ける

見守ることしかできないってこと?

もどかしくて辛くて

やっぱり選んだこの道は間違っていたと思えた

1人でいるほうがきっとお互いのためだったのに

ワガママなんて言わなければ

そう後悔していた時だった

「そろそろ泣いてたら怒られるんじゃね?」

日向がそう無理しながらも笑って

それが伝染して広がっていく

今、これが見れてよかったと思う
ずっと引っかかっていた胸のつっかえが消える

これで安心できる
もう大丈夫だよね

全部全部もう何もかも十分だ
もう満足とさえ思う

けれど先が見えれば見えるほど

本当は_________

日向と…

紬と…

________ずっと一緒に笑っていられる日々がよかった

なんて叶わない願いさえ浮かんでしまう

何が私の頬を伝った
上を見上げると葉の雫が落ちてきているように見える

それが今は涙だって分かる
どうでもいいなんて思っていた自分のことを認められるようになった

「遠回りしたけど、やっとここまで来れたね」

そんな声が聞こえた

振り向くとあの黒猫

_______(つき)が座っている

ミャウと可愛く鳴いている

「君はずっと私のために居てくれたんだね。正しい道に連れてきてくれてありがとう」

そう声をかけると月は歩いていく

同時に辺りは空には満月が浮かんで紺色の雲によって消される

私は素直にその月の後ろを歩いてついて行く

私は幸せだった
こんなにも笑ってここまでこれたのだもの

仮面はもう壊してその場においてきた

それでいいと思えた。
新月の夜の日

紺色の雲はゆっくりと流れていく

そんな日に私は力を振り絞って座った

そしてこのノートを開いた

震える手でペンを握った

ねぇ?日向、最後のお願い聞いてよ

『私のことを忘れないで』

散った花びらは川にだって流れる

その花びらは広い広い海に流れていく

散った私を主人公にして

本当のお願いはここなのかもしれないね

_______ねぇ結局私の人生はなんだったんだろうか

病魔によって苦しんだ10年と数年

主人公になりたくて

でも無理だった

主人公にもなれないこの人生を誰かが聞いた時、鼻で笑うのだろうか

それでも私はこの人生でしか生きられなかった

心から笑ったことなんて割合でいったら2割ぐらいだったかもしれない

苦しさは8割だったかもしれない

けれどその笑った日が何よりも宝物になっていて

なにかも後悔さえも消えた

十分だって思えた

______果たしてこれは本当だろうか

十分生きたなんて言っていいの

本当は誰よりも怖くて

死にたくない

みんなと離れるのが嫌だ

失いたくない

弱音なんていくらでもでてくる

1人になりたくない

ほらまたでてくる

眠ったまま明日来ないかもしれない
ご飯がいつ食べられなくなるのかもしれない
呼吸がいつとまるのか…

言い出したらキリがない

涙がポロリとでてくる
これが涙だと認識したって

怖さは消えることはない

ずっと付きまとう

______月は主人公だよ

私はハッとする

「主人公になれなかったんじゃない。なろうとしなかった」

私の声は以前にくらべて震えている

声を出すのでさえもう無理なのかもしれない

ねぇ日向、いつだって私は主人公だったのかな

どうでもいいなんて思っていた私がモブじゃなくなったのはいつから?

私は月がない夜空が広がる窓の外を見る

外にある木々の蕾はより一層大きくなっていて

もしかしたら来週から咲き始めるかもなんて話したのを思い出した

その奥、ずっと向こう
私は涙で滲んだ風景から見えた

あそこに私という名の(つき)がいてもきっと人々は認めてくれる

それでいいの

きっとそれでも()だから

ねぇ、日向

「月が綺麗ですね」

私の最期の声は

返事なんてこなくて

一人寂しく響いた

そしてやってくる(病魔)は私の最期の花を散らせた
「ありがとう」と大きな文字で最後は終わっていた

きっと力を振り絞ったものなんだろうと感じ取ることが出来る

そしてそのノートを男は閉じた

そして男の子は思った

きっと主人公にするためには

願いを叶えるためには

自分だけじゃ無理だと。

そう思った時には行動していた

男の子は匿名で出版社にこのノートと(どうか主人公にしてやってください)とメモ書きを残して送った

それが本当に主人公になんてなるか分からない

けれどいつかなる気がしていた

俺だけじゃなくて色んな人が主人公にしてくれるだろう

()から君のいる世界()


_______それから1年がたった

本屋の前に男女の高校生のカップルが現れる

見つめる視線の奥には「主人公になれなかった私」と書かれた本があった

「ねぇこれって」と女の子が一言

「うん、これは…」と男の子は本を手に取った

そして2人で涙をながした

(るな)亡くなった日(消えた日)、主人公になったんだな」

と一言、言いながら2人で笑い合った

女の子の手にはお墓に添えるであろう花が持たれていた

男の子の手にはその本を持っていて

2人は手を繋いで誰かの一周忌に向かった




「月が消えた日、主人公になった君」 Fin.
本を読むことが好きだった私が私生活から本が消えた日、SNSで本の紹介を見つけた

また本のある生活に戻った日、コンテストがあると知った

ずっと結ばれない女の子の気持ちはどうなんだろうって思った私は表現してみようと思った

私がここまで書けた大きな理由は登場人物に「生きて」欲しかったからです

登場人物はこの本の中でしか生きられない

作者の私の力量1つで人間になるのか、ただの登場人物になるのかが決まる

だからこそ挫折しそうでも、登場人物達に不思議と励まされていました

本の中に似たような表現、伏線や回収してあるもの、もちろん意識してあります

猫に引っかかれた場所も涙が出た場所も、しっかりと表現しているのは意味がある

登場人物達の名前も全て物語とつながっている

そして表紙もまたこの物語の1部

1度、2度…と読んでも楽しめるようにと願いを込めています

そこには月ちゃんを主人公にしてあげられるのは読者の皆様だから。という私の思いが詰まっているのです

ぜひ、月ちゃんを主人公にしてあげてください

最後になりましたがこの物語を選んで頂き、ここまでよんで下さった皆様には感謝でいっぱいです

そして表紙を描いてくれた私の尊敬する友人にも感謝がいっぱいです

彼女は月ちゃんの話を精一杯、表現してくれています

なのでまた表現も細かくみて頂ければ幸いです

さて、次の作品書く予定は今のところ全く無いです

しかし私の中には書く題材になるものはたくさんあります

なのでまた気分転換にひょっこり書いてるのかもしれません

それまでお別れと致しましょう

では、またどこかで。

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