あれから楽しくて幸せな外泊期間は終わって病院に戻った

いよいよ私は最期を迎えるということを遠回しに言われてるような気分だった

私はふと外を見つめた

病室から見える木々は少し蕾が出来ているように見えた

そして春の足音が聞こえた気がした

「桜、見たいな」

私の独り言は虚しくてぎゅっと苦しくなる

「紬と日向となんだ春まで生きられたじゃんなんて言って」

私は布団をぎゅっと握りしめた

「お母さんとお父さんと今年も見られて良かったねなんて言いながら写真撮って」

1粒1粒、私の握りこぶしに水滴が落ちる

「私はまだしたいことがたくさんある」

下を向くとパラッと落ちてくるはずの髪の毛は前より元気なくて

「十分なはずなのに…もう…大丈夫なのに」

嫌でも(病魔)は容赦なくやっできているのが分かって

「まだ先に散りたくなんかないよ」

誰もいないからこそ言える言葉

水槽の中でもいいから泳ぎたい

主人公になんてなれなくていいから側にいたい

叶わない願いばかりが募っていく

「ダメだな…私。まだまだだな」

私は雫を拭き取って無理にでも笑顔をつくる

「だってもうすぐ紬が来ちゃう」

放課後になりそうな時間

私は顔を洗って切り替えようと思ってベットから立ち上がった時だった

いつもより手にも足にも力が入らなくて

身体がふわっとした

あれって思ったときには遅くて、気づいたときには大きな音を病室中に響かせていた

「大丈夫ですか?」

その音に看護師さんは駆けつけてくる

「はい、平気です」

私は床に座り込んでいた

怪我や自覚症状の確認をした看護師さんは立てますかとゆっくり背中を支えてくれる

「すみません」

そう言うしかなくて。

私はベットに寝かされる

「安静にしていて下さいね。気分が悪くなったりどこか痛みだしたら呼んでください」と伝えられて戻って行った

私にはできないことが少しずつ増えていた

痛みだってそこらじゅう、いつだってする

吐き気だっておさまらない

徐々に身体は細くなっていて病衣は大きく感じてしまう

痺れる時もある

髪の毛は毎朝、信じられないぐらい抜ける

何をするのにも息切れがついてきて

本当は呼吸するのが精一杯だ

こんなこと書いても言ってもしょうがない

ずっと入院してから戦ってきた

こんな苦しいこと残したって意味が無い

でも今日だけはこんなこともあったんだよって本当のこと残しておいても許されるよね

最期まで諦めずに生きたって証、ここにあれば死にたいだけの女じゃなかったって思えるかな

私はゆっくり目を閉じた

紬がくるまでは寝ていよう
寝て少しでも元気な姿で話そう

きっと紬は笑顔を届けてくれる

それに応えたい

それが今の私に精一杯できることだから