あれから両親は昔のような笑顔でどこか吹っ切れたようだった

そんな両親と過ごす毎日は楽しいし心が休まることに違いはなかった

そんなある雲ひとつない綺麗な空の日

体調は良くて鼻歌を歌いながら窓の外を見つめ座っていた

そんな病室には両親ではない訪問者がやってくる

私の目線の先には鼻先と頬を赤くして少し息を荒くし、肩で呼吸しているマフラーを巻いた日向がいる

「…どうして」

私のポツリ呟いた言葉は日向に届く

「月が来ねぇし…返事しねぇし…おまけに既読さえつかねぇ。だから月の家に行って月のお父さんから聞いた」

私はポカンとしていた

日向の方は少し怒っているかのように勢いよく話す

「なんで大事なことをなんも言わねぇんだよ。具合悪いならそう言えよ…」

そして日向はゆっくり近づいてくる

「無理してまで笑うなよ」

そして私の前にやってくる

「1人になろうとすんなよ」

日向はどこか苦しそうに
どこか悲しそうに

そう一言。

私は何も言えなかった
ただ日向の目から零れる涙を指先で拭うだけ

「…1人で逝くな」

振り絞ったような言葉が聞こえる

「…ごめん」

私は戸惑いつつ、窓際にある椅子に日向を座らせた

こんな日向の姿を初めてみた
いつもどこか余裕そうに立ち振る舞いしている日向がこんなにも感情のまま悲しんでいる

そんな日向の後ろに広がる世界は少しずつ雲が増えていく

「俺が泣いてどうするんだよな。泣きたいのは月のほうなんだし」

日向は目をこすって笑う

「作り笑いしなくていいよ」

日向はビックリしている

「今、私が無理して笑っているように見える?」

私は日向に笑いかけた

「なんで」

「もう後悔はしてないの。十分…」

日向はガバッと抱きしめてくる

「そんなこと言うなよ。なんでそんな吹っ切れたかのように笑ってるんだよ」

私は驚いて手を回すことさえ忘れる
そして私の胸は幸せそうにときめく

無駄にドキドキしてしまう

「怖くねぇのかよ」

日向の忙しい心拍音が私にも伝わる

「俺は怖ぇよ。月がいなくなるの…」

日向の抱きしめる力が強くなる

「日向…」

私は手を回すことはやめた
もう君無しでも大丈夫なんだよ

「あ、悪ぃ。つい…」

日向は少し気まづそうに元の体勢に戻った

「私は死ぬのは怖くないよ。ずっと前から…」

「知ってる」

日向は食い気味に私の言葉に重ねた

「え?」

「俺は月が入院するぐらい身体が弱いこと」

日向は真剣な顔でこちらを見る

「もしかしてお父さんから聞いた…?」

私は日向がここに来た経緯を思い出してそう言った

「いや、まあ少し聞いたけども…」

日向は少し窓の方に目をやった

「言ったろ、前に会ったことがあるって」

そういえば心当たりある

「だから知ってる」

そして私を真っ直ぐ見つめ直した

「いつから知ってたの」

「それは少し遡るんだけど…」

日向はゆっくり語り出す

外の天気は先程とうってかわって、雨が降り出した

騒がしい空模様は少し今日の日向と重なった