あの日以来、村松遥の様子がおかしい。あの日、とは彼女が自習室で一人、泣いていた時のことだ。
あれからやたらと目が合う、というか常に見られている気がする。
挙句、授業が終わると帰ろうとする友人に別れを告げ、勉強するわけでもないのに塾を閉めるまで塾に残るようになった。
みんなが帰った自習スペースに、村松遥と監視役の俺だけ。
最初はあの時の発言をネタに金品の要求やテストの問題をあらかじめ教えろ、などと脅されるのかと肝を冷やしたがいくら経っても彼女からは何も言ってこなかった。
あいつは一体、何を考えているのか。
その疑問は突然晴れることとなる。
「荻野先生、村松さんに気に入られてますね」
「は?」
「私、聞いちゃったんです。山本まりさんから。遥は荻野先生のこと好きだからいつも塾に残ってる。だから一緒に帰れなくて寂しいって」
「はぁ……は?!」
問題起こさないでくださいよー、と若い女性の塾講師はニヤニヤと笑いながら指導室を去っていった。完全に面白がっている様子だ。
ぽつんと取り残されて一人。思い返せば、彼女の理由不明の行動は全てたった一つの説明で合点が行く。
村松遥は俺のことが好きだから。
「えぇ……」
しかし、やはり納得がいかない。俺が彼女に好かれる理由になんの心当たりもない。むしろ嫌われる方が自然だ。
そうだ。好きと嫌いは紙一重というじゃないか。
村松遥は俺のことが嫌いだから。
だからずっと監視している。そう考える方が自然だ。山本まりの情報は大人をからかう真っ赤な嘘というわけだ。
どうして女子高生がこんなおじさんを好きになるというのか。そんなありえない可能性を少しでも信じてしまった自分がわからない。
わからないといえば、なぜ、俺はあの時泣いている村松遥に対し、あんなことを言ってしまったのだろうかと今でも考える。
しかし何度考えても、目の周りを赤く腫らし、水々しく潤んだ彼女の瞳が、矢崎によく似ていたから、としか言いようがない。その目を見た時の驚きと懐かしさが大人としての理性を忘れさせてしまったのだ。
矢崎。
高校生の頃に好きだった、いや、今でも好きなやつ。
俺の人生を大きく狂わせた存在でありながら、あいつのおかげで俺の人生が始まったとも言える。
あいつと知り合って、友人になって、親友になって、恋人になれなかった三年間が俺を蝕み、呪い、恋人もできずに連絡が取れなくなった今もどこかあいつの影を追ってしまっている。
そういえば、矢崎も何を考えているのかわからないやつだったな。
「荻野先生」
その声で我に帰ると目の前にカバンを持った村松遥が立っていた。腕時計を見るといつのまにか塾を閉める時間になっていた。真っ暗な窓の外から近くの信号機の青い光が入り込む。
「あぁ、帰るか。お疲れ様」
「荻野先生、今週の日曜暇ですか?」
暇ですかって。確かに暇だが。なんだか嫌な予感がして俺はとっさに嘘をつく。
「あー予定が入ってるな」
「じゃあ来週の週末は?」
「来週もちょっと」
「じゃあ再来週は?」
「ちょ、ちょっと待って。相手の予定を聞く前に、まず要件を話せよ」
要件ってほどでもないんですけど、と村松遥は呟くと何やら思い出したように胸の前でぎゅっと手を握る。
あ、まずい。
「あ、やっぱり……」
「今度、デートしませんか?」
瞬間、信号機は色を変え、黄色い明かりが彼女を照らす。これ以上は危険だ。しかし、彼女の真意を確かめずにはいられない。
「デート……? ど、どうして」
「私、荻野先生のこと好きなので」
嫌な予感が的中したと同時に、俺たちの影が赤く染まった。
「村松さん、……村松さん?」
「え、あ、ごめん」
振り向くと、教室の入り口で合唱部の生徒が首をかしげて立っていた。聞こえているはずだよね? と。
確かに「村松さん」を呼ぶ声は聞こえていたが、それが自分のことだと理解するのに時間がかかった。両親が離婚してもう一ヶ月近く経つのに、未だに「村松」という苗字に慣れていない。まりをはじめ、身近な友人は名前で呼ぶし。
みんなが散らばる放課後の教室をすり抜けて、合唱部の人たちへと顔を合わせる。要件は分かっているから、最初から申し訳なさそうな顔をして。
合唱部にはピアノを演奏できる生徒が少ないそうだ。だから各パートに別れて練習する際、臨時でピアノの演奏を頼まれていた。
肩を落として帰っていく合唱部を見送って教室に戻るとすでに生徒はほとんどいなくなっており、カバンを肩にかけたまりが待っていた。
「どうした?」
「ううん、別に」
私はまりの顔を見ずにカバンの中に教科書を詰め込む。
もう随分と私はピアノに触れていない。毎日少しずつ、鍵盤を叩く感触もペダルを踏む加減も少しずつ忘れてしまっているような気がする。
弾きたくないわけじゃない。だけど……。
心に影がかかりそうになって慌てて話題を切り替える。
「それよりさ、荻野先生とデートどこ行けばいいと思う?」
「なに? また妄想に付き合えって?」
「違う違う。今度の日曜に行くんだけど」
え、とまりは声を漏らすが私は気にせず帰りの支度を進める。
「遥、あんた本気で言ってるの?」
「なにが?」
「いや、デートって」
「行くよ。まりが告白よりもデートが先って言ったんじゃん」
「冗談に決まってるじゃん」
まりの真剣な言い方に、私はやっとまりの顔を見た。
「そんなマジになんなくても」
そう言って笑いかけるが、まりは笑ってくれなかった。
「最近いつも塾に残ってると思ったら。荻野も荻野だよ。最悪」
「別に荻野先生は悪くないよ。私から無理やり誘った感じだし」
「無理やりでもなんでも、女子高生とデート行くおっさんがまともなわけないじゃん。ちょっと考えればわかるでしょ」
「なにそれ。そんな言い方しなくてもいいじゃん」
トゲトゲとした沈黙が私たちの間に流れた。どれほど時が経っただろう。バットが白球を捉える音や、吹奏楽部のチューニングの音が遠くに聞こえる。
それらに紛れて、まりはぼそりと呟いた。
「遥、本当に荻野先生のこと好きなの?」
「何回も言ってんじゃん。好きだって」
私はなぜかまりから顔をそらした。
「親が離婚したこと、本当は辛いんじゃないの?」
「は? なに急に」
「だってそうじゃん。遥はなんにも言わないけど、荻野のこと好きだって言い始めたのってお父さん出て行った頃でしょ」
「…………」
「寂しさを埋めるために、荻野先生のこと好きだって言い張って……」
「うるさいな! てか家族のことまで口出しして欲しくないんだけど。荻野先生のことだって。まりには関係ないじゃん!」
顔を上げ再びまりの顔を見るとまりの目は今にも涙が落ちそうなほど潤んでいた。
「……そうだね。もう関係ないね」
そう言葉を残し、まりは教室を出ていった。
寒空の下、雲の切れ間から差し込む暖かな日差しを受け、檻の向こうのツキノワグマはやる気なさげに地面にふして溶けている。
お前はいいな、気楽そうで。こっちは大変なんだぞ。
「見て先生! 超かわいい!」
村松遥はいつのまにか少し先の動物ふれあいコーナーの中におり、ヤギに餌をあげながらキャッキャと喜んでいる。
最悪だ。こんなところ、塾の関係者に見られたら一発で終わる。
すると突然、後ろから膝を押され、俺は情けなくよろける。振り返ると小さな男の子が地面に手をついていた。どうやら俺にぶつかって転んだらしい。
「だ、大丈夫かい? ぼく?」
手を差し出すと小さな男の子は俺を見るなりピューっと向こうへ走り去る。行き場を失った手を引っ込めるといつのまにかすぐ隣に村松遥が立っていた。
「な、なんだよ」
「子ども可愛いですね。私一人っ子だから子どもは二人以上欲しいな」
「変なこと言うなよ」
「え? 普通のことでしょ?」
ニヤニヤと笑う村松遥。なんだかこいつの方がおじさんっぽい気がする。
今日はいつもより随分とテンションが高い。ただはしゃいでいるだけかもしれないが、少しばかり無理をしているようにも感じてしまうのは考えすぎだろうか。
「先生は? 子どもどれくらい欲しい?」
「子どもは嫌いだ」
「私は子どもじゃないので」
しかし次の瞬間、彼女は遠くに見えたヌートリアの展示に向かって走り出していった。
動物園を出て、昼食を取ろうと村松遥に誘われるままピザが美味しいと評判の店に入った。イタリアンでシックな雰囲気だが、あたりの席を見るとほとんどカップルが座っていてどうにも居心地が悪い。
「やっぱりここでないか?」
「先生ピザ嫌いですか?」
「その先生って呼び方やめろよ。周りにどう思われるか」
「じゃあ荻野さん」
嬉しそうな彼女を見て、俺は諦める。
「……やっぱり先生でいいや」
注文を終え、先に出されたコーラをストローで吸う。かまどでじっくり焼き上げるこだわりのピザはとても時間がかかる。
「荻野先生の好きな人ってどんな人だったんですか?」
「なに急に」
「いいから、どんな感じだったんですか? 私に似て可愛かったですか?」
「どんなやつ、……泣き虫かな。初めて会った時も泣いてたし」
「ほう」
矢崎と初めて会った日のことはよく覚えている。それは劇的な出会いだったという理由ではなく、単に俺がよく思い出すからだ。
あいつと出会って、仲良くなって、それで。
不意に店のBGMとして流れるピアノの演奏が聞こえ、瞬間的に忘れていた記憶が蘇ってきた。
「そういえばあいつ、自分の子どもにピアノを習わせたいって言ってたな」
「ピアノ?」
「うん。あいつもよく弾いていた。まぁなんでそんな会話になったかも覚えてないんだけどな」
あいつとの記憶は、劣化したフィルムのようにところどころ思い出せない。無理やり思い出そうとすると後悔や嫉妬などの強い印象に結びついてこびりついている嫌な記憶しか思い出せなくなっていた。
だから久しぶりに笑っている矢崎の顔を思い出せた気がする。
それは、あいつによく似ている村松遥が目の前で笑っているのも要因かもしれない。
「最初から好きだった感じですか? 一目惚れ的な」
「いや、ただの友達だったよ。というか、あいつにとって俺は今も友達だろう。俺がただ一方的に好きになって友達以上の関係を求めただけで」
「もう会ってないんですか?」
「ちょっと前に、ほんと数十年ぶりに」
「どんなこと話したんですか?」
「別に大したことは、って……もういいだろ。こんなおじさんの話聞いてもなにも楽しくないだろ」
「そんなことないです」
村松遥はじっと俺の目を見つめる。
「私、荻野先生のこと好きですから。好きな人の話はどんなことでも興味深いです」
「前も言ってたけどよくもそんな、恥ずかしげもなく好きだなんて。最近の若い人はみんなそうなのか」
「他の若者は知りませんけど、私の恋の定義は相手に好きだと伝えたところからが始まりですから」
「好きだと伝えたら、それはもう告白じゃないのか?」
「全然違います。告白はもっと大事なんです」
ようやくピザがやってきた。村松遥は早速写真を撮り、切り分けられた一ピースをゆっくりと上へあげる。糸を引くチーズをすすり、満面の笑みを浮かべる。
村松遥といると、矢崎のことをたくさん思い出す。
しかし、矢崎そっくりの顔で矢崎本人から言われたかったことを言われるのは、しんどいな。
そう思いながら一ピースを掴み取り皿へと移すと上に乗っていた具が全部落ちてしまった。
荻野先生とのデートから数日が経ったが、特に進展はない。相変わらずの片想いだ。
進展がないといえば、まりとあれから口をきかないままだ。喧嘩をすることなんて珍しくもないが、ここまで長引いているのは初めてだ。もしかすれば、このまま卒業まで、いや一生話すことはないのではないかとも思う。
今日もまりは授業が終わるとすぐに塾から帰ってしまった。
それから数時間、塾が閉じる時間まで自習スペースで時間を潰した。
「一緒に帰りましょ」
「家逆だろ」
「駅に用事があるので」
「そうですか」
窓の戸締りをしながら、荻野先生は適当にそう言った。最近、先生の私に対する接し方が雑になっているように感じる。最初はもっと警戒されていたように思う。そう考えればこれも進展と言えるかもしれない。
あと、最近気づいたが「そうですか」は荻野先生の口癖だ。主に会話を打ち切りたいときに使っている。今回は納得、というより諦め、といったニュアンスだろう。
「早く行くぞ」
「はーい」
すっかり冬の空気になった町は光が澄んでみえる。街灯も、パチンコ店のネオンも、うっすらとみえるオリオン座も。
駅へと続く商店街の歩きながら私はさりげなく先生に質問する。
「そういえば荻野先生って、何歳ですか?」
「三十六だけど」
「やっぱり」
「やっぱり?」
荻野先生と話をする中で少しずつだがパーソナルな情報を得てきた。
ここが地元で、今は友人とルームシェアをしていて、私に似ているという好きだった人は先生の高校の同級生。つまり先生と同い年の人だ。
そして今、先生の年齢を知ったことで私の中の仮説が確信に変わった。
私は名探偵のごとく、先生に人差し指を突き立てる。
「先生の好きな人って、私のママなんじゃないですか?」
「え、そんな若いの」
「うん、両親、……元両親二人とも同い年で三十六歳」
「マジかぁ……同い年で高校生の子どもが……」
なにやらショックを受けている荻野先生。
思っていたリアクションとは違うが、これはこれで可愛らしいのでよしとする。
「私のママ、近くの女子高通ってて、結構モテたって言ってたからそうかなって」
「そうですか」
また口癖が出た。今度はバッサリとした否定のニュアンスだ。まだママの名前も言ってないのに。
何か情報を取りこぼしていただろうか。
考えているうちに気がつけば駅についていた。
隣を歩く荻野先生の歩幅が狭まる。振り向くと先生はポールに囲われ、布を被せられた大きな物体を不思議そうに見ていた。
「それピアノだよ」
あぁ、と先生は声を漏らす。いつからか駅に設置されたグランドピアノは昼間、誰でも自由に弾いていい。時折ピアノの音色が駅構内に響いているのを荻野先生も知っているのだろう。
「私、ここだから」
「誰かと待ち合わせ?」
「うん、パパとね……」
口に出すと、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
今日、一ヶ月ぶりにパパと会う。
浮気をしたこと、ママを悲しませたこと、私を置いて出ていってしまったこと。
パパは私のことをどう思っているのか。それを聞くのが怖い。
もうお前のことなんかどうでもいい。もしそんな風に言われたら私は……。
無意識に漏れたため息が白く濁って宙へと消えていく。
「はい」
荻野先生が差し出してきたのは使いかけのカイロだった。
受け取るとじんわりと温かくて、私はそっと頬に当てる。
そうだ。
パパがどう思ってるかなんて、私が考えてもわからない。
私は、パパに直接あって、話をしたい。
塾で一人、涙を流した日から少しずつ心に余裕が生まれ、そう思えるようになったのは間違いなく荻野先生のおかげだった。カイロの温もりがそのまま荻野先生の優しさのように感じる。
他人にとっては無愛想なただのおじさんかもしれない。
だけどやっぱり、私は荻野先生のことが。
「あ」
人混みの中、パパがこちらへ近づいてくるのが見えた。
鼓動がさらに早まる。呼吸が浅くなる。私は手に握られたカイロをぎゅっと握りしめる。
パパは私を見てすぐに、隣に立つ先生へと目を向け、私が説明するよりも先に、パパの口が開いた。
「荻野?」
え? なんでパパが先生の名前を知っているの?
「矢崎……」
隣からポツリと、私の元の苗字であるパパの苗字を先生が呟く。
二人とも、知り合い?
そんな疑問を、荻野先生がパパを見つめる目が一瞬で払拭させた。
私はこの目を知っている。
かつて教室で泣いていた私を見つめた目と同じだ。そこで私は、自分が取りこぼしていた情報を思い出す。
『自分の子どもにピアノを習わせたいって言ってたな』
私にピアノを勧めてきたのはママじゃない。パパだ。
荻野先生が好きだった人は、私のパパ……。
え?
デートの時の記憶が蘇ると同時に、荻野先生の言葉が続けて脳内で再生された。
『ついこないだ久しぶりに会ったばかりだったから』
それってパパと会ってたってこと?
じゃあ、パパが不倫した相手の男って……。
「……私帰るね」
「遥」
掴んできたパパの手を払い、振り返るとパパの後ろに荻野先生が見えた。
「大嫌い」
訳も分からず涙が溢れ、私は走った。
矢崎と初めて会ったとき、矢崎は一人で泣いていた。
後から思えば、泣くことなんて矢崎にとっては当たり前のことだったが子どものようにボロボロと涙を流す同級生の存在に俺は面食らってしまい、無視すればいいものをとっさにハンカチを差し出してしまった。
「ありがとう」
ハンカチ越しに矢崎と触れ、俺は彼を救いたいと思った。
あの頃、矢崎の涙を拭うことが俺の存在意義になっていた。高校生という多感で、不安定な時期に突然芽生えた使命感、それを果たすことで俺は悦に浸っていた。
矢崎には俺が必要だ。それがいつしか俺には矢崎が必要になっていた。
そして俺は恋に落ちた。
しかし、矢崎の涙を拭う存在は俺だけではなかった。
かわいそうだから、ほっとけないから、可愛いから。
矢崎の周りには常に女子がいた。そのうち誰かと恋人関係になって、うまくいかなくて別れて、泣いて、また誰かと付き合って。
矢崎はどうしようもないやつだった。
「だったら、俺と付き合えよ。俺はお前を泣かせたりしない」
矢崎の涙を拭きながら、何度言おうと思ったか分からない。
だけどもし、本当に付き合えてしまったら。始まってしまえば、いつか終わりが訪れるかもしれない。そうしたら今度は誰が矢崎の涙を拭ってあげるのか。
そう思い、俺は自分の思いを口にすることはなかった。
恋人関係にはなれなくても、友人として一生そばにいよう、と心に決めたが大学進学を機に連絡は途絶え、成人式で人伝てに子どもができて大学を退学して結婚したと聞いた。
矢崎はどうしようもないやつだった。
「まだ草野と住んでるの?」
「うん」
「仲良いなお前ら」
はは、と矢崎は笑い、酒を煽る。
俺は目の前に出された酒を飲む気分にならず、手に持って揺らすばかりだ。
まさか、矢崎の娘が村松遥だったとは。
あの日、教室で一人泣いていた彼女の言葉を思い出す。
『パパは男と不倫した』
それはきっと、俺のことだろう。
少し前、突然矢崎から連絡が来て俺は舞い上がり今みたいにバーで一緒に酒を飲んだ。空白の期間を埋めるように俺たちは語らった。その時も矢崎の口から積極的に家族の話題は出していなかったように思う。俺も聞きたくなかったからあえて避けて昔話に花を咲かせた。
その帰り、矢崎は不意に俺を抱きしめ、唇を寄せてきた。
突き放せる力加減だった。顔を背けることもできた。
なのに俺は、拒まなかった。
唇が離れるとすぐに「じゃあな」と快活な表情で手を振り歩き去る矢崎を俺は呼び止めることができなかった。
あれから連絡を取らなかった。あのキスの意味を聞くのが怖かったから。しかしその間に、矢崎の家庭は壊れていた。
俺のせいで、矢崎は離婚し、村松遥は涙を流した。
「お前の娘のことだけど……」
「遥、荻野のこと好きになったのか。さすが俺の娘だな」
「は」
発言の意図がわからずに振り向くと、矢崎の目は酒のせいか潤んでおり、ほんのりと赤い。まるで、初めて会った日のように。
「俺たち付き合わないか。俺今フリーだし」
グラスの中の氷がカタリと音を立てて溶けた。
駅へと向かう人の波に抗い、私は先ほど荻野先生と歩いてきた道を一人で引き返す。黙って足を動かすが、頭の中は騒がしい。
意味がわからない。わけがわからない。荻野先生が好きだった人が、私のパパ?そりゃあ私に似てるでしょうね。だって私のパパなんだから。
私が好きな荻野先生はパパに惚れてて。パパは荻野先生と不倫して。
なんだよそれ。それじゃあ私は、誰からも想われていない、邪魔者じゃないか。
このぐじゃぐじゃとした感情を誰かと分かち合いたいと思いながら、誰の顔も思い浮かばないまま、気づけば私は塾まで戻っていた。すでに電気が消え、誰もいない真っ暗な塾はとても寂しく思えた。
「君、ここの塾の生徒?」
影の中から声が聞こえ、目をこらすと輪郭がうっすらと見える。声は中年のそれなのに顔は大学生くらいにも見える。
ナンパ、いや不審者か、と身構えたが、私はすぐに体の力を抜いた。普段なら無視をしたり、すぐに走って逃げるが今はもうどうでもいい。
だって私は誰からも想われていない、一人だから。
「そうですけど」
「荻野って講師知らない? 関係者なんだけど」
荻野? 今一番聞きたく名前だっつーの。
「知りません」
「マジかー」
どうしよっかなー、と身体をさすっている男の人。
あれ? もしかして荻野先生と一緒に住んでる……。
「草野さん、ですか?」
「そうだけど、なんで名前……」
やっぱりそうだ、と目の前の男が不審者ではないことを無意識に安心すると同時に、一つの疑問が浮かぶ。パパのことが好きだと言う荻野先生と今現在一緒に住んでる、ってことは。
「もしかして、荻野先生の彼氏とかですか?」
「きもっ」
「え」
「俺ホモとか無理だから」
草野さんはケラケラと笑う。軽い調子でいっているが、本心なのだとわかった。だからこそわからない。
「じゃあなんで荻野先生と一緒に住んでるんですか?」
「それは別に、あいつがホモになる前から知り合ってたからセーフ、みたいな」
「セーフ……」
「てかあんまり関係ないから。俺に手出してこない限りは。出してきたら殴るけど」
関係、ないのかな。
でも不思議と草野さんの言葉には説得力があった。実際に一緒に住んでいるわけだし。何より男を好きになるとかよりも、荻野先生個人を見ているように感じた。
そう言う意味だったのか。
私は少し前の荻野先生との会話を思い出す。
『え?! 荻野先生一人暮らしじゃないんですか?』
『そうだけど』
『彼女ですか? お嫁さんですか? 先生指輪してないですよね?』
『お、男だよ。ただの友達』
『よかったー』
『いや……あぁ、やっぱいいや』
『いや? なんですか?』
『いや、ただの友達じゃなくて、大切な友達だよ……』
『うわ、先生照れてる! 可愛いね』
『そうですか』
恥ずかしそうな荻野先生の表情を思い出すと自然と笑みがこぼれた。そして私の頭にはまりの顔が思い浮かんだ。いつもの笑っている顔だ。
そうだ。そうだった。私は一人じゃない。
私にも、大切な友達がいる。
「荻野先生、駅の方にいますよ」
「もう帰ったか。じゃあいいや」
草野さんはそばに立ててあった自転車にまたがると「どうもね」と一瞥してふらつきながら夜の闇へと消えていった。
私はかじかむ指をカイロで温めながらスマートフォンを操作し、まりへ通話をかける。通話は一度のコールでつながったが、私は声が出せなかった。
今までごめん。本当はずっと謝りたかった。都合が良すぎるけど私の話を聞いて欲しい。
まりに言いたいこと、言うべきことがありすぎて喉の奥でつっかえる。すると、通話の向こうで上着を羽織る音が聞こえた。
「いつものファミレスでいい?」
私は小さく、そして強く頷いた。
酒で火照った身体を冬の夜風で冷ましながら帰路につくと家の前で潤平がうずくまっていた。
「遅い」
「なにしてんの」
「鍵忘れてさ」
呆れながら扉を開けると潤平はそそくさとこたつに潜り、コントローラーを握る。相変わらずのパワプロだ。
ピッチャーの球種を選択しながら、潤平はなんでもない感じに話す。
「さっきお前が好きな女子高生に会ったよ」
「は? なんで?」
「たまたま。確証ないけど」
「なにそれ」
これ以上聞いても潤平からはろくな情報は得られないだろうなと、長年の勘でわかった。しかし「お前『が』好きな」というとまるで俺が村松遥を好き、みたいに聞こえてしまう。
俺が好きなのは。
俺もまた、なんでもない感じを装いながら話す。
「矢崎にあったよ」
「まじ? 何年振り?」
「……いや、実はちょっと前にも会ってた」
「ふーん。元気してた?」
「元気、じゃなかったな。離婚してたし、娘には嫌われてるし」
「あらあら」
なんて他人事な相槌だ、と俺はおかしくて笑ってしまう。だからまた、ついつい喋りすぎてしまう。
「あいつが離婚した原因、俺なんだよ」
「は? なんでそうなる?」
「前に会った時、あいつからキスされて……」
「おえっ。なんだそれ、俺の周りホモばっかかよ」
「ホモじゃないって。あいつの場合は」
そう。俺とあいつは違う。俺はあいつのことが好きだが、あいつはただの寂しがりやだ。
「それで俺と不倫したって奥さんが思ってそれで離婚」
「おもしろ」
「おもしろくねーよ。あと今日付き合おって言われた」
はぁ? と流石の潤平もテレビ画面から目を離しこちらへ振り返る。
「したんじゃなくてされたの?」
うん、と頷くとやっぱりホモじゃん、と潤平は面白そうにケラケラと笑う。
「断ったけど」
「なんで」
「なんで、か」
矢崎に付き合うかと言われた時、正直に言えば嬉しかった。長年想い続けた時間が報われるような思いがした。しかし、俺を見つめる矢崎の顔を見ていると村松遥の顔が浮かんできた。
『私、荻野先生のこと好きですから』
そこで俺は気がついた。俺は矢崎の口から一度も、好きだなんて言われていないことを。
「あいつは俺のこと好きじゃないんだよ。昔から変わってない。誰でもいいからそばにいて欲しいだけ。でも、今はお前よりも傷ついている娘のことを優先しろって」
付き合おうと言われたあと、俺は矢崎に聞いた。
どうして村松遥にピアノを勧めたのか、と。
矢崎はフッと笑い、ピアノの楽しさ、難しさ、教育への良さを語り出し、それに続けて自分の娘の可愛らしさ、愛おしさについて饒舌に語った。
高校生の頃、一人で泣いていたあの頃の矢崎はもういない。
父親の顔をした矢崎にはもう俺が涙を拭いてやる必要はなく、一人で泣いている村松遥に手を差し伸べる責任があると思った。
「だからいい加減、俺の片想いもおしまいだよ」
「お前もやっと子どもから大人に成長したな」
「なにそれ。なにか関係ある?」
「片想いなんか子どもがすることなんだよ」
「知ったようなこと言いやがって」
それとさ、潤平はゲーム画面を見ながら呟いた。
「離婚の原因ってお前じゃないんじゃない? ほら、たった一回お前とチューしたとかより、矢崎が他の男とガンガンやりまくってて、それで奥さんにバレたとかの方が納得いくし」
潤平が操るキャラクターがボールを持った腕を大きく振り上げる。
「それってさ、もしかして慰めてくれてる?」
「きしょいこと言うな」
潤平から投げつけられたみかんを捕り、俺はこたつに入ってゆっくりと皮をむく。足の先からじんわりと熱が伝わり、今まで張っていた気が緩むのを感じて、俺はとっさに上を向いて目を閉じる。
「は? 泣いてんの? ダセェ」
「みかんの汁が飛んできただけ」
潤平の口の悪さに涙はすぐに引っ込み、俺は何事もなかったように皮をむく。うん。熟れたみかんはやわらくて甘い。
「やっぱ半分ちょうだい」
「嫌だよ」
画面には試合終了の文字がデカデカと映し出されていた。
学校は冬休みに入ったらしく、塾では昼間から授業が行われていた。
しかし今日も授業が終わると、村松遥はすぐに出ていってしまった。
あの日以来、村松遥と話ができないどころか、目も合わせられない。以前はそれを望んでいたし、さらにその以前はこの状況が当たり前だったはずなのに俺はどうも気が落ち着かない。
もし話ができたところで、俺が彼女に言えることはないのだけれども。
小さくため息をついて、教材をまとめていると背後から女子生徒から声をかけられた。ばっと振り返るがそこに立っていたのは村松遥ではなかった。名前は確か、山本まり。
「先生ありがとね」
「なにが?」
「本当はクビにしてやろうと思ってたけど、遥のクセが戻ったからさ。もうちょっとだけ様子見てあげる」
彼女はクビ、という部分を強調して言うと指先で机の縁をリズミカルに叩いた。
「でも、私の大切な友達に変なことしたら許さないから」
そう言い切り、ふふん、と満足そうに教室を出ていく山本まりを俺は呆然と見送った。
一体、なんのことだ?
結局、なにもわからないまま夕方に塾は終わり、駅へと向かうとどこかからかピアノの音が聞こえた。音の鳴る方へ顔を向けるとわずかだが人だかりができている。
いつもならそのまま通り過ぎるのに、俺はなぜかその音に誘われるように人だかりへと割って入った。
すると、重厚感のある黒塗りのグランドピアノに向かって村松遥が座っているのが見えた。村松遥の視界には俺どころか、誰の姿も写っていないようで、ただひたすらに真っ白な鍵盤を叩いている。指から鍵盤へ、鍵盤から弦へ。村松遥の熱量は音となり、行き交う人々を魅了していた。
それはきっと演奏の上手さもさることながら、彼女がピアノに向かう様子があまりにも楽しそうだからだっただと思った。
私は冬の寒さを忘れるほど汗を滲ませ、ピアノに対しありったけをぶつける。
あぁ、そうそうこの感じ。
頭に浮かんだメロディを奏で、その音を聞いてまたメロディを思いつく。いつまでもこの楽しい音の輪廻に身を委ねていたい気持ちになる。しかし、音楽にはここぞという終わりがある。それ以上続けてしまえば音楽は単調でつまらなくなってしまうし、これまでの楽しかった音楽も台無しになってしまう。
だから音楽は、美しく終わらせることが大切だ。
私はここぞというタイミングで鍵盤を力強く押し素早く手を離す。音の余韻がピアノから抜けきると同時に、周囲からパチパチと手を叩く音が聞こえた。
あ、こんなに人いたんだ。
拍手を浴び軽く頭を下げながら立ち上がる、人だかりの奥の方に立つ荻野先生を見つけた。
やっぱりいた。
確信はなかったけど、ここでピアノを弾いていれば、荻野先生なら私の演奏を聞き流さず立ち止まってくれると思った。
私は先生の前に立つ。
どれほど時間が経っただろう。気がつけばすでに人だかりはすでに消えていた。
ここに桜はない。まだまだ寒い冬でおまけに人が行き交う駅の構内だ。
理想とは程遠いけど、それでもいい。私は小さく息を吸って、吐き出す空気に言葉を乗せる。
「先生、私と付き合ってください」
私の告白に、荻野先生は顔色一つ変えない。
そういうところが、やっぱり好きだ。
「どうして、俺のことが好きなの」
「一目惚れ、じゃ納得しない?」
「しない」
そっか、と私は無意識に自分の太ももを指先で叩く。
「最初は現実逃避、かな。私の顔見て急に昔の好きだったやつに似てる、なんていう変な先生が単純に面白いなって思って。いろんな考えなきゃいけないことよりも先生のこと考える方が楽しかった」
ぐぅ、っと顔をしかめる荻野先生を見て私は微笑む。
「無責任に好きだって言えて、それでも塾に来れば会える。私は、自分の寂しさを埋めるために先生を利用してたんだと思う。でも、謝らないよ私」
村松遥はその言葉を最後におし黙った。俺はただ彼女の次の言葉を待つ。
村松遥が謝る必要はない。なぜなら彼女の寂しさの原因は矢崎と俺だから。潤平のいうように離婚の原因は俺ではないのかもしれない。しかしそれは彼女にとっては関係がないことだ。
矢崎と久しぶりにあった夜。俺がきちんと矢崎がすでに家庭を持っていることを受け入れ、あいつからの誘いをきちんと拒んでいれば、こんなことにはなっていなかったかもしれないのだから。
しばらくして、村松遥は顔をあげる。
「でもね。今はもう色々関係なく、荻野先生のことが好きだから」
そう言い切り、満ち足りた彼女の表情を見て、俺は瞬間的に胸の内が燃えるのを感じた。
どうしてそんな顔ができる。どうして俺を責めない。どうして俺に好意を抱くことをやめない。
なんとか心を落ち着かせ、俺は冷静に語る。
「まず俺は、女性を好きになれない。きみが未成年だとか、友人の娘とか以前に俺はきみの想いには答えられない。だからすぐに、諦めてほしい。俺は、自分のことを好きにならない相手を思い続けることがどれほど苦しいものか、知っているから」
長年、矢崎との思い出とともに胸の中に蓄積していた黒い感情が言葉となって体の外に出ると、途端に虚しさが体を支配した。
なんだ。俺が想い続けた二十年はこんな言葉にまとめられてしまうのか。
あまりにもあっけなくて、バカらしくて、寂しすぎるだろ。
鼻の奥がつんと痛み、目の淵に涙が溜まるのを感じた。俺は顔を上げポケットを触るが手応えがない。こんな日に限ってハンカチを忘れてしまった。
溢れる涙を指先で拭っていると視界の隅で村松遥から白い布が差し出される。
恥ずかしい、情けない、と思いながらもそれを受け取るとやけに重く、硬い。それは先日俺が渡したとっくに冷めきったカイロだった。
「……これ」
間抜けに驚く俺を見て村松遥は笑い、またも言い切る。
「ありがとう先生。でも、諦めるタイミングは自分で決めるよ」
私は振り返り、グランドピアノを見つめる。真っ黒で艶やかな胴体。鍵盤の綺麗な白。ピアノの音だけじゃない。ピアノそのものにたくさんの記憶が詰まっている。その記憶は私だけのものじゃない。私とパパの記憶だ。
「私がピアノを弾くとね、パパがすごく喜ぶの。それが嬉しくて、もっと喜んでほしくて、ピアノを弾き続けた。だけど、パパのことがわからなくなってピアノもやめてた。けどさ、……関係ないんだよ。いつだってピアノは弾けば楽しいし。パパがどんだけ最低でも、パパと過ごした時間は変わらない」
パパは最低だ。私たち家族に対して許されない裏切りをした。だけど、パパの全てを私は否定したくない。
だって、私の演奏を褒めてくれたパパだって、嘘じゃないから。
私がパパにムカつく気持ちも、慕う気持ちも本当だ。許せるかはまだわからないけど、駅で会った翌日から、パパは私にこまめに連絡してくるようになった。
私はパパから生まれたことを、パパに育てられたことを後悔したくないし、させてほしくないと心から思う。
「それに先生もさ」
私は荻野先生の前に一歩踏み出し顔を見上げる。
「パパと過ごした時間は楽しかったでしょ。だって私も先生と一緒にいると楽しかったし」
村松遥の笑顔を見て、俺は矢崎の笑顔を思い出す。
そうだった。あいつはよく泣いて、よく笑うやつだった。
当時から俺は男を好きになることに自分で勝手に存在意義とか、使命感とか、小賢しい後付けの理由を並べて正当化しようとしていた。だけど本当の理由は、あいつの泣いている顔ではなく、笑っている顔に惚れた、ただそれだけだった。
村松遥は再び小さく息を吐き、胸の前で手をぎゅっと握る。
「先生、私と付き合ってください」
彼女からの告白を聞き、俺はもう一つの気づきを得る。
俺が村松遥を嫌いだと思っていた理由は彼女が矢崎に似ているからではない。
自分の想いに正直で、後悔を恐れない強さを持つ村松遥のことがただ、羨ましいかったのだ。
はぁ、馬鹿らしい。まるで子どもじゃないか。そうだ。俺はもうしばらく大人にはなれない。片想いは子どもしかいないらしいから。
可笑しくて、内側から溢れ出る笑いをかみ殺しながら、俺は彼女に言い放つ。
「ごめん。俺、好きな人がいるから」
そう口にして、初めて俺は矢崎のことを「好き」だと言ったことに気がついた。隠すことなく、恥ずかしげもなく、「好き」だと言うことでさらに矢崎のことが愛おしく思えた。
なるほど。こういうことなのか。
好きだと言うところから恋が始まるという村松遥が提唱する恋の定義はあながち間違いではないのかもしれない。
「そうですか」
村松遥はそう言って笑った。悲しそうでもありながら満足げな物言いだった。
「私たちの恋が早く終わるといいですね」
「今始まったばっかりなんだけど」
は? と首をかしげる彼女を見て俺は鼻から息を漏らした。
「ちなみに、恋の終わりの定義は?」
「結婚、とか。逆の場合だと他に好きな人ができるか、相手のことを嫌いになれば、ですかね」
突然、ピアノの音が聞こえてきた。ピアノの方へ振り向くと小学生ぐらいの小さな女の子がおぼつかない手つきで鍵盤を叩いている。
「音楽と一緒です。終わることが大切です」
村松遥は女の子の演奏に合わせて空中を指で叩きながらメロディを口ずさむ。この曲は確か『星に願いを』。
「じゃあ俺は君の恋が早く終わることを祈るよ」
「私も、どうか先生の恋がちゃんと終わりますように」
駅の構内からロータリーを見ると夜の滲む夕空には星が一つ輝いていた。