「なぁ、俺ら親友だよな? 俺は絶対お前の秘密を守る。だから、話してくれてもいいんじゃねぇの?」
「あぁ……そうだな」
俺はヒロの前にあぐらをかいて座り、記憶を蘇らせる。
「あの……あれか? 去年の夏お前にかりた漫画を間違えて売っちゃたやつ。あれは本当に悪かったと思ってる。ごめん」
潔く頭を下げる俺に、キョトンッとした表情のヒロ。
あれ? これじゃなかったのか?
「じゃぁ……えっと。お前と同じボランティアに参加してたユミちゃん。あの子がお前と連絡取らなくなったのは、実は俺が他の男を紹介したからなんだ。ユミちゃんもその男もあっという間に仲良くなっちゃってさ、お前に言う暇もなく付き合い始めちゃって――」
「違うだろ!!!」
懐かしい思い出を語る俺を阻止して、ヒロシが怒鳴り声を上げた。
その顔は真っ赤で、目には涙が滲んでいる。
「っていうか……ユミちゃんが連絡くれなかったのってそういう理由だったんだな……」
「え? お前知らなかったの?」
「知るワケないだろぉ?」
過去の失恋を思い出し、俺に向けての怒りも込めて声が震えているヒロシ。
「わ、わるかったって! 落ち着けよ」
「俺がいいたいのは、この事だ!!」
半泣き状態のままヒロシが差し出して来たのは――。
雑誌に載っていた写真を拡大したものだった。
普通に拡大しただけだと画像がボケてしまうが、ちゃんと修復までされている。
つまり……俺とリナの顔がおぼろげながらもシッカリと見えるのだ。
俺は一瞬言葉を失い、それから「これ……どうして」と言っていた。
「俺さ、雑誌で見た瞬間なんかお前に似てるなって思ったんだ。兄弟みたいに一緒にいるんだ、どんなに小さくても見間違うハズがねぇ。だけどお前はこの写真が自分だとはいわなかった。だから俺は知り合いに頼んで画像を修復してもらったんだ」
そんな……。
「ヒロシ……」
「なぁ、兄弟なら説明してくれよ」
目の前に写真を突きつけられた状態で、俺は冷や汗を流した。
ヒロシを誤魔化すことはできない。
そんなの俺が一番よくわかっていたから。
ヒロシからは、逃げられない。
俺は大きく空気を吸い込んだ。
「落ち着いて、きいてほしい事がある――」
今までの出来事を順序立てて説明できるかどうかは怪しかった。
多少話しが前後しても、ヒロシは黙って聞いてくれていた。
リナとの出会い。
あの時は、俺はこの出会いが奇跡だと思っていた。
そして、霧夜さんとの出会い。
この話しの途中にヒロシは「俺の行ったとおりの兄貴だろ?」と、鼻を高くしていた。
そして、実験の事。
大地震の事。
クウナちゃんの実験は失敗に終わったこと。
リナの実験は成功するかもしれない。
だけど、俺と霧夜さんはそれを阻止しようとしている事。
「その実験が成功すればリナちゃんは生きていられるんだろ?」
「あぁ。でもリナは言ってたんだ『実験が続く限り私はここから出られない。そんなの、生きてても意味がない』」
実験は成功しちゃいけないんだ。
生死を人が決めちゃいけないんだ。
「お前は、それでいいのか?」
ヒロシに聞かれて、俺は大きく、強く頷いた。
「リナと霧夜さんの言葉は、正しいと思う……」
「後悔しないか?」
絶対に悔いはないと言えば、きっと嘘になる。
だけど……。
「リナが言ったんだ。『お父さんの間違った実験を、今すぐやめさせたい』それを叶えてやらなきゃ……」
リナは死ぬ事さえ出来ない――。
☆☆☆
話をしているともう外は暗くなっていた。
こんなに長時間ヒロシと真面目な話をしたのは今回が初めてだ。
話を終えてしばらく無言のままだったヒロシが、ニッといつもの笑顔を見せた。
「わかった。じゃぁ俺も協力してやるよ」
「ヒロシ?」
「俺たち兄弟だろ? それに、お前1人にそんな大役ができるワケねぇっつぅの!」
いつもの、一言余計なヒロシに俺は笑顔をこぼす。
本当に、俺の兄弟は最高だと思わないか?
結局、緒男2人が考え出したリナ救出方法は、真正面から立ち向かう、だった。
「そのままじゃねぇかよ」
貰ってきたばかりの警備員の服を着て俺は苦笑する。
「俺たち頭なんか使えねぇんだから仕方ないだろ」
ヒロシには俺の白衣をかしてやった。
私服で行く気満々だったヒロシにそんな格好で行ったら充分に怪しまれるだろう。
と突っ込みを入れてやったのだ。
俺はリナから聞いた病棟内の様子を紙に書き出し、「ここにリナがいる」と、一番奥まった部屋を指差した。
中に入ってすぐ左に曲がり、真っ直ぐ行った場所にある部屋だ。
他にも研究室のような場所が多数あり、夜でも人の出入りはあるらしい。
「ここに行くつくまでに誰かに見つかったら?」
ヒロシの答えに、俺は拳を突き出して見せた。
ぶん殴れ。
の、合図だ。
するとヒロシは楽しそうに声をあげて「じゃぁそれは俺に任せとけよ!」と、自分の胸を叩いていった。
「ヒロシ1人でかなう人数じゃねぇだろ」
「そんなの行ってみなきゃわかんねぇよ。とにかく誰かに気づかれたら俺がおとりになって逃げるから、その間にリナちゃんを連れて逃げろ」
「いいのか?」
「まかせとけ」
ヒロシは再び胸を叩き、ニッと笑って見せたのだった。