屋敷に戻り、ティターニアと契約したことをミシェルのお父さんたちに報告する。すると、驚いた顔をしながら言われた。
「ほ、本当か......」
「はい」
(まあ驚くよな)
ミシェルに古代文字を解読してほしいと頼むぐらいだ。驚くに決まっている。どれぐらいティターニアが封印されていたかわからない。だけど、封印を解いたということは、エルフの国にとっての第一歩になったはずだ。
真剣な顔をしながらミシェルのお父さんが咳ばらいをして言った。
「今回はありがとう。後、ミシェルのことで自己紹介がまだだったね。カイル・スチュアートだ。本当になんて言ってお礼をしていいか」
「お礼なんていいですよ! 俺がやりたくてやったまでですので」
そう、これに関しては俺の意志で行ったことだ。ミシェルに頼まれたのがきっかけではあったけど、その後やりたいと思ったのは俺だ。だからこれは紛れもなく俺の意志である。
「そう言ってくれるとありがたい」
「パパ! でもこれで終わりじゃないの」
「え? 後、この場ではお父さんか国王と呼びなさい」
すると、俯きながらミシェルが謝っていた。
「それで、終わりじゃないって言うのは?」
「うん。ティターニア様はここ以外にも封印されているの」
ミシェルはそう言いながら、淡々と説明を始めた。それを聞くと、カイルさんを含んだ全員が驚いていた。
「じゃあ、封印がすべて解けたわけではないってことなのか」
「はい」
周りの人たち全員が、先程の喜びとは一転して俯き始めていた。それを見て、俺も少し申し訳なくなる。
(最初に説明しておけばよかったな)
「まあ祠での封印が解けただけよかったよ」
そう言った途端、何か思いついたかのような顔をして、周りにいる人たちをこの部屋から出した。そして俺たちに話し始めた。
「祠に行く際、湖は見たよね?」
「はい。見ましたけど」
「その湖なんだけど、ティターニア様の聖水とも言われているんだ。俺も良くはわからないけどね」
ティターニアの聖水って......。なんか怖いな。
「湖に入ったものの中で選ばれた者のみが、ティターニア様の力を受けられると言われている。だから三人とも一回湖で休暇でも取ってきたら? 私もやらなくちゃいけないことがあるし」
すると、ミシェルは飛び跳ねるように喜び始めた。
「だってさ! リアムにアメリア早く行こ!」
「あ、うん」
俺とアメリアはミシェルに圧倒されながらこの場を後にした。
★
ミシェルとアメリアは、湖に入る用の水着を選ぶから先に言ってろと言われたので、湖に一人でいた。
(は~。まずは着替えとくか)
俺は、湖に入るために水着へ着替えてあたり一面をボーっと眺め始めた。
(本当に綺麗だな)
{でしょ?}
{え?}
突然ティターニアに話しかけられて驚く。
{なんで来れるのって思ってるでしょ}
{そりゃあ}
{私だって、祠付近なら少しの間でれるんだよ!}
{そうなんだ}
てっきり、祠にしかいれないと思っていた。
(よかった)
祠に一人でずっといるなんてティターニアであっても耐えきるのは至難だと思う。だからこそ、祠付近でも出れると聞いてホッとした。
{そう言うと、湖ってティターニアの聖水なの?}
{!?!? ち、違うよ? でも、あそこに入った人の中で、私と波長が合う人は、私の恩恵が少しは受けられるかもだけどね}
{そうなんだ}
あれはあながち間違っていなかったってことか。すると、ティターニアが俺には聞き取れない声でしゃべっていた。
{ありがとね、リアム。あなたは私の恩人よ}
{え?}
あまりにも声が小さすぎたので、聞き直してしまう。するとそっぽを向きながら指をさされた。
{何でもないよ~。それよりもあの子たちが来たわよ}
ティターニアに言われた通り、ミシェルが俺に向かって手を振っていた。俺がミシェルに気を取られている時、ティターニアはこの場から消え去っていた。
「リアム遊ぼ~」
「あぁ」
俺は上着を脱いで二人を待つと、なぜか二人はまじまじと俺を凝視していた。
「ど、どうしたの?」
「「な、なんでもない(よ、です)!」」
「あ、そうなんだ」
そして二人も上着を脱いで、水着姿になった。
(あ......)
二人から目が離せなかった。それほど綺麗であった。ミシェルは、上下白色で腰に小さなフリフリが付いていた。そしてアメリアは、上下薄水色で、下はスカートらしい水着姿であった。
すると、ミシェルは、少し顔を赤くしながら言ってくる。
「な、なによ」
「あ、ごめん。二人とも似合っていて、ついね......」
「あ、ありがとぅ」
「ありがとうございますぅ」
お互い、変な空気間になりながら湖で半日ほど休暇を取った。その時、木の陰からティターニアがこちらを見ていたのを誰も気づかなかった。
屋敷に戻った後、俺たち全員が疲れ切って就寝してしまった。そして翌朝、王室でカイル様に言われる。
「古代文字の情報だが、竜人族の国にあると聞いたことがあるから、次はそこに向かってみたらどうだ?」
「竜人族ですか......」
竜人族と聞いてあまり良い噂は聞かない。なんせ、どの種族とも交友関係を結ばない国だから。それに国がある場所は、確か元居た街から一ヶ月程離れた場所。ここから正反対の場所であった。
「あぁ。でも行くだろう?」
「そうですね」
交友関係を結ばない国だからって行かないわけにはいかない。古代文字のありかは、多いわけじゃない。それに、現状知りえている場所はここしかない。
「後、リアムくんにはミシェルの専属護衛をしてもらいたい」
「え?」
カイル様が言ったことに対して、ミシェル本人も驚いていた。
(専属護衛?)
なんだそれ? 聞いたことないぞ? それに俺でいいのか? 俺とミシェルとでは種族が違う。それに俺は他種族から見たら劣等種である。
「無理か?」
「いえ、無理ではないですけど、本当に俺でいいのですか?」
「あぁ。ティターニア様と契約している人が娘の護衛をしてくれるなら願ってもない事だ」
「そ、そうですか」
まあ、国王がそう言うならいいけどさ。そう思いながらミシェルの方を向くと、顔を赤くしながらチラチラとこちらを見て来ていたので、俺は軽い笑顔を向けた。
「では決定だな。後は......。これに関しては私の方でやっておこう」
(??)
その時、ニヤッとしながらミシェルに言った。
「ミシェル。きちんと捕まえるんだぞ?」
「お、お父様!!」
「ははは!! じゃあ楽しみながら頼んだぞ!」
二人の光景を見ながら、俺たちはこの場を後にした。そこから、エルフの国で、必要物資を集めて、最後にティターニアへ会いに行った。
今回は、みんなに見える姿で現れて話しかけてくれた。
「もう行くのですね」
「「「はい」」」
「気を付けてください。そして、私を救ってください」
「あぁ」
ティターニアに言われるまでも無く、助けるよ。それが俺がなすべきことであるのだから。
「ミシェル、少しこっちにきてください」
「え?」
ミシェルは言われるがまま、ティターニアのもとに向かうと、ミシェルが徐々に光出した。
(え?)
何が起きているんだ?
「これで、ミシェルにも少しばかり私の力を授けました。湖に入ってくれた時、私と波長が合っていましたからね。まあ私の子孫なので当たり前ですが」
「あ、ありがとうございます」
「えぇ。後......」
ティターニアがミシェルに何かを言うと、顔を真っ赤にしながら俺の方を見てきた。
(??)
そして、ミシェルがこちらに戻ってきて手で顔を仰ぎながら言った。
「さ、早く行こ」
「あ、うん」
俺とアメリアは何なのかよくわからないまま、ミシェルの後をついて行った。
{またな}
{はい}
★
馬車の中に入り、街に戻り始めた。その道中、色々と噂を聞くことが出来たが、何一つとして古代文字の情報は流れてこなかった。そして一つ、俺たちに関係している噂を耳にする。
『古代文字を発見した奴がいるらしい。それに、エルフの国では古代文字が解読されたらしいぞ!』
(これ、俺たちのことだよな?)
古代文字を発見したって言うのは、多分シルフの時のことだろう。そして、エルフの国って言うのは、まあ紛れもなく俺たちだよな。
(それにしても、早くないか?)
そう、まだエルフの国を出て、二週間程しか経っていないのに、もうこんなところまで情報が流れていることに驚く。それは、ミシェルとアメリアも思っていたようだった。
「これ、私たちのことだよね?」
「そうだな」
「なんかすごいことになっていますね」
アメリアの言う通り、こんな大事になっているとは思いもしなかった。だが、ミシェルは現状を予想していたような雰囲気で言った。
「古代文字自体発見するのが難しのに、解読したなんて聞いたら誰だって話すって」
「そうなのか?」
ここ最近で二回も古代文字を見ていたから、親近感しかわいていなかった。
「そうよ! それに今まで古代文字を解読した人なんていないんだからね!」
「え?」
それを聞いて俺は驚く。
「逆に考えてみてよ。魔族が古代文字を封印の道具にしていたのって、解読できた人が居ないからってことじゃない」
「あ~。言われてみれば」
「でしょ!」
ミシェルの言う通り、魔族が封印の道具として古代文字を使っているってことは、魔族以外は現状解読できる人が居ないということなのかもしれない。
(ってことは、俺......)
そこで少し悪寒が走った。もし、俺が古代文字を解読できると魔族に知りわたったら。それを考えるだけで少し恐怖すら感じた。
★
道中何も無く街に着いた。
(やることだけやって、刺客が来る前に早く出よう)
街を歩いていると、案の定俺たちの噂でもちきりであった。
「まず、アメリアの冒険者登録と、パーティに入れよっか」
そう言って、冒険者ギルドへ向かい始めた。
ギルド内に入ると、今まで感じなかった異様な空気間を感じた。
(??)
何が起きているんだ? 入った瞬間、先程まで冒険者たちが騒いでいたのに、一瞬にして静まってしまった。
「え?」
「やっぱりミシェルもそう思ったよな」
「ど、どう言うことですか?」
俺とミシェルはギルドの空気間がおかしなことに気付いたが、アメリアはギルド自体初めてだったのでその空気間を理解することが出来ないでいた。
「何かがおかしい」
「そうね」
あたり一面を観察しながら受付嬢のところに向かったところで、ギルドマスターが出てきてくれた。
「よかった......。リアムたち、こっちに来てくれ」
「え? あ、はい」
ギルドマスターに言われるがまま、来賓室に入った。すると、ギルドマスターの顔が少し怖い雰囲気が感じ取れた。
「どうなっているんですか?」
「感じたか。単刀直入に言う。早くこの街から出て行った方がいい」
「え?」
そう言われて、前回の刺客を思い出させる発言をされた。でも、普通に考えて、俺たちがこの街に入ったのは今日なのに刺客を出むかせれるはずがない。
それはミシェルもわかっていたようで、立ち上がって何かを言おうとした。その時、ギルドマスターが真剣な顔で言う。
「まあ話を聞け」
「はい」
ミシェルを座ったのを確認してから話の続きが始まる。
「この前、お前たちが古代文字のありかを発見しただろ? それが今回の要因だ」
「要因って......?」
「簡単に言えば、ロードリック家が動いた」
「......」
(実家が動いた?)
なんで......。古代文字がこの街から発見しされたら逆に喜ばしいことだろ。それなのになんで動き始めるんだ?
「普通なら古代文字を発見されたら喜ぶはずだ。だがな、お前たちが。いや、お前が見つけたのが悪かった」
「俺が悪い?」
「あぁ。俺も軽率であったが、古代文字を発見した人物としてお前たちの名前を挙げた。そしたらどうなると思う?」
どうなるって言われても、そんなのわからないだろ。
「結論から言えば、実家を追放した奴が世間で有名になったってことだ。そして何んで、そんな優秀な奴を追放したんだってロードリック家が叩かれ始めた」
「......」
(そう言うことか)
「それで、この街に一つ、噂が流れた。リアムとその仲間たちを暗殺したら報奨金が流れると。それに加えてロードリック家の後ろ盾もつくとな」
「そんなのおかしいじゃない!」
「そうですよ! 私たちは何も悪いことをしていないのに!」
そうだ。俺たちは何一つ悪いことをしていない。結局は実家を追放されたのは父さんが決めたことであり、俺のせいにはならない。そして、追放するときにはすでに俺が冒険者としてやっていることも知っていながら辞めろとは言われなかった。
結果として、古代文字を発見したわけだが、それも世界から見たらいい方向に進んでいる。何一つとして俺たちが悪いことをしたわけじゃない。
でも、真実は時に悪くもなる。それが今回だ。だからこそ、俺たちを殺そうとしているんだろう。
「あぁ。俺もわかっている。でもな、ロードリック家が動き出した以上、俺一人では庇いきれない。だからお前たちはいち早くこの街から出て行ってほしい。だから、これが俺ができる最大限のことだ。お前たちには死んでほしくないからな」
「......。分かりました。ですが、アメリアを俺たちのパーティ登録だけしておいてもらえませんか?」
今後のことを考えたら、絶対にアメリアは冒険者になっておいた方がいい。身分証明書にもなるし、パーティのランクが上がるにつ入れて、今なっていなかったら俺たちと差が開いてしまうから。
「わかった。今日中にでも頼むぞ。俺も冒険者や他の奴らを止められて一日だ」
「ありがとうございます」
俺たちはギルドマスターに言われた通りに竜人族の国にすぐさま向かおうとした。
その時、ザイト兄さんが俺たちの目の前に現れた。
「よぉリアム」
「ザイト兄さん......」
ギルドマスターから聞いていた通りなら、兄さんは俺の事を恨んでいるはず。それなのに、今目の前にいる姿にそんな面影は一ミリも感じられなかった。
「まず、古代文字の発見おめでとう」
「あ、ありがとう」
すると、先程の雰囲気とは一変して、横にある壁を殴りつけた。
「お前が古代文字を見つけたせいで俺たちがどうなっているか知っているか?」
「そんなの私たちには関係ないじゃない! あなたたちがリアムを追放したのが悪いじゃない!」
「まああんたが言うのも一理ある。だからよ、リアム。実家に戻ってこないか?」
「え?」
(実家に戻って来いだって?)
今更言われてももう遅いよ。もっと......。もっと早くその言葉が聞きたかった。もう俺はやるべきことを見つけたのだから。
「俺が親父には進言してやる。だから戻って来い。まだ間に合う」
「そ、それは無理だよ。俺にはやるべきことがあるから」
「あぁ? 本当にいいのか? お前たちの今の立場、わかっているよな?」
「......。それでもごめん」
今どういう立場に置かれているかなんてわかっている。それでも、もう戻るつもりなんて無い。
「そうか。この選択を後悔するなよ。次会う時は......」
俺を睨みながらザイト兄さんはそう言ってこの場を去っていった。
★
この時、ザイト兄さんが禁術に手をかけようとしていたのをまだ俺たちは気づきもしなかった。そして、父さんがこれから何をしようとしているのかも。
兄さんと話した後、すぐさま街を出ようとしたが、後ろから数人がつけてきているのを感じた。
(クソ!)
兄さんと会ったからとは思っていたが、もう、俺たちがいることをわかっている奴はいるってことか......。
俺は頭痛を顧みずに魔眼を使い、未来を見る。そして一つだけ安全に通れる道を見つけて、その道を通って行った。
(本当にギルドマスターには感謝しても仕切れないな)
こうして、故郷である街を後にした。
(やっとか撒いたか......)
魔眼を使って未来を見ることは、精々少し先の未来。だから、予知で見た中で一番安全なルートを通ってきても、それが確実に安全なルートとは限らなかった。今回もどれぐらい追いかけられたかわからなかったが、やっと刺客の気配が消えた気がした。
「本当にリアムの家族って......」
「あぁ。本当に悪い」
「リアムは悪くないよ。逆にリアムは......」
「......」
ミシェルはそう言いかけながら、哀れみな目でこちらを見てきた。
(まあそう感じるよな)
普通、家族に殺されそうになることなんてありえないことだ。
「それで、結局、これからどうするの?」
「そうですね。まずは竜人族の国に向かった方がいいんじゃないですか?」
「あぁ。古代文字の解読が最優先だろうな」
逃げることに専念しすぎて、本来の目的があいまいになって来ていたので、全員でもう一度確認をした。
「古代文字を解読した後は?」
「......」
はっきり言って竜人族の国に言った後のことなんて考えていなかった。いや、考えられなかった。なんせ、本当はもう少し母国にいる予定だった。
それに、もうあの街には戻ることが出来ない。俺たちにとって最も危険な場所になってしまったのだから。
(本当にごめん)
二人には、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。今回の騒動の原因は、俺である。俺さえいなければもっと安全に進めていたのは確かだ。
俺が俯きながら考えていると、アメリアが肩を軽く叩きながら言った。
「今後のことはその時、考えよ?」
「アメリアの言う通り、その時になったら考えればいいね! その場で決める冒険もいいしね」
「あ、あぁ」
二人の言う通り、その場で考える冒険もいいかもしれないな。
★
数日が経ち、竜人族の国へ向かっている途中で、一匹の大きなドラゴンを目撃した。
「「「!?!?」」」
馬車を止めて、ドラゴンの様子を見る。
(あれがドラゴン......)
こんな場所に存在しているのか。そう思いながら、ドラゴンが上空から消え去っていくまで目を話すことが出来なかった。
(よかった......)
はっきり言って、ドラゴンがこちらに攻撃を仕掛けて来た時点で、俺たちはひとたまりも無く死ぬだろう。それにしても、本当に竜人族の国に近づいているんだな。
安直ではあるけど、ドラゴンが生息しているってことは、竜人族の国へ近づいているって証拠だと思う。その時、ミシェルが肩を叩いてきた。
「さっきのがドラゴンなんだよね」
「そうだと思う。俺も初めて見たけど」
「もう、ドラゴンなんて見たくないな」
「あぁ」
もう一度見て、今みたいに見逃してくれるとも限らない。
そこから、馬車を少し走らせた時、ドラゴンらしき存在をまた見つけてしまった。
(またかよ......)
そう思いながら、良く見つめると先程のドラゴンと比べてものすごく小さいのが分かった。
(ワイバーンか?)
ドラゴンの中で一番弱いとされているワイバーン。だけど、弱いと言ってもドラゴンの中での話であり、冒険者ギルドではBランクモンスターに指定されている。
すると、こちらに気付いて攻撃を仕掛けてきた。
「ミシェル! アメリア!」
「「わかっている」」
俺たちはすぐさま戦闘態勢に入って、ワイバーン討伐を始めた。
いつも通り、俺が前衛、ミシェルが中衛、アメリアが後衛、の構成で戦い始める。
シルフの力を借りて、体を軽くしてもらいつつ剣に風魔法を付与してワイバーンに斬りかかる。だが、それを見切っていたかのようにワイバーンは上空に逃げ去っていった。
(クソ!)
そして、ワイバーンが俺の方へ向かってきた時、アメリアが守護を張ってくれてワイバーンの攻撃を防ぐことが出来た。
(流石だな)
ワイバーンが怯んでいるのを見逃さずにミシェルが風切を使ってワイバーンの翼の一部を斬り落とす。
「グギャァァァァァァ」
ワイバーンが地上に落ちてきたとき、俺は、風魔法を付与している剣でワイバーンの首に目掛けて斬りかかる。すると、あっさりと斬り落とすことが出来た。
「はぁ、はぁ......」
「やったんだよね?」
「そうだと思いますよ」
もう一度、ワイバーンが死んでいることを確認して、一息つく。
(やっぱりすごいな)
シルフの力がすごいことはわかっていた。だけど、ワイバーンの首すらすんなりと斬れるとは思ってもいなかった。
(この力があって、尚魔族に勝てなかったってことだよな)
ここまで強力な魔法があるのに、魔族に封印されてしまったってこと。そう思うと、今後のことが不安で仕方がなかった。
そして俺たちは、あたり一面で少し休憩を取ろうとした時、大人と子供の竜人族と遭遇する。
「え? あ、大丈夫ですか?」
「あ、は「おい! 何をやっている!」」
突然聞こえた声のする方向を向くと、竜人族の精鋭たちが、血相を変えてこちらに向かってきていた。
近寄ってきた竜人族に俺たち三人は、戦闘態勢を取られてしまった。
「え?」
俺たち全員が呆然としながら、戦闘態勢を取っている竜人族の方を見ていると、奥の方から重装備をしている男性が現れて、話しかけられた。
「お前たち、今何をしていた?」
「ワイバーンを倒していましたけど」
「そうか。じゃあそこにいる同種をどう説明する?」
「あの人たちとは、偶然出くわしたまでで」
嘘偽りなく答えるが、竜人族人たち全員が信用した表情は見せず、ずっと睨みつけて来ていた。
(はぁ~。俺たちが何をしたって言うんだ)
「嘘をつくな! 怯えているじゃないか!」
そう言われたため、子供の方を向くと、少し怯えた風に俺たちのことを見ていた。そしてまた何かを言おうとした時、大人の女性である竜人族が話し始めてくれた。
「この人たちが言うことは本当です。私たちのことを助けてくれました」
この人の発言を聞いて、竜人族の人たち全員が驚いた顔をして俺たちのことを見てきた。そして、武装を解き始めてくれて、先程まで話していた男性が頭を下げて言った。
「ほ、本当に申し訳ない」
「あ、はい」
すると、ミシェルとアメリアもホッとした表情になりながら、俺の方を見てきた。
「まずは、私たちの国に案内しよう。そこでもう一度謝罪をさせてほしい」
「わかりました」
男性に言われるがまま、竜人族の国に向かった。
★
中に入ると、国名が記載されていた。竜人国へようこそ。
(なんやかんやで国内に入れたな)
そう思いながらあたり一面を見つつ国内を歩いていると、竜人族の人たちが俺たちのことを異様な目で見てきた。
(またか......)
どの国に言っても、入った時は全員が異様な目で見てくる。
(まあわかるけどさ)
俺は人族だけど、オッドアイの魔眼持ちであって普通とは違う。そしてミシェルはエルフ、アメリアは鬼人族である。種族間がバラバラな人が国内に入ってきたら誰だって異様な目で見てくるに決まっている。
それに加えて、今回は竜人族に国内を案内されている立場。いつも以上に注目されるのもわかる。
そして、一軒の大きな家に入ると、先程の人が頭を下げて謝罪してきた。
「先ほどは本当に申し訳ない」
「もう謝らないでください」
さっき謝ってもらったんだ。危害を加えられたわけじゃない。だから俺もミシェルもアメリアも今回のことは許している。
「そう言ってもらえると助かる。俺は、竜人族の宮廷騎士団の隊長を務めているラルク・シャーヘンだ」
その後、俺たちも挨拶をしたところで、先程言われたことを思い出す。
「え? 宮廷騎士の隊長!?」
偉い人だとはわかっていたけど、ここまで偉い人だとは思ってもいなかった。
「今回は、王子を助けてくれてありがとう」
「え? 王子?」
「あぁ。さっきは国外であったから、言えなかったが、お前たちが助けてくれた人は、竜人国の第四王子であるモールト・サリケルト様だ」
「......」
(あの子が王族とか......)
そこでまたかと思ってしまった。なんで俺と出会う人全員が王族なんだ。ミシェルはエルフの国の第三王女であるし、アメリアも鬼人族の第一王女。そして今回は竜人族の第四王子だ。
それに比べて俺は追放された貴族。
(はぁ~。俺も王族だったらな)
「それでだが、お前たちは、なんでこの国に来たんだ? できるだけ私たちが願いを叶えたいと思っている。これぐらいはさせてほしい」
「では一つだけお願いをしてもいいですか?」
「あぁ。なんだ?」
「古代文字がある場所を教えてもらえませんか?」
俺がそう言うと、ラルクさんの表情が一変して、険しい表情になった。そして、睨まれながら問われる。
「お前、どこでそれを聞いた?」
「え?」
「だからどこで聞いたんだ? 古代文字がここにあると」
その時、ミシェルが言った。
「私のお父様よ」
すると、なぜかわかったかのような顔をしていった。
「......。そう言うことか」
「??」
(何がそう言うことなんだ?)
今、ミシェルが言ったことで情報がどこから入手したのかもわかったのか? 多分、ラルクさんはそう言うことが知りたいのだと思うから。
「ミシェルさん。あなた王族ですよね?」
「そうですけど?」
「やっぱり。エルフとは、王族であろうと公の場に出ることは滅多にない。だから気付きはしませんでしたけど、今の情報で納得しましたよ」
「なんでそれで分かるのですか?」
俺が疑問に思って質問をしてしまった。
「古代文字とは、世界に存在している場所を知っているものはそこまでいない。それこそ王族とかそう言うレベルじゃなくちゃな」
「そ、そうなんですね」
まあ、俺たちが古代文字を発見した時だって、ギルドマスターが驚いていたもんな。それに今だって、俺が見つけたことによって、実家はより一層俺を殺そうとしている。
「あぁ。だからだ。それにしてもリアムたちは古代文字を見て何をしたいんだ? 何もできないだろ?」
「それがリアムはできるのよ! 噂ぐらい聞かない? 古代文字を解読した人が現れたと」
「!! それがこの少年だと?」
「うん」
すると、ここにいる人たち全員が俺を見てきた。
(やっぱり驚くよな)
今までなら「なんで驚くんだ?」と思っていたが、エルフの国や母国を通して、古代文字がどれだけすごいことなのかを実感した。だからこそ、こんなふうにみられるのも頷けるって言えば頷ける。
「どうやって解読をしたんだ?」
「え~と」
本当のことを言っていいのか迷った。なんせ、ティターニアを助けた時、俺は魔族に眼をくりぬかれそうになったんだから。だからこそ、このような重要な情報を言っていいのかわからなかった。
そう思っていた時、モールト王子がこの部屋に入ってきて言った。
「先ほどは助けていただきありがとうございました」
「あ、はい。こちらこそ無事でよかったです」
モールト王子は笑顔になりながらこちらを見てきながら、周りにいる竜人族《ドラゴニュート》に言った。
「ラルクを除く全員はこの場から出て行ってほしい。お願い」
「ですか!」
一人の竜人族がそう言った。だが、モールト王子はその言葉に引かず、言う。
「今回は王族命令だよ」
「......」
すると、ラルクさん以外全員がこの部屋から出て行った。そして、モールト王子が俺に向かって言う。
「これできちんとお話ができますね。英雄さん」
俺は誰のことを言っているのかわからず、後ろを振り向く。だが、そこには誰もいなかったので、俺は自分に指を指しながら尋ねた。
「俺の事ですか?」
「うん、そうだよ」
「英雄って。俺はそんな大層な存在じゃないですよ?」
そう、英雄とは世界の全てを知ってその理を正す存在のこと。俺は、世界の理なんてまだすべて知ってはいないし、それを正す能力だって持っていない。
「いや、あっているよ。リアムさんは英雄だよ」
「どこら辺がですか?」
俺が古代文字を解読したということを説明したとき、モールト王子はこの部屋にはいなかった。だから俺が古代文字を解読したということをまだ知らない。それなのに、なんでこんなことを言えるんだ?
その時、ラルクさんは俺とモールト王子を交互に見ながら言った。
「モールト様、それは本当ですか?」
「うん」
それを聞いている俺たち三人は何を言われているのかわからない状況であった。
「あ、説明しますね」
そう言って、説明しようとした時、モールト王子がラルクさんを止めて言った。
「僕が説明するよ。僕はね、未来が見えるんだ」
「え?」
「だから未来が見えるんだ。それも近い未来じゃなくて、遠い未来がね」
それを聞いて俺たち全員が驚いた。
「遠い未来って......。それはつまり数年先とかってことですか?」
(俺のとは違うってことだよな?)
俺が魔眼を使って見える未来は精々数分先までであり、遠い未来が見えるわけじゃない。だから質問せざる追えなかった。それに未来を見た時の代償とかは無いのか。そう言う点も気になってしまった。
「少し違いますね。明確に何年先というより、近々起こりえる未来が見えるってことです」
「??」
近々見えるミラって何のことだ?
「リアムさんの未来を見た時は、数カ月後に私の目の前に現れるって言うものでした」
「......。ではあの時、俺が現れるとわかっていたと?」
「はい」
「では、なぜモールト王子は俺の事を怖がっていたのですか?」
間違いなくワイバーン戦の時、モールト王子は俺の事を恐れていた目で見ていた。今回の一件とは違うが、俺と出会うことが分かっていたということは、俺の事を恐れる理由が分からない。
「本当に申し訳ないのですが、私は魔眼持ちの人を見たことがなかったので」
「......。そう言うことですか」
結局は魔眼持ちというだけで恐れられる。そう言うわけってことか。
「はい。ですが、リアムさんが何をするかはもうわかっています。これから私が古代文字の場所に案内いたしますのでついてきていただけますか?」
「よろしくお願いいたします」
そう言っていただけて、非常に助かった。なんせ、竜人族は他種族と接点を持とうとしないのを事前に知っていたから、古代文字のある場所までどう入ろうか迷っていたところであったのだから。
★
翌日、屋敷から出て三十分程経ったところで、一つの遺跡にたどり着いた。
(ここは、なんというか想像通りって感じだな)
誰もが一目見たら、遺跡とわかる建築物をしていた。それは、ミシェルとアメリアも思っていたようで、あたり一面を珍しそうに眺めていた。
「こちらが入り口です。どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
モールト王子が進む方に進んでいくと、一枚の石板を見つけた。
【この世界の理を知っているのか】
(え?)
いつもと違う古代文字で驚いてしまった。
(世界の理を知っているかだって?)
そりゃあ、魔族が世界征服しようとしていることは知っているけど、それと世界の理じゃ違うよな......。
ティターニアが言っていた世界征服は、世界の理の一つに過ぎない。それこそ、世界の理とはもっと違う所にあると思う。だが、ティターニアが言っていたように、魔族が世界征服をしようとして、それを止めようとした精霊たち。
それはが世界の理につながっているのだとは思う。俺が俯きながら考えていると、モールト王子が肩を叩きながら尋ねてきた。
「リアムさん。この文字が読めますか?」
「あ、はい」
「あまり納得した感じではありませんね。もう一カ所にもありますので次に進みましょう。そこで内容を教えていただけたらと思います」
「わかりました」
モールト王子に言われるがまま、次の古代文字のありかに連れて行ってくれた。
【英雄が現れた時、俺たち精霊は契約をする】
(......)
また英雄か。ついさっきもモールト王子が英雄と言っていた。それも俺にだ。
(本当に俺が英雄なのか?)
モールト王子の言う通り、俺が英雄ならここにいる精霊が現れてくれるに決まっている。
そう思った時、腕の魔方陣が光出した。俺を含め、ミシェルやアメリア、モールト王子にラルクさん全員が驚きながら見ていた。
{リアム、今から出てくる精霊は少し注意が必要だよ}
{え?}
{はっきり言って、僕みたいに暇つぶしという理由で契約してくれるわけじゃないから}
シルフがそう言った瞬間、あたり一面に熱風が走って、精霊が現れた。
{君が俺を呼んだってことだよな?}
(本当に精霊が出てきた)
ってことは俺は、本当に英雄なのか? あまりに唐突すぎて、状況が理解できず、呆然としていると精霊が俺に向かって話しかけてくる。
{おい、聞いているのか?}
{あ、はい}
{お前が呼んだってことだな}
{そうなりますね}
すると精霊は、俺の目の前にやってきて問われる。
{お前は何を求めて俺と契約をする?}
{何って......}
口ごもってしまった。なんせ、ティターニアに魔族の世界征服を止めてほしいと頼まれているが、それが俺は本当にしたいことなのかわからない。
{口籠るってことは決まっていないってことだよな? だったらもう一度来な}
そう言ってこの場から消えそうになってしまったので、引き留める。
{ちょっと待ってくれ}
{なんだ? だったら契約する理由があるのか?}
{わからない。でも}
{でもじゃねぇ。俺はシルフみたいにすぐ契約したりしない}
すると、シルフが出てきて言った。
{サラマンダー。この人は英雄だよ?}
{そんなこと知っている。だけどな、覚悟がない奴と契約なんてできるわけないだろ}
そう言って、俺の方を見てきた。
(覚悟か......)
まず覚悟ってなんだよ? 今まで、誰かに頼まれて古代文字を解読してきた。それじゃダメってことなのか?
{サラマンダー様、覚悟とは何ですか?}
{お前は、俺の力を何に使いたいと考えている?}
{それは......。魔族の食い止め?}
ふと思いついたのがこれであった。ティターニアに頼まれたことでもあったが、それ以上に魔族が世界征服をしてしまったら、魔族とそれ以外の種族で上下関係ができてしまう。そうなってしまったら、今以上に住みにくい世界になってしまう。だから俺はそれを食い止めたい。
{あ~。だったら契約はしない}
{え?}
{魔族を食い止めたい。それは立派なことだ。だけどな、そんなことで俺は契約なんてしない}
{......}
なんでだよ。魔族を食い止めるじゃなんでダメなんだよ。サラマンダー様だって魔族を食い止めるために戦って、封印されたんじゃないのかよ。
{はっきり言う。魔族を食い止めた後、お前はどうする? 俺の力なんていらないんじゃないのか?}
{......}
そこまで考えてもいなかった。まず魔族を食い止めること自体、出来るかわからない。なのにその後のことなんて考える余裕がなかった。でも、サラマンダー様に言われて、自分の愚かさを実感する。
もし、魔族を食い止めた後、俺はその力を何に使うのか。力を弄ぶだけなのか? そう思ってしまった。
俺が考えている時、サラマンダー様が真剣な顔でもう一度聞いてきた。
{もう一回聞くぞ。お前は何のために俺と契約をする?}
{俺は......。俺は}
そこで、周りを見る。すると、ミシェルやアメリアは不安そうな顔で俺を見てきて、モールト王子やラルクさんはよくわかっていない状況で俺を見て来ていた。
(あ~。そう言うことか)
{俺は仲間のために戦いたい}
{仲間のためね。じゃあ仲間が殺されそうになったらお前は世界も見捨てると}
{それは違う。仲間を救うために世界を助けるんだ}
そう、今までは世界征服を食い止めるためにという、浅い考えで行動をしていた。でも本当に俺がやらなくちゃいけないことはそれなのか? ふとそう思った。
俺は、本当に世界を救いたいのか? いや、違う。ミシェルやアメリア、そしてティターニアやアメリアのお父さん。それにミシェルの家族やモールト王子たちを助けたいから今の俺がいるんだ。
サラマンダー様は少し不気味な笑みを浮かべながら言った。
{......。ははは。結局は私利私欲のためってことか}
{あぁ。でもそれが普通なんじゃないのか? 誰だって自分が守りたい、助けたいと思うために力が欲しい。そうだろ?}
サラマンダー様は先程までの不気味な笑みとは一変し、笑顔になりながら俺に近づいてきた。
{いいぞ。そう言うのを待っていた。誰かに言われたからではなく、自分がなすべきことのために力が欲しい。そう言う回答を待っていた}
{だったら......}
すると、真剣な雰囲気になってサラマンダー様が言った。
{あぁ。契約をしよう}
手の甲が熱くなり、あたり一面に熱風が走った。そして、魔法陣に竜のマークがついた。
{これで契約完了だ}
{よろしくお願いいたします。サラマンダー様}
{サラマンダーで言い。リアム}
{わかった}
ふと、なんで名前を知っているんだ? と思ったが、精霊と契約をしたら、お互いの過去が見えると思いだした。
(まあ、俺はシルフもティターニアもサラマンダーも見たことないけど)
そう思うと、少し不公平だよな。俺の知られたくない過去は知られているのに、精霊たちの過去はしれないなんてさ。まあ力を貸してくれているんだからしょうがないって言えばしょうがないんだけどさ。
{そうだ、サラマンダー。姿をみんなに見せてあげてくれないか?}
{ん? いいぞ}
すると、ミシェルたち全員が驚いた顔をしてサラマンダーを見ていた。
「契約できたのね」
「あぁ」
「何度見ても驚くわね」
「そうだね」
俺だって、精霊と初めて会う時は、緊張する。それと感覚は一緒なんだろうな。そして、モールト王子の方を向くと涙を流していた。
「本当にいたんですね。サラマンダー様」
「ん? ずっといたさ」
「そうですよね。あの時はありがとうございました」
「あぁ。覚えていたか」
(??)
あの時とは? 今の発言からも、サラマンダー様と会っていないとらえられるし、古代文字が解読できない時点でモールト王子がサラマンダー様を見ることはできないはずだ。それなのにありがとうございましたってどう言うことだ?
「モールト王子はサラマンダーと会ったことがあるのですか?」
「いえ、ですが昔に一度、私が魔族に襲われている時サラマンダー様が私を助けてくれたことがありました」
「え?」
封印されているのに助けることが出来るのか? そう思った。ティターニアはあの祠から出れないし、シルフだって誰かを助けたとは聞かない。それなのに助けたって......。
「リアム、それは私が説明しよう。私は封印される直前に、竜人国に少しばかり力を残していたんだよ。そして最も危ない状況に陥った時、その力を発動する条件を付けてね」
「あぁ~。そう言うことか」
言われてみれば、封印される前に力を残しておけば、助けることはできるということか。
「リアムさんも本当にありがとうございました。これでサラマンダー様も自由になれます」
「あぁ」
すると、モールト王子の手の甲に俺と一緒のドラゴンの紋章ができていた。
「え? これって」
「モールトよ。私はお主にも力を少し授ける。もし危険な目になったらそれを使うといい。そしてリアムが困っている時、その力で助けてあげてほしい」
「わ、分かりました。それとありがとうございます」
そう言えば、シルフとティターニアもミシェルに力を授けていたけど、ミシェルにも紋章が付いているのかな?
「では、私と一緒に父上と会っていただけませんか?」
「わかった」
この遺跡を出て、竜人国へ戻った。今日はもう日が落ちているので、明日国王と会う予定になり、俺たちは就寝をした。
その夜、あたりがうるさくて目を覚ますと、家が燃えているのを目撃した。
(え?)
何が起きているんだ? 俺はすぐさま、ミシェルとアメリアの部屋に行くと、二人とも起きていて合流する。
「どうなっているの?」
「わからない」
「でも、これって」
「あぁ」
間違いなく、他種族からの攻撃を受けているとわかった。家が燃えているぐらいなら、竜人族たちがここまで騒ぐはずがない。それを裏付けるように、ラルクさんたちが出動しているのが見えた。
そして、俺たちがいるところへモールト王子が入ってきて言った。
「人族が攻め入ってきました」
「え?」
「リアムさんたちはここで待機していてください」
「いや、俺も戦いますよ」
俺が言ったのに続くように、ミシェルとアメリアも頷きながら言った。
「「戦う(よ、います)!」」
「ですが、客人であるあなた方を戦わせるわけにもいきません」
モールト王子は申し訳なさそうにそう言った。王子がそう言うのもわかる。国の問題に対して客人を戦わせるわけにはいかない。でもそれが本当に国の問題ならだ。
「今回攻め入っているのは、人族です。同種族が攻め込んでいるのに戦わないわけにはいきません。それに......」
もしかしたら、今回攻め入ってきたのは、俺たちのせいかもしれない。まだ二日しか経っていないが、こんなタイミングよく攻め込んでくるとは思えなかった。
「......。分かりました。でも無茶だけはしないでください」
「「「了解」」」
俺たちは、王宮を出てすぐさま戦闘が行われているところへ向かった。そこには竜人国の死体がそこら中に転がっていた。
(ひどい......)
なんで、こんなことを。そう思ったが、今はそんなこと言っていられない。今は一人でも多く竜人国を助けなくてはいけない。
俺たちあたり一面を見回して、竜人国の生き残りを探した。すると何人か重傷を負っているが生きている竜人族がいたのでそちらに近寄る。
「ひっ!」
「大丈夫です。俺たちは味方です」
怯えるのもわかる。俺は人族だ。そして殺されかけたのも人族である以上、恐れられるのが当然だ。
俺はティターニアの力を使って、竜人族の怪我を癒した。
「え? あ、ありがとうございます」
「早く安全なところへ向かってください」
そこでふと思い出す。
「ミシェルもティターニア様の力を使って竜人族の傷を癒してあげてくれ」
「わ、分かったわ」
「アメリアは、あたりに人族がいないか探して、見つけたらいち早く俺たちに知らせてくれ」
「わかった!」
俺とミシェルで、竜人族を見つけ次第、傷を癒して非難を促した。そして、十分程経ったところで、竜人族を見かけなくなった。その時、アメリアが俺たちに言う。
「左方向に人族三人がいる!」
「「ありがとう!!」」
俺たちは、人族がいる方向に向かう。すると、竜人族を殺そうとしているところだった。俺は手の甲に魔力を込めてシルフを呼ぶ。
{シルフ!}
{わかった}
人族たちを風魔法で吹き飛ばす。
「大丈夫ですか?」
「え、えぇ」
「早く逃げてください」
竜人族が逃げ切ったところで、俺たちは人族に方位されてしまった。
(クソ)
風魔法でここをかぎつけたか。
「お前何してんの?」
「お前たちこそ何をしているんだ!」
「何って見ればわかんだろ。竜人族狩りだよ」
全員が不気味な笑みを浮かべて、一人の男性が俺たちに言った。
(竜人族狩りだって?)
「なんでそんなこと」
「それはお前には関係ないだろ。いや、関係はあるか。なぁリアム様」
そう言って、俺たちに攻撃を仕掛けて来た。ミシェルが風魔法で数人を吹き飛ばすが、人数が多すぎて捌ききれなかった。そして、ミシェルが魔法を撃った瞬間の隙をついて、斬りかかってきた。
(やばい!)
俺が駆け寄っても間に合わない。そう思った。
だが運よくアメリアが近くによって、その攻撃をさばいて、攻撃してきた男性を吹き飛ばした。
(よかった)
その後も、俺とミシェルで人数を減らしつつアメリアが俺たちのカバーをする方向で戦った。その時、一人の男性が炎玉を使おうとしてきた。
(これが街に使われたら)
炎玉を街に使われたら、ここら辺一帯が燃え尽きてしまう。
(どうする......)
その時、サラマンダーが話しかけてきた。
{俺の言った通りにしろ。俺とシルフの魔法を合わせろ}
{わかった}
俺は、サラマンダーの言われた通りに右手には風魔法を、左手には火魔法を使って炎玉へ向かって放った。すると、人族たちだけが燃え盛った。
(......)
俺は、人を殺したのか......。そう思いながら、燃え盛った人たちを見に言ったら、見覚えのある紋章がつけられていた。
(!!)
なんでここにロードリック家の紋章があるんだ......。
俺が呆然と立っているところにミシェルとアメリアがこちらへ駆け寄ってきた。そして、俺の家の紋章を見てから話しかけられる。
「リアム! 大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「あぁ......」
シルフとサラマンダーの力を同時に使ったけど、まだ魔力には余裕があった。すると、ミシェルは俺の事を抱きしめてくる。
「え......?」
「今だけ。今だけだよリアム。でも慣れちゃダメ」
(!!)
実家の刺客が竜人族に攻め行ってきたことが不安なんじゃない。それをミシェルに見透かされているのが分かった。俺が一番何に不安を感じているのか。
「あぁ。慣れないようにする。だからありがとな」
「うん。冒険者なら人を殺してしまう時がある。それにちゃんと考えてね。今回は、私たちが助けなかったらどれだけの竜人族が死んでいたか」
「うん」
ミシェルの言う通りだ。今回、俺がこいつらを殺さなければどれだけの竜人族が死んでいたのか。そう思っただけで、先程感じていた不安がスッとなくなっていくのを感じた。
そこから、ミシェルとアメリアと俺で竜人族の逃げ遅れを探しに歩き始めた。そこから十分ほどたったところで、ラルクさんと出くわした。
「リアムくんか......。大丈夫か?」
「はい。一応はこちらにいた竜人族の方々は避難してもらいました」
「そうか。ありがとう。日が明けたらリアムくんたちには国王に会ってもら居たいけど、いいかな?」
「もちろんです」
ラルクさんの発言からして、俺が今回の火種だってことがわかっている雰囲気であった。
「助かる。三人はもう王室に戻っていい。これからは私の仕事だ」
言われるがまま、俺たちは王室に戻って、各自部屋に戻った。
(覚悟を決めなくちゃ)
そう、今回の火種は間違いなく俺だ。俺が竜人国に来なければこうはならなかっただろう。来ていたとしても、一刻も早く俺が狙われている身だと知らせていたら被害が少なかったかもしれない。
(クソ......)
考えて行くごとに、自分の行動に嫌気が指して行った。そして日が出てきて、俺たちは国王と面会をした。そこにはモールト王子やモールト王子に似ている人、そしてラルクさんなど様々な人がここにいた。
「まず、初めまして。モールトの父である、クリリート・サリケルトだ」
俺たちも国王に続くように自己紹介をした。
「それで本題だが、リアムくんよ、今回攻め入って来た人族に心当たりはあるかい?」
「はい」
俺がそう答えると、王室がざわついた。
「それはリアムくんとどういう関係なんだい?」
「私の実家の刺客です」
すると、騎士である人たちが俺に対して戦闘態勢をとった。それを見るとミシェルが言った。
「リアムの実家ではありますけど、リアムはすでに実家を勘当されている身です。ですのでリアムがこの国に連れてきたというわけではありません」
「そんなことわかっている。だがな、リアムくんが原因であるのに間違いはないだろ?」
「はい」
俺がそう答えると、ミシェルとアメリアは不安そうにこちらを見てきた。だけど嘘をつくわけにはいかない。今回の騒動、確実に俺を殺すために来たはずだ。俺はこの国に迷惑をかけた身であるのだから。
「リアムくんを罰せなければいけない」
「だから!」
「ミシェルさん。話をきちんと聞きなさい。本当なら罰せなければならないが、リアムくんに助けられた人たちが大勢いる。それは国民、そしてラルクからも聞いている。だから今回は不問としようと思ってだな」
すると、騎士たちが驚いた顔をしていた。
「皆も驚くのは無理ない。だが、モールトの言う通りならリアムくんはサラマンダー様と契約をしたと聞く。そして世界の理を知っているんだよな?」
世界の理と聞いて驚いた。ここにいる人たちのほとんどが世界の理と聞いて誰もピンとこないだろう。だが、何人かはわかっているような表情もしていたので、国王から聞いていたのかもしれない。そう思った。
「はい。少しなら知っています」
「私も代々受け継がれる流れで知っている。そして、世界の理を知っている人材、そしてそれを止められるであろう存在を罰すわけにはいかない」
(今の発言からして、国王は本当に知っているんだな)
「だが、一つ条件がある。今後のために、私達とリアムくんたちで条約を結んでほしい」
「え?」
条約? 俺と竜人国で?
突然、国王に言われたことで頭がパニックになってしまった。俺は横を向き、ミシェルとアメリアに目を向けると、二人も状況が整理できていないようであった。
「ん? 聞こえなかったか?」
「いえ、聞こえました。ですがなぜ私なんですか? 私個人ではなく、国単位で条約を結べばいいと思いますけど」
「あぁ。それも考えたさ。でも今回の一件で人族と条約を結ぶつもりはなくなった。だからリアムくんだけでも結ぼうと思ってね」
「そ、そうですか」
俺の実家のせいで人族は竜人国と条約を結べなくなった。そう考えるだけで罪悪感でいっぱいであった。俺のせいではなくとも、血縁者がそのような行動をとってしまったのだから。
「それでリアムくんよ。どうかな?」
「ぜひ、条約を結ばせていただきたいです」
「よかった。では順序が逆になってしまったが、条約の内容を説明しよう」
そこから淡々と国王が条約の内容を説明し始めた。内容として、リアムたちが危険な状況になったら竜人国が助けに行く。そして俺たちは竜人国に最新の情報を伝えること。
それ以外にも、細かい内容はあったが、特に問題がなかったので承諾する。そして、用意されていた書類にサインをして条約が結ばれた。
「今日からリアムと我が国は条約を結んだ。皆もリアムたちに力を貸してあげてほしい」
王室にいる人達の反応はまちまちであった。モールト王子のように嬉しそうにしている人もいれば、騎士たちのように不安がっている人たちもいた。
すると、国王が驚くような行動をした。
「皆も不安だとは思うが、今後の未来のために頼む」
ここにいる全員に頭を下げた。それを見た全員が驚いた表情になった。国王が頭を下げるということがどれだけのことか。それは俺たちが思っているよりも重いこと。
そして、不安そうにしていた人たち全員の表情が変わって、宰相が言った。
「国王様、お顔を上げてください。皆、国王様がここまでして断る人なんていません」
「本当に皆の者、ありがとう。そして今後も宜しく頼む」
こうして俺たちと竜人国で条約が結ばれたのであった。
★
条約が結ばれてから数日が経ち、俺は城下町に出て街の復旧に勤めていた。
「リアムさん、先日は本当にありがとうございました」
「いえ、本当に無事でよかったです」
ここ数日間、城下町に出ていると、助けた人たちにお礼ばかり言われる。
(嬉しいんだけど、何とも言えないよな)
そう、助けたのは事実だが、結局は俺のせいでこの国が危険な目にあってしまった。それを考えると心が痛く感じた。
そして、アメリアが話しかけてきた。
「リアムさん、この後はどうするのですか?」
「う~ん、そうだね。まだ決めていないけど、実家のことを人族の国王に報告しようと思う」
「え? でもそれって」
「あぁ、わかっている。俺の身が危険になることぐらい。でも条約を結んだ以上、最低限やるべきことはやらなくちゃいけない」
血縁者であるからとか関係ない。今回起こったことは、報告しなくてはいけない内容だ。黙っていていいわけがない。
「わかりました。私はリアムさんについて行きます」
「そう言ってくれると助かるよ」
するとアメリアが顔を赤くしながら俯いていた。
(どうしたんだろう?)
こんな平穏な環境を俺は守りたい。だから危険な目に合うからついてくるななんてもう言わない。俺は、この力でミシェルやアメリアたち全員を救うんだから。
二人で話しているところにミシェルもやってきて、アメリアの耳元に何かを言った。すると、アメリアも顔を赤くしながら頷いていた。
(??)
「どうしたの?」
「なんでもないよ~」
「は、はぃ......」
そして、俺たちは人族の王宮に向かうのであった。
★
この時、ロードリック家がどんな立ち位置にいて兄が今後、世界を危険にさらす過ちをするのかまだ分かりもしなかった。
♢
「クソが! なんで古代文字なんで発見したんだよ」
追放したことに対して後悔はしていない。なんせ、追放に関しては父さんが決めたことなんだから。でもリアムが古代文字を発見するとは予想もしていなかった。
(あのまま表に出てこなければよかったのに)
そう、リアムが古代文字を発見してから俺の立場が徐々に悪くなって行った。父さんからは、いつもリアムを比べられる生活を送るハメになっている。
(この前会った時なんて、エルフと鬼人族と女性と一緒に居たじゃねーか)
あいつが劣等種と一緒に居るのは構わねえ。でもつい最近知ったが、エルフの方は王女様。
(劣等種であろうと王女様である人がなんであんな雑魚と一緒に行動しているんだよ)
リアムのことを考えて行くと、徐々に苛立ちが顕わになってくる。そう思っていた時、父さんが俺の部屋に入ってきた。
「ザイト、リアムと会ったって言うのは本当か?」
「はい」
「本格的に始末しろ。これは命令だ」
「え?」
(本格的って......)
「お前はリアムが邪魔だとは思わないのか?」
「思いますけど......」
父さんが言う通り、リアムの存在は邪魔だ。あいつがいなければ俺の人生はもっとスムーズに進んでいたのは間違いない。
(でも......)
俺はあいつに死んでほしいと思っているのか? あいつは憎い。邪魔な存在なのは間違いない。だから刺客をだして痛めつけて冒険できないレベルにしてもらえればいいと思っていた。でも殺すとか......。
「だったらあいつを始末するんだ」
「......」
俺が黙りこんでいると、父さんは俺の事をにらみつけてきた。
「まだ状況が理解できていないのか! あいつのせいでロードリック家がどれだけ避難の目を浴びている!」
「それはそうですが」
「いいわけなんていい。あいつを始末する。これは決定事項だ」
「はい......」
もし、俺が少しでもリアムのことを邪魔だと思わなければ了承していなかったかもしれない。でも父さんと一緒で俺もあいつのことを邪魔だと思っている。だから了承してしまった。
(それに俺は父さんには逆らえないし)
「まあ、今回あいつが行く場所はわかっている。だから俺が刺客は出しておいたから、その後始末は任せる」
「わかりました」
そう言って父さんが俺の部屋を後にした。
(それにしてもリアムが行く場所って言うのはどこなんだろう?)
★
数日が経った日、情報が流れ込んできた。
【ロードリック家が竜人国に攻め入って、リアムが刺客を返り討ちにした】
(え?)
竜人国に攻め入った......。それって、国際問題になるんじゃないのか? ふとそう思った。
俺はすぐさま父さんのいる部屋に向かうと、そこはもぬけの殻になっていた。
「父さん......?」
どこに行ったんだ? 俺は竜人国に攻め入ったなんて聞いていなかったぞ?
その後、俺はいろいろな貴族から責められた。「竜人国と戦争が起こったらどうなるんだ」や「駄貴族が何をしてくれたんだ」など。
(俺がやったわけじゃないのに)
その時、家にある一つの石板を目にする。
(何だこれは?)
読めない。なんて書いてあるかわからない。一応は、ある程度全世界の文字を目にしてきたつもりだが、俺が知っている文字ではなかった。
すると、石板からまがまがしい雰囲気を感じた。
「なんなんだよ!」
もういやだ。家に父さんはいないし、リアムは世間的に認められ始めた。そんな中、俺は何なんだよ。
「これが古代文字なら俺に力を貸せよ!」
そう言った瞬間、石板から黒色の風が吹き始めた。
★
この出会いが俺の人生を大きく変えて行った。
♢
竜人国を出て数日が経ち、俺たちは森の中にいた。
「ねぇリアム、本当に告発しちゃっていいの?」
「いいんだ」
「でも......」
ミシェルに続くようにアメリアも言った。
「そうですよ。本当にいいのですか......?」
「いいんだ。今回のことは俺個人の気持ちで何とかしちゃいけないから」
「そ、そうですが......」
「そうよ」
二人は俯きながら俺に言ってきた。二人が俺に何を伝えたいのかはわかる。家族がやってはいけないことをした。それを報告するって言うことは、家族がどうなるのかなんて分かり切っていること。
それでも、二人は家族を大切にしろって言いたいのだろう。
(俺だって救えるなら救ってもいいと思ってたさ)
縁を切られたって、家族は家族だ。だから救えるなら救いたいさ。でも、ロードリック家はやってはいけないことをした。そんな人たちを救える程俺もお人好しではない。
「心配してくれてありがとな。でも俺にはミシェルやアメリア、それに竜人族の人たちだっている。もう大丈夫だよ」
「「うん」」
そう、俺はもう一人じゃない。いつも行動してくれる仲間がいる。そして俺を力を信用してくれる人たちだっているんだ。
そう思いながら人族の国---アーデレスへ向かった。
★
アーデレスまで残り数日で着くというところで、近くに湖が見えた。するとミシェルが言った。
「ちょっと湖に寄らない?」
「いいですね!」
「あ、うん」
湖か......。湖に行くのなんてティターニアと会った時以来だな。
(それにしてもなんで湖なんだ?)
そう思いながらも、湖付近に着くと、ミシェルが俺に言う。
「先にリアムが水浴びしていいよ。その後私たちが水浴びするから」
「あ、はい」
(そう言うことか)
道中湖なんて見つけることなんてなかったからわからなかったけど、みんな水浴びぐらいしたいよな。いつもは、軽く水魔法で布を濡らして体をふいていたけど、それじゃ体は綺麗にならないしな。
二人と別れて湖に入ると、案の定さっぱりする感じがした。
(やっぱり水って重要だよな)
汗をかいたままいると、体がベトベトして嫌になるし、どの種族だって水を飲まなくちゃ生きていけない。
(ふぅ~)
湖に入りながらあたり一面を見る。
(きれいだな)
エルフの国へ行った時も思ったけど、自然を目の当たりにしていると、心が安らいでいく気がした。
(たまにはこういう日もいいよな)
そして、俺が湖から出てミシェルたちの元へ着くと、二人はなぜか顔を赤くしていた。
「どうしたの? 熱でもある?」
二人は首と手を横に振りながら否定して
「私たちも湖に行ってくるね!」
「了解」
そして二人が湖に向かった。
(......)
何をすればいいのかわからず、あたり一面を見ていると、ふと二人のことを思い出してしまう。
「なんであんなにかわいい子が俺と一緒に居てくれるんだろう?」
ミシェルとアメリアは、古代文字の解読をしたいから俺と一緒に居てくれるのはわかる。でも、それ以上に何かあるのかなって考えてしまう。
それこそ、俺が竜人族の長にとがめられそうになった時、二人は自分の身を顧みずにかばってくれた。
(あの二人と一緒に居れるのも後どれぐらいなんだろうな)
そう、結局は古代文字の解読が終わったら終わってしまう関係だと思うと少し悲しくなる。
その時、湖の方向から悲鳴が聞こえて俺はすぐさま向かう。すると、二人の裸姿をみてしまい、お互い目が合う。
「「「あ......」」」
俺はすぐさま、木の裏に隠れて謝る。
「ごめん!」
「......。後で話そうね?」
「はい......」
ミシェルが低い声で俺に言って、俺は元の場所に戻った。
(それにしても悲鳴は何だったんだ?)
そう思いながらもその後、ずっと二人の光景が頭から離れず、棒立ちをしていると、二人が戻ってきた。
二人と目が合うと、少し顔を赤くしたがミシェルは怒った表情に、アメリアは恥じらいのある表情をしていた。
俺はすぐさま頭を下げて謝る。
「本当にごめん」
「......。本当にそう思ってる?」
「あ、あぁ」
少し役得だったとは思うが、本当に申し訳ないと感じている。故意的ではないとは言え、二人の裸を見て恥ずかしい思いをさせてしまったのだから。
「なら私は良いけど、アメリアはどう?」
「私も......。リアムさんならいいです」
(俺ならって......)
少し、アメリアが俺に好意があると思ってしまったが、すぐに頭を振って邪念を消す。少しでも俺の事を信用してくれたからこう言ってくれたに決まっている。
「でも、リアムは私たちに貸し一だからね?」
「わかった」
二人が負ってしまった精神的に受けた痛みに比べたら、貸し一つで済むなら安いすぎるぐらいだ。
その後、お互い気まずい雰囲気になりながら休憩していると、ミシェルが立ちあがった。
「もう私たちも怒っていないんだからリアムもそこまで考えすぎないで! アメリアもそう思うよね?」
「は、はい!」
「あぁ」
(二人がこう言ってくれるなら、それに甘えよう)
「それで、人族の国でどうやって国王様と会うの?」
「あ~」
ぶっちゃけそこまで考えていなかったので、何とも言えなかった。一応は、古代文字の解読をしたと伝えたら会うことはできるかもしれない。まだ顔は知られていない俺が、事実を伝えてしまったら、確実に国王からマークされるに決まっている。
「はぁ。やっぱり決めていなかったのね」
「ご、ごめん」
ミシェルはため息をつきながら、俺に提案をしてくれた。
「だったら私たちを頼ればいいじゃない」
「え?」
ミシェルとアメリアを頼る? そんな発想はなかったので、少し驚く。
「私はエルフの国の王女だよ? 国王に会おうと思えば会えるはずだよ」
「そ、そっか」
今まではミシェルやアメリアのことを王族だと認識しながら行動していたが、ここ最近になるにつれて二人は大切な存在になって、王族という認識から徐々に離れて行っていた。
「それでどうするの?」
「できればミシェルの案で行きたい」
「じゃあそうしましょ。アメリアも良いよね?」
「はい! 私は二人について行くまでですので」
アメリアがそう言ったのに対して、今まで思っていたことを言う。
「アメリア、もう俺たちは仲間なんだから気を使わなくていいんだよ? もっと意見とか言ってほしいよ」
そう、いつもアメリアは俺とミシェルが決めたことに対してついてきてくれるだけ。だけど、それじゃあアメリアの意見が聞けない。もう俺たちは仲間なんだし、もっとアメリアの気持ちを聞きたいと思った。
「わ、分かりました。では一つお願いをしてもいいですか?」
俺とミシェルは首を傾げなら、笑顔で頷く。
「私のことは、アメリアじゃなくてリアって呼んでくれませんか?」
「......。わかったよリア」
「え~。私は嫌だよ」
「え? 嫌ですか......」
流石にミシェルがそんな回答をするとは思っていなかったので、驚いた顔でミシェルを見る。だけど、ミシェルは嫌な表情はしておらず、笑顔のまま言った。
「リアムがリアって呼ぶなら私はアーちゃんって呼ぶよ!」
「は、はい!」
「だから私のこともミーちゃんって呼んでね。リアムはシェルって呼んでよ」
「わ、分かった」
突然のことで少し驚くが、すぐさま了承する。
「じゃあそう言うことでね。リアムもリアってあだなになっちゃうから、リアムはリアムのままね」
「あぁ」
「リアムさん、ごめんなさい」
「いいんだよ。逆に俺がリアって呼ばれてたら女じゃないのかって思われちゃうしね」
流石にリアって呼ばれるのはきついしな。だからリアが先に言ってくれてよかったよ。
「じゃあみんな言い方は決まったわけだし、練習しよ~」
シェルがそう言った後、一時間にもわたりお互いの名前を呼び合った。
そして、数日が経ち、やっとアーデレスにたどり着いた。
俺が暮らしている街と違いすぎて呆然としてしまった。人の多さ、服装に建築物まで何から何まで違かった。
「早く王宮に行こ」
ミシェルにそう言われるのに対して、俺とリアは頷いて王宮に向かった。幸い、アーデレスに王宮らしき場所は一つしかなかったので、そこへ一直線で向かう。
(それにしてもすごい)
言葉では表せない程、王宮は綺麗であった。
「俺もこんなところで暮らしてみたかったな」
「「え?」」
二人は、俺の言葉に驚いた表情でこちらを見てきた。
「だって、こんなきれいな場所で暮らしてみたいと思うじゃん?」
「私はそう思わないな」
「私もです」
「え、なんで?」
だって、街が発展していて、技術も最先端だと思う。そんな場所で暮らしていたら人生が楽しそうだと思うじゃないか。
「どの国であっても、良いことと悪いことはありますよ?」
「そうよ」
「例えば?」
「ついてきてください」
リアに言われるがまま、ついて行くと路地裏にたどり着いた。
(!?)
「おねいちゃんたち、ご飯くれない?」
「ごめんなさい。ご飯はもっていないの。でもお金なら上げるわ」
そう言って、子供たちに少量だがお金を渡してこの場を去った。
(あれは貧民の人たちだよな......)
「これを見てもリアムさんは暮らしたいと思いますか?」
「いや......」
「どの種族の国だって発展している国に暮らしたいという人は一定数います。ですが、物価が高かったり、貧民の精度がきちんとしていなくてあのような人達ができるのです」
「そ、そうだよな」
俺が結局見ていたのは表面上な街並みなだけで、裏側を見ていなかったって言うことか。もっと俺の知らないやばいところがあるのだろう。
そう言う面で、リアやシェルは王族である立場上知っていたって言うことか。
(俺も元貴族なのに何も知らなかった)
少しふがいないと思った。実家から街の情勢などを聞かされていなかったとは言え、自分から調べようとしなかったことがはずかしい。
「まあ、少し酷な現実を見せてしまいましたね。ごめんなさい」
「いいんだ。俺もこういう事態が知れてよかったよ」
「じゃあ王宮に行きましょうか」
「あぁ」
あの光景が頭から離れないまま、王宮の目の前にたどり着くと、近衛兵たちが俺たちの前に立って妨害してきた。
「本日はどのようなご用件ですか?」
「国王と会いたい。重要な情報があります」
「見ず知らずの人物を中にいれることはできません。おかえりください」
まあわかっていたことだが、突っぱねられてしまったため、シェルが言う。
「エルフの第一王女、ミシェルです。中に入れてください」
その時、近衛兵たちは怪訝そうな顔をして俺たちを見てきた。
「証拠はありますか?」
「これでどうかしら?」
そう言って、シェルはエルフの紋章を見せた。すると、おじいさんの近衛兵が血相を変えて言った。
「来賓室でお待ちください。国王様にお伝えいたします」
言われるがまま近衛兵の人に来賓室へ案内してもらった。
(すごいな)
やっぱり、王族ってだけあり、人族でも紋章を見て知っている人はいるってことか。
来賓室に入るとシェルが言う。
「やっぱり人族は種族差別があるんだね」
「そうですね」
「あぁ」
シェルがエルフと言った時、近衛兵たちの表情が強張っていたし、街に入った時もシェルに対して嫌そうな表情をしていた。
(はぁ。こんなことならシェルにもフードを被せておけばよかった)
そうしていれば、リアのように不快な思いをしなかったかもしれない。そう思いながらも、来賓室で十分ほど待っていると、先程の近衛兵のおじさんが中に入ってきた。
「国王様が王室でお待ちしております。ついてきてください」
「わかりました」
そして、俺たちは王室の中に入って行った。
中には、国王及び宰相、そして近衛兵の数人が待っていた。
「お初にお目にかかります。リアムと申します」
「エルフの国、第三王女のミシェル・スチュアートです」
「アメリアです」
俺たちが頭を下げながら挨拶をすると国王が少し驚いた顔で俺の事を見ながら、咳ばらいをして言った。
「頭を上げてよろしい。いや、上げてくれ。私は別に国王だからって偉そうにしたいわけじゃないから」
言われるがまま俺たちは頭を上げる。
「人族の国王、グリーン・アーデレスだ。それで要件とはなんなんだ? それもエルフの国の王女様が来るぐらいだ。重要なことなんだろ?」
深呼吸をして、平常心を保ちながら発言をした。
「人族が竜人族の国へ攻め入ったことは知っていますか?」
「あぁ」
「その犯人がロ子爵家であるードリック家です」
すると、国王は椅子から立ち上がった。
「それは本当か?」
「はい」
少し胸がチクリとした。俺もできれば言いたくはなかった。実家がこんなことをしたんてことを。
「そうか。知らせてくれてありがとう」
「はい。それでロードリック家に罰則をしてもらいたいです」
「それはもちろんだ」
国王がそう言ってくれてホッとした。今のロードリック家は地の果てまで落ちてしまった。なら、国王から罰を与えてもらって、もう一度最初からやり直した方がいい。
「では、これで俺たちは失礼いたします」
俺たち三人が頭を下げてこの場を去ろうとした時、国王から止められた。
「ちょっと待て。知らせてくれたお礼をしたい。まだ確実というわけではないが、エルフの国の王女が言っているのだから信憑性はあるはず。ならお礼ぐらいさせてほしい」
「いえ、お礼をしてもら居たくてお伝えしたわけでは無いので」
すると国王は少し悩んだ顔になりながら言った。
「この場にいる者たちよ。席を外してくれないか?」
国王がそう言った瞬間、この場にいる人たちがざわつき始めた。
「ここからは聞かれたくない内容だ」
「ですが」
「あぁ。一人は残す。だからこの人たちを連れてきたピートだけ残す」
「わかりました」
そして、王室には俺たちと国王、ピートさんだけになったところで
「リアムよ。お主、古代文字を解読したと噂の人よな?」
「......」
(なんでバレているんだ)
でも、すぐさま理解する。古代文字の発見をしたのが俺とシェルと世間で知らされている。そして解読もその後すぐできたと噂が流れた。そしたら俺と言う目星が付いていてもおかしくない。それも国王だ。情報は俺たちよりも持っているに決まっている。
「言わなくてもよい。今回の件、知らせてくれたお礼として、古代文字の情報を知っている人物がいるから会ってみるといい」
「え?」
「まあ厳密には私も知らないが、この国に仕えている一人が知っているから、そいつに聞いてみてくれ」
「わ、分かりました。ですが本当にいいのですか? こんな情報を俺たちに知らせて」
そう、俺たちは今日初めて会った人であり、信頼云々前の存在だ。そんな人に貴重な情報を伝えるなんて......。
「いいんだ。それに私も世界の理は知っているからな」
「な......!」
「そう言う行動は慎んだ方がいい。私は別にリアムを利用しようとは思っていないが、他の種族は違うかもしれない。だから考えてから行動したほうがいいぞ」
「ありがとうございます......」
国王様が言う通りだ。今の行動で俺が古代文字の解読をしたと言っているようなものだったのだから。
「ピートよ。リックのところへ案内してやれ」
「わかりました」
「お主らには期待している。だからもし力が貸してほしくなったら言ってくれ。必ず欲する時期が来るから」
「ありがとうございます」
そして、俺たちが王室を出ようとした時、国王様が何かボソッと言ったが聞き取れなかった。
「え...うがや..あ..れ.か」
その後、ピートさんの案内の元、地下室へ行った。
「では、私は外で待っていますので、終わりましたらお声がけしてください」
「「「ありがとうございます」」」
俺たちはピートさんに頭を下げて地下室に入る。
(何だここは!!)
中は図書館のようになっていて驚く。そして奥に進んでいくと、眼鏡をかけた一人の男性が座りながら本を読んでいた。
「あの......。リックさんですか?」
「あ、はいそうですが。あなたたちは?」
「国王様に古代文字について知っている人物がイルト言われてここへ来ました」
すると、リックさんは驚いた表情で俺たちを見てきた。
「あなたたちは古代文字を知っているのですね」
「はい」
(まあ世間でも知っている人は増えているだろうけど)
俺たちが古代文字を発見する前までは、知らない人も多かっただろうけど、古代文字が公になってしまった以上、存在を知らない人の方が少ないだろう。
「もしかして古代文字を解読した人たちですか!」
「え、えぇ」
「でしたらこちらへ来てください!」
言われるがままついて行くと、殴り書きで書かれていた紙を見せられた。
「この紙には私が古代文字についてどう思ったかを綴ってあります」
「よ、読めない」
シェルがそう言うと、リアも頷いていた。
(俺だって読めないよ)
「申し訳ないです。私の見解としては、古代文字に何かしら封印されていると思うのですよ」
「え?」
なんでそれを知っているんだ? もしかしてこの人も古代文字を読めるのか?
「違いますか? 私は古代文字を読めないので分かりませんが」
「じゃあなんでそう思ったのですか?」
リックさんがハッとした表情になって言われた。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は魔法評論家です。それで古代文字にも少量ですが魔力があることが分かりました」
「実際に見たと?」
「はい。数年前ですが、運よく古代文字を発見しましてね」
するとリアはリックさんに近づきながら尋ねる。
「それはどこでですか?」
「それが、私もあの時、切羽詰まっていて覚えていないのですよ。本当に申し訳ございません」
「い、いえ。こちらこそ突然質問してしまって申し訳ございません」
「それで話を戻しますが、こう思ったのですよ。古代文字は世界各国のどこかに隠されていて、そこに何かしらが封印されていると」
俺は目を見開いてリックさんを見た。リックさんの発言の中で、世界の理という言葉を言っていない以上、この存在は知っていない。それなのにここまで真理にたどり着いている人が居る事に驚いた。
「それでどうなんですか?」
{シルフ、サラマンダー、言っていいことか?}
{まあ、ここまで知られているなら行っていいと思うぞ}
{僕もそう思う}
「はい」
すると、リックさんはやっぱりかって表情をした。
「ですよね。ここまで研究してきてよかった。それで、古代文字の話ですが、私が知りえた情報を皆さんにお伝えする方針でいいですか?」
「はい。助かります」
「今予想していることですと、古代文字には魔族も封印されているかもってことです」
「......」
そこまで予想がついているのか。
「私の予想ですが、何かしら世界で危ない状況が起きて、それを食い止める存在たちが検討したが封印されたと思っています」
(すごい)
「そして、それは食い止める存在以外にも該当します」
「え?」
「封印した側にも、力を制御できない存在や指示に従わなかったけど、脅威になる存在がいると思います。そう言う存在を封印したのだと推測しています」
言われてみればそうだ。俺が今まであったのは精霊だったけど、リアの父さんが封印されているみたいに、他にも魔族が封印されている可能性はある。そしてそれは、リアの父さんみたいに善意の心があって封印されたわけではなく、力が制御で着なくて封印された存在もいるはず。
「なので、古代文字を解読するときは気を付けてください」
「わかりました。後、もう少し信頼関係を置けたらお伝え出来ることもあるので、その時まで待っていただけると助かります」
ここまで言ってくれたんだ。俺だって何かしら伝えなくてはいけない。でも、伝えて言い情報が分からないし、この人が信頼できる存在なのかすらわからない。だから 調子の良いことを言っているが、少し様子見をさせてもら居たかった。
「わかっていますよ。私は一評論家。いや、研究者としてやっているまでですので、研究が無駄じゃなかったと知れただけでよかったことですよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「はい。では今後ともよろしくお願いいたします」
そして、俺たちは地下室を後にして、王室で一泊することになった。その時、部屋にリアが入ってきた。
「リアムさん?」
「どうした?」
寝間着姿のリアを見てドキドキしながら平常心を保ちながら答えた。
「あの、今日のことですが」
「ん?」
今日のことで何かあったっけ?
「お父さんは悪い人じゃないので。そこは安心してほしいです」
「あ~。それなら大丈夫だよ。リアを信じているから」
あの人が言った通り、力が制御できない魔族がいる可能性は確かだろう。でも、リアのお父さんは違う。それはリアを見ていればわかることだ。
もし、リアと出会った時、俺たちに攻撃を仕掛けて来ていたりしていたら話は変わっていたかもしれない。でも、あの時、リアは自分が魔族だっていうのを隠して俺たちと話すそうとはしなかった。
それを見る限り、他種族にも好意的に思っている、もしくは戦闘が行いたくない種族ってことなんだろう。そんな種族の長が危ないわけがない。それもリアのお父さんなんだから。
「ありがとう」
「お礼なんて言わなくていいよ。一緒にお父さんを助けよ」
「うん!」
その後、リアと少し話してから俺の部屋を後にした。
(この力で俺は大切な人を助けるんだ)
翌朝、みんなで朝食を取っている時、リックさんが部屋に入ってきて言われる。
「国王様から聞きました。リアムさん、なぜロードリック家はあなたを殺そうとしているのですか?」
「え?」
「だってそうじゃないですか。普通、あそこまでして殺そうとしません。殺さず、辺境地に送ればいいことじゃないですか」
「あぁ~」
リックさんはまだ俺がロードリック家ということは知らない。でも、普通に考えて俺を殺さずとも、制約をつけて暮らさせるか、辺境地に飛ばせて情報漏洩させないようにすればよかったはず。
「もしかしてロードリック家と何かつながりがあるのですか?」
「......」
「まあそんなことは良いんです。それよりも考えうるのは、ロードリック家が魔族と繋がっていないかってことです」
「は?」
実家が魔族と繋がっている? そんなことあるはずがない。だって暮らしてきた期間、魔族らしき存在を目撃したことがなかったのだから。
「こう考えてみてください。ロードリック家が主犯となって、種族間で戦争が起こったら魔族の一強時代が始まります」
「......」
「そして、魔族の理念とは、どの種族より優位な位置に立つこと。それが理にかなっているかなと思いました」
「そ、そうですね」
でも、そんなことあり得るはずがない。ロードリック家が魔族と繋がっているなんて......。でも、もし魔族と繋がっていたら? そうならリックさんが言う通りなのかもしれない。
「ですので多分、今日中に精鋭部隊とロードリック領へ向かうと思いますが、気を付けてください」
「わかりました」
すると、すぐさまリックさんはこの部屋を後にした。
「ねぇ、リックさんが言ったことは本当なの?」
「いや、わからない。でも俺が暮らしていた時は魔族らしき存在を見なかったけど」
「そうですよね。リアムさんが私を見た時、初めて見るような目で私を見ていましたので」
「あぁ」
そう、俺が初めて魔族を見たのはリアだ。だからロードリック家が魔族と繋がっているとは思いづらいんだけどな。
「一応、見てみるか」
「え? 魔眼を使うの?」
「あぁ」
「それはダメだよ! リアムが」
シェルが言いたいことはわかる。でもこれに関しては確かめてみなくちゃいけない。
「いいんだ。これは俺の問題でもあるから」
「「......」」
二人は俺の事を不安そうに見つめていた。そして、俺は魔眼を使い、ザイト兄さんの未来を見る。
(え?)
なんで見れないんだ? だが、頭痛がやってくる。
「う......」
「「リアム(さん)!」」
「だ、大丈夫」
魔眼はきちんと使われていた。それなのにザイト兄さんの未来が見えなかったってことは......。
「それでどうだった?」
「それが分かんなかった」
すると、二人は首を傾げていた。
「わからないって......」
俺もシェルと一緒のことを考えていると思う。本当に俺の実家は......。ますますリックさんが言ったことに対して信憑性が増してきた。そう思いながら、アーデレス国の親衛隊とロードリック領へ向かった。
ロードリック領へ向かっている道中、何度もモンスターと接敵したが、先鋭部隊の人たちがことごとく倒してくれたため、俺たちは馬車に乗っているだけで実家へ戻っていた。
「私達、何もしていないね」
「あぁ、そうだな。でもロードリック領についたら、必ず何かしらあると思うから、準備はしておこう」
「うん」
「はい」
そう、故郷に戻ってから何が起こるかわからない。精鋭部隊がいるからって、気を緩めていいわけではない。
(それに......)
魔眼を使ってザイト兄さんの未来が見えなかったのも少し引っ掛かる。いつものことなら、頭の中に光景が見えるはずだ。それなのに見えなかったということは......。それに、魔眼は確実に使えていたはずだ。なんせ、頭痛が起こったんだから。
その後も特に何もなくロードリック領へ向かい、近く村に着いた時、一人の男の子が俺たちの元へやってきた。
「た、助けてください!」
「え?」
俺は茫然としてしまったが、精鋭部隊たちは迅速に行動してくれて、あたり一面に警戒網を張ってくれていた。
「お母さんが!」
「「案内して」」
俺とシェルがはもりながら、男の子に案内をさせてお母さんのところへ向かった。
(これは......)
何が起きているんだ? 体の一部が緑色になっていて、息もしているのかわからない状態であった。
「状況を説明できる?」
泣きながら、説明をし始めた。
「お母さんがロードリック領から戻ってきて、数日経ったらこうなっていて」
「......」
ロードリック領へ行ったらこうなっていたと言っていた。だとしたら、ロードリック領に問題があるのか? でも、ロードリック領に問題があるなら、時期は少し前になるが俺たちもこのような現象に陥っていてもおかしくない。
そして、俺がこのような現象に陥っていない以上、ロードリック領に問題があるのかと思った。
「リアム......」
「あぁ。わかっている。まずはこの人を助けることからだ」
俺は、すぐさまティターニアの力を女性に使う。すると、徐々にだが平常時の色合いに戻っていくのが分かった。
「それって、ティターニア様の?」
「あぁ。多分シェルも使えると思うよ」
「う、うん」
「多分、これは俺たちにしか助けられないと思う」
そう、普通ならこういう現象に陥っても教会などが治してくれる。だが、この女性が治っていない以上、教会では治せないってこと。そして、教会が治せないっていうことは、ロードリック領にもこのような現象に陥っている人がたくさんいるってことだろう。
運よくティターニアの力で治せたということは、俺かティターニアの力を授けられたシェルしか助けることはできない。
すると、男の子が泣きながらお礼を言ってきた。
「本当にありがとうございます。お礼は......」
「お礼なんていいよ。それよりもお母さんと一緒に居てあげな」
「うん」
そして俺たちはこの村を後にして、ロードリック領へ向かった。
(本当に何が起こっているんだ?)
ザイト兄さんの未来が見えないこと、そしてこのような現象が起こっていること。それを考えるとロードリック領で何かしらが起こっているとしか考えられなかった。
(リックさんが言ったことじゃなければいいけど)
そう、リックさんが言ったように魔族が絡んでいたら、確実に厄介なことになるのは目に見えている。
★
村をでて二日後、やっとロードリック領についた。そして中に入ると、案の定村でみた女性の現象がそこら中で起こっていた。
(クソ)
本当に何が起こっているんだ。そう思いながらあたり一面を歩いていると、後ろから話しかけられた。
「リアム!」
「ギルドマスター?」
「あぁ。それよりもなんでここにいるんだ?」
「あ、それは......」
実家に罰を与えてるために来たなんて言われたら、ギルドマスターだって反応に困ってしまうと思った。なんせ、家族を罰すると言っているのだから。
「まあいい。それよりも今この街で起きている現象をどうにかできないか?」
「え?」
「高ランク冒険者たちに話をもっていったが、状況が分からない状態なんだ。もしかしたらリアムなら何とかなるかと思ってだな」
「まあ俺もこの街を救いに来ましたので」
そう、実家に罰を与えるために来たとは言え、助けないというわけじゃない。元はと言えば俺の実家が納めていたところなんだから。それに、助けられるなら助けたいに決まっているじゃないか。
「でも、現状神父とかも治せない状況だ。それをどうするか......」
「それは任せてください。ですが、まずは実家に行かなければ」
「そうか。まあお互い何かしらの情報が出たら連絡し合おう」
「はい」
話が終わった瞬間、ギルドマスターはこの場から走り去っていった。
(じゃあ行くか)
俺は深呼吸をして、実家へ向かった。
★
家の目の前に着くと、そこには人一人としていない雰囲気が出ていた。
(あれ?)
普通なら、誰かしらがこの場に来るはずだ。それなのに今は兵士の一人もいないし、あまつさえ人の気配すらしな買った。
「ねぇ、どう言うこと?」
「わからない」
「普通、誰かしらいるよね?」
「あぁ」
やはりシェルも感じ取っているようであった。それにアメリアも首を傾げながら疑問そうな顔をしていた。
「まあ中に入ろうか」
「「うん(はい)」」
俺が先に入ると、シェルやリア、そしてアーデレスの精鋭部隊の人たちがそれに続くように中へ入って行った。
(懐かしいな)
あまり良い印象が無くてもこの家のことを懐かしいと思えてしまう。だがそれと同時に、実家を追放された記憶。そして、兄や父に罵倒されたこと。それらを思い出してしまった。
(もっと他の方法があったんじゃないか?)
そう思うと少し後悔をする。俺が父さんや兄さんともっと対話をしていれば。オッドアイであるこの眼が魔眼だともっと早く知っていれば。それ以外にも考えるだけで山ほど家族と話すやり方はあった。
(まあ、もうそれも遅いのか......)
そう、もうこんな悲惨な状況になってしまった。竜人族に迷惑をかけて、ロードリック領もこんな状態だ。かもしれないと思う時期はとっくに過ぎているんだ。
「皆さん、二階に応接室がありますので、まずそこへ向かいましょう」
全員が頷いたので、俺は応接室に案内をした。ここならもしかしたら、まだ誰かがいるかもしれない。そうじゃなくても、何かしらの手掛かりがあるかもしれない。
そして、応接室に入ると、案の定そこには誰もいなかった。
(......)
「皆さん、ここで何か手掛かりがあるかもしれませんので、探してみてください。俺は他の場所を探してきます」
「私もついて行くわ」
「私もです」
俺は頷き、シェルとリアを連れて他の場所を探しに行く。まずキッチンに行ったが、そこには何も無く、次に俺の部屋へ向かった。
「何もないけど、ここは何の部屋なの?」
「俺の部屋だったんだ」
「そ、そう」
すると、二人は少し悲しそうな表情をした。そりゃあ俺だって悲しいさ。俺がここにいたってことが無くなっているんだから。
そして、父の部屋に入ると、そこには一枚の紙が置いてあった。
【ザイト、これはお前の失敗だ。俺はこの場所を立つ】
(え?)
俺が棒立ちしていると、シェルが尋ねてくる。
「これって、リアムのお父さんが書いたんだよね?」
「あぁ」
「これって、もしかして」
「多分、兄も父に見限られたんだと思う」
この文面を見る限り父はザイト兄さんを見限ってこの家を出て行ったんだと思う。
(でも、なんであんなに家のことを考えていた人が)
そう、俺を追放した理由も、俺がオッドアイであり普通の人間とは違うからだった。そして、それが世間で公になったらロードリック家が地に落ちるという理由。
それほどまで考えていた人が、兄を見捨てて実家から出るなんて。
「まずは他にも何かないか探してみよう」
「「えぇ」」
そう言って、俺たちはこの部屋にあるものをしらみつぶしに探し始めた。そこから十分程度探したが、情報と言う情報が見つからなかった。
(クソ)
最終手段であった、予知を使って兄の未来をもう一度見ようとする。だが、案の定ザイト兄さんの未来を見ることが出来ず、頭痛が起こる。
(うぅ......)
本当に何が起こっているんだ? 父さんの文面を見る限り、ザイト兄さんがここにいるのは間違いない。あの人がこの領を見限るなんてしないはずだ。だが、屋敷にはいないし、未来を見ることもできない。
「どうなっているんだよ」
ボソッと声が出てしまった。すると手の甲にある魔方陣が光出した。
{リアム、言うか迷ったがこの家には魔素が流れている}
{魔素って普通流れているんじゃないの?}
{そう言う意味じゃない。俺たちと同種の匂いだ}
{え?}
同種の匂いってことは、精霊がいるってことなのか?
{多分、俺たちと一緒で古代文字に封印された存在がここにいたってことだ}
{でも、古代文字って今のところ俺しか解読できないよな?}
俺以外に古代文字の解読をできた人なんて聞いたことが無い。結果として、エルフや竜人族、人族は古代文字のありかは知っていたが解読までは至っていなかった。
{いや、そうとも言えない}
{それってどう言う意味?}
{簡単に言えば、運よく解読できてしまった可能性がある}
{......}
その路線は考えていなかった。誰しも古代文字を見たら解読できないと思ってしまうだろう。そしてその次に思いつくのは、解読するために何をするかだ。その時に解読できてしまったってことか。
{そして、ここからが一番重要な話だが、ここにいた奴らは俺たちとは違う存在だ}
{は?}
{人族の奴も言っていたが、俺たち精霊は魔族を止めるために封印されたが、ここにいた奴は、多分違う。魔素が俺たちとは違うからな}
{......}
サラマンダーがそう言うってことは、もしかしたらリックさんが言っていた制御できない魔族がここに存在していたってことか?
その時、リアが言った。
「ねぇリアム。ここって地下室とかある?」
「え? ないけど」
すると、父さんがいつも座っている椅子の下を指さして言う。
「でも、下から小さな風が流れているけど」
「ほ、本当だ」
リアに指されている場所に手を当ててみると、そこには少しだが風が流れていた。俺は、その場所を叩いてみると、普通のタイルの場所とは違う音がした。
(!?)
すぐさま、シルフの力を使って剣でタイルに向かって攻撃すると、タイルが壊れて階段が出てきた。
「こ、こんな場所に階段があるなんて」
この十五年間、こんな場所があるなんて知らなかった。
「いってみよ?」
「そうだな」
俺は、シェルを呼んで、地下に続く階段を下っていった。
地下室へ着くと、そこには見たことも無い本がたくさん置いてあった。
(何だこれは?)
すると、リアが一冊の本を手に取ってみると、驚いた表情でこちらに見せてきた。
「これ、魔族の文字ですよ」
「え?」
魔族の文字で書かれた本がなんでこんな場所であるんだ......。俺は解読スキルを使い、本を読んで一部読んでみる。
【この世界は魔族に支配されるべき場所だ。劣等種である他種族と魔族が同列であっていいわけがない】
「これって......」
「魔族が支配しようとしている聖書みたいなものですね」
「それがなんでこんな場所に......」
すると、リアは少し考えた表情を見せながら話し始めた。
「多分ですが、リックさんがおっしゃられていた通り、ロードリック家と魔族がつながっていて、橋渡しにされているのではないでしょうか?」
「なんでそんなことを」
ロードリック家が橋渡しをするメリットが分からない。そんなことをしたら、人族及び他種族からも敵対視されるのは目に見えているし、メリットよりデメリットのようにしか考えられなかった。
その後も、魔族の文字で書かれている本を少しずつ読んでいくが、どれもこれも他種族を支配するようなことを書かれているものしかなかった。
(父さんは魔族と繋がっていたのか......)
いや、父さんよりもっと前の先祖の時代から魔族と繋がっていたとも考えられる。もし、そうであったら、これは......。
「ねぇ。さっきから話を聞いていたけど、リアムの実家は魔族とつながっていたってことでいいんだよね?」
「あぁ」
「でも、リアムのお父さんやお兄さんはこの場にいないってことはもしかして魔族がこの街に攻め込んでくるってこと?」
「......」
シェルに言ったことに少し納得してしまった。もし、俺の家族がこの街から逃げきっていたら、もうこの街には用が無くなったってことだ。そして、用が無くなったということは、もしかしたらシェルの言う通り魔族が攻め込んでくる可能性がある。
「もし私の考えがあっていたら、やばくない?」
「あぁ。すぐに精鋭部隊に伝えなくちゃ」
俺たちはすぐさまこの部屋から出ようとした時、部屋の隅に置かれている石板を目撃してしまった。
「なんでこんな場所に古代文字が書かれているのがあるんだ......」
「......。わからないけど、これがあるってことはリアムの実家は古代文字と接点があったってことだよね?」
「た、多分」
そこで、サラマンダーが先程言っていたことを思い出す。封印されている魔族がここら辺にいたと。
{これだろうな}
{そうだよね}
{でも、封印は解かれている。だからリアム、気を付けろよ}
{......。わかった}
封印が解かれているってことは、ここら辺にいる可能性があるってこと。そして、サラマンダーが魔素を感じ取れたのだから、まだ封印が解かれて時間がさほど経っていないかもしれない。
「まずは、精鋭部隊の人たちと合流しよう」
「えぇ」
俺たちはこの場を後にして、応接室に向かっている途中、精鋭部隊の人たちがすぐさま屋敷から出ようとしていた。
「どうかなされましたか?」
「外が騒がしいからそこへ行ってみようと思ってだな」
「わ、分かりました」
騒ぎが起こっている方向へ向かうと、そこにはゴブリンやコボルト、リッチなど様々なモンスターが人間たちを襲っていた。すると精鋭部隊の人たちがすぐさま戦闘態勢に入って、一人の男性が言った。
「俺たちがこのモンスターを退治するから、君たちは助けられる人たちを助けてあげてほしい」
「わかりました」
ここで精鋭部隊の人たちと別れて、俺たちは緑色の現象に陥っている人たちに魔法をかけて、治して行く。
その時、後ろから名前を呼ばれた。
「リアム......。お前が、お前さえいなければ!」
(!?)
体中緑色になったザイト兄さんが俺たちの目の前に現れた。
「ザイト兄さん......」
「リアム、リアム!」
「どうしたんだよザイト兄さん!」
「......」
なぜか、話がかみ合わずこちらをずっと睨んできていた。そして、一瞬にして目の前から消え去った。
(え?)
そう思った瞬間には、腹部に激痛が走っていた。
「う......」
一旦、この場から距離を取って、シェルとリアの元へ後退した。
「リアム大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「あぁ」
(それにしてもどうなっているんだ?)
目の前にいたザイト兄さんが一瞬で俺のもとへきて、殴りかかってきた。今までのザイト兄さんならそんなことできるはずがなかった。あの人は、剣術や魔法にはたけていたが、ここまで俊敏に動けるはずがない。そして、目の前にいるザイト兄さんに目をやる。
(ザイト兄さん......)
はっきり言って、今のザイト兄さんは人間なのかすらわからない。なんせ、全身緑色の人間なんて存在しないし、腕などが少しだが変形してきていた。かろうじて、身内だから目元や口元などがザイト兄さんだとわかるぐらいであった。
「お前さえいなければ」
先ほどから、ずっと俺の事を睨みつけながら、ぶつぶつと何かを言っていた。
「ザイト兄さん話を聞いてくれ」
「ああああああああああああああ」
俺が問いかけた瞬間、ザイト兄さんは叫びだして、こちらへ走って来た。俺はすぐさま、シルフの力を借りて体を軽くする。そして、ザイト兄さんの剣を受け流した。
「死ね! 死ね!」
「兄さん......」
目の前にしているザイト兄さんは、俺が知っているザイト兄さんとは違うと確信した。先程までは体は変わっても、精神は今までだと思っていた。だが、目の前にしているザイト兄さんは俺を殺すことしか考えていない。あまつさえ、俺の声が届いていないようにすら感じた。
シェルたちはどんな対応をしていいかわからず立ち止まっていたため、俺が指示を出した。
「二人とも、ザイト兄さんを倒そう」
「「え?」」
「今の兄さんは兄さんじゃない。だったら」
「でも!」
シェルが言っていることはわかる。家族を殺す判断をして本当にいいのか。そう言いたいのだろう。だが、誰かに操られているようにしか感じられないザイト兄さんを見ていることが俺にはできなかった。だったら、早く楽にしてやりたい。俺がどんな十字架を背負ったとしても。それが家族の役目であると思うから。
「いいんだ。だから頼む」
「......。わかったわ」
「わかりました」
すると、シェルはすぐさま風魔法を使ってザイト兄さんに攻撃を仕掛けた。だが、ザイト兄さんはその攻撃を難なくかわして、シェルに攻撃を仕掛けた。
俺がシェルたちの方向に向かっている時、シェルに向かってリアが守護を使って守った。だけど、ザイト兄さんはそれすら破壊してシェルたちに斬りかかった。
{シルフ}
{わかってるよ}
いつも以上の力を借りて、一瞬にして二人の目の前にたどり着き、ザイト兄さんの剣と俺の剣がぶつかり合う。そして、三人で一旦距離を取って言った。
「二人とも、三人で連携しよう。そうじゃなくちゃザイト兄さんは倒せない」
「「わかった」」
そう、今のザイト兄さんはワイバーンより強い。もしかしたらエルフの国であった魔族に匹敵するかもしれない。それなのに俺たちがバラバラで戦ったところで勝てるわけがない。
「俺が前衛を張るから、二人はカバーを頼む」
俺が二人に言うと、頷いて戦闘態勢に入った。
{シルフ、サラマンダー、頼む}
{わかったよ}
{あぁ}
そして、俺が持っている剣に風と火を付与して、ザイト兄さんに斬りかかる。だが、ザイト兄さんはギリギリのところでかわして、俺の首元を狙って攻撃をしてきた。
その瞬間、シェルの風切がザイト兄さんの元へ向かい、俺にはリアの守護で守られた。
ザイト兄さんはシェルの攻撃すらかわして、一旦俺たちから距離をとった。
「ねぇ、これじゃ......」
「わかっている」
そう、このままじゃ確実に負ける。俺たちも魔力に限度はある。だが、今のザイト兄さんにそのような雰囲気はなかった。
(どこかで勝負を仕掛けなければ)
俺がどこかしらで、ザイト兄さんに攻撃を与えなければ勝てない。でも、先程の攻撃をかわされてしまった以上、俺の速度にはついてこれるということ。あの攻撃が一番威力があり、一番早かったのにそれをかわされた以上、何かしらの案を考えなければいけない。
(どうする......。どうする?)
ザイト兄さんと剣を合わせている時も考えているとが、案の定少しずつ俺は攻撃を受け始めていた。
その時、ふと思いつく。
「リア! 守護を頼む」
「わ、分かった」
そう言って、俺たちの周りを安全な状態にした時、作戦を説明する。
「でも、それって」
「あぁ。でもこのままじゃ負ける。だったらやるしかない」
「......。わかったわ」
「わかりました」
話が終わった瞬間、ザイト兄さんが守護を破り俺に攻撃を仕掛けてくる。それを受け流して、俺はザイト兄さんに渾身の攻撃を仕掛けた。
ザイト兄さんは俺の攻撃を避けて、殺しにかかってきた。その瞬間、シェルは俺もろとも風竜で飛ばした。
そして、俺たち二人が空中に浮かんでいる時、シルフの力でザイト兄さんを吹き飛ばした。俺が地上に落ちる時、リアの守護で守られてダメージが何一つなく、ザイト兄さんに目をやりながらそちらへ向かった。
「う......」
案の定、少しだがダメージを与えられていた。
「ここしかない!」
そう思い、ザイト兄さんに向かってシルフとサラマンダーの力を付与した剣で斬りかかった。だが、ザイト兄さんはなぜか目の色を変えて俺に話しかけてきた。
「リアム?」
その瞬間、俺は攻撃を止めてしまった。それをザイト兄さんは見逃さず、俺の腹部を刺してきた。
「あ、あぁぁぁ~」
「リアム!」
「リ、リアムさん!」
俺が悶絶しているところをザイト兄さんはとどめを刺すかのように首元目掛けて突き刺そうとしてくる。俺は、ギリギリのところで横に回転してその攻撃を避ける。
「はぁ......。はぁ......」
その時、ザイト兄さんが俺ではなく、リアに向かって話しかけてきた。
「魔族か......。お前もこっちに来ないか?」
「え?」
「そしたらこいつは生かしてやる」
(え?)
そう、ザイト兄さんは人族以外を劣等種として見ていた。それなのに仲間に勧誘するなんて、今までのザイト兄さんならありえるはずがなかった。
「お前は......。誰だ?」
「お前は黙っていろ」
ザイト兄さんは、俺の腕に剣を刺して黙らせる。
「うあぁぁぁぁぁ」
「やめてください!」
「早く決めろ。お前が俺たちのところへ来るならこいつは見逃してやる。なぁ、鬼人族」
「......」
すると、ザイト兄さんの周りに緑色の風が吹き、姿が一気に変わっていった。その時、俺たち全員は寒気を感じた。
(あってはいけない存在にあった)
そう思った。すると、ザイト兄さんが言った。
「借りの身だから動きずらいな」
「え?」
「まあ、自己紹介ぐらいしようか。俺はベルフェゴールだ」
「ベルフェゴール......」
聞いたことがある。疫病で万単位の人を殺したという逸話の魔族。そんな奴がなんでこんなところに......。
その時、俺は誰かに担がれてベルフェゴールから距離をとれた。
「大丈夫か?」
「ギ、ギルドマスター」
シェルはすぐさま、俺に治癒魔法を使って、腹部の傷がいえる。
「それよりもあれは何だ?」
「ベルフェゴールらしいです」
「なんでそんな奴が......」
するとベルフェゴールが言った。
「あなた方には興味がありません。鬼人族の子よ、私とこないか?」
「行きません」
「そうか。なら死ね」
そう言って、俺たちに向かって緑色の風を吹いてきた。俺はシルフの力でその風を上空に向かわせる。
「へぇ。お前、誰かと契約しているな」
「......」
「だったらまずはお前を殺す」
すると、ベルフェゴールは俺の目の前に来て、腹部を触った。その瞬間、今まで感じた事の無い激痛が走った。
「これでお前は後十分もしないで死ぬだろう」
「なにをした......」
「そこらへんに転がっているゴミと一緒の疫病をかけただけだよ。まあ、お前にかけたのは瞬時に発症する疫病だがな」
それを聞いた瞬間、ギルドマスターは俺の服を斬って腹部を見た。
「「「!!!」」」
俺も恐る恐る腹部を見ると、緑色のクモの糸みたいな疫病が徐々に体をむしばんでいくのが分かった。
「後三人ですね」
「......」
その時、声が聞こえた。
{リアム、ベルフェゴールには一つ弱点があります}
{ティターニアか}
{はい。手っ取り早く言いますが、ベルフェゴールには聖魔法が弱点です。そしてそれは私の魔法が有効でしょう}
{でも、俺は......}
そう、すでに俺はベルフェゴールに疫病を植え付けられて、ほぼ動ける状況になっていなかった。
{シルフとサラマンダーの力を借りなさい}
{......。わかった}
すると、サラマンダーとシルフが言う。
{俺が疫病を食い止める。だからシルフとティターニア様の力であいつを倒せ}
{わ、分かった}
すると、腹部が燃え上がるような感覚になり、少しだが疫病の進行が遅くなっているのが分かった。そして、俺はシェルに肩を借りて言う。
「シェル、力を貸してくれ」
「わ、分かったわ。でもどうすればいいの?」
「俺と一緒にティターニアの魔法を使ってほしい」
「う、うん」
だが案の定、この会話はベルフェゴールにも聞かれていたので、睨みつけられながら言われる。
「そんなことさせるとでも?」
そう言って、俺目掛けて攻撃を仕掛けてきた。だが、それをギルドマスターが受け止めてくれていた。
「時間は俺が稼ぐ! 早くやってくれ」
「わかりました」
俺たちは、ベルフェゴールめがけて魔法を放った。
「あぁ~~~」
放った魔法はベルフェゴールの腕に当たり、みるみる内にザイト兄さんの腕に戻っていくのがわかった。
「成功か?」
「もう許さない」
俺たちがベルフェゴールを見ていると、先程までの余裕は無くなり、ものすごい血相でこちらを見て来ていた。
そして、俺たちに向かって、先程使ってきた緑色の風を放ってきた。俺はみんなの前に立ち、シルフの力でそれを受け流そうとしたが、腹部の激痛でうまくかき消すことが出来ず、腕と足に当たってしまった。
すると、腹部同様、徐々にだが緑色に変色していった。俺はすぐさま、予知を使い、自分がどれぐらい良きれるのかを見る。
(後、三分ってところか)
後三分で、ベルフェゴールを殺せるのか。いや、殺すんだ。後少しの人生なんだ。だったらできることをやって死にたい。その時、ベルフェゴールが俺に向かって言った。
「お前さえ殺せれば私は!」
「死ぬなら道ずれだ」
そう言って、シェルと一緒にベルフェゴールめがけて先程の魔法を使う。だが、それを避けられてしまい、俺たちに攻撃を仕掛けてくる。
「く!」
ギルドマスターがその攻撃をもろに受けてしまい、剣を地面に落とす。その瞬間を見逃さず、俺とシェルを斬り殺そうとしてきた。
「リアム、シーちゃん!」
リアが叫んだ瞬間、あたり一面光輝いてベルフェゴールの攻撃が弾き飛ばされた。
(これは......?)
俺とシェルはベルフェゴールが怯んでいる一瞬を見逃さず、ベルフェゴールめがけて魔法を放った。
「あ、あぁぁぁぁぁ」
すると、ベルフェゴールの姿が消えて、ザイト兄さんの姿に戻った。
「リアム!」
「......。後一分ってところか」
「大丈夫。大丈夫だからそんなこと言わないで」
シェルは泣きながら俺に向かって治癒魔法を使った。だが、案の定治るはずもなく、首元まで緑色になっていった。
「シェル、最後の頼みだ。この魔法をこの街に使おう」
「......。うん」
俺はシルフの風魔法とティターニアの聖魔法、そしてティターニアの加護を受けたシェルの聖魔法を空に目掛けて放った。
すると、あたり一面、真っ暗であった空が青空に変わっていくのが分かった。
「これで、街の住民は治ったはずだよ」
「で、でもリアムが!」
「二人とも今までありがとう」
俺がそう言って目をつぶった。するとシェルとリアが泣きながら言っていた。
「死なないでよ......」
「私がベルフェゴールの誘いに乗っていれば」
(それは違うよ。リアは間違っていない)
俺の命のためにリアの人生を棒に振る必要なんて無い。それにリアはお父さんを助けるんだろ? そう思いながら、もう死ぬんだと思った瞬間、ティターニアが話しかけてきた。
{リアム、また話しましょうね}
{え?}
{この力を使ったら、もうエルフの国に私はいないでしょう。ですが、リアムが私を助けてくれることを願っています。だからあなたはここで死んでいい存在じゃない}
すると、俺の周りが光出して、体中に緑色になっていた現象が徐々に無くなっていくのが感じた。
(え?)
{ティターニア?}
{ティターニア!}
何度話しかけても、声が聞こえない。
「クソ!」
俺は地面を叩きつけた。ティターニアはエルフの国でしか話せないと言っていたが、多分それは本当ではない。それはうすうす感じていた。だが、今使った力で、本当にティターニアがいた気配が全て消え去ってしまった。
「リアム?」
「あぁ......。もう大丈夫だ」
すると、シェルとリアが俺に抱き着いてきた。
「心配させないでよ!」
「本当ですよ.....」
「ごめん......」
その後、二人は数分間俺の胸で泣いていた。そして泣き止んだところで、言われる。
「もう大丈夫ってことかな?」
「多分な。でも一旦周りを見回そう」
そう、死ぬと思った直前、街全体に魔法を放ったのだから、疫病にかかっている人は治っているはず。だけど、まだ見てみなくちゃ分からない。
「わかったわ」
「はい」
その時、ギルドマスターが驚いた表情で俺を見てきながら言った。
「ちょっとまて、リアム今何をした?」
「......。古代文字を解読して、授けられた力です」
すると、ギルドマスターは驚いた表情をしていた。
「そ、そうか。その話は後で聞かせてもらうからな」
「はい」
まあ、流石にこの光景を見られてしまった以上、隠し通すことなんてできないよな。それにギルドマスターがいなかったら俺たちは確実に死んでいた。その時ふと思った。この場にいる誰かが欠けていたらと......。そう思った瞬間、ゾッとした。
「まあ無事で何よりだ。じゃあリアムが言う通り、住民の安全を確認しに行こう」
「はい」
俺はザイト兄さんを持ち上げようとした時、目を覚ました。
「リ、リアムか?」
「ザイト兄さんなのか?」
突然話しかけられて驚いてしまい、つい質問してしまった。すると、ザイト兄さんは頭を地面にこすりつけて謝ってきた。
「本当に済まない」
「......」
何に対して謝っているのかわからなかったが、ここで「いいよ」なんて言えるはずがなかった。実家を追放したことに対してなのか、ベルフェゴールのことなのか、それとも刺客を出して来たことなのかわからないが、どれをとっても許せることじゃなかった。
実家を追放されたとき、シェルがいなければ確実に立ち直れなかっただろう。そして、ベルフェゴールの件も、実家を追放していなければこうはならなかったと思う。そして一番許せないことは、俺たちに刺客を仕向けたことだ。
俺だけが死ぬならまだいいが、シェルやリアまで危険な目にあった。そして一番の被害は、竜人族の方々だ。あの人たちは、関係ないにもかかわらず惨殺されていった。そんなことがあったのに許せるはずがなかった。
「今は街の人たちのことが優先しなくちゃだから」
「俺は、俺は何をすればいいんだ」
「......。それぐらい自分で考えなよ。まあ思いつかないなら、モンスターが街にいるらからそれの退治でもしていれば?」
「あぁ、分かった」
なぜか俯きになりながら、この場を去っていった。すると、シェルとリアがはなしかけてくる。
「リアムのお兄さん、ずいぶん変わったね」
「あぁそうだな」
「私はわからないのですが、そうなのですか?」
キョトンとした顔で、リアは俺たちに尋ねてきた。
「そうよ。前にあった時なんて、私に対して劣等種は黙っていろとか言ってきたのよ?」
「そ、それは......」
「だから少しは変わってくれてよかったわ」
「まあ、今はそんなことより街の住民が疫病にかかっていないか確かめに行こう」
俺が言ったのに対して、二人は頷きながら歩き始めた。
★
広場に着くと、先程までぐったりとしていた住民たちの顔色が良くなっているのが分かった。そして、体を見回すが緑色になっているところが無くなっていた。
(よかった)
まずは、住民たちは魔法がきいていたってことだもんな。なら、他の場所にいる人たちもここにいる人たちと変わらないのだろうと思った。
そのまま、あたりを歩いていると、路地裏の隅っこにゴブリンが数体現れて、住民に襲い掛かろうとしていた。
俺はすぐさま、数体のゴブリンを斬り倒した。そして、シェルは風切を使ってゴブリンを倒し、ここにいるモンスターを一掃した。すると、住民たちが騒ぎだした。
「「おぉ~~!!」」
「「ありがとうございます」」
「あ、はい」
今まで、この街の住民に頼られたことがなかったので、対応が分からず、少し照れてしまった。その後も、俺たちのもとに住民たちが来て、次々とお礼を言ってきた。すると、少し遠い場所から受付嬢がこちらへ走ってきた。
「リアムさん! ご無事でよかったです」
「はい」
「それで、急用ですが、現在街中にモンスターが現れています。一応は冒険者とアーデレスの人たちがモンスターを倒してくれていますが、街の中にもモンスターが潜んでいる可能性があるため、リアムさんや他の冒険者を見かけたらこのことを話しておいてくれませんか?」
「わかりました」
すると受付嬢は走ってこの場を去っていってしまった。
(受付嬢も大変なんだな)
ギルドの受付をしていればいいだけでなく、街の危機管理などもしなければいけないのか。そう思ったのと同時に、色々な人にこの街は支えられているんだなと感じた。
受付嬢がいたおかげで、モンスターの対応が早まっているに違いないし、住民が横たわっている時も、神父さんなどが歩き回って診療していた。そして、アーデレスの精鋭部隊の人たちがいなければ、この街はすでにモンスターに侵略されていたかもしれない。
(本当にいろいろな人に助けられている)
最初は、俺一人で何とかしようと思っていた。だが、結局俺一人ならベルフェゴールを退治することはできなかったし、街の住民を助けることだってできなかった。
「本当にありがとう」
「え? いきなりどうしたの?」
ボソッと言った言葉をシェルに聞かれていて、ものすごく恥ずかしくなった。
「いや、なんでもないよ。それよりも、治っていない人が居るかもしれないから」
「そうね」
そこから、数時間で町全体を歩いて、重症患者らしき人物がいないことを確認したところで、精鋭部隊の人たちと出会った。
「モンスターは追い払ったが、そっちはどうだ?」
「こちらも主犯は倒しました」
すると、精鋭部隊の人が真剣な顔をしていった。
「そうか。だが、俺たちが来たことはこんなことじゃないことはわかっているよな?」
「はい。本当にありがとうございます」
そう、この人たちがロードリック領に来たのは、今回の件のためではない。実家を罰則するためだ。
「あぁ。だから、今週中にでもきちんと話がしたいから、場をきちんと設けてくれ」
「わかりました」
そして、夜になり、シェルとリアを連れて実家へ戻った。
実家の中へ入ると、そこにはぐったりとしているザイト兄さんが座っていた。そして、俺たちを見るとすぐさま立ち上がり、頭を下げてきた。
「本当に申し訳なかった」
「......」
「今回、俺の不手際でこのような事態が起きてしまった。もしリアムたちが来てくれなかったらどうなっていたことか」
「そうよ! あなたがリアムを追放しなければ」
シェルが言ったことに対して、ザイト兄さんは頭を下げたままであった。
「シェル、やめろ」
「でも......」
「もう終わったことだから」
そう、実家を追放されたことなんてもう過ぎたことだ。そりゃあ、実家を追放されていなければこのような事態にはならなかったのかもしれない。でも、俺にも落ち度はあったはずだ。だからザイト兄さんを責める資格はない。
「本当にすまない」
「ザイト兄さん」
俺が呼びかけると、頭を上げて俺の顔を見てきた。
「どうした?」
「今から真剣な話をしたいから、地下室へ行こう」
「あぁ」
俺たちは、父さんの部屋に入ってから、地下室の中に入って、石板をザイト兄さんに見せる。
「今回の発端はこれだよね?」
「なんでそれを......」
「これ、古代文字なんだ。そして、ここにはこう記されている」
【禁断の魔族~~~。】
俺が書かれている内容をすべて説明すると、ザイト兄さんは顔を青くしていた。
「......」
「ザイト兄さんは解いてはいけないのを解いてしまった。そう言うことなんだ」
「そ、そうなのか」
「そして、ザイト兄さんが操られてから、住民たちは疫病にかかって街が滅亡仕掛けた。そして多分、ベルフェゴールのせいで街にはモンスターがやってきた」
そう、今回一番やってはいけなかったことは、ベルフェゴールを解き放ってはいけなかったこと。もし、これを解き放たなかったら、疫病になることは無かったし、モンスターたちが押し寄せてくることもなかったはずだ。
「ごめん」
「ザイト兄さんはこの場所をしっていたの?」
「あぁ。リアムを追放した後、父さんに連れられてここに来た」
「父さんはなんて?」
今一番聞きたいのはこれだ。多分、今回の主犯は父さんだ。結局ザイト兄さんも利用されただけの身。だから責める気にはなれなかった。
「それが、あまり教えてくれなかったんだ。時期俺にも教えてくれるとは言っていたが」
「は?」
それを信じろと? そんな話あるわけないだろ!
「信じてくれ!」
「だったら、俺たちに刺客を送ってきた理由は?」
「それは......。本当にごめん」
「謝ってほしいわけじゃないんだ。理由を教えてほしい」
そう、今謝られたところで無意味だ。それよりも、なんで竜人国にまで攻め入ってきたのか。そしてシェルやリアにも襲ったのか。それが聞きたいんだ。
「最初はお前が古代文字を発見したことが憎たらしかった。なんで俺じゃなくてお前が功績を出すんだって。そこからお前に対しての嫉妬心で刺客を出した」
「それで竜人国にも?」
すると、首を横に振って否定をしてきた。
「それは違う! 俺も知らなかったんだ。竜人族たちにも刺客を出していたなんて。俺だって国際問題にはしたくなかった」
「......。そっか」
今のザイト兄さんが嘘をついているとも思えなかったので、頷いた。
「信じてくれるのか?」
「すべてを信じるわけじゃない。でも今のザイト兄さんが嘘をついているとも思えなかったから。それにあの紙を見たからな」
そう、父さんが書いた紙を見なかったら、ここまで信用することは無かっただろう。
「あ、ありがとう」
「じゃあ、上に戻って今後の話をしよう」
俺はそう言って、来賓室へ向かった。そこで、俺たちと向かい合わせてザイト兄さんが座り、話し始めた。
「今までの件、すべてを竜人族の長と、人族の国王に説明した」
「......」
「だから本当はアーデレスの精鋭部隊も今回の件のために来たわけでは無くて、ロードリック家を罰則するために来たんだ」
「そ、そうか」
俺の話を聞くと、徐々にザイト兄さんの顔が青くなっていくのが分かった。でも、すぐに何か決心したかのような顔になった。
「だから、次期にザイト兄さんは罰せられると思う」
「わかった。いや、本当にありがとう」
「え? ありがとうって」
ここでお礼を言われると思っていなくて、驚いてしまった。
「リアムが居なかったら、俺はまた逃げ出していたかもしれない。俺はもう逃げたくない。罪は罪として償いたい。だからありがとう」
「あ、あぁ。俺たちは寝るけど、ザイト兄さんも明日からできることを一緒にやろう」
「あぁ。本当にありがとう」
話が終わり、俺たちが来賓室を出ようとした時、ザイト兄さんは涙を流しながら椅子に座っていた。
♢
目を覚ますと体中が悲鳴を上げていた。そして目の前には、弟であるリアムが立っていた。その顔を見て、俺はつい話しかけてしまった。
「リアムか」
すると、驚いた表情で俺を見てきた。そして、リアムに軽く、俺が何をしてしまったかの状況を説明してもらった。それを聞いた時、俺は絶望した。
(俺は何をしてしまったんだ......)
今まで、民のため、街のために魔法や剣術を勉強してきた。それはすべて街がよりよくなるためにやってきたことだ。なのに今、周りを見てみるとあたり一面が瓦礫とかしていた。
(俺はこんなことしたかったわけじゃないのに)
でも、今そんなことを言ってもしょうがない。もう俺は、街に絶大の被害を出してしまったのだから。
「クソ」
そして、リアムに言われた通り、街に入り込んでいるモンスターを探して倒し始めた。戦っている最中、モンスターの攻撃を何度も受けた。
(これも俺のせいなんだよな......)
そう思うと、モンスターに攻撃を受けてもしょうがないとしか考えられなかった。そして、モンスターを倒していると、少しだが街に貢献できているとすら感じられた。
その時、コボルトが親子に襲い掛かっているのを目撃して、俺はすぐさまモンスターを倒した。すると親子が泣きながら言った。
「ザイト様。ありがとうございます」
「......。早く安全なところへ」
「はい。本当にありがとうございます」
そう言って親子はこの場を去っていった。
(......)
いつもなら、民にお礼を言われたら嬉しいが、今回は全くそうは思えなかった。何なら、申し訳ない気持ちでいっぱいであった。だって、俺が今回の主犯なのだから。
その後も、モンスターをことごとく倒したところで、なぜかアーデレスの精鋭部隊がこの街にいて驚いた。そして、その人たちが俺を見ると、一瞬驚いた表情になった後、睨みつけてきながら俺の目の前から去っていった。
(なんで睨まれるんだ?)
少しそう思った。でも、今は誰でもいいから罵倒されたい。罵倒されれば、少しは気が楽になるから。俺が悪いのに、お礼を言われるなんておかしなことだ。
そして、モンスターの気配がなくなったと感じた時、すでに日が暮れ始めていたので屋敷に戻った。
★
屋敷に入ると、一気に体がだるくなってしまい、ソファーに横たわってしまった。すると一気に眠気が襲ってきて目をつぶってしまった。
玄関から音がして、目を覚ますとそこにはリアムとエルフの女の子、そして魔族が目の前にいた。
(なんで魔族が?)
ふとそう思ったが、今はそんなこと関係ない。俺はすぐさまリアムたちの元へ行き頭を下げて謝る。だが、リアムは俺に対して冷たい目を向けながら地下室へ行こうと言ってきた。
(地下室の存在を知っていたのか.....)
いや、知っていてもおかしくないか。俺を倒して街を救ったってことは、この屋敷で情報を集めたに違いない。
そしてリアムは俺に石板を見せてきて、これは古代文字だと言ってきた。
(やっぱりか)
だが、次に言われた言葉で、俺が何をしてしまったのかを知った。禁断の魔族を解いた。それがどれだけやばいことか言葉を聞いただけでわかる。そして、それはベルフェゴールだということ。
誰だってベルフェゴールと聞けばわかる。それほど危険な魔族だ。
(俺はそんな奴を......)
そこから、リアムは俺が今後どうなるのかを説明されて、部屋に戻っていった。
(本当にありがとう。お前が居なければ俺は......)
そして、もし叶うなら俺はリアムと......。そう淡い期待を持ちながら自室へ戻っていった。
♢
寝ようとした時、シェルとリアが部屋に入ってきた。
「リアム、大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。大丈夫だよ」
でも、二人はなぜか心配そうに俺を見ていた。
「本当に大丈夫だって」
「でも、お兄さんと話している時、少し悲しそうだったよ?」
「そうですよ......」
「え?」
(俺が悲しそうな表情をしていた?)
二人が言った言葉を疑った。なんで悲しい表情なんだ? 怒っている表情とかならまだわかるけど。
「リアム、嘘はついちゃダメだよ?」
「え?」
「自分に嘘をついても、絶対にキャパオーバーしてしまう。だからきちんと本心を言って」
「本心と言っても......」
そう、ザイト兄さんたちに罰を与えたいというのが俺の本心だ。そうに決まっている。すると、二人は暖かい目で言った。
「本当はお兄さんを罰したくないんでしょ?」
「い、いや、そんなこと」
「なら、なんでお兄さんが目を覚ました時、楽な道を選ばせたの?」
「......」
言われてみればそうだ。あの時、俺はモンスターを倒した方がいいっと言った。それは、今思えばザイト兄さんの精神を安定させるためであったかもしれない。あの時、俺たちとついてこさせて、住民たちがどのような状況に陥っているかを見せるという選択肢もあった。
でもそれをしなかった。それは、俺がザイト兄さんを救いたいからなのかもしれない。
「俺は、ザイト兄さんを救いたいのかもしれない」
「うん。だったらできる限りのことはしてあげようよ」
「あぁ」
シェルやリアが言う通り、俺はザイト兄さんを救いたいのかもしれない。結果として、街を危険にさらしてしまったが、ザイト兄さんも父さんから追放された、俺と一緒の被害者だ。それにザイト兄さんは昔から民や街を第一に考えていた。そんな人が罰せられてこの場所から消え去るのはダメだ。
「じゃあ、明日から一緒に考えよ。まだ時間はあるし」
「そうですね」
「うん。二人ともありがとう」
すると、二人は笑顔になりながら俺に抱き着いてきた。
「いいんだよ。お互い困ったら助け合うのが仲間でしょ?」
「そうですよ!」
そして、二人と少し話して俺が寝ようとした時、なぜか部屋から出て行かなかった。
「え? 二人もここで寝るの?」
「ダメ? まだモンスターがいるかもしれないし」
「そ、そうですよ! それにまだリアムさんが疫病から治ったとは限りませんし」
「.......。じゃあ俺が床で寝るから二人はベットで寝て」
俺がそう言うと、二人はなぜか俺の腕をつかんでベットに連れ込んだ。
「一緒に寝るの」
「そうですよ。今日ぐらい、一緒に寝ましょう」
「......。はい」
「あ、エッチなことはまだダメだよ?」
シェルがそう言うと、リアが大いに頷いていた。
「わかっているよ」
そして、俺たちは就寝した。
★
(全然寝れなかった)
翌朝、二人の寝顔を見ながら、ベットから出て、ザイト兄さんの元へ向かった。
「リアムか......」
「兄さん。話があるんだ」
「あぁ。なんだ?」
「俺は、兄さんがこの街を大切に考えているのを知っている。だから兄さんにはこれからもこの街を守ってほしい」
すると、ザイト兄さんは驚いた顔でこちらを見てきた。
「え?」
「最初は、そう思わなかったよ。俺たちを殺そうとして、あまつさえ街を滅ぼそうとしたんだから」
「......」
「でも、それは俺の私情であり、兄さんの気持ちを考えていなかった。結局、兄さんも被害者なんだから」
そう、俺と兄さんは一緒の被害者。なら同士なんだから助けてあげたいに決まっている。
「でも......」
「すべてを許したわけじゃない。でも、兄さんには今回の件を償ってもらわなくちゃいけない。それがこの街でもう一回復旧する手伝いをすることだよ」
すると、ザイト兄さんは嗚咽を吐きながら頭を下げてきた。
「本当にありがとぅ」
「だからこれからアーデレスの精鋭部隊の人たちと話すと思うけど、俺たちの意志も伝えながら一緒に話そう」
「あぁ。本当にありがとう」
俺が、兄さんの部屋から出ると、なぜかシェルとリアが居て、嬉しそうな表情をしていた。
「じゃあ、今日から頑張ろうね!」
「あぁ。二人ともこれからも宜しくな」
「「うん!!」」
こうして、俺たちは街の復旧を手伝った。そして、ついにアーデレスの精鋭部隊の人たちと話す日が来た。
来賓室で精鋭部隊の人たちと対面していると、精鋭部隊の人たちが魔道具を出して、国王と通信がつながった。俺は、国王にどう思っているのか、そして俺の素性を伝えると、複雑そうな表情をしていた。
「リアムよ、それは本当に言っているのか?」
「はい」
「はぁ~。でもな。流石に罰を与えないわけにはいかない」
流石に、国王が言う通り、ここまでして罰を与えないわけにはいかない。でも、俺にも引けない部分はあったので、それを主張した。
「わかっています。ですが、ロードリック領を統一できるのはザイト兄さんしかいません」
「それはリアムじゃダメなのか?」
「俺は、やるべきことがあるりますので。それは国王様もわかっていますよね」
「あぁ。でも竜人族の件はどうするんだ?」
竜人族の件は流石にしないわけにはいかないので、俺は深呼吸を一回して、発言をした。
「竜人族の件は俺が、お話をします。なので、ザイト兄さんには軽い刑でお願いします」
「......。わかったよ。リアムには力を貸すと言ってしまったからな。だがな、この処置をするってことはリアムにはそれなりの成果を出してもらわなくちゃダメだから」
「はい、わかっています」
国王が言う通り、俺のわがままで刑を軽くしてもらっている以上、国王様が必要とする情報、そして魔族を食い止めるのに全力を注がなくちゃいけない。
「ザイトよ」
「はい」
「リアムの進言もあったから、お主はロードリック領を復旧させるのだ。だが、わしが街の復旧ができていないと思ったらすぐに違う人を派遣するからな」
「ありがとうございます」
そう言いながら、ザイト兄さんの目元には涙が少しで来ていた。
「リアム、私からも竜人族の長に手紙を送るが、この件は頼むぞ」
「はい」
この後、ザイト兄さんの刑が決まり、軽い方針で決まった。
(よかった......)
そこから数週間が経った。最初はザイト兄さんの批判的な声も上がっていたが、ザイト兄さんの行動、そして事情を知ってから民は徐々にザイト兄さんを見る目が変わった。
そこから数日が経った日、モールト王子がロードリック領にやってきた。
「リアム、この件は本当か?」
「はい。魔族に操られて、竜人族に攻撃を仕掛けてしまいました。そちらの状況も分かりますが、どうかお願いします」
都合のいいことを言っているのはわかっている。だが、国王と約束した以上、この部分は譲れなかった。
「はぁ。まあリアムがそう言うならお父様にはそう伝えるけど、一つだけ約束してくれる?」
「はい、何でしょう?」
「リアムのお父さんが現れた時、絶対に殺してよね」
「......。分かりました」
こうして、モールト王子経由から、今回の一件は軽い方向で収まった。そして、街も徐々に復旧していき、二カ月程経った時には、ほぼ元の状況に戻っていた。
「じゃあ兄さん、俺たちは立つけど、よろしくね」
「あぁ。本当にありがとうな。後、実家に戻ってこないか?」
「え?」
「追放した身だから申し訳ないが、もう一度ロードリックの名を名乗ってほしい」
その提案をされて俺たちは驚いた。だが、もう答えは決まっている。
「ごめん。もう俺はロードリックの人間じゃないから。それはあの時から決めていることだから」
「そうか」
「だけど、困った時は言ってよ。助けられる範囲で助けるから」
「あぁ。ありがとう」
こうして、俺たちはロードリック領を後にした。そして、また新たな古代文字があるといわれている場所へ向かった。
※
この時、魔族と父さんが飛んでもない事を計画しているのをまだ知らなかった。これが世界が崩壊する可能性があるのも。