「ギルドマスター?」
「あぁ。それよりもなんでここにいるんだ?」
「あ、それは......」

 実家に罰を与えてるために来たなんて言われたら、ギルドマスターだって反応に困ってしまうと思った。なんせ、家族を罰すると言っているのだから。

「まあいい。それよりも今この街で起きている現象をどうにかできないか?」
「え?」
「高ランク冒険者たちに話をもっていったが、状況が分からない状態なんだ。もしかしたらリアムなら何とかなるかと思ってだな」
「まあ俺もこの街を救いに来ましたので」

 そう、実家に罰を与えるために来たとは言え、助けないというわけじゃない。元はと言えば俺の実家が納めていたところなんだから。それに、助けられるなら助けたいに決まっているじゃないか。

「でも、現状神父とかも治せない状況だ。それをどうするか......」
「それは任せてください。ですが、まずは実家に行かなければ」
「そうか。まあお互い何かしらの情報が出たら連絡し合おう」
「はい」

 話が終わった瞬間、ギルドマスターはこの場から走り去っていった。

(じゃあ行くか)

 俺は深呼吸をして、実家へ向かった。



 家の目の前に着くと、そこには人一人としていない雰囲気が出ていた。

(あれ?)

 普通なら、誰かしらがこの場に来るはずだ。それなのに今は兵士の一人もいないし、あまつさえ人の気配すらしな買った。

「ねぇ、どう言うこと?」
「わからない」
「普通、誰かしらいるよね?」
「あぁ」

 やはりシェルも感じ取っているようであった。それにアメリアも首を傾げながら疑問そうな顔をしていた。

「まあ中に入ろうか」
「「うん(はい)」」

 俺が先に入ると、シェルやリア、そしてアーデレスの精鋭部隊の人たちがそれに続くように中へ入って行った。

(懐かしいな)

 あまり良い印象が無くてもこの家のことを懐かしいと思えてしまう。だがそれと同時に、実家を追放された記憶。そして、兄や父に罵倒されたこと。それらを思い出してしまった。

(もっと他の方法があったんじゃないか?)

 そう思うと少し後悔をする。俺が父さんや兄さんともっと対話をしていれば。オッドアイであるこの眼が魔眼だともっと早く知っていれば。それ以外にも考えるだけで山ほど家族と話すやり方はあった。

(まあ、もうそれも遅いのか......)

 そう、もうこんな悲惨な状況になってしまった。竜人族(ドラゴニュート)に迷惑をかけて、ロードリック領もこんな状態だ。かもしれないと思う時期はとっくに過ぎているんだ。

「皆さん、二階に応接室がありますので、まずそこへ向かいましょう」

 全員が頷いたので、俺は応接室に案内をした。ここならもしかしたら、まだ誰かがいるかもしれない。そうじゃなくても、何かしらの手掛かりがあるかもしれない。

 そして、応接室に入ると、案の定そこには誰もいなかった。

(......)

「皆さん、ここで何か手掛かりがあるかもしれませんので、探してみてください。俺は他の場所を探してきます」
「私もついて行くわ」
「私もです」

 俺は頷き、シェルとリアを連れて他の場所を探しに行く。まずキッチンに行ったが、そこには何も無く、次に俺の部屋へ向かった。

「何もないけど、ここは何の部屋なの?」
「俺の部屋だったんだ」
「そ、そう」

 すると、二人は少し悲しそうな表情をした。そりゃあ俺だって悲しいさ。俺がここにいたってことが無くなっているんだから。

 そして、父の部屋に入ると、そこには一枚の紙が置いてあった。

【ザイト、これはお前の失敗だ。俺はこの場所を立つ】

(え?)

 俺が棒立ちしていると、シェルが尋ねてくる。

「これって、リアムのお父さんが書いたんだよね?」
「あぁ」
「これって、もしかして」
「多分、兄も父に見限られたんだと思う」

 この文面を見る限り父はザイト兄さんを見限ってこの家を出て行ったんだと思う。

(でも、なんであんなに家のことを考えていた人が)

 そう、俺を追放した理由も、俺がオッドアイであり普通の人間とは違うからだった。そして、それが世間で公になったらロードリック家が地に落ちるという理由。

 それほどまで考えていた人が、兄を見捨てて実家から出るなんて。

「まずは他にも何かないか探してみよう」
「「えぇ」」

 そう言って、俺たちはこの部屋にあるものをしらみつぶしに探し始めた。そこから十分程度探したが、情報と言う情報が見つからなかった。

(クソ)

 最終手段であった、予知を使って兄の未来をもう一度見ようとする。だが、案の定ザイト兄さんの未来を見ることが出来ず、頭痛が起こる。

(うぅ......)

 本当に何が起こっているんだ? 父さんの文面を見る限り、ザイト兄さんがここにいるのは間違いない。あの人がこの領を見限るなんてしないはずだ。だが、屋敷にはいないし、未来を見ることもできない。

「どうなっているんだよ」

 ボソッと声が出てしまった。すると手の甲にある魔方陣が光出した。

{リアム、言うか迷ったがこの家には魔素が流れている}
{魔素って普通流れているんじゃないの?}
{そう言う意味じゃない。俺たちと同種の匂いだ}
{え?}

 同種の匂いってことは、精霊がいるってことなのか? 

{多分、俺たちと一緒で古代文字に封印された存在がここにいたってことだ}
{でも、古代文字って今のところ俺しか解読できないよな?}

 俺以外に古代文字の解読をできた人なんて聞いたことが無い。結果として、エルフや竜人族(ドラゴニュート)、人族は古代文字のありかは知っていたが解読までは至っていなかった。

{いや、そうとも言えない}
{それってどう言う意味?}
{簡単に言えば、運よく解読できてしまった可能性がある}
{......}

 その路線は考えていなかった。誰しも古代文字を見たら解読できないと思ってしまうだろう。そしてその次に思いつくのは、解読するために何をするかだ。その時に解読できてしまったってことか。

{そして、ここからが一番重要な話だが、ここにいた奴らは俺たちとは違う存在だ}
{は?}
{人族の奴も言っていたが、俺たち精霊は魔族を止めるために封印されたが、ここにいた奴は、多分違う。魔素が俺たちとは違うからな}
{......}

 サラマンダーがそう言うってことは、もしかしたらリックさんが言っていた制御できない魔族がここに存在していたってことか?

 その時、リアが言った。

「ねぇリアム。ここって地下室とかある?」
「え? ないけど」

 すると、父さんがいつも座っている椅子の下を指さして言う。

「でも、下から小さな風が流れているけど」
「ほ、本当だ」

 リアに指されている場所に手を当ててみると、そこには少しだが風が流れていた。俺は、その場所を叩いてみると、普通のタイルの場所とは違う音がした。

(!?)

 すぐさま、シルフの力を使って剣でタイルに向かって攻撃すると、タイルが壊れて階段が出てきた。

「こ、こんな場所に階段があるなんて」

 この十五年間、こんな場所があるなんて知らなかった。

「いってみよ?」
「そうだな」

 俺は、シェルを呼んで、地下に続く階段を下っていった。


 地下室へ着くと、そこには見たことも無い本がたくさん置いてあった。

(何だこれは?)

 すると、リアが一冊の本を手に取ってみると、驚いた表情でこちらに見せてきた。

「これ、魔族の文字ですよ」
「え?」

 魔族の文字で書かれた本がなんでこんな場所であるんだ......。俺は解読スキルを使い、本を読んで一部読んでみる。

【この世界は魔族に支配されるべき場所だ。劣等種である他種族と魔族が同列であっていいわけがない】

「これって......」
「魔族が支配しようとしている聖書みたいなものですね」
「それがなんでこんな場所に......」

 すると、リアは少し考えた表情を見せながら話し始めた。

「多分ですが、リックさんがおっしゃられていた通り、ロードリック家と魔族がつながっていて、橋渡しにされているのではないでしょうか?」
「なんでそんなことを」

 ロードリック家が橋渡しをするメリットが分からない。そんなことをしたら、人族及び他種族からも敵対視されるのは目に見えているし、メリットよりデメリットのようにしか考えられなかった。

 その後も、魔族の文字で書かれている本を少しずつ読んでいくが、どれもこれも他種族を支配するようなことを書かれているものしかなかった。

(父さんは魔族と繋がっていたのか......)

 いや、父さんよりもっと前の先祖の時代から魔族と繋がっていたとも考えられる。もし、そうであったら、これは......。

「ねぇ。さっきから話を聞いていたけど、リアムの実家は魔族とつながっていたってことでいいんだよね?」
「あぁ」
「でも、リアムのお父さんやお兄さんはこの場にいないってことはもしかして魔族がこの街に攻め込んでくるってこと?」
「......」

 シェルに言ったことに少し納得してしまった。もし、俺の家族がこの街から逃げきっていたら、もうこの街には用が無くなったってことだ。そして、用が無くなったということは、もしかしたらシェルの言う通り魔族が攻め込んでくる可能性がある。

「もし私の考えがあっていたら、やばくない?」
「あぁ。すぐに精鋭部隊に伝えなくちゃ」

 俺たちはすぐさまこの部屋から出ようとした時、部屋の隅に置かれている石板を目撃してしまった。

「なんでこんな場所に古代文字が書かれているのがあるんだ......」
「......。わからないけど、これがあるってことはリアムの実家は古代文字と接点があったってことだよね?」
「た、多分」

 そこで、サラマンダーが先程言っていたことを思い出す。封印されている魔族がここら辺にいたと。

{これだろうな}
{そうだよね}
{でも、封印は解かれている。だからリアム、気を付けろよ}
{......。わかった}

 封印が解かれているってことは、ここら辺にいる可能性があるってこと。そして、サラマンダーが魔素を感じ取れたのだから、まだ封印が解かれて時間がさほど経っていないかもしれない。

「まずは、精鋭部隊の人たちと合流しよう」
「えぇ」

 俺たちはこの場を後にして、応接室に向かっている途中、精鋭部隊の人たちがすぐさま屋敷から出ようとしていた。

「どうかなされましたか?」
「外が騒がしいからそこへ行ってみようと思ってだな」
「わ、分かりました」

 騒ぎが起こっている方向へ向かうと、そこにはゴブリンやコボルト、リッチなど様々なモンスターが人間たちを襲っていた。すると精鋭部隊の人たちがすぐさま戦闘態勢に入って、一人の男性が言った。

「俺たちがこのモンスターを退治するから、君たちは助けられる人たちを助けてあげてほしい」
「わかりました」

 ここで精鋭部隊の人たちと別れて、俺たちは緑色の現象に陥っている人たちに魔法をかけて、治して行く。

 その時、後ろから名前を呼ばれた。

「リアム......。お前が、お前さえいなければ!」

(!?)

 体中緑色になったザイト兄さんが俺たちの目の前に現れた。


「ザイト兄さん......」
「リアム、リアム!」
「どうしたんだよザイト兄さん!」
「......」

 なぜか、話がかみ合わずこちらをずっと睨んできていた。そして、一瞬にして目の前から消え去った。

(え?)

 そう思った瞬間には、腹部に激痛が走っていた。

「う......」

 一旦、この場から距離を取って、シェルとリアの元へ後退した。

「リアム大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「あぁ」

(それにしてもどうなっているんだ?)

 目の前にいたザイト兄さんが一瞬で俺のもとへきて、殴りかかってきた。今までのザイト兄さんならそんなことできるはずがなかった。あの人は、剣術や魔法にはたけていたが、ここまで俊敏に動けるはずがない。そして、目の前にいるザイト兄さんに目をやる。

(ザイト兄さん......)

 はっきり言って、今のザイト兄さんは人間なのかすらわからない。なんせ、全身緑色の人間なんて存在しないし、腕などが少しだが変形してきていた。かろうじて、身内だから目元や口元などがザイト兄さんだとわかるぐらいであった。

「お前さえいなければ」

 先ほどから、ずっと俺の事を睨みつけながら、ぶつぶつと何かを言っていた。

「ザイト兄さん話を聞いてくれ」
「ああああああああああああああ」

 俺が問いかけた瞬間、ザイト兄さんは叫びだして、こちらへ走って来た。俺はすぐさま、シルフの力を借りて体を軽くする。そして、ザイト兄さんの剣を受け流した。

「死ね! 死ね!」
「兄さん......」

 目の前にしているザイト兄さんは、俺が知っているザイト兄さんとは違うと確信した。先程までは体は変わっても、精神は今までだと思っていた。だが、目の前にしているザイト兄さんは俺を殺すことしか考えていない。あまつさえ、俺の声が届いていないようにすら感じた。

 シェルたちはどんな対応をしていいかわからず立ち止まっていたため、俺が指示を出した。

「二人とも、ザイト兄さんを倒そう」
「「え?」」
「今の兄さんは兄さんじゃない。だったら」
「でも!」

 シェルが言っていることはわかる。家族を殺す判断をして本当にいいのか。そう言いたいのだろう。だが、誰かに操られているようにしか感じられないザイト兄さんを見ていることが俺にはできなかった。だったら、早く楽にしてやりたい。俺がどんな十字架を背負ったとしても。それが家族の役目であると思うから。

「いいんだ。だから頼む」
「......。わかったわ」
「わかりました」

 すると、シェルはすぐさま風魔法を使ってザイト兄さんに攻撃を仕掛けた。だが、ザイト兄さんはその攻撃を難なくかわして、シェルに攻撃を仕掛けた。

 俺がシェルたちの方向に向かっている時、シェルに向かってリアが守護(プロテクト)を使って守った。だけど、ザイト兄さんはそれすら破壊してシェルたちに斬りかかった。

{シルフ}
{わかってるよ}

 いつも以上の力を借りて、一瞬にして二人の目の前にたどり着き、ザイト兄さんの剣と俺の剣がぶつかり合う。そして、三人で一旦距離を取って言った。

「二人とも、三人で連携しよう。そうじゃなくちゃザイト兄さんは倒せない」
「「わかった」」

 そう、今のザイト兄さんはワイバーンより強い。もしかしたらエルフの国であった魔族に匹敵するかもしれない。それなのに俺たちがバラバラで戦ったところで勝てるわけがない。

「俺が前衛を張るから、二人はカバーを頼む」

 俺が二人に言うと、頷いて戦闘態勢に入った。

{シルフ、サラマンダー、頼む}
{わかったよ}
{あぁ}

 そして、俺が持っている剣に風と火を付与して、ザイト兄さんに斬りかかる。だが、ザイト兄さんはギリギリのところでかわして、俺の首元を狙って攻撃をしてきた。
 
 その瞬間、シェルの風切(エア・カッター)がザイト兄さんの元へ向かい、俺にはリアの守護(プロテクト)で守られた。

 ザイト兄さんはシェルの攻撃すらかわして、一旦俺たちから距離をとった。

「ねぇ、これじゃ......」
「わかっている」

 そう、このままじゃ確実に負ける。俺たちも魔力に限度はある。だが、今のザイト兄さんにそのような雰囲気はなかった。

(どこかで勝負を仕掛けなければ)

 俺がどこかしらで、ザイト兄さんに攻撃を与えなければ勝てない。でも、先程の攻撃をかわされてしまった以上、俺の速度にはついてこれるということ。あの攻撃が一番威力があり、一番早かったのにそれをかわされた以上、何かしらの案を考えなければいけない。

(どうする......。どうする?)

 ザイト兄さんと剣を合わせている時も考えているとが、案の定少しずつ俺は攻撃を受け始めていた。

 その時、ふと思いつく。

「リア! 守護(プロテクト)を頼む」
「わ、分かった」

 そう言って、俺たちの周りを安全な状態にした時、作戦を説明する。

「でも、それって」
「あぁ。でもこのままじゃ負ける。だったらやるしかない」
「......。わかったわ」
「わかりました」

 話が終わった瞬間、ザイト兄さんが守護(プロテクト)を破り俺に攻撃を仕掛けてくる。それを受け流して、俺はザイト兄さんに渾身の攻撃を仕掛けた。


 ザイト兄さんは俺の攻撃を避けて、殺しにかかってきた。その瞬間、シェルは俺もろとも風竜(ハリケーン)で飛ばした。

 そして、俺たち二人が空中に浮かんでいる時、シルフの力でザイト兄さんを吹き飛ばした。俺が地上に落ちる時、リアの守護(プロテクト)で守られてダメージが何一つなく、ザイト兄さんに目をやりながらそちらへ向かった。

「う......」

 案の定、少しだがダメージを与えられていた。

「ここしかない!」

 そう思い、ザイト兄さんに向かってシルフとサラマンダーの力を付与した剣で斬りかかった。だが、ザイト兄さんはなぜか目の色を変えて俺に話しかけてきた。

「リアム?」

 その瞬間、俺は攻撃を止めてしまった。それをザイト兄さんは見逃さず、俺の腹部を刺してきた。

「あ、あぁぁぁ~」
「リアム!」
「リ、リアムさん!」

 俺が悶絶しているところをザイト兄さんはとどめを刺すかのように首元目掛けて突き刺そうとしてくる。俺は、ギリギリのところで横に回転してその攻撃を避ける。

「はぁ......。はぁ......」

 その時、ザイト兄さんが俺ではなく、リアに向かって話しかけてきた。

「魔族か......。お前もこっちに来ないか?」
「え?」
「そしたらこいつは生かしてやる」

(え?)

 そう、ザイト兄さんは人族以外を劣等種として見ていた。それなのに仲間に勧誘するなんて、今までのザイト兄さんならありえるはずがなかった。

「お前は......。誰だ?」
「お前は黙っていろ」

 ザイト兄さんは、俺の腕に剣を刺して黙らせる。

「うあぁぁぁぁぁ」
「やめてください!」
「早く決めろ。お前が俺たちのところへ来るならこいつは見逃してやる。なぁ、鬼人族」
「......」

 すると、ザイト兄さんの周りに緑色の風が吹き、姿が一気に変わっていった。その時、俺たち全員は寒気を感じた。

(あってはいけない存在にあった)

 そう思った。すると、ザイト兄さんが言った。

「借りの身だから動きずらいな」
「え?」
「まあ、自己紹介ぐらいしようか。俺はベルフェゴールだ」
「ベルフェゴール......」

 聞いたことがある。疫病で万単位の人を殺したという逸話の魔族。そんな奴がなんでこんなところに......。

 その時、俺は誰かに担がれてベルフェゴールから距離をとれた。

「大丈夫か?」
「ギ、ギルドマスター」

 シェルはすぐさま、俺に治癒魔法を使って、腹部の傷がいえる。

「それよりもあれは何だ?」
「ベルフェゴールらしいです」
「なんでそんな奴が......」

 するとベルフェゴールが言った。

「あなた方には興味がありません。鬼人族の子よ、私とこないか?」
「行きません」
「そうか。なら死ね」

 そう言って、俺たちに向かって緑色の風を吹いてきた。俺はシルフの力でその風を上空に向かわせる。

「へぇ。お前、誰かと契約しているな」
「......」
「だったらまずはお前を殺す」

 すると、ベルフェゴールは俺の目の前に来て、腹部を触った。その瞬間、今まで感じた事の無い激痛が走った。

「これでお前は後十分もしないで死ぬだろう」
「なにをした......」
「そこらへんに転がっているゴミと一緒の疫病をかけただけだよ。まあ、お前にかけたのは瞬時に発症する疫病だがな」

 それを聞いた瞬間、ギルドマスターは俺の服を斬って腹部を見た。

「「「!!!」」」

 俺も恐る恐る腹部を見ると、緑色のクモの糸みたいな疫病が徐々に体をむしばんでいくのが分かった。

「後三人ですね」
「......」

 その時、声が聞こえた。

{リアム、ベルフェゴールには一つ弱点があります}
{ティターニアか}
{はい。手っ取り早く言いますが、ベルフェゴールには聖魔法が弱点です。そしてそれは私の魔法が有効でしょう}
{でも、俺は......}

 そう、すでに俺はベルフェゴールに疫病を植え付けられて、ほぼ動ける状況になっていなかった。

{シルフとサラマンダーの力を借りなさい}
{......。わかった}

 すると、サラマンダーとシルフが言う。

{俺が疫病を食い止める。だからシルフとティターニア様の力であいつを倒せ}
{わ、分かった}

 すると、腹部が燃え上がるような感覚になり、少しだが疫病の進行が遅くなっているのが分かった。そして、俺はシェルに肩を借りて言う。

「シェル、力を貸してくれ」
「わ、分かったわ。でもどうすればいいの?」
「俺と一緒にティターニアの魔法を使ってほしい」
「う、うん」

 だが案の定、この会話はベルフェゴールにも聞かれていたので、睨みつけられながら言われる。

「そんなことさせるとでも?」

 そう言って、俺目掛けて攻撃を仕掛けてきた。だが、それをギルドマスターが受け止めてくれていた。

「時間は俺が稼ぐ! 早くやってくれ」
「わかりました」

 俺たちは、ベルフェゴールめがけて魔法を放った。


「あぁ~~~」

 放った魔法はベルフェゴールの腕に当たり、みるみる内にザイト兄さんの腕に戻っていくのがわかった。

「成功か?」
「もう許さない」

 俺たちがベルフェゴールを見ていると、先程までの余裕は無くなり、ものすごい血相でこちらを見て来ていた。

 そして、俺たちに向かって、先程使ってきた緑色の風を放ってきた。俺はみんなの前に立ち、シルフの力でそれを受け流そうとしたが、腹部の激痛でうまくかき消すことが出来ず、腕と足に当たってしまった。

 すると、腹部同様、徐々にだが緑色に変色していった。俺はすぐさま、予知を使い、自分がどれぐらい良きれるのかを見る。

(後、三分ってところか)

 後三分で、ベルフェゴールを殺せるのか。いや、殺すんだ。後少しの人生なんだ。だったらできることをやって死にたい。その時、ベルフェゴールが俺に向かって言った。

「お前さえ殺せれば私は!」
「死ぬなら道ずれだ」

 そう言って、シェルと一緒にベルフェゴールめがけて先程の魔法を使う。だが、それを避けられてしまい、俺たちに攻撃を仕掛けてくる。

「く!」

 ギルドマスターがその攻撃をもろに受けてしまい、剣を地面に落とす。その瞬間を見逃さず、俺とシェルを斬り殺そうとしてきた。

「リアム、シーちゃん!」

 リアが叫んだ瞬間、あたり一面光輝いてベルフェゴールの攻撃が弾き飛ばされた。

(これは......?)

 俺とシェルはベルフェゴールが怯んでいる一瞬を見逃さず、ベルフェゴールめがけて魔法を放った。

「あ、あぁぁぁぁぁ」

 すると、ベルフェゴールの姿が消えて、ザイト兄さんの姿に戻った。

「リアム!」
「......。後一分ってところか」
「大丈夫。大丈夫だからそんなこと言わないで」

 シェルは泣きながら俺に向かって治癒魔法を使った。だが、案の定治るはずもなく、首元まで緑色になっていった。

「シェル、最後の頼みだ。この魔法をこの街に使おう」
「......。うん」

 俺はシルフの風魔法とティターニアの聖魔法、そしてティターニアの加護を受けたシェルの聖魔法を空に目掛けて放った。

 すると、あたり一面、真っ暗であった空が青空に変わっていくのが分かった。

「これで、街の住民は治ったはずだよ」
「で、でもリアムが!」
「二人とも今までありがとう」

 俺がそう言って目をつぶった。するとシェルとリアが泣きながら言っていた。

「死なないでよ......」
「私がベルフェゴールの誘いに乗っていれば」

(それは違うよ。リアは間違っていない)

 俺の命のためにリアの人生を棒に振る必要なんて無い。それにリアはお父さんを助けるんだろ? そう思いながら、もう死ぬんだと思った瞬間、ティターニアが話しかけてきた。

{リアム、また話しましょうね}
{え?}
{この力を使ったら、もうエルフの国に私はいないでしょう。ですが、リアムが私を助けてくれることを願っています。だからあなたはここで死んでいい存在じゃない}

 すると、俺の周りが光出して、体中に緑色になっていた現象が徐々に無くなっていくのが感じた。
(え?)

{ティターニア?}
{ティターニア!}

 何度話しかけても、声が聞こえない。

「クソ!」

 俺は地面を叩きつけた。ティターニアはエルフの国でしか話せないと言っていたが、多分それは本当ではない。それはうすうす感じていた。だが、今使った力で、本当にティターニアがいた気配が全て消え去ってしまった。

「リアム?」
「あぁ......。もう大丈夫だ」

 すると、シェルとリアが俺に抱き着いてきた。

「心配させないでよ!」
「本当ですよ.....」
「ごめん......」

 その後、二人は数分間俺の胸で泣いていた。そして泣き止んだところで、言われる。

「もう大丈夫ってことかな?」
「多分な。でも一旦周りを見回そう」
 
 そう、死ぬと思った直前、街全体に魔法を放ったのだから、疫病にかかっている人は治っているはず。だけど、まだ見てみなくちゃ分からない。

「わかったわ」
「はい」
 
 その時、ギルドマスターが驚いた表情で俺を見てきながら言った。

「ちょっとまて、リアム今何をした?」
「......。古代文字を解読して、授けられた力です」

 すると、ギルドマスターは驚いた表情をしていた。

「そ、そうか。その話は後で聞かせてもらうからな」
「はい」

 まあ、流石にこの光景を見られてしまった以上、隠し通すことなんてできないよな。それにギルドマスターがいなかったら俺たちは確実に死んでいた。その時ふと思った。この場にいる誰かが欠けていたらと......。そう思った瞬間、ゾッとした。

「まあ無事で何よりだ。じゃあリアムが言う通り、住民の安全を確認しに行こう」
「はい」

 俺はザイト兄さんを持ち上げようとした時、目を覚ました。

「リ、リアムか?」


「ザイト兄さんなのか?」

 突然話しかけられて驚いてしまい、つい質問してしまった。すると、ザイト兄さんは頭を地面にこすりつけて謝ってきた。

「本当に済まない」
「......」

 何に対して謝っているのかわからなかったが、ここで「いいよ」なんて言えるはずがなかった。実家を追放したことに対してなのか、ベルフェゴールのことなのか、それとも刺客を出して来たことなのかわからないが、どれをとっても許せることじゃなかった。

 実家を追放されたとき、シェルがいなければ確実に立ち直れなかっただろう。そして、ベルフェゴールの件も、実家を追放していなければこうはならなかったと思う。そして一番許せないことは、俺たちに刺客を仕向けたことだ。

 俺だけが死ぬならまだいいが、シェルやリアまで危険な目にあった。そして一番の被害は、竜人族(ドラゴニュート)の方々だ。あの人たちは、関係ないにもかかわらず惨殺されていった。そんなことがあったのに許せるはずがなかった。

「今は街の人たちのことが優先しなくちゃだから」
「俺は、俺は何をすればいいんだ」
「......。それぐらい自分で考えなよ。まあ思いつかないなら、モンスターが街にいるらからそれの退治でもしていれば?」
「あぁ、分かった」

 なぜか俯きになりながら、この場を去っていった。すると、シェルとリアがはなしかけてくる。

「リアムのお兄さん、ずいぶん変わったね」
「あぁそうだな」
「私はわからないのですが、そうなのですか?」

 キョトンとした顔で、リアは俺たちに尋ねてきた。

「そうよ。前にあった時なんて、私に対して劣等種は黙っていろとか言ってきたのよ?」
「そ、それは......」
「だから少しは変わってくれてよかったわ」
「まあ、今はそんなことより街の住民が疫病にかかっていないか確かめに行こう」

 俺が言ったのに対して、二人は頷きながら歩き始めた。



 広場に着くと、先程までぐったりとしていた住民たちの顔色が良くなっているのが分かった。そして、体を見回すが緑色になっているところが無くなっていた。

(よかった)

 まずは、住民たちは魔法がきいていたってことだもんな。なら、他の場所にいる人たちもここにいる人たちと変わらないのだろうと思った。

 そのまま、あたりを歩いていると、路地裏の隅っこにゴブリンが数体現れて、住民に襲い掛かろうとしていた。

 俺はすぐさま、数体のゴブリンを斬り倒した。そして、シェルは風切(エア・カッター)を使ってゴブリンを倒し、ここにいるモンスターを一掃した。すると、住民たちが騒ぎだした。

「「おぉ~~!!」」
「「ありがとうございます」」
「あ、はい」

 今まで、この街の住民に頼られたことがなかったので、対応が分からず、少し照れてしまった。その後も、俺たちのもとに住民たちが来て、次々とお礼を言ってきた。すると、少し遠い場所から受付嬢がこちらへ走ってきた。

「リアムさん! ご無事でよかったです」
「はい」
「それで、急用ですが、現在街中にモンスターが現れています。一応は冒険者とアーデレスの人たちがモンスターを倒してくれていますが、街の中にもモンスターが潜んでいる可能性があるため、リアムさんや他の冒険者を見かけたらこのことを話しておいてくれませんか?」
「わかりました」

 すると受付嬢は走ってこの場を去っていってしまった。

(受付嬢も大変なんだな)

 ギルドの受付をしていればいいだけでなく、街の危機管理などもしなければいけないのか。そう思ったのと同時に、色々な人にこの街は支えられているんだなと感じた。

 受付嬢がいたおかげで、モンスターの対応が早まっているに違いないし、住民が横たわっている時も、神父さんなどが歩き回って診療していた。そして、アーデレスの精鋭部隊の人たちがいなければ、この街はすでにモンスターに侵略されていたかもしれない。

(本当にいろいろな人に助けられている)

 最初は、俺一人で何とかしようと思っていた。だが、結局俺一人ならベルフェゴールを退治することはできなかったし、街の住民を助けることだってできなかった。

「本当にありがとう」
「え? いきなりどうしたの?」

 ボソッと言った言葉をシェルに聞かれていて、ものすごく恥ずかしくなった。

「いや、なんでもないよ。それよりも、治っていない人が居るかもしれないから」
「そうね」

 そこから、数時間で町全体を歩いて、重症患者らしき人物がいないことを確認したところで、精鋭部隊の人たちと出会った。

「モンスターは追い払ったが、そっちはどうだ?」
「こちらも主犯は倒しました」

 すると、精鋭部隊の人が真剣な顔をしていった。

「そうか。だが、俺たちが来たことはこんなことじゃないことはわかっているよな?」
「はい。本当にありがとうございます」

 そう、この人たちがロードリック領に来たのは、今回の件のためではない。実家を罰則するためだ。

「あぁ。だから、今週中にでもきちんと話がしたいから、場をきちんと設けてくれ」
「わかりました」

 そして、夜になり、シェルとリアを連れて実家へ戻った。