「──────……!」

「……ん……う……。……え!?」

 そして次に目を開いた時、マゼンタは目の前の光景に自分の目を疑った。もしかしたら、自分はあの光に巻き込まれて死んでしまったのかもしれないとさえ思った。

「うっそ……。」
「……ほ、ほんまでっか?」

 荒廃していたアイリス伯領に、緑が戻っていた。大地は潤い、地面には草花が顔を出し、やせ細っていた木々は太い大木となり葉をつけていた。

「こ、こんなことが……。」
「ありえへんやろ……。」
「そういえば、バン爺たちは……?」
「あ、ちょいっ!」

 マゼンタはバン爺たちが戦っていた場所へ駆けて行った。


「……バン爺! シアンくん!」

 バン爺とシアンが戦っていたハゲ山は、今では緑豊かな森になっていた。

「シアンくん、どこ!? バン爺、生きてたら返事して!」

 ふたりの名を呼びながら森を歩くマゼンタ。すぐにふたりは見つかった。少年の姿に戻っているシアンは木を背にして気を失い、バン爺はうつぶせで地面に倒れていた。

「シアンくん! バン爺!」

 マゼンタはまずバン爺に駆け寄った。倒れ方が洒落(しゃれ)になっていなかった。

「バン爺っ! 大丈夫!? 生きてる!?」

 バン爺を抱き起し、気付けをするマゼンタ。死んでいるように見えたが、幸い脈も呼吸もあった。

「バン爺、バン爺っ」

 マゼンタはバン爺の頬をひっぱたき始めた。

「バン爺、死なないで!」

 必死でバン爺を叩き続けるマゼンタ。

「……痛い痛い、お前さんがとどめさしとるぞ」

 バン爺が目を覚ました。

「バン爺!」
 マゼンタはバン爺に抱きついた。
「大丈夫なんだねっ?」
「あ~なんとかのう。おかげで寿命が10年縮まったがのう」
「じゃあ、あと100年は生きるね」
「はっはっ、お前さんの軽口も生きていればこそじゃのう……。」

 マゼンタはシアンを見る。

「……シアンくんも、もう大丈夫なの?」
「ふぅむ……。」

 バン爺は周りを見渡す。シアンの異常なオドをすべて体の外に流したことを確信した。

「声をかけてみたらどうじゃ?」
「……うん」

 マゼンタは裸で気を失っているシアンのもとへ行った。

「……シアンくん、大丈夫?」

 マゼンタはシアンの体を抱き上げると優しくなでさする。

「……待遇に違いがあり過ぎやせんか?」

「……う……ん」
「シアンくん!」

 シアンが目を開いた。嵐の後の晴天のような瞳がマゼンタを見る。

「……マゼンタ……さん」
「良かったぁ!」

 マゼンタはシアンを抱きしめる。シアンも心を預けるようにマゼンタの体に手を回し、赤い髪に顔をうずめた。しばらくして、自分が何をしているのか理解して慌ててマゼンタの体から手を離した。

「どうしたの?」
「あ、いや、だって……。」
「……シアンや、体の方は平気かね?」
「……うん」
「ちょいと……。」

 バン爺はシアンの体に手を当てて、オドの様子を探った。

「……ふむ、オドは安定しとる」
 バン爺はシアンを見て笑う。
年相応(としそうおう)の力になったの」
「ねぇ、シアンくん……。」
「なに、マゼンタさん?」
「……はい」

 マゼンタははにかみながら持ってきた服を渡した。
 シアンもはにかみながらそれに袖を通す。

「……今さら照れとるんかい」


 バン爺たちは瓦礫になった城に戻った。そこには体を回復させたアイリス伯がいた。

「……ローゼス卿」
「……終わったよ、アイリス伯」
「……どういう意味だ?」
「この子の、シアンの体の中にあったコアのオドは、すべて外に流させてもらった……。もう、どっからどう見ても普通の12歳じゃよ」
「……美人過ぎるけどね」と、マゼンタが言った。
「ば、ばかな……。」

 アイリス伯は足をよろめかせながらシアンに詰め寄る。

「わ、私の研究の集大成が……。」
「……親なら、無事に生まれて健康に育っとるだけで感謝せんかい」
「……私と、妻の長年の努力が」

 アイリス伯は頭を抱えて膝をついた。

「……ねぇ、おっちゃん」

 アイリス伯が顔を上げると、そこにはアッシュが立っていた。

「……アッシュ」
「ホンマにねぃちゃんが死んだんは、研究中の事故やったん?」
「……何だと?」
「シアンくんとねぃちゃんが家出しようとした矢先やん、事故が起きたの。何か不自然やありません?」
「……お前、私がグレイスを手にかけたとでも言いたいのか?」
「いやぁ、そこまでは言いませんけど……でも、おっちゃんの研究って、事故が起きた頃には成功しとったっていう話しですやん? せやのに、ねぇちゃんの遺体が見つからんくらいの事故が起きるって、おかしないですか?」
「……研究は……成功してなどいなかった」

 (くや)しさを(にじ)ませた声でアイリス伯は言った。

「……え?」
「どういう事じゃ?」
「……研究は私が成功させたのではない」