グレイスは黙ってしまう。訊いていいものかと思ってしまって。けれどグレイスの言葉を待つことなく、マリーから言ってくれた。
「私はロン様と小さい頃から婚約を交わしていたから、まだショックが少なかったかもしれないけどね。それでもよ」
 マリーは今では夫になった『ロン』の名を挙げた。今では仲の良い夫婦だと聞く。
 けれど幼い頃から婚約を交わし、結婚が前提にあったとしても一応、親が決めた結婚なのだ。
「ロン様のことを好くようになれたのは、単に運が良かっただけ、かもしれないの」
 確かに政略結婚ではあったのだけど、幼い頃から心構えをしていたのが良かったのか。
 マリーは彼のことを、どの程度かはわからないが確かに愛しているのだといつも感じていた。
「だから、こんなに急に、怒涛のように決まってしまったグレイスは、私と比べ物にならないくらい戸惑ってしまってもおかしくないわ」
 優しい言葉をかけられて、今度、違う意味でグレイスの息が詰まった。熱いものが喉の、目の奥に込み上げそうになる。
 そう、ショックだったのだ。
 いきなり婚約者ができるという事態になったのもそうであるし、その話がどんどん進んでしまったのも。
 それに、結婚の話が持ち上がったことで、抱えていたほのかな恋心は行き場を失ってしまって、グレイスの中で嫌な具合に留まるしかなかったのだ。その気持ちをどうしたらいいのかだって、まだわからない。
「そう、ね。ショック……だったのかも」