グレイスはなんとか顔をあげてそちらを見た。その先に見えたのは、どういうことか。確かにフレンだったのだ。
 こんな状況だ、顔は強張っていたけれど、グレイスがフレンを見上げたことで、無事であると理解したのだろう。強張った顔に僅かに笑みが浮かぶ。
「しっかり捕まってらしてください……!」
 フレンはグレイスを自分の体に抱きつかせ、片腕でしっかり抱えたまま、右手に持ったナイフを構える。隙だと見て飛びかかってきた賊の体を薙ぎ払った。
「ギャァッ!」
 胴を切り裂かれた賊が地面に転がり、倒れ込む。
 フレンの動きは最低限だった。グレイスを抱えているのだ、派手な動きなどできるはずもない。
 それは護身術のなせる技だっただろう。攻撃するのではなく、あくまでも自分の、そして主人の身を護るための力。
 途端、うしろからガラガラッ! と音が聞こえた。馬車の車輪のような音、と思ったのだがその通りだったらしい。
 ガシャッと乱暴に止まる音がして、ばらばらとひとの走る音が続いた。
「アフレイド男爵家への襲撃、大罪に値する! 覚悟!」
 何人いるかもわからない男たちが、賊に向かって突っ込んでいく。名乗りからするに、どうやら、アフレイド領の自警組織の加勢。
 自警組織の腕は確かだ。おまけに人数もじゅうぶん。果敢に賊たちに立ち向かい、そして。
 賊はすべて地面に沈められていたのである。
 はぁ、はぁ、と戦いのあとの息遣いが荒くその場に溢れた。
「……お嬢様。ご無事、ですか」
 もう一度、声が降ってくる。
 グレイスはもう一度、見上げて。そして見た。
 グレイスの大好きな翠色の瞳を持つ、フレンの優し気な顔を。
 一体、どうして、フレンが、ここに。