もやもやした思いはなかなか消えてはくれなかった。
「ねぇ…危なくないの?その人…後を付けてたんでしょ?」
「え?まぁ…そうだね?でも、気にすることないよ。そこまでやるような男じゃないよ。後をつけていた狙いは僕じゃなくて君だったんだろうしね。ねぇ、里未さん、この男を僕は全く知らないんだよ。だからね、忘れているだけで里未さんはこの人を知っているんじゃないのかな」
え…?私が、この人を…知っている?
だけど、記憶のどこにもこの人の顔を認識していなかった。初めて会ったと思っていた。
「あぁ…いいよ、無理に思い出そうとしなくても。使えそうな人間は使わせてもらう。殺すのはもったいない。それだけだよ。ほら、里未さん、着いたよ。玄関開けてもらえるかな。リビングのソファ…そこに寝かせるから。…僕はこのあと行くところがあるから、そいつを見ててくれる?」
時計を見ながら告げられる。
「あ、うん。いいけど…どこ行くの?」
軽く聞いただけだったが、卓人からの返事がなくて顔をあげる。バッチリ目が合った。見られていたらしい。ドキッとするのもつかの間、卓人の表情がおかしい事に気づく。
ゾクリと背中が震えた。
目元はぱっちり開いているのに口元は歪むように笑っていた。
怖い、と一瞬でも感じてしまった。
「知らなくてもいいんじゃないかな」
「そ、そう…だね…」
男をリビングのソファに寝かせた後、卓人はすぐに家を出て行ってしまった。
きっと…その答えは本当に知らなくていいこと何だろう…。私に知られては困る何か…。私が関わると面倒な何か。きっと…。
あの人は今晩、誰かを殺しに行く。