扉をこじ開けて後ろに乗っていた青年を引っ張りだす。体格差から引きずるような形でやっと外に連れ出す。その頃には息が上がって疲れていた。
「里未さん、その人には顔しっかり覚えられてるから連れて帰るよ。使えそうなのは無駄にはしないからね。…それで、タクシーの運転手には悪いけど、厄介だからそのへん置いといてね」
少し迷った。だが、運転手を卓人のアジトに連れて行くわけにはいかないと思った。
大人は意外と脆い。電話で助けを呼ばれたら卓人も私も危ない。
「わかった。その人、どうするの?抱える?重くない?」
「大丈夫だよ。僕も男だし、力には自信があるよ」
青年を肩に担ぐように持ち上げる様を関心して見つめてしまう。本当に力が強いみたいだ。車まで運ぶと後部座席に横たえる。こんなに動かしてるのし急に目が覚めないかビクビクしてしまう。いま目覚めるのは少し間が悪いと思った。
「里未さん、早く乗って。あいつが目を覚ましたらシャレにならないんだから」
あいつとはタクシーの運転手のことを言っているのだろう。チラリと一瞥した運転手は眉間に皺を寄せて苦しそうな顔で気を失っていた。
「そ、そうね…」
助手席に乗り込めば、すぐに車は動き出した。
「ねぇ、卓人くん、この子運ぶの手伝わなくて本当にいいの?」
後ろを見ながら聞く。卓人は前を向いたまま答える。
「言ったでしょ。力には自信があるんだよ。それに、か弱い女の子の里未さんに成人した男を任せられないよ」
だからそれ、どういう意味なのよ…。勘違いしそうになる。本人からも好意を拒絶されたようなもんなのに。どうして私、こんなにも意識してしまうの。好きになってはいけないのに。犯罪者で殺人者で殺し屋…有り得ない。絶対ないのに…。卓人があまりにも距離が近いから。振り回されてるみたいだ。
「あ…そうね、ありがとう…」
私は改めて後ろの男を見る。仲間にする…って、どうして?それは顔を見られたから…。そうだよね、全然おかしなことじゃない。なのに、私どうしてそんなこと…思ったんだろう。
私だけじゃなかった、なんて…。