「セシル。アーニャさんの家族が見つかったの?」
「うん。正しく言うと、お兄さんが魔法で呼び出したんだけどね」
「魔法で呼び出した? どういう事?」

 ミアさんたちが顔を見合わせているので、一先ず俺が魔法を使えるようになった経緯を説明してみた。

「凄いわね。召喚魔法まで使えるなんて。というか、召喚魔法って名前を知っていれば強制的に呼べちゃうのね」

 そうなんですよ。俺なんて拒否権もなく、強制的に異世界へ呼ばれたんです! ……って、言いたいけど言えないのが辛いところだ。
 ……ん? 待てよ。アーニャの家族や、ミハイルさんの仲間や家族も、確かに名前だけで呼べてしまったな。

「あの、どなたか魔王の名前を知っている人って居ませんか?」
「魔王の名前なら、俺たちじゃ無くても誰でも知ってるぜ。魔王アブラアム=レガツォーニ……魔法を使って、全世界に宣戦布告してきたからな」
「なるほど。ミアさん、今からありったけの戦力を集められませんか?」

 俺の意図が分からず、キョトンとしながら首を傾げるミアさんに、召喚魔法の特性――名前さえ分かれば、強制的に呼べてしまう事と、俺が思い付いたアイディアを話してみる。

「つまり、予め最高戦力を招集しておいて、そこへ魔王を召喚。皆で総攻撃するって事?」
「はい。街からはもう少し離れた方が良いかもしれませんし、もしかしたら魔王は召喚魔法をブロック出来るかもしれませんが」
「いえ、やってみる価値はあると思うわ。予め準備出来る所が最高で、これなら国の騎士隊を遠くの魔王城まで派遣する必要もないし、最悪ブロックされても謝って済むレベルですもの。やってみましょう!」

 ミアさんから、アーニャの家族を元の国へ戻す件について、国レベルでサポートするという事と、昼過ぎに南東の平原で集合という話があって一旦解散に。

「セシル、アーニャ。午後から魔王と戦う事になっちゃったから、皆は城魔法の家の中で待ってて」
「お兄さん! ボクも戦うよー! 魔法なら得意だし、遠くからでも攻撃出来るからね」
「そっか。でも、決して無理しないでね」
「もちろん! お兄さんの傍に居るよ」

 そう言って、セシルが抱きついてくる。

「私は後方支援で……」
「ありがとう。じゃあ今から時間ギリギリまでポーションを作るから、アーニャは怪我をした人が居たら、そのポーションを渡してあげて欲しいんだ。もちろん、後方でね」

 皆で南東へ移動すると共に、全員で薬草摘みを始め、待ち合わせ場所に着くと、大量の薬草をひたすらポーションにする。
 暫くすると、遠くから地鳴りのような大きな音が聞こえてきて、

「お待たせー! この国と周辺国も巻き込んで、一万の騎士と宮廷魔術師を連れて来たわよー!」

 ミアさんが数え切れない程の人を連れてやってきた。
 それから、陣形と戦術の確認、そして準備。
 召喚予定の場所を騎士やミハイルさんたちが取り囲み、その周囲を弓兵。さらにその周りを大勢の魔術師やセシルが取り囲む。
 手筈としては、先ず俺が召喚魔法を使い、魔王を直接見た事があるというミハイルさんたちが、本物の魔王かどうかを確認する。
 俺の時みたく、万が一間違いだったら洒落にならないからね。
 で、魔王だった場合は、それまでに魔力を練っておいた魔術師たちが一斉に魔法を放ち、次いで弓兵たちが矢を。状況見合いで前衛の騎士たちが突撃するという手筈だ。
 これに加えて、

「Aランクポーションを配るだとっ!? き、貴重な高ランクポーションをっ!?」

 前衛には生命力や防御力がアップするポーションを飲んでもらい、後衛には魔力がアップするポーションを飲んでもらう。
 当然、俺もAランクのマジック・ポーションを飲み、

「では……サモン・コール。魔王アブラアム=レガツォーニ!」

 召喚魔法を使用する。
 その直後、俺の倍くらいの背丈がある仰々しい化け物が現れ、

「間違いない! 魔王だ! 魔王アブラアムだっ!」
「魔法部隊! 一斉攻撃っ!」

 指揮をとるミアさんの声が響き渡った。