「リュージさん。私の症状は何だったんですか?」
「ララさんは、蛙毒に掛かっていたみたいです」
「蛙毒……なるほど。恩人であるリュージさんにこんな事を言いたくはないのですが、ギルドとしては、もう少しお薬の価格を下げていただけると助かります」
ララさんとしては、街の人を全員救いたいのだけれど、ギルドとしても資金が無限に有る訳ではないので、コストは下げたい。
でも商人ギルドという組織である以上、公正な取引を行わなければならず、俺が値下げすると言ってもダメなのだろう。
「承知しました。では暫くここで診療所を開いていますので、一時間経ってから街の人たちにここを紹介してもらえますか?」
「出来れば、今すぐにでも街の人たちを助けて欲しいのですが、ダメでしょうか?」
「その一時間でパナケア・ポーションではなく、蛙毒に効く適切な薬を用意するので……」
「分かりました。治療費は全て当ギルドでお支払いいたしますので、後で治した方のお名前と、用いた薬を教えてください」
商人ギルドの正式な依頼として説明を受け、ララさんがギルドへ帰った後、再びセシルに話を聞く。
「セシル。さっき教えてくれたシーブーキっていう薬草より、もう少し軽めで、蛙毒に効く薬草って知らない?」
「軽めってどういう事?」
「シーブーキだと色々な症状に効果があるんだけど、高価すぎるからもう少し安価な薬にして欲しいって言われちゃってさ」
「シーブーキって高額なの? ボクの家に沢山生えていたんだけど」
セシルの家に万能薬の元が生えてたんだ。
というかセシルは貴族令嬢だし、値段とかあまり気にしないよね。
AランクやBランクのポーションが普通だって言っていたし。
「値段の事は分からないけど、シーブーキみたいに何にでも効く薬草ではなくて、蛙毒に効く薬草はどれ? って事だよね?」
「そういう事。セシル、何かある?」
「そうだねー。これと、これ。あと、こっちとかも良いかなー」
「ありがとう! 今教えてくれた薬草って、この辺りに生えていたりするの? 今から大量にポーションを作らないといけないんだけど」
「という事は、暫くここに家を置いたままにするのかな? だったら、ボクが薬草を探して来るよ」
「いいの? それは助かる。アーニャにもついて行って貰った方が良いかな?」
「ううん、大丈夫だよ。じゃあ、ちょっと行ってくるねー!」
そう言って、セシルが薬草を探しに家を出る。
俺もポーションを準備しておこうと思ったんだけど、気付いた事があってアーニャを呼ぶ。
「リュージさん。どうされました?」
「この後、一階のクリニックの部屋に街の人が大勢来るから、アーニャに受付と薬の配布をお願いしたいんだ」
「受付はともかく、薬の配布なんて言われても、何を渡せば良いか分からないんですけど」
「それは俺が指示するよ。流れとしては、街の人が来たら受付カウンターで名前を聞いて、診察室が空いていればその人を診察室へ。空いて無ければ、入ってすぐの場所で待ってもらって欲しいんだ」
「待って居る人は、診察室が空き次第、来た順にお呼びする感じですね?」
「そうそう。で、これから薬を用意しておくから、そこの保管庫から俺が言った薬を取って、渡してあげて欲しいんだ」
受付をアーニャがして、セシルが薬草を調達し、俺が薬の調合と診察を行って、アーニャが薬を患者さんに渡す。
急造ではあるものの、実家で両親が行っていたのと、似たような形にはなっていると思う。
それから、セシルから教えてもらった薬草をひたすら調合していくと、キュア・ポイズンにキュア・パラライズ、キュア・コンフューズという薬が出来た……が、いずれもAランクとBランクばかりだ。
どうやったら、CランクやDランクの薬が出来るのだろうか。
水で薄めたら、出来るかな?
そう思って、実験してみようかと思った所で、
「リュージさん! 大変です。沢山人がやってきました!」
もう一時間が過ぎていたみたいで、クリニック側の入口に街の人たちが並んでいた。
クリニック側の入口の前から始まった長蛇の列が、グルリと家を囲う。
懐かしい。
休日の開業時間前はいつもこんな感じだったな。
「リュージさん! どうしてほっこりされているんですか!?」
「ごめんごめん。ちょっと懐かしいなって思って」
「懐かしい?」
「何でもないよ。とにかく患者さんを中に入れてあげよう。立ちっぱなしだと辛いだろうしね」
アーニャに受付へ立ってもらうと、
「これから診察を始めます。順番に中へ入ってください」
扉を開け、大きな声でゆっくりと話す。
「ここへ来たら、身体の辛さが治るってお姉……ララに言われたんですけど」
「その通りですが、一人ずつしか診れませんので、最初に並んでいた方から、こちらの女性に名前と……どんな風に辛いのかを伝えてください」
アーニャが、そんなの聞いてないんですけど……とでも言いたげにチラリと俺を見て来たけど、ちゃんと対応してくれている。
そんな中で一人目の患者さん――ララさんを少し幼くしたような、少女の受付が終わったので、診察室へと招き入れた。
「診察を始めますが、僕は医者で、触診っていう胸に触れる事で貴方の身体の状態を知ります。だから、決して疾しい事があるわけじゃなくて……」
「はい。ララから聞いてます。恥ずかしいけど、身体の辛さが治って欲しいし、お願いします」
そう言って、少女が服をたくし上げたので、その胸に触れながら、こっそり診察スキルを使用する。
『診察Lv1
状態:蛙毒』
診察スキルによると、少女はララさんと同じ蛙毒だけど、弱と表示されていないので、ララさんよりも症状が重いようだ。
「症状は分かりました。少しお待ちを」
蛙毒はキュア・ポイズンで治ると思うけど、Bランクで治るだろうか。
というか、AランクとBランクしか無いから、必然的にBランクを出さざるを得ないんだけどさ。
「貴方のお名前を窺っていましたっけ?」
「ルルです」
「失礼しました。ルルさんは蛙毒に掛かっていますので、こちらの薬を飲めば治りますよ」
「蛙毒? どうして、そんな毒が……」
ルルさんが首を傾げながら、黄緑色の液体――キュア・ポーションを飲み終えると、
「凄いっ! お姉ちゃんの言った通りです! 身体がだるく無いし、痛みも無くなりました!」
突然物凄く元気になった。
まぁ、そもそも元気だったら、診療所に来ないか。
「ルルさんは、ララさんの妹さんだったんですね」
「あ! えへへ。身内って事もあって、お姉ちゃんが真っ先に教えてくれたんです。すみません」
「それは構わないと思うけど……それよりも、ちゃんと治ったかどうかを確認するので、もう一度だけ胸を見せてください」
「もー、先生ったらエッチなんだからー。今回だけですよー?」
どうしよう。ノリについて行けないんだけど。
これが若さという奴なのだろうか。
『診察Lv1
状態:健康』
うん。診察スキルを使うと、ちゃんと蛙毒が消えている事が確認出来た。
蛙毒はキュア・ポーションで治る事が分かったので、これからは迷わず出して行こう。
……Bランクしかないけど。
「先生、ありがとうございました! 友達にも教えてくるねー!」
「うん。苦しんでいる人が居たら、ここへ来るように言ってあげて」
「はーい!」
日本だと女子高生って感じだろうか。
役得とか言ったら怒られそうだけど、彼女の胸……じゃなくて、元気な笑顔を見られて良かった。
少しテンションが上がった所で、
「アーニャ。次の人は誰かな?」
「エレナさん。診察室へどうぞ」
アーニャが次の人を案内する。
次はお母さんと一緒に来た男の子で……いや、もちろんちゃんと診察するよ? 苦しんでいる患者さんだからね。
胸の事を少し考えてしまっていた自分に反省しつつ、次の診察を始めた。
「もう大丈夫ですよ。念のため同じ薬をお出ししておきますので、もしも同じ症状が出たら飲んでください」
「お兄ちゃん。ありがとう」
「どういたしまして。それより君も気を付けてね」
男の子を連れたお母さんに治療が終わった事を告げると、何度も頭を下げて診察室を出て行く。
アーニャが次の人を呼ぶと、これまでの人と少しだけ違う診察結果が出た。
『診察Lv1
状態:蛙毒(弱)、麻痺毒(弱)』
二種類の毒を受けている!?
どちらも弱となっているのが不幸中の幸いだけど、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
当初想定していたのは、蛙毒にはキュア・ポイズン(B)で、麻痺毒にはキュア・パラライズ(B)だったのだけど、この場合はどうしたものだろうか。
薬を二つ飲んでもらうのか、二つの薬を混ぜた物を渡すのか。
しかし、今診ているお姉さんは細身だし、二つ分も薬を飲むのは大変な気がする。
「お待たせしました。ではこちらの薬を飲んでください」
なので、Bランクのパナケア・ポーションを出し、お姉さんが飲み切ると、
『診察Lv1
状態:健康』
無事にどちらの症状も治っていた。
一先ず大丈夫みたいだな。
「あの、貴方は二種類の毒に掛かっていたんですけど、何か毒を受ける様な心当たりはありますか?」
「毒……ですか? そんな心当たりは無いですけど」
「うーん。家で蛙を飼っているいるとか」
「飼いませんよっ! 気持ち悪いですし」
「家の近くに川か湖があるとか」
「ありません。家は街の真ん中です」
お姉さんが元気になって帰って行き、次の女の子や、次のおばさん、少女……と、大勢診察していく。
診察していて分かったのだが、殆どが蛙毒で、稀に麻痺毒があり、一人だけ風邪という人が居たりして……って、あれだけ作っておいたキュア・ポイズンが無くなってしまった。
途中で診察してから調合して、何とか患者さんを捌いていく。
「それでは、貴方も家の近くに川が無いんですね?」
「えぇ。この街は王都と同じく水道が完備されていて、家の中で山から流れ出る川の水が使えますから」
最後の一人を見送り、クリニックへ来た人は全員回復していった。
だけど、蛙毒が街に流行した理由が分からない。
「アーニャ、お疲れ様」
「凄かったですね。リュージさんもお疲れ様です」
「流石に喋り疲れたかな。それにキュア・ポイズンの材料となる薬草が無くなっちゃったよ」
「一先ず、食事にしましょうか」
「そうだね。悪いけどお願いするよ」
リビングに移動してアーニャと互いに労っていると、
「ただいまー」
薬草をいっぱい抱えたセシルが帰って来た。
「おかえり、セシル。沢山摘んできたんだね」
「うん。街の人皆に使うって聞いたから。同じ場所に生えている薬草を全て摘んでしまう訳にもいかないし、結構歩いたよー」
「そっか。丁度薬草が無くなった所だったから、本当に助かるよ。ありがとう」
「でも急がないといけないね。人が大勢待っているし」
薬草の束を受け取り、調剤室へ運んでいると、セシルが変な事を言う
「いや、もう終わったから平気だよ。これからアーニャと食事にしようって言っていたところだし」
「でも、これから街の人を診察していくんだよね?」
「もう終わったよ?」
「え? でもクリニックの入口に、沢山人が並んでいたよ?」
「えぇっ!?」
セシルに言われ、慌ててクリニックへ移動すると、入口の向こう側に大勢の人だかりが見える。
「さっきので全員じゃなかったの!?」
「お兄さん。ボク、薬草を探していて分かったんだけどさ、この街……結構大きいよ?」
「という事は、今もララさんが街を回って、ここへ来るように言っているって事?」
「たぶん。皆辛そうだし、移動するのにも時間が掛かるみたいだから、まだまだ来るんじゃないかな?」
「な、なんだってー!」
一先ずセシルに受付をやってもらい、キュア・ポーションを調合しながら診察をしつつ、合間に軽食を食べる。
暫くしてセシルとアーニャに交代してもらい、セシルに摘んできた薬草の整理をしてもらって……うん。何度も何度も診察を使ったからか、途中で診察レベルが上がったよ。
レベルが上がっても表示される内容は変わらないけどさ。
「終わった? 皆、お疲れ様……」
「お兄さん……ボク、眠いよ」
「……お風呂、お風呂に入りたいです」
最後の患者さんが帰った後、俺たちはクリニックの待合室で泥の様に眠ってしまった。
小さなおっぱい。
おおきなおっぱい。
綺麗なおっぱい。
平らなおっぱい。
大きさや柔らかさ、弾力にハリと、おっぱいと言っても千差万別で、様々なおっぱいがある。
その中でも、今触れているこれは特に感触が優しい。
触れているだけで幸せな気分になり、いつまでも触り続けていたくなるような心地良さだ。
――さん。……ジさん。
おっぱいが俺に話しかけてくる。
これはもっと触って欲しいと言う事だろうか。
女性のおっぱいとは、どうしてこれ程までに素晴らしいのだろう。
おっぱいをムニムニと触る度に、右手が蕩けてしまうようだ。
「……さん! リュージさんってば!」
大きな声が耳元で響き、見慣れた顔――アーニャの顔が俺の視界を埋めている。
「ん、アーニャ。おはよう」
「お、おはようではないですっ! セシルさんがすぐ傍に居ますからっ!」
「何? どうしたの?」
「ですから、夜伽は二人っきりの時になさいませんか? 私はお世話になっている身なので、求められれば断る理由はありませんが、セシルさんに悪影響が……」
夜伽って、朝からアーニャは何を言っているのだろう。
何か混乱しているの?
確か混乱を治すキュア・コンヒューズっていう薬があったはずだけど。
調剤室へ薬を取りに行こうかと身体を起こした所で、俺の右手がアーニャの胸に触れている事に気付く。
そして、あのリアルな感触の夢……ベッドから飛び起き、朝からダイビング土下座する事になってしまった。
……
「まさか、あんな夢をみてしまうとは……」
「まぁ何十人、何百人という女性のを見たわけですし、仕方ないんじゃないですかね」
おっぱいがいっぱいな、とんでもない夢を見てしまった事を説明し、アーニャが水に流してくれたけど、
「お兄さん、おはよ。どんな夢を見たの?」
「お、お医者さんとして頑張る夢だよ」
「そうなんだ。お兄さん、流石だねー」
起きてきたセシルの質問を誤魔化したら、関心されてしまった。
くっ……胸に刺さる。
本当はエッチな夢を見てしまい、しかもアーニャの胸を触ってしまっていただなんて、絶対に言えない。
「おはようございまーす!」
唐突に、聞いた事のある大きな声が響いたかと思うと、クリニックの入口からララさんが入って来ていた。
昨日、疲れ過ぎて鍵を閉めずに寝ちゃったのか。
防犯意識をしっかり持たないとな。
「昨日はありがとうございましたー! 夕方くらいからは、町の中を人が歩くようになって……本当に助かりました。ありがとうございます」
「それは良かったです。ところで、御用件は?」
「はい。ちょっとついて来て欲しい場所がありまして」
「分かりました……が、少しお待ちいただけますか?」
ララさんに待合室で待ってもらい、三人で朝食とシャワーを済ませる。
昨日は疲れ過ぎて皆そのまま寝ちゃったからね。
着替えなども済ませてララさんの元へ行くと、そのまま外へ。
「凄い。あの建物が一瞬で消えちゃうんですねー」
「えぇ。でも、他言無用でお願いしますね」
「大丈夫ですって。それより、こちらですー」
暫く歩くと、小さな家に着いた。
「エミリアさーん! おはようございます。昨日お話しした先生を連れてきましたよー」
玄関から大きな声を出すと、ララさんがそのまま家の中へと入って行く。
俺たちもついて行くと、寝室で顔色の悪い女性が寝込んでいた。
「私が把握している中で、エミリアさんが一番症状が重くて、歩く事も出来ないんです。リュージさん、エミリアさんを治してくれませんか」
エミリアさんと呼ばれた女性は顔色が悪く、息も荒い。
どうやらかなり苦しい様子なので、すぐさま胸に触れる。
「失礼します」
『診察Lv2
状態:蛙毒(強)、麻痺毒、衰弱』
大勢の人を診察したけれど、蛙毒の強という状態は初めてみた。
しかも衰弱とも記載されているし。
すぐさま倉魔法を使い、取り出したBランクのパナケア・ポーションを少しずつ飲ませて再び診察。
『診察Lv2
状態:衰弱』
一先ず毒は治ったものの、パナケア・ポーションで衰弱は治らないらしい。
衰弱という事は、身体が弱っているので、状態異常とはまた違うみたいだ。
一先ず、弱って行くのは防ぐ事が出来たので、後は栄養のある物を食べ、身体をゆっくりと回復させて……って、これだ。
「エミリアさん。こちらのポーションも飲んでください。これで良くなるはずですから」
昨日、風邪を引いている人にも出した、滋養強壮効果のあるナリッシュメント・ポーションを飲んでもらうと、
「……身体が動く! あの辛さが消えた……」
「エミリアさん! 良かった!」
静かに女性が身体を起こし、すぐさまララさんが抱きついた。
「病み上がり直後に申し訳ないのですが、エミリアさんが蛙毒を受けていた理由を知りたいんです。何か心当たりはありませんか?」
「蛙毒? 私がですか?」
「そうです。エミリアさん程重症では無かったのですが、この街の――特に女性が蛙毒に掛かっていたんです」
女性が大半とはいえ男の子も掛かっていたので、性別が関与している訳では無く、単に体力の有無だと思う。
この街の全女性がクリニックに来た訳ではないだろうし。
「ララさん。蛙毒の症状が出始めたのって、ここ数日の話って言っていましたよね?」
「はい。地震の直後だったので良く覚えています」
「地震で毒を持つ蛙が大量発生したとか? でも蛙なんて全く見かけないしな」
そもそも街の中に川や池なんて無く、蛙を見た事も無い。
それに、自分で言っておいてなんだけど、地震と蛙の大量発生が結びつかないしね。
「エミリアさんが地震の後に始めた事ってありませんか? 日常生活に新しい何かを取り入れたとか」
「特に何もしていませんわ。でも、地震の後から急激に体調が悪くなりましたの。ですから、普段よりも沢山お水を飲んだのだけど……」
「沢山水を……って、そこまで暑くもないのにですか?」
「えぇ。お水って凄いのよ? 飲んでも太らないから健康的だし」
まぁ水はカロリーゼロだし、太る事は無さそうだけど、飲みすぎもどうなのだろうか。
「エミリアさんはお水ダイエットの提唱者で、この街では数ヶ月前から女性の間でブームになっているんですよ」
「お水ダイエットって、要は水しか飲まないって事ですか!?」
「そこまで極端ではないけど、普段から水を多く飲みましょうっていうダイエットですよね」
まぁそれくらいなら良いのかな?
お医者さんごっこスキルしか持ってないから、良いか悪いかも俺には分からないけど。
「ララさん。お水ダイエット初心者はそれでも良いですが、上級者は朝食以外全てお水です。食事の代わりにお水を飲むのが、真のお水ダイエッターです」
流石にそれはやり過ぎじゃない?
無茶苦茶なダイエットは身体を壊しそうだけど。
「……ん? という事は、この街の女性は沢山水を飲む人が多いんですね?」
「そうですね。私が提唱したお水ダイエットを大勢の方が実践されていますの」
「それって、水道から出た水そのままですか?」
「もちろんです。この街の傍にある山から流れ出る水を取り込み、水道として完備されていますからね」
水を煮沸せずに、そのまま飲むのか。
日本だと水道水は消毒されているけど、この世界の水道って大丈夫なのか?
整理すると、この街の女性は水を沢山飲む。
おそらく、川から取り込んだそのままの水。
数日前の地震の後から、体調を崩す人が続出した。
……って、これから推測されるのは、地震を機に水源となっている川に毒を持つ蛙が棲みついたって事じゃないの?
「ララさん。この街に蛙毒が広まった原因が分かったかもです」
「本当ですか!?」
「確証はありませんが、一先ず冒険者ギルドへ原因の討伐を依頼したいと思います」
「流石リュージさんですね! 冒険者ギルド……に用事があるのであれば、私も一緒に参りましょう」
念のためエミリアさんにキュア・ポーションを渡し、ララさんと共に皆で冒険者ギルドへ。
ちなみに、エミリアさんが重症である事をララさんが知っていたのは、元騎士として故郷であるこの街を良くしようと、普段から街の人々に声を掛けている賜物なのだとか。
ララさんは凄いなぁ。ララさんあってのこの街ではないだろうか。
「ところでお兄さん。蛙毒の原因って何なの?」
セシルが尋ねてきたので、俺の推測を話し、川に居るであろう蛙の魔物を、冒険者に倒して貰おうと考えていると告げると、
「なるほどねー。流石、お兄さん」
「いや、確証はないけど……って、ララさん? どうかされましたか?」
「いえ、ちょっと……」
ララさんが眉をひそめる。
なんだろう。
この世界の事を知らない、的外れな推測だったのだろうか。
「あの、ララさん。間違っていそうであれば、教えていただけると……」
「いえ、そうではないんです。ですが……」
「ですが?」
歩みを進めつつララさんの言葉を待って居ると、冒険者ギルドの建物に到着し、
「おや、これはララ殿ではないですか。騎士崩れ……失礼、商人ギルドの職員が当ギルドへ何の用事でしょうか?」
ムカつく禿げたオッサンが現れた。
「アンドレアさん。こちらは、流行っていた症状を治療してくれたリュージさんです。冒険者ギルドに依頼があるので、話を聞いていただけないでしょうか」
「治療? この兄ちゃんがか? 信じられんな」
「信じられなければ、その辺りを歩いている女性に聞いてみれば良いでしょう。リュージさんが優れた医者であると話してくれるはずです」
「医者ねぇ……まぁいい。依頼という事なら話を聞こう。中へ入りな」
オッサンは、俺の事を値踏みするかのようにジロジロと見たかと思うと、顎で建物の中を示してくるが、初対面の相手に随分と失礼だな。
一先ず冒険者ギルドの中へ入ると、商人ギルドとは違って人が――男が沢山居た。
「で、兄ちゃん。依頼っていうのは?」
「街の水源の川に、毒を持った蛙の魔物が居ると思われるので、それを排除してもらいたい」
「ほう。その魔物は何て言う魔物なんだ? どの辺りに何匹くらい居るんだ?」
「いや、具体的な魔物や数、場所は分からないが、間違いなく居るんだよ」
「おいおい、魔物が何かも分からない、何匹居るかも分からない、おまけに場所も分からない……って、それでどうやって冒険者に依頼しろっていうんだ」
うっ……確かに。
川に棲みついた蛙の魔物を、冒険者に排除してもらうのは良いアイディアだと思ったのに。
何とかならないかと考えていると、ララさんが助け船を出してくれる。
「おそらくポイズンフロッグで、個々が持つ毒は小さいはずだが、これだけの被害を出している事を考えると、数十匹居ると思われます。場所はラーク川の上流かと」
「おそらく? 思われる? おいおい、ララさんよ。あんたは、こっちの素人の兄ちゃんと違って、元騎士様だろうが。そんな曖昧な情報で冒険者に動けってか」
「すみません。ですが、今この魔物を討伐しておかないと、数日後にはまた同じ事が起こってしまいます。今回は偶然リュージさんが通り掛かったおかげで助かりましたが、次も同じ偶然が続くとは限りません」
「だが確証は無いんだろ? 元騎士様は、不確実な情報で冒険者に死ねというんだな? まぁ元騎士様からすれば、冒険者なんて使い捨ての駒なんだろうがな」
オッサンの発言でララさんが怒っているが、それよりも何よりも、俺が――キレた。
「ふざけるなっ! ララさんは街の人々の為に動いているんだろ! 街の緊急事態に、冒険者も騎士も関係ないだろう! 皆で協力して魔物を討伐しなければ、また街の人たちが苦しむんだっ!」
「調子に乗るなよ、青二才が。街全体の問題ならば冒険者の出る幕じゃねぇ。それこそ王国の騎士団や、領主に頼むべき案件だろうが! それに、そんな大きな依頼なら、当然依頼額も高くなるが、お前に払えるのか!?」
俺の言葉にオッサンも言葉が荒くなり、まさに一触即発となった時、セシルが静かに口を開く。
「人間のオジサン。お兄さんに指一本でも触れたら、ボクが許さないからね?」
「あぁん!? 何だ、このガキ……セ、セシル様っ!? ど、どうしてこんな所に!?」
「ボクはお兄さんが気に入っているんだ。そのお兄さんに何かあったら……分かるよね?」
「で、ですが、そちらのお医者様やララ……殿の情報だけでは冒険者に依頼が出せないのも事実なのです。我々冒険者ギルドとしても、正確な情報を掴み、依頼の難易度を把握しなければ事故が起こってしまいますので」
今まで俺の影に隠れていたセシルが顔を出した途端に、オッサンの態度が一変した。
だけど、オッサンの言い分も良く分かり、セシルの――貴族令嬢の力でも、依頼は受けて貰えそうにないみたいだ。
「分かりました。この話は無かった事にしましょう。セシル、ごめんな。ララさんも一旦出ましょう」
オッサンと周囲の冒険者たちの視線を浴びながら建物を出て、少し離れると、
「あ、あの……セシル様って、あのセシル=ルロワ様なんですか?」
「おそらくね」
ララさんがこっそり聞いてきたけれど、俺だって正確には知らないよ。
だけどモラト村でセシル=ルロワって呼ばれていたと思う。
この世界の事は分からないけど、ルロワ家っていう貴族が居るのだろうか?
そんな事を考えていると、俺の返事に驚いたララさんが、声を殺しながら再び尋ねてくる。
「リュージ様はセシル様とどのような御関係なのですか?」
「リュージ様って……とりあえず、セシルとは旅を共にする仲間だよ。もちろんアーニャも」
「でも、どうしてエルフの第四王女様が旅をされているのですか?」
ん? ちょっと待った。
今、ララさんは変な事を言ったよね?
「エルフの第四王女?」
「え? セシル=ルロワ様と言えば、あの有名なエルフの国の王女様ですよね?」
「えっ!? えぇぇぇぇっ!?」
ララさんの発言で、今度は俺が驚いてしまった。
「お兄さん、どうかしたの?」
「えっと、セシルってエルフの王女様なの?」
俺の大声でセシルが話し掛けてきたので、ララさんからの話を本人に聞いてみた。
「あー、うん。そうだね」
「そっかー。セシルは貴族令嬢と思っていたんだけど、王女様だったのか」
「うん。お兄さんは、ボクが王女だって知って、どう思った?」
「え? 驚きはしたけど、別に何も……あ、もしかして言葉遣いとかを変えた方が良いとか?」
「ち、違うよ! 今のままでお願い」
「わかった」
セシルは王女様か。どおりで身の周りの事が一人で出来ないはずだよね。
「セシルさんって王女様なんですか? リュージさんはともかく、私は言葉遣いを変えた方が良いですか?」
「今まで通りで良いって言っているし、別に良いんじゃない? 貴族令嬢だろうと王女様だろうと、セシルはセシルだしね」
「そーゆー事っ! 流石、お兄さん。というわけで、猫のお姉さんもボクに対して態度を変える必要は無いからねー」
セシルからもアーニャに対して、今まで通りでと言っているし、気にしなくても良いだろう。
「さてと。お兄さんがボクの事を知らなかったから黙っていたけど、その気になればこの国の騎士団を動かすように要請出来たりするけど、どうする?」
「騎士団を動かせるなんて凄いね。冒険者ギルドはダメだったし、この街の危機だし、セシルが構わないなら騎士団に動いて貰うのが良いかもしれないね」
「分かったー。じゃあ早速国王宛てに手紙を書こうかな。商人ギルドで手紙が出せるよね?」
セシルが王女だと知り、暫く固まっていたララさんだったけど、商人ギルドの話になってようやく我に返る。
「出せますが……正直に申し上げますと、王都向けの街道が未だ開通しておりませんし、手紙が王都へ着いたとしても、騎士団が通れる道がございません」
「あ、そっか。俺たちも森の中を通って来たんだった」
「なるほど。王都に居る騎士団を動かしても、到着するまで数日かかっちゃうんだ」
この街を襲った症状の原因が水だと言っても、水を使わない生活が出来るのは、せいぜい一日か二日程度だろう。
さて、どうしようか。
「ララさん。領主は何か手を打たれたんですか?」
「それがタイミングの悪い事に、領主様は地震が起こる前に王都へ行っていて、帰ってこられなくなっているんです」
「それは本当にタイミングが悪いね」
ある意味では難を逃れたので、個人としては運が良いとも言えるが、領主という立場では運が悪いのか。
自分の領地が大変な事になっているというのに、おそらく領主はそれも知らないんだろうな。
そんな事を考えていると、
「だったらボクたちで行こうよ。ポイズンフロッグなんてボクが纏めて倒しちゃうよー」
「ララさんの話では、かなり数が居そうだけど、大丈夫なの?」
「もちろん。ボクに任せて」
セシルが満面の笑みを浮かべて、自信たっぷりに頷く。
確かに、セシルの魔法があれば蛙なんてへっちゃらなのだろう。
「じゃあ、そうしようか。あまり時間を掛けている場合では無さそうだしね」
「うん、それが良いよー」
「では、僭越ながら私が道案内をいたしましょう」
セシルと共に蛙退治に出掛けようとした所で、ララさんも同行すると言ってくれたけど、この街を離れても大丈夫なのだろうか。
「ララさんが来てくれるのは心強いけど、街は大丈夫ですか?」
「はい。商人ギルドの職員も私だけではないですし、私一人が居なくても、街は大丈夫かと」
ララさんは自分を過小評価しているけど、やっている事は凄いと思うよ?
道案内があった方がありがたいのは確かだけどさ。
ポイズンフロッグ? とかいう魔物だって、俺は見た事がないしね。
「ではすみませんが、協力をお願いいたします」
「それはこちらの方こそですよ。皆さん、よろしくお願いいたします」
ララさんと共に、グレーグンの街の水源――ラーク川の上流に向かって出発する事になった。
なったのだが、
「皆さん。馬には乗れますか?」
街の門の近くでララさんから出た質問で、全員の足が止まる。
「俺は乗ったが無いかな」
「ボクは馬車なら乗った事があるよー」
「私は乗った事はありますけど……あまり得意ではないです」
セシル。馬車なら俺だって乗った事があるからね? 座っているだけだし。
もちろん御者は出来ないけどさ。
「なるほど。では、馬を二頭用意しましょう。どこまで川を上れば良いか分かりませんが、徒歩では陽が暮れてしまいます」
「それって、私がセシルさんかリュージさんのどちらかを乗せるって事ですよね? 正直言って自分が乗るので精一杯で、一緒に乗っている人を気遣う余裕はありませんが……」
「だったら俺がアーニャに乗せてもらうよ。万一落ちて、セシルに怪我をさせる訳にはいかないからね」
俺なら倉魔法でバイタル・ポーションをすぐに取り出せるし、落ちたとしても頭を打ったりしなければ、まぁ大丈夫だろう。
「馬車はダメなのかな?」
「セシル様。街道を通る訳ではないので、少々無理があるかと」
「そっかー」
残念そうな表情を浮かべるセシルがチラチラとこっちを見てくる。
これはもしかして、馬が怖いという事だろうか。
「大丈夫だよ、セシル。馬は怖くないよ」
「え? お兄さん。ボク、別に馬は怖くないよ?」
「あれ? じゃあ、俺の気のせいか。ごめん、気にしないで」
さっきのは何だったのだろうかと思いながらも、手配してくれた馬にララさんとセシルが乗り、俺もアーニャが乗った馬に……
「リュージさん。未だです! 未だ乗らないでください!」
乗れるだろうか。
ララさんとセシルを乗せた馬は静かに待っているが、アーニャを乗せた馬はグルグルと周囲を歩いている。
暴れ馬? いや、そんな感じはしないな。
珍しく必死の表情を浮かべるアーニャを暫く眺めていると、どうにか俺の前で馬が止まる。
「リュージさん、今です! 早く乗ってくださいっ!」
「今!?」
「そうです。今ですっ!」
差し出されたアーニャの手を取ると、思っていた以上に強い力で引っ張り上げられ、
「アーニャ!? もう動くの!?」
「しっかり掴まってくださいっ!」
「掴まるって、どこに!?」
「……では私の腰にっ! 早くっ! は、走りますよっ!」
飛ばしすぎではないだろうか。
アーニャが馬を唐突に走らせ……というか、馬が勝手に走っている!?
「アーニャ! 早過ぎない!?」
「それは馬に言ってくださいっ!」
「えっ!? コントロールしてよっ!」
「どうやってですかっ!?」
「マジかぁぁぁっ!」
頭を打たなければ大丈夫だと思っていたけど、当初想像していたのと速度が違う!
異世界だから? 見た目は普通の馬なのに、めちゃくちゃ速いんだけどっ!
「リュージさん……」
「どうしたの?」
「腰にしがみついても良いとは言いましたが、うなじに息を吹きかけるのはちょっと……」
「そんな事してないからっ! というか、ララさんから離れすぎてない!?」
「あ、そっちじゃないって叫んでますね」
「方向転換してぇぇぇっ!」
俺が叫ぶと、方向は変えてくれたんだけど、速度はそのままな訳で。
「アーニャさん。そのまま真っ直ぐ進んでください」
「分かりましたー」
「むー! お兄さん、猫のお姉さんにくっつき過……」
セシルが何か言っていたけれど、アーニャが相変わらずの爆速でララさんたちを追い抜いてしまい、最後まで聞き取れなかった。
「リュージさん。川がありましたよ」
「じゃあ速度を落として魔物が居ないか確認しながら……」
「ですから、速度の落とし方が分からないんですってば」
「嘘ぉぉぉーっ!」
うん、無理!
馬に乗りながら魔物を探すのは諦めよう。
アーニャに全力で抱きつき、ギュっと目を閉じる。
どれくらい時間が経ったかは分からないけど、突然馬が止まった。
「どうしたの?」
「これ以上は進めそうにないので止まりました」
良かった。速度を緩める事は出来ないけど、止まる事は出来るんだね。
「え? リュージさん? リュージさんっ!?」
爆速による恐怖のせいなのか、それとも乗り物酔いなのか。
馬から降りた途端に、俺は気を失ってしまった。
「……さん。お兄さん!」
心配そうなセシルの声と共に目を覚ますと、少し陽が落ちかけていた。
「お兄さんが目覚めたっ! お兄さーんっ!」
「セシル!?」
「もうっ! 心配したんだからねっ!」
横になっている俺に、セシルが覆いかぶさるようにして抱きついてくる。
セシルの柔らかさと温かさを感じるのだが……何故か俺の後頭部にもムニムニした感触があるんだけど、これは何だろうか。
「リュージさん。ご気分はいかがですか? 突然倒れてきたので、ビックリしましたよ」
アーニャの声がすぐ上から聞こえ……って、目の前にアーニャの顔がある。
という事は、まさかアーニャに膝枕してもらっているの!?
セシルとアーニャに挟まれ、ちょっと幸せな気分を味わいつつも、いつまでもこうしていられないので起き上がると、ララさんが現状を話してくれた。
「私とセシル様で川を下流から見ていましたが、特に変わった様子はありませんでした。この為、魔物はもっと上流だと思うのですが、もうすぐ陽が落ちます。どこかで野宿をするか、一度町へ戻るかを決めなければなりません」
「じゃあ、ここで朝を待とう。ここならまだ山の手前で広さもあるし」
早速城魔法を使って家を呼び出すと、診療所だけだと思っていたララさんが、キッチンやリビングある事に驚いていた。
「凄いですが、この水道の水はどこから来ているのでしょう?」
「実は俺も分からないんだよね」
「そうなんですか。不思議な魔法ですね」
「でも、そもそも魔法自体が不思議なものじゃないの?」
「いえ、決してそういう訳ではないのですが……って、ほ、本があるんですかっ!?」
いつもの通りアーニャがご飯の準備をしてくれて、セシルがリビングでゴロゴロしながらラノベを読んでいると、それに気付いたララさんが目を丸くする。
どうやら騎士でも本は貴重らしい。
「ララさんも読みますか?」
「宜しいのですか?」
「もちろん。どういう話が良いですか?」
「どういう話……というと?」
「いろんな種類があるので。ララさんなら、戦記ものとかが良いのかな?」
聞けば、騎士は文字の読み書きが出来ないといけないそうなので、文字数が多くても全く問題ないそうだ。
何にするかを少し考え、名作と呼ばれる騎士が主人公のラノベを渡し、セシルとララさんが二人して読書をしている間、俺は調剤室へ。
これから蛙毒の原因となる魔物を倒す訳だから、キュア・ポイズンを多めに作って、すぐ使えるように倉魔法へ格納しておこうと思う。
あと、患者さんの中には麻痺毒も受けていた人が居たし、一つで全部治せるパナケア・ポーションも作っておく。
体力回復のバイタル・ポーションも作っておき、万が一の事を考えてマジック・ポーションも。
魔物が沢山居るだろうって話だから、セシルが魔法を連発しても大丈夫なようにしておかないとね。
それから……前にガーネットが来た時、暗視目薬を使ったから、これも作っておこうか。
これはAランクが必要だから、ちょっと多めに作らないと。
……しかし、同じ調合をしているはずなのに、どうしてAランクとBランクで分かれてしまうのだろうか。
「皆さーん、ご飯ですよー!」
ある程度の数のポーションを作り終えた所でアーニャの呼ぶ声が聞こえてきたので、リビングへ。
今日も美味しいアーニャの料理を味わっていると、
「魔物退治の途中でこんなに美味しい食事が出来るなんて……」
何故かララさんが物凄く感動していた。
アーニャの料理が美味しいのは分かるけれど、涙まで流さなくても。
「お風呂は誰から入る?」
「お風呂!? お風呂にまで入れるんですかっ!? ……こんなの、私が知っている魔物退治の任務じゃないですっ!」
まぁ、そもそも任務じゃないんだけどさ。
でも騎士の任務ってキツそうだもんね。
一先ずララさんにゆっくり休んでもらおうと、お風呂へ入ってもらっている間に空き部屋に布団を敷いておくと、またもや感動されてしまった。
それから、いつものようにセシルが俺の部屋に来て、さぁ寝ようかというところで、どこかで聞いた事のある変な音が、窓の外から聞こえてきた。