「先生。先程のポーションは、何と言う名前なんですか? 私、恥ずかしながら商人ギルドの職員となって二年目で、未だ見ただけでは分からなくて」

 二年目? お姉さんの見た目は二十代半ばといった所だから、日本でいう所の大学みたいな所まで居たのだろうか。
 いや、もしかしたら転職かもしれない。随分と街を救う事に熱意を持って居たし、こっちかな。

「あの、先生は恥ずかしいので止めてください。俺はサイトウ=リュージと言います」
「了解しました。私はララと申します。元々王都で騎士をしていたのですが、手足が冷えるようになり、夜間の任務が辛くなったので、生まれ故郷のこの街へ戻って来てギルド職員となったんです」
「元騎士の方ですか。それで街を救おうと一生懸命だったんですね」
「あはは……ギルドマスターから商人はもっとクールになれって怒られますけどね。でも、自分の故郷で変な呪いみたいなのが蔓延しているのは嫌じゃないですか」

 きっと、ララさんは凄く良い人なんだろう。
 この病気の原因さえ何とかすれば、ララさんがきっと街を元の状態に戻してくれるはずだ。

「ところで先程のポーションは……」
「先程のポーションは、パナケア・ポーションっていうんですけど、御存じですか?」
「パ、パナケア……ポーションですか!?」
「はい。どうかしましたか?」

 ポーションの名前を告げると、突然ララさんが硬直して動かなくなってしまった。
 どうしたのだろうと思っていると、部屋の隅に居たアーニャが慌てた様子で口を開く。

「リュージさん。パナケア・ポーションなんて作れるんですか!?」
「うん。それがどうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないですよっ! パナケア・ポーションと言えば、ほぼ全ての状態異常に効く万能薬じゃないですかっ!」
「そうだね」
「そうだね……って、どうしてそんなに軽いんですかっ!? 教会で複数の状態異常を治療してもらおうとしたら、白金貨以上を寄付しないといけないのに、それと同等の効果なんですよっ!?」

 なるほど。要は、物凄い薬だって事だったのか。
 白金貨って、確か日本円で考えると十万円くらいだっけ? 普通の人が飲む薬としては高いかも。

「あの、ギルドマスターに怒られるので、私の貯金からお支払いいたします」
「待ってください。俺がそんなに高額な薬だと知らずに出したのが悪いんです。それに、さっきの薬は買った訳ではなく、俺が作ったんです。なので、高額な代金は要らないですよ」
「ですが、ポーション毎にギルドで買い取る金額が定められていまして……ちょっと待ってくださいね」

 そう言って、ララさんがポケットから小さな本を取り出し、ペラペラと捲りだす。

「パナケア・ポーションは……あった! 商人ギルドでの標準買い取り価格はDランクで白金貨一枚。それ以上のランクは要相談……先程のポーションって、何ランクですか?」
「え、Fです。ですから、もっと低額で良いですよ」

 言えない。出したポーションがAランクで、ララさんに状態異常無効化という効果まで付与されているなんて。

「しかし先程のポーションは濃い緑色でした。この本に示されているDランクのパナケア・ポーションは薄い緑色です。……まさかCランク、いえBランクとか!?」
「気のせいですよ。お渡ししたポーションは凄く薄い緑色でしたよ」
「本当ですか?」
「はい、本当です。本当ですってば」

 ララさんが涙目になりながら、俺を見上げてくるけど、一先ずブラウスの前を閉めてくれないだろうか。
 綺麗なお姉さんに胸を出しながら上目遣いで見つめられたら、どうしてもそっちに目が行ってしまうんだけど。

「やっぱり先程のポーションはBランクくらいだと思うんです。ポーションの効果なのか、騎士を辞めた原因である手足の冷えも治ったみたいですし。騎士に戻って危険な任務で特別報酬を貰って来ますので、少しお待ち願えないでしょうか」
「危険な任務なんて就かないでくださいよ」
「ですが……あ! 私をリュージ様の奴隷にしていただいて、それでお支払いするというのはいかがでしょうか。幸い胸は大きいですし、リュージ様も気になさってくださっていますし。私の身体にパナケア・ポーション程の価値があるかは分かりませんが」
「本当に気にしなくて良いですって! あと、女性がそんな事言っちゃダメですから! 先程のポーションはFランク。作った俺が言うので、間違いありません!」

 チラチラと胸に目が行ってしまっていた反省も踏まえて少し強めに主張すると、渋々と言った感じのララさんが、ようやくFランクとしての価格で納得してくれた。
 今後は、診察が終わったら、すぐに胸を仕舞って貰うというのも徹底していこう。