「なんやねんな、急に。ちょっとぐらい説明してーな!」
「せや、説明せえや!」
「うっせぇ、早く俺をここから出せ! わかったんだって! いや……まだ首以外がどこに消えたかはわからないが、少なくとも犯人がわかったんだって!」
「……なんや分かれへんけど、後でちゃんと説明してもらうで!」
ミリィたちに鍵を開けてもらって独房から廊下に歩み出ると、別に足を延ばせないほど狭いところに押し込められていた訳でもないのに、リュカはやたらと大きな伸びをした。
「あいつらが出て行ってからどれぐらい経った?」
「さぁ……? ヒラリィ、どれぐらいやろ」
「たぶんやけど、六刻ぐらいやないやろか?」
「六刻か……」
さすがに六刻分もの遅れを取り戻すのは、簡単なことではない。
だが、少しずつでも向こうを上回る速度で追っていけば、どこかで必ず後ろ髪をひっつかまえることが出来るはずだ。
「いそがなきゃ……な」
リュカが唇に歯を立てると、双子はちらりと互いに目を見合わせる。
「じゃ、ヒラリィ、ウチらは部屋戻ろかー」
「せやな。じゃーぼんぼん、頑張ってなー。応援してるでー」
二人が背を向けて歩みだそうとした途端、「ぎゃん!?」と頭をぶつけた犬みたいな声が響き渡った。
リュカがヒラリィの尻を蹴り上げたのだ。
「お、乙女のケツに蹴り入れるとか、何考えとんねん!」
「うるせぇ! お前らも一緒に来んだよ!」
「イヤやっちゅうねん! 他の女を助ける手伝いなんか真っ平ごめんやわ!」
「せや! せや! 考えてもみーや。うまいこと助け出したら助け出したで、目の前でイチャイチャされたりすんねんで冗談やないっちゅーねん!」
「するか、ボケェ!」
声を荒げるリュカに、双子はほぼ同時に左右から顔を突きつけてきた。
「いーや! する、ぜーったいするね!」
「するに決まっとるがな! っていうか、もう嫁でもないとか言うてたやん。そもそもぼんぼん助ける辺りまではまあ、こっちも奥さまにお世話になってる身やししゃーないと思うけど、ウチらも暗殺者や、無料で赤の他人助けるほど安ぅないで」
「わーった! わーったから! 金払う! だから手伝ってくれって、な!」
リュカがそう言って手を合わせると、途端に彼女たちは二人して、世にも珍しいものでも見たかのような顔をした。
「なんやねん? ぼんぼん、どうしてしもてん? まさか暗殺貴族ヴァンデール子爵家の長男ともあろう御方が、ビビってしもたとか言う訳やないやろな?」
「……そ、そういうことじゃねぇよ」
「じゃ、なんやねん」
怪訝そうに首を傾げる双子。リュカは彼女たちから視線を逸らして、苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
「……俺、馬、乗れねぇ」
「「……は?」」
「馬だよ! 馬! 馬に乗れねぇって言ってんだろうが! あいつら! 俺の言うことはちぃぃぃっとも聞きやがらねぇ! 獣のくせにお高く留まりやがって畜生め!」
地団駄を踏みながら喚き散らすリュカに、二人は呆れたとばかりに顔を見合わせた。
「よう考えたら、確かにぼんぼんが馬乗ってるとこ見たことないな」
「ホンマや」
そして二人は声をそろえて、指をさす。
「「ぼんぼん、かっこ悪ぅ!」」
「うるせぇー!」
双子はなにやらヒソヒソと話あった末に、顔を見合わせてにんまりと口元を歪めた。
「なあ、ぼんぼん。手伝ってもええねんけどぉ、それなりに高く付けさせてもらうでぇ」
「わかった。金なら出してやる。妾にしろってのは却下だ! 早くしろ! いくぞ!」
「え! ちょ、ちょっと待ちぃや! まだ何にも言うてへんやんか!」
そんな傍から見ている分には冗談としか思えないようなやりとりの末に、先に駆け出したリュカの後を追って双子が階段を駆け上がる。
玄関ホールに走り出ると、そこには同僚の騎士たちが集まっていた。
彼らはリュカの姿を目にすると、少し驚いたような表情で互いに顔を見合わせた。
「おい、リュカ。なんだよ脱獄かよ。一応俺ら、お前の監視するように言われてんだぞ、見て見ぬフリもしにくいだろうが、ばーか」
そう口にしながら歩み寄ってきたのは、男爵家の放蕩息子ユーディンである。
彼はニヤニヤしながら、リュカの肩に肘を乗せた。
「聞いたぜぇ、団長からとうとう三下り半叩きつけられたって?」
「うっせぇ、俺は団長を追う。止めるってんなら容赦しねぇぞ」
「容赦しねぇと来たもんだ。それは万年味噌っかすのおめえのセリフじゃねぇな」
そう言って彼は、リュカの鼻先をピンッと弾いた。
「遅ぇんだよ、バカ野郎が! いつまで経ってもテメェが出てこねぇから、もう俺たちで団長、寝取っちまおうかってな話をしてたところだ」
「テメェらの手に負えるタマじゃねぇよ」
「ははっ、違いねぇ。表に馬車を用意してある。とっとと行きやがれ。俺らは何も見なかった、気が付いたら馬車が一台盗まれてたってだけの話だ、なあ、みんな」
ユーディンがそう言って振り向くと、同僚たちは声を上げて笑う。
リュカは礼を言うでもなく、振り返ることすらせずに外へと駆け出した。
門前の広場には馬車が一両。
とは言っても一頭立ての小さな荷馬車だ。
それが、すぐにでも駆け出せるように引き出されていた。
彼らは慌ただしくそれに飛び乗ると、御者台に乗ったミリィが「いくで!」と鞭を入れる。
途端に馬は大きく嘶いて駆け出し、馬車は開け放たれたままの城門を一気に飛び出した。
「せや、説明せえや!」
「うっせぇ、早く俺をここから出せ! わかったんだって! いや……まだ首以外がどこに消えたかはわからないが、少なくとも犯人がわかったんだって!」
「……なんや分かれへんけど、後でちゃんと説明してもらうで!」
ミリィたちに鍵を開けてもらって独房から廊下に歩み出ると、別に足を延ばせないほど狭いところに押し込められていた訳でもないのに、リュカはやたらと大きな伸びをした。
「あいつらが出て行ってからどれぐらい経った?」
「さぁ……? ヒラリィ、どれぐらいやろ」
「たぶんやけど、六刻ぐらいやないやろか?」
「六刻か……」
さすがに六刻分もの遅れを取り戻すのは、簡単なことではない。
だが、少しずつでも向こうを上回る速度で追っていけば、どこかで必ず後ろ髪をひっつかまえることが出来るはずだ。
「いそがなきゃ……な」
リュカが唇に歯を立てると、双子はちらりと互いに目を見合わせる。
「じゃ、ヒラリィ、ウチらは部屋戻ろかー」
「せやな。じゃーぼんぼん、頑張ってなー。応援してるでー」
二人が背を向けて歩みだそうとした途端、「ぎゃん!?」と頭をぶつけた犬みたいな声が響き渡った。
リュカがヒラリィの尻を蹴り上げたのだ。
「お、乙女のケツに蹴り入れるとか、何考えとんねん!」
「うるせぇ! お前らも一緒に来んだよ!」
「イヤやっちゅうねん! 他の女を助ける手伝いなんか真っ平ごめんやわ!」
「せや! せや! 考えてもみーや。うまいこと助け出したら助け出したで、目の前でイチャイチャされたりすんねんで冗談やないっちゅーねん!」
「するか、ボケェ!」
声を荒げるリュカに、双子はほぼ同時に左右から顔を突きつけてきた。
「いーや! する、ぜーったいするね!」
「するに決まっとるがな! っていうか、もう嫁でもないとか言うてたやん。そもそもぼんぼん助ける辺りまではまあ、こっちも奥さまにお世話になってる身やししゃーないと思うけど、ウチらも暗殺者や、無料で赤の他人助けるほど安ぅないで」
「わーった! わーったから! 金払う! だから手伝ってくれって、な!」
リュカがそう言って手を合わせると、途端に彼女たちは二人して、世にも珍しいものでも見たかのような顔をした。
「なんやねん? ぼんぼん、どうしてしもてん? まさか暗殺貴族ヴァンデール子爵家の長男ともあろう御方が、ビビってしもたとか言う訳やないやろな?」
「……そ、そういうことじゃねぇよ」
「じゃ、なんやねん」
怪訝そうに首を傾げる双子。リュカは彼女たちから視線を逸らして、苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
「……俺、馬、乗れねぇ」
「「……は?」」
「馬だよ! 馬! 馬に乗れねぇって言ってんだろうが! あいつら! 俺の言うことはちぃぃぃっとも聞きやがらねぇ! 獣のくせにお高く留まりやがって畜生め!」
地団駄を踏みながら喚き散らすリュカに、二人は呆れたとばかりに顔を見合わせた。
「よう考えたら、確かにぼんぼんが馬乗ってるとこ見たことないな」
「ホンマや」
そして二人は声をそろえて、指をさす。
「「ぼんぼん、かっこ悪ぅ!」」
「うるせぇー!」
双子はなにやらヒソヒソと話あった末に、顔を見合わせてにんまりと口元を歪めた。
「なあ、ぼんぼん。手伝ってもええねんけどぉ、それなりに高く付けさせてもらうでぇ」
「わかった。金なら出してやる。妾にしろってのは却下だ! 早くしろ! いくぞ!」
「え! ちょ、ちょっと待ちぃや! まだ何にも言うてへんやんか!」
そんな傍から見ている分には冗談としか思えないようなやりとりの末に、先に駆け出したリュカの後を追って双子が階段を駆け上がる。
玄関ホールに走り出ると、そこには同僚の騎士たちが集まっていた。
彼らはリュカの姿を目にすると、少し驚いたような表情で互いに顔を見合わせた。
「おい、リュカ。なんだよ脱獄かよ。一応俺ら、お前の監視するように言われてんだぞ、見て見ぬフリもしにくいだろうが、ばーか」
そう口にしながら歩み寄ってきたのは、男爵家の放蕩息子ユーディンである。
彼はニヤニヤしながら、リュカの肩に肘を乗せた。
「聞いたぜぇ、団長からとうとう三下り半叩きつけられたって?」
「うっせぇ、俺は団長を追う。止めるってんなら容赦しねぇぞ」
「容赦しねぇと来たもんだ。それは万年味噌っかすのおめえのセリフじゃねぇな」
そう言って彼は、リュカの鼻先をピンッと弾いた。
「遅ぇんだよ、バカ野郎が! いつまで経ってもテメェが出てこねぇから、もう俺たちで団長、寝取っちまおうかってな話をしてたところだ」
「テメェらの手に負えるタマじゃねぇよ」
「ははっ、違いねぇ。表に馬車を用意してある。とっとと行きやがれ。俺らは何も見なかった、気が付いたら馬車が一台盗まれてたってだけの話だ、なあ、みんな」
ユーディンがそう言って振り向くと、同僚たちは声を上げて笑う。
リュカは礼を言うでもなく、振り返ることすらせずに外へと駆け出した。
門前の広場には馬車が一両。
とは言っても一頭立ての小さな荷馬車だ。
それが、すぐにでも駆け出せるように引き出されていた。
彼らは慌ただしくそれに飛び乗ると、御者台に乗ったミリィが「いくで!」と鞭を入れる。
途端に馬は大きく嘶いて駆け出し、馬車は開け放たれたままの城門を一気に飛び出した。