「おい! 貴様ッ! 起きろ!」
リュカがうっすらと瞼を開けると、目の前に切羽詰まった表情のオリガの顔があった。
「うぅん、もう……朝です、か?」
彼は寝ぼけ眼を擦りながら、窓の方へと目を向ける。
風は緩んでいるようだが、未だに銀糸のような細い雨が降り続いていた。
空の明るさを考えれば、時刻はおそらく夜明け前といったところだろうか。
朝と言うには少し早い。
「もうちょっと……寝かせてくださいよ」
「馬鹿者! それどころではない! 血の臭いがするのだ! ……かすかだが扉の隙間から確かに血の匂いがするのだ!」
リュカの表情が思わず強張る。言われてみれば、確かに鉄錆のような臭気が漂ってくる。
慌てて懐に入れたままにしていた鍵束を探るも、それはちゃんとそこにあった。
「俺が寝てる間に、誰かが中に入ったりは……?」
「するか! そもそも扉にもたれ掛かっているのは貴様ではないか! 誰もここへは来てはおらん!」
「とにかく扉を開けます!」
リュカは鍵束から一番大きな鍵を掴み取り、閂を外す。
そのまま把手を握って肩で押しながら力を籠めると、悲鳴にも似た重い音を立てて鉄の扉が開いた。
「なんだよ、これ……」
途端に、リュカは眉根を寄せる。
廊下の奥から漏れ出してきたのは濃厚な血の匂い。
外した錠前を放り出し、彼は表情を強張らせてオリガを振り返った。
(何かが起こってる。碌でもないことが起こってやがるぞ)
そう目配せすると、彼女は緊張の面持ちで頷く。
「急ぐぞ!」
彼女がスラリと剣を引き抜くと、リュカはカンテラを手に肩で扉を押し開け、廊下の先、暗闇の向こう側へと目を凝らした。
だが、灯りの届く範囲に、奥へと続く石造りの床の他には目に付くものは何も無い。
夜明け前とはいえ真夏。籠もった熱気に肌が汗ばみ、気が急いているのだろう、背後からかすかに聞こえてくるオリガの息遣いは少し速い。
やがて廊下の行き止まり、仄かな灯りの中に武骨な鉄の扉、その輪郭が浮かび上がった。
「……団長、どこです?」
声を潜めて呼びかけてみても返事は無い。
この扉の前で警護していたはずのヴァレリィの姿がどこにも見当たらないのだ。
その上、扉がわずかに開いている。
そんなはずはない。
鍵を持っているのはリュカなのだ。
だが、いくらそんなはずはないと言い募ろうと実際に扉は開いている。
リュカは、オリガの喉がゴクリと音を立てるのを聞いた。
二人は足音を殺して扉の傍へと歩み寄り、リュカはカンテラを掲げて、わずかに開いた隙間から中を覗き込んだ。
◇ ◇ ◇
「……団長、どこです?」
ヴァレリィは、リュカのそんな声を聞いたような気がした。
途端に、彼女は深い水底から水面へと急浮上するような、そんな感覚に捉われる。
どこか覚えのある感覚。激務の翌朝、泥のような眠りから目覚める時に感じる、あの感覚だ。
(なんだ……もう朝……なのか?)
身体の下に感じるのは、固く冷たい石畳の感触。
(なんで私はこんなところで寝ているのだ? 寝ぼけてベッドから落ちたのだろうか?)
やけに顔が痛い。
声を出そうとしても呻き声にしかならず、身を起こすのも億劫だ。
リュカとオリガの何やら騒いでいる声が聞こえてくるが、何を話しているかまではよくわからない。
(二人は仲良くなったのだろうか? しかし……あまり仲良くなられるのも複雑だな)
ふわふわした頭のままで、そんなことを考えていると、
「団長ですか?」
リュカのそんな問いかけがはっきりと聞こえてきた。これには彼女も少しムッとする。
(確認せねば、自分の妻のこともわからぬのか?)
これは文句の一つも言わねばならんと、彼女は寝ぼけ眼のままにゆっくりと身を起こして振り返る。
そこにはカンテラを手にしたリュカと、オリガの姿があった。
だが、ヴァレリィが口を開きかけた途端、オリガがリュカを突き飛ばし、顔を引き攣らせながら、ヴァレリィの眼前へと剣を突きつけてくる。
「ヴァレリィィイイイイッ! やはりあの話は本当だったのか! 喰人鬼め! 貴様が姫殿下を喰らったのだな!」
◇ ◇ ◇
ヴァレリィの眼前に突きつけられるオリガの剣。
その刀身がカンテラの灯りを反射して、彼女の顔を照らし出した。
血まみれの口元。
だが、そこに浮かぶ表情を一言で表現するならば、困惑という表現が似つかわしい。
それは、何が起こっているのかよくわからないという、戸惑いの表情であった。
リュカの目に、それは演技には見えなかった。
いや、そもそも疑うまでもない。
愚直なヴァレリィに演技など出来るはずがないのだから。
この時点でリュカの胸の内では、ヴァレリィが姫殿下を殺したという可能性は消えた。
証拠はないが、それは絶対にあり得ないことだ。
だが、オリガにとってはそうではない。
外部からの出入りは不可能。そんな閉ざされた部屋の中で、姫殿下の死体のそばに口元を血まみれにしたヴァレリィが蹲っていたのだ。
彼女が犯人だと、状況はなにもかもがそう雄弁に語っていた。
オリガは完全に激高しきっていて、今にもヴァレリィに斬りかからんばかり。剣を握った彼女の右手の動く気配に、リュカは慌ててその肩を掴んだ。
「ま、待ってください!」
「ええぃ! 邪魔をするな!」
オリガは剣を振り上げたまま、彼のその手を振り払う。そして吠えるがごとくに声を荒げた。
「こいつが! この女が殺ったに決まっているだろうが! ここには姫殿下とこいつしか居なかった! あの口元を見ろ! 姫殿下を喰らった何よりの証拠ではないか!」
もはや、立場を気にしている場合ではない。
リュカはオリガとヴァレリィの間に身をすべりこませて、声を荒げる。
「アホか! 血だまりに顔ツッこんで伸びてりゃああなるに決まってるだろうが! 団長を殺して腹掻っ捌いても肉片の一つも出て来やしない! 絶対にだ! そん時になって後悔すんのはアンタだぞ!」
「いいや! そいつだ! 他に誰がいる!」
「いいから! とにかく俺に話をさせろ! 斬りたきゃそれからにしやがれ!」
「愚かな! 貴様も食われるぞ!」
「上等だ! 俺が喰われたら、喰っている間に斬ればいいだろ!」
オリガはリュカを睨みつけたまま。だが彼はそんな彼女に背を向けて、ヴァレリィへと向き直った。
「団長! 何がどうなってるんです! 一体ここで何が!」
「何が……?」
戸惑いの表情のままに首を傾げるヴァレリィ。だが、一拍の間を置いて、彼女はビクンと身を跳ねさせた。
「そ、そうだ! 姫殿下は! 姫殿下はご無事か!」
ヴァレリィは周囲を見回し、ベッドの上に転がる首を目にして息を呑む。
そして、静寂の内にギリリと奥歯を噛み締める音が響いて、彼女は力なく項垂れた。
「何があったんです?」
「……わからん。血の臭いがしてきたのだ。扉の隙間から……。ベッドの下に何者かが潜んでいたに違いないと慌てて部屋に飛び込んだのだが、不覚にも濡れた床に足を滑らせてこのザマだ」
彼女のその言葉に、リュカは思わず目を見開く。
「ベッドの下!?」
彼は慌ててシーツをめくりあげ、カンテラでベッドの下を照らし出した。
だが、そこには何も見当たらない。目を凝らしてみても血の跡一つ見当たらなかった。
ヴァレリィの話を聞いて、リュカは瞬時にこう考えたのだ。
犯人はベッドの下に隠れて姫殿下を待ち受け、殺害後は再びそこに隠れる。
リュカとオリガがこの部屋に踏み込んだ後、二人がヴァレリィに気を取られている間に脱出する。
そんな一連の可能性だ。
だが、姫殿下を殺す前ならともかく、殺害時に返り血を浴びた状態で再びそこに隠れたなら、血の痕一つ残らないはずがない。
隠し扉は無かった。
この部屋で誰かが隠れられる場所を考えれば、このベッドの下以外にはない。
ヴァレリィはそう考えたのだろう。
だがそれは只の推測。そして……恐らくハズレだ。
二人のそんなやりとりを嘲笑うように、オリガが声を上げた。
「はっ! バカバカしい。嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ! 我々はここへ至るまでに誰にも出会わなかったのだぞ。通路の途中に隠れる所などありはしない。ベッドの下に何者かが隠れていたのだとしたら、そいつは一体どこへ消えたというのだ。ここにいたのはやはりヴァレリィ! 貴様と姫殿下のみではないか! 喰人鬼め! アンベール卿だけでは飽き足らず姫殿下まで喰らうとは、この悍ましい化け物めが!」
(……喰人鬼か)
首だけを残して死体が消え去るという極めて異常な状況である。
本来なら殺した、殺されたという次元で説明のつく話では無い筈なのだが、それを極めて単純に一人の人間の仕業として収束せしめているのが、『喰人鬼』という存在。いや、概念と言った方がいいだろうか。
リュカにはどうにもそれが出来過ぎているような気がしてならない。
まるで最初からヴァレリィを喰人鬼に仕立て上げようとしているかのような、そんな作為的なものを感じずにはいられないのだ。
いずれにしろ、ヴァレリィが犯人じゃないことは、リュカの中では疑いようもない事実だ。ならばどうにかして、それを証明するしかない。
リュカがうっすらと瞼を開けると、目の前に切羽詰まった表情のオリガの顔があった。
「うぅん、もう……朝です、か?」
彼は寝ぼけ眼を擦りながら、窓の方へと目を向ける。
風は緩んでいるようだが、未だに銀糸のような細い雨が降り続いていた。
空の明るさを考えれば、時刻はおそらく夜明け前といったところだろうか。
朝と言うには少し早い。
「もうちょっと……寝かせてくださいよ」
「馬鹿者! それどころではない! 血の臭いがするのだ! ……かすかだが扉の隙間から確かに血の匂いがするのだ!」
リュカの表情が思わず強張る。言われてみれば、確かに鉄錆のような臭気が漂ってくる。
慌てて懐に入れたままにしていた鍵束を探るも、それはちゃんとそこにあった。
「俺が寝てる間に、誰かが中に入ったりは……?」
「するか! そもそも扉にもたれ掛かっているのは貴様ではないか! 誰もここへは来てはおらん!」
「とにかく扉を開けます!」
リュカは鍵束から一番大きな鍵を掴み取り、閂を外す。
そのまま把手を握って肩で押しながら力を籠めると、悲鳴にも似た重い音を立てて鉄の扉が開いた。
「なんだよ、これ……」
途端に、リュカは眉根を寄せる。
廊下の奥から漏れ出してきたのは濃厚な血の匂い。
外した錠前を放り出し、彼は表情を強張らせてオリガを振り返った。
(何かが起こってる。碌でもないことが起こってやがるぞ)
そう目配せすると、彼女は緊張の面持ちで頷く。
「急ぐぞ!」
彼女がスラリと剣を引き抜くと、リュカはカンテラを手に肩で扉を押し開け、廊下の先、暗闇の向こう側へと目を凝らした。
だが、灯りの届く範囲に、奥へと続く石造りの床の他には目に付くものは何も無い。
夜明け前とはいえ真夏。籠もった熱気に肌が汗ばみ、気が急いているのだろう、背後からかすかに聞こえてくるオリガの息遣いは少し速い。
やがて廊下の行き止まり、仄かな灯りの中に武骨な鉄の扉、その輪郭が浮かび上がった。
「……団長、どこです?」
声を潜めて呼びかけてみても返事は無い。
この扉の前で警護していたはずのヴァレリィの姿がどこにも見当たらないのだ。
その上、扉がわずかに開いている。
そんなはずはない。
鍵を持っているのはリュカなのだ。
だが、いくらそんなはずはないと言い募ろうと実際に扉は開いている。
リュカは、オリガの喉がゴクリと音を立てるのを聞いた。
二人は足音を殺して扉の傍へと歩み寄り、リュカはカンテラを掲げて、わずかに開いた隙間から中を覗き込んだ。
◇ ◇ ◇
「……団長、どこです?」
ヴァレリィは、リュカのそんな声を聞いたような気がした。
途端に、彼女は深い水底から水面へと急浮上するような、そんな感覚に捉われる。
どこか覚えのある感覚。激務の翌朝、泥のような眠りから目覚める時に感じる、あの感覚だ。
(なんだ……もう朝……なのか?)
身体の下に感じるのは、固く冷たい石畳の感触。
(なんで私はこんなところで寝ているのだ? 寝ぼけてベッドから落ちたのだろうか?)
やけに顔が痛い。
声を出そうとしても呻き声にしかならず、身を起こすのも億劫だ。
リュカとオリガの何やら騒いでいる声が聞こえてくるが、何を話しているかまではよくわからない。
(二人は仲良くなったのだろうか? しかし……あまり仲良くなられるのも複雑だな)
ふわふわした頭のままで、そんなことを考えていると、
「団長ですか?」
リュカのそんな問いかけがはっきりと聞こえてきた。これには彼女も少しムッとする。
(確認せねば、自分の妻のこともわからぬのか?)
これは文句の一つも言わねばならんと、彼女は寝ぼけ眼のままにゆっくりと身を起こして振り返る。
そこにはカンテラを手にしたリュカと、オリガの姿があった。
だが、ヴァレリィが口を開きかけた途端、オリガがリュカを突き飛ばし、顔を引き攣らせながら、ヴァレリィの眼前へと剣を突きつけてくる。
「ヴァレリィィイイイイッ! やはりあの話は本当だったのか! 喰人鬼め! 貴様が姫殿下を喰らったのだな!」
◇ ◇ ◇
ヴァレリィの眼前に突きつけられるオリガの剣。
その刀身がカンテラの灯りを反射して、彼女の顔を照らし出した。
血まみれの口元。
だが、そこに浮かぶ表情を一言で表現するならば、困惑という表現が似つかわしい。
それは、何が起こっているのかよくわからないという、戸惑いの表情であった。
リュカの目に、それは演技には見えなかった。
いや、そもそも疑うまでもない。
愚直なヴァレリィに演技など出来るはずがないのだから。
この時点でリュカの胸の内では、ヴァレリィが姫殿下を殺したという可能性は消えた。
証拠はないが、それは絶対にあり得ないことだ。
だが、オリガにとってはそうではない。
外部からの出入りは不可能。そんな閉ざされた部屋の中で、姫殿下の死体のそばに口元を血まみれにしたヴァレリィが蹲っていたのだ。
彼女が犯人だと、状況はなにもかもがそう雄弁に語っていた。
オリガは完全に激高しきっていて、今にもヴァレリィに斬りかからんばかり。剣を握った彼女の右手の動く気配に、リュカは慌ててその肩を掴んだ。
「ま、待ってください!」
「ええぃ! 邪魔をするな!」
オリガは剣を振り上げたまま、彼のその手を振り払う。そして吠えるがごとくに声を荒げた。
「こいつが! この女が殺ったに決まっているだろうが! ここには姫殿下とこいつしか居なかった! あの口元を見ろ! 姫殿下を喰らった何よりの証拠ではないか!」
もはや、立場を気にしている場合ではない。
リュカはオリガとヴァレリィの間に身をすべりこませて、声を荒げる。
「アホか! 血だまりに顔ツッこんで伸びてりゃああなるに決まってるだろうが! 団長を殺して腹掻っ捌いても肉片の一つも出て来やしない! 絶対にだ! そん時になって後悔すんのはアンタだぞ!」
「いいや! そいつだ! 他に誰がいる!」
「いいから! とにかく俺に話をさせろ! 斬りたきゃそれからにしやがれ!」
「愚かな! 貴様も食われるぞ!」
「上等だ! 俺が喰われたら、喰っている間に斬ればいいだろ!」
オリガはリュカを睨みつけたまま。だが彼はそんな彼女に背を向けて、ヴァレリィへと向き直った。
「団長! 何がどうなってるんです! 一体ここで何が!」
「何が……?」
戸惑いの表情のままに首を傾げるヴァレリィ。だが、一拍の間を置いて、彼女はビクンと身を跳ねさせた。
「そ、そうだ! 姫殿下は! 姫殿下はご無事か!」
ヴァレリィは周囲を見回し、ベッドの上に転がる首を目にして息を呑む。
そして、静寂の内にギリリと奥歯を噛み締める音が響いて、彼女は力なく項垂れた。
「何があったんです?」
「……わからん。血の臭いがしてきたのだ。扉の隙間から……。ベッドの下に何者かが潜んでいたに違いないと慌てて部屋に飛び込んだのだが、不覚にも濡れた床に足を滑らせてこのザマだ」
彼女のその言葉に、リュカは思わず目を見開く。
「ベッドの下!?」
彼は慌ててシーツをめくりあげ、カンテラでベッドの下を照らし出した。
だが、そこには何も見当たらない。目を凝らしてみても血の跡一つ見当たらなかった。
ヴァレリィの話を聞いて、リュカは瞬時にこう考えたのだ。
犯人はベッドの下に隠れて姫殿下を待ち受け、殺害後は再びそこに隠れる。
リュカとオリガがこの部屋に踏み込んだ後、二人がヴァレリィに気を取られている間に脱出する。
そんな一連の可能性だ。
だが、姫殿下を殺す前ならともかく、殺害時に返り血を浴びた状態で再びそこに隠れたなら、血の痕一つ残らないはずがない。
隠し扉は無かった。
この部屋で誰かが隠れられる場所を考えれば、このベッドの下以外にはない。
ヴァレリィはそう考えたのだろう。
だがそれは只の推測。そして……恐らくハズレだ。
二人のそんなやりとりを嘲笑うように、オリガが声を上げた。
「はっ! バカバカしい。嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ! 我々はここへ至るまでに誰にも出会わなかったのだぞ。通路の途中に隠れる所などありはしない。ベッドの下に何者かが隠れていたのだとしたら、そいつは一体どこへ消えたというのだ。ここにいたのはやはりヴァレリィ! 貴様と姫殿下のみではないか! 喰人鬼め! アンベール卿だけでは飽き足らず姫殿下まで喰らうとは、この悍ましい化け物めが!」
(……喰人鬼か)
首だけを残して死体が消え去るという極めて異常な状況である。
本来なら殺した、殺されたという次元で説明のつく話では無い筈なのだが、それを極めて単純に一人の人間の仕業として収束せしめているのが、『喰人鬼』という存在。いや、概念と言った方がいいだろうか。
リュカにはどうにもそれが出来過ぎているような気がしてならない。
まるで最初からヴァレリィを喰人鬼に仕立て上げようとしているかのような、そんな作為的なものを感じずにはいられないのだ。
いずれにしろ、ヴァレリィが犯人じゃないことは、リュカの中では疑いようもない事実だ。ならばどうにかして、それを証明するしかない。