夢みたいな夢を見ている、そんな日々が回っていく。どんなことがあっても、君が居てくれるなら大丈夫。心に誓った想いが今、俺と彼女をここに立たせている。
だから、まずは現状を把握しよう。場所はいつものリビング、テーブルを境目にして三人の男女が向い合せになっている。
こっちのソファには、天を真ん中にして俺と藍さんが左右に居る。向こうのソファは右からクロ、きのみさん、アオさんとなっている。俺の正面にクロ、天の正面にきのみさん、藍さんの正面にアオさんだ。
天とクロは何故か居心地悪そうにしていて、きのみさんは苦笑い。アオさんは変わらず混乱していて、藍さんは輝いた瞳でクロを見つめていた。
この状況で、こんな重い空気じゃ、誰も口を開こうとはしなかった。もしかしたら、この中で一番状況を理解しているのは俺だけなのかもしれない。
まず、正面の前世持ち二人は、藍さんを知らないし。天はアオさんを、よく知らない。アオさんは前世すら分からない状況だし、藍さんに至ってはクロにしか目を向けていない。
これは俺が何とかするしか無いのだ。
「……ときにアオさん」
「……は、はい」
アオさんは困惑たっぷりの瞳を、こちらに向ける。藍さんを連れてきてしまったのに、罪悪感を覚えてしまいそうになる。知っていれば後日に回せたかもしれないけれど、今はもう時は既にお寿司。違った、遅しだ。混乱している。
「藍さんは、妹か何かですか?」
「妹です」
緊張の面持ちでアオさんは頷くと、首を傾げた藍さんが無邪気な瞳をこちらへと向けた。
「ねぇ、クレア。じゃなかった、ソラくん。何で姉さんが、ギムレットと居るの?」
俺がちょっと困ったのは、藍さんがそのまんまメアリーみたいな言葉を口にしたからだ。彼女はお嬢様だけあって少し浮世離れしていたが、まさか此処でもそうだとは思わなかった。
「それを説明する前に、藍さんにも聞きたいことがあるんだけど……」
「なぁに?」
花が咲きそうなメアリーの笑顔を藍さんが散らしたので、愛しくなりそうになったのを俺は膝を掴んで堪えた。
「アオさんに今まで前世の話は?」
俺の台詞に、藍さんは首を左右に振って答えた。
「していないわ。多分、記憶持ってないもの」
次に藍さんは自分がメアリーの記憶を手に入れたとき、何度か姉にカマを掛けたことがあると言った。
「スコーン買ってみたり、緑茶の代わりに紅茶入れてみたり」
結果は惨敗だったと、藍さんは小さく舌を出した。なんで同じ顔なのに、メアリーの記憶があるってだけで、妹の方が可愛く見えるのだろうか。
「ですよねぇ……」
俺はアオさんの方を向く。妹が何を言っているのか分からないのだろう、困惑の表情のまんまだった。
「クロ」
俺が呼ぶと、従兄はビクリと身体を震わせた。表情は不安そうで、こんな顔のクロは初めて見たって押立宇宙は思った。クラウディアとしては、ギムレットってこんな情けなさそうな人だったのか、ってガッカリした。
「言うぞ、いいか?」
「……あ、ああ」とクロは虫を踏んだような顔になった。ボルドシエルこと、天も似たような表情になっていた。