「せんせー、バナナはおやつに入りますかー?」
漢字で〝先生〟ではなく、平仮名で〝せんせー〟と表記するのが相応しいような、軽薄な声。
これは……夢?
いや、違う。私はまた、月守風香の記憶を見ているんだ!
私とわたしの境界線が、ぐにゃりと歪んで消えた。
机と椅子が並ぶ教室。その一番廊下側、前から三番目の席に、わたしは座っていた。
「バナナはおやつに入りません」
若い女性のはきはきした声が答えた。
「この前の職員会議でそう決まりました。修学旅行のうわついた雰囲気もあって、馬鹿な質問をしてくる生徒がいるでしょうから、とか言ってバナナがおやつかどうか議題に上がったのよ。私は時間の無駄だと思ったんだけど。でもまさか、本当にいるなんてね」
馬鹿な質問をしてきた生徒を呆れたように見ながら、若い女性は答えた。
何人かの生徒が、プッと吹き出す。
修学旅行についての学級活動中だった。
黒板に書かれた日付は、十一月五日となっている。
修学旅行当日にあんな悲惨な事故が起こるなんて、このときは誰一人予想すらしていないのだろう。和気あいあいとした雰囲気だ。