【概要】
料理によるエンチャントを用いた、サポーターを主人公とするバトル&料理モノ。
また、サポーターとして最弱の勇者を支えつつ、最強の勇者に育てる育成モノでもある。
主人公は基本的に、戦闘に直接参加するというよりは、『どうやったら勇者が格上の敵に勝てるか?』を考え、下準備をする役回りを担う。
食材の不足や料理を食べるタイミングなど、料理を用いたサポーターならではの試行錯誤を楽しむ。
【あらすじ】
食べることで『特性』が付与される特殊な料理を作る、特性付与料理人ベート。
もともと王宮に仕えていた彼は、王命によって勇者ライオネルのパーティに参加し、旅の手助けしていた。
しかし、ライオネルたちの無茶な戦闘計画をたしなめたことで、理不尽にパーティを追放される。
調理道具以外の身ぐるみをはがされ、故郷から遠く離れた地に投げ出されたベートは、そこで行き倒れた獣人の少年・アレクに出会う。
彼の中に真の勇者の力を見出したベートは、過保護な姉のためにレベル1のままのアレクをサポートし、一人前の勇者にすることを決意する。
【登場人物】
〇ベート(主人公)
三十五歳。元王宮騎士団専属料理人。
料理に『属性耐性』や『攻撃力増加』などを付与し、戦闘をサポートする特性付与料理人であり、かつては騎士団とともに戦場に出ていた。
王命で偽勇者ライオネルのパーティのサポーターとして参加したが、能力を理解されずパーティを追放される。
のちに、真の勇者であるアレクと出会い、パーティを組む。
少し疲れた顔の中年男性。戦場に出ていたため体格は良い。
ぶっきらぼうだが親切で、特に空腹の相手は放っておけない。
美味しく食べてくれる人が好き。
好みのタイプはよく食べる女性。
本名はベルトルード。
騎士団では騎士たちとともに前線で戦い、『戦闘料理人ベルトルード』とも呼ばれていた。
戦闘能力は高いが、戦士としての成長に頭打ちを感じ、料理人に専念することを決めている。
〇アレク
十四歳。真の勇者。
犬獣人と猫獣人のハーフで、犬獣人の特性が強い。
故郷を魔物に襲われ、散り散りになってしまった家族たちを捜している。
過保護な姉と二人旅をしており、ほとんど戦闘に参加させてもらえないためレベルが低い。
勇者として高いポテンシャルを秘めているが、当人には自覚がない。
明るく素直な少年。
空腹で行き倒れていたところ、食事を分けてくれたベートに懐いている。
ベートの料理が大好きで、いつも美味しく食べる。
〇エレナ
十七歳。アレクの姉。
犬獣人と猫獣人のハーフで、猫獣人の特性が強い。
金髪金目で細身の美少女だが、戦闘能力が高く、戦い方も豪快。
家族が散り散りになってしまったことで、アレクだけは守ろうと過保護になっていた。
戦闘やアレクが絡んでいない場合は、基本的に素直で礼儀正しい。
最初はベートに懐疑的だったが、甘いものに陥落。
見た目にそぐわずよく食べる。
〇ライオネル
十八歳。偽勇者。
自分を勇者だと信じ込み、魔王退治の名乗りを上げる。
なまじ才能があっただけに周囲も騙され、王の支援を受けて旅立った。
勇者であると認められて増長し、サポーターとしてつけられたベートを役立たずだと追放。
身の丈に合わない戦闘計画を立てている最中。
〇リーシュ
十七歳。女魔法使い。
貴族出身の高飛車な魔法使い。
自分の実力以上の自尊心を持っており、ライオネル同様増長している。
〇アイリス
十九歳。聖女。
生まれたときから神殿で暮らしており、神殿に忠実な聖女
パーティ内では大人しく、ベートにも比較的親切だったが、その正体は神殿から遣わされた偽勇者を監視するスパイである。
神殿の狂信者。
【世界観】
女神が姿を消し、魔物が増加した世界。
女神の捜索と世界平和のために、世界中の国々が女神に選ばれし勇者の支援を行っている。
勇者は特定の人物にのみ与えられる『職業』であり、この職業は勇者以外にも複数存在する。
職業は実際に仕事にしているものではなく、当人の生まれ持った性質に由来する。
職業の鑑定は『神殿』と呼ばれる組織で行われる。
また、職業の他に、『レベル』『スキル』『ステータス』というものが存在し、戦闘や経験に応じてランクアップしていく。
この『レベル』『スキル』『ステータス』も神殿で鑑定される。
新規のスキルを取得した際は、神殿による鑑定がなければ当人自身は気付かないままとなるため、神殿の存在は非常に重要である。
神殿は女神を信仰する組織であるが、現在は腐敗し、女神の力を悪用している。
女神の喪失と魔物の増加は神殿の腐敗が原因であるが、隠蔽されているため世間には知られていない。
神殿は偽の原因を突き止めさせることを目的に、偽の勇者をでっちあげている。
【特性付与料理人ついて】
特性付与料理人とは、魔法使いの一種であり、料理に対して魔法を発動させる職業のこと。
調理を介して魔力を込めることで、その料理にはさまざまな特性(エンチャント)が与えられる。
また、その特性は料理に対するイメージに左右される(辛い料理なら炎属性、冷たい料理は氷属性、等)。
基本的にはサポート職であり、食べた相手に有利になるような特性を付与するのが一般的。
一般の魔法と比べたときのメリットは、
「効果時間が魔法に比べて長い」
「一度特性を付与した料理は、時間がたってもその特性を維持する(魔法と違って、作りだめをすることで魔力の温存が可能。保存食にすると効果的)」
「より多くの人間に効果を与えることができる(魔法では特定人物や特定範囲しか効果がないが、料理の場合は食べた人間全員に効果が付与される)」
対してデメリットは、
「効果発動までが長い(消化されるまで発動しない)」
「料理をする必要がある(緊急時にとっさに魔法を使えない)」
「魔法と違い、強引に特性を付与することができない(相手に食べさせる必要があるため)」
また、美味しく食べる・喜んで食べる方が効果が上がりやすい傾向にあるため、料理人の腕も重要となる。
とある町の宿屋。勇者ライオネル、魔法使いリーシュ、聖女アイリスのパーティが戦闘計画を練っている。
それは町の洞窟の魔物を討伐するというもの。ライオネルたちは簡単な討伐だと余裕ぶっているが、実際にはかなり難しい計画である。
主人公であるベートはそのことを理解しており、料理人として彼らに食事を提供しながら考え直すようにと諭す。
水を差されたライオネルたちは、ベートの料理をひっくり返し、「料理人風情が俺たちに口を出していいと思っているのか?」と言ってパーティから追放する。
過去回想。
もともとベートは王宮騎士団で料理を提供していた『特性付与料理人』。
『特性付与料理人』とは、食べることで戦闘に有利な『特性』を得られる特殊な料理を作る者のことを指す。
ライオネルのパーティに入ったのは、勇者を名乗る彼らを支援せよという王の命令のため。
ライオネルたちはベートの料理によるサポートで今まで旅を続けられたが、そのことに自覚がなく、ベートを馬鹿にし続けていた。
それでも王命と我慢しライオネルのサポートを続けてきたが、これまでベートはライオネルたちに勇者の力を見いだせずにいた。
回想が終了し、現在。
ベートは調理器具とわずかな保存食以外の身ぐるみをはがされ、宿を追い出されていた。
町を歩きつつ、これからどうするべきかと悩む彼の前に、突然「すみません~~~!!」の叫び声とともに犬獣人の少年がぶつかってきて、そのまま倒れ込む。
倒れたままの少年にベートが「どうした?」と尋ねると、彼は腹の音を鳴らす。空腹らしい。
ベートは少し迷ってから、『特性』が付与された保存食を与える(迷った理由は、この付与された『特性』がかなり特殊であり、いざというときの切り札になるからである)。
犬獣人の少年は『アレク』と名乗り、保存食の美味しさに感動する。
ベートは食べる彼を観察し、彼の全身に真新しい殴打の痕跡があることに気付く。
どうしたのかと尋ねた瞬間、二人の前に巨漢の男二人組が現われる。
彼らは自分たちが奴隷商であり、アレクが商売道具を逃がしたことを告げる。
それに対し、アレクは二人が子供を無理やり誘拐しようとしたから止めたのだと主張。男たちはその主張を肯定し、アレクを「犬コロ」と馬鹿にして殴りかかってくる。
ベートをかばい、逃げるように告げるアレク。勇ましさに感心するベートの目の前で、アレクはあっさりと殴り飛ばされ、地面に倒れる。
「弱っ!?」
驚くベートたちを、人々が遠巻きに眺めている。
奴隷商たちはこのあたりでも有名なならず者で、強くて手が出せないため警備兵たちも手を焼いているという。
アレクを踏みつけ、とばっちりでベートにも手を出そうとする奴隷商たち。
その瞬間、アレクは料理の消化が完了し、『特性』を付与される。
今までの弱さが嘘のように、アレクは男たちを圧倒し、二人を倒してしまう。
アレク自身も驚き、周囲の人々が歓声を上げる中、ベートは目を見張っていた。
ベートを守ろうとしたアレクの一撃に、勇者の力である『女神の加護』の片鱗が見えた。
彼に与えた保存食の『特性』は、『レベルブースト』。
現在のレベルを引き上げる効果がある。
今は弱くとも、アレクは素質の塊であった。
町を荒らしていた奴隷商を捕まえ、称賛されるアレク。
ベートはアレクに、垣間見えた力について問いただそうと近寄るが、そのとき人垣の中から猫耳の美少女が現われる。
彼はアレクの姉エレナであり、怪我をしたアレクを見て激昂。
傍にいたベートがアレクにけがを負わせた犯人だと決めつけ、詰め寄った。
場面変わって食堂。
「すみません~~~!!」と誤解したことを必死に謝るエレナ。
ベートは呆れてはいても怒ってはおらず、むしろ食事を奢ってもらったことに感謝する。
それよりも、猫獣人と犬獣人の姉弟の組み合わせが珍しく興味を引かれていた。
姉弟で違う獣人であることを問うと、アレクから獣人同士の夫婦の子供としてはよくあることだと教えられる。
アレクたちの両親は父が猫獣人で母が犬獣人。子供は片親の影響が強く出ていて、アレクは犬獣人だが猫要素は薄く、エレナは猫獣人だが犬要素は薄いことを教えられる。
なるほど、と素直に納得するベートに、アレクとエレナが顔を見合わせる。
獣人は基本的に差別の対象であり、昼の大立ち回りがあったとはいえ、食堂で彼らに向けられる視線は快いものばかりではなかった。
だが、ベートの出身は今いる町からは遠く、そこではこの周辺ほど獣人に対する差別意識がない。特に騎士団では種族に関係なく強いものを採用するため、ベートの知り合いにも獣人は少なくなかった。
「行ってみたいです!」とアレクが興味を示すが、今のベートは無一文で連れていってやれない。
パーティも追放されたことを告げると、アレクは一度エレナを見てから、覚悟を決めたように身を乗り出す。
「それなら、僕たちのパーティに入りませんか!」
「それはありがたいが……俺は単なるサポーターだぞ?」
ベートは自分が特性付与料理人であり、あまり戦闘が得意ではないことを伝える。
しかし、アレクはかえって目を輝かせ、「あの英雄、『戦闘料理人ベルトルード』みたいだ!」と喜ぶ。
戦闘料理人ベルトルードとは、知る人ぞ知る戦場の英雄であり、もっとも有名な特性付与料理人。
マニアックな名前を知っていることに呆れつつ、ベートはアレクとエレナのパーティに参加することを引き受ける。
ベートの参加にアレクは大喜びで、エレナにこう告げる。
「これで僕も、戦闘クエストを受けてもいいんだよね!」
戦闘クエストとは、ギルドで発注される依頼の内、魔物討伐に関わるもの。
アレクは過保護なエレナによって、戦闘クエストを受けさせてもらえなかった。
それでもアレクはどうにかエレナと交渉し、「三人パーティになったら受けてもいい」という約束をしていた。
二人のやり取りから、アレクのレベルが低い原因がエレナにあると気づくベート。
どうやら二人の故郷は魔物に襲われ、家族がバラバラになってしまったらしい。そのために、唯一残ったアレクを守ろうと、エレナは過保護になってしまっているのだ。
ベートはアレクの才能と勇者の片鱗を見ており、このままにしておくのは惜しいと感じていた。
しかし、エレナは「アレクが後衛になるなら」と、実質的に見ているだけでいるようにという条件を付けてしまう。
がっかりするアレクに、ベートは耳打ちをする。
「お前には猫獣人の要素はないんだったよな?」
「ええ……はい、そうですけど……」
「よし、わかった。エレナ、俺はそれで構わない」
「ええっ! ベートさん、でもそれじゃあ、また僕はなにもできませんよ!?」
エレナの条件を承諾したベートに、アレクは落胆する。が、ベートはアレクにだけこっそりと目配せをする。
「大丈夫、俺にいい考えがある」
最弱の魔物の一種である兎型魔物討伐を引き受けた三人は、魔物が出る森を訪れていた。
三人はここに来る前にすでに軽く食事をしており、エレナは『腕力強化』など戦闘に有利なものを、アレクは『敏捷強化』など回避や逃げに特化した特性を付与されている。
そのため、強化されたエレナがほとんどの魔物を狩ってしまい、後衛のアレクはなにもできずにいた。
「ベートさん~~~~」と泣きつくアレクに、ベートは「少し待ってろ」と告げる。
場所を移動し、森の少し開けた場所に出る。
風があり、先頭のエレナが風下になったタイミングで、ベートは「このあたりだろう」と荷物の中から料理を一つ取りだす。
中身はごく普通のケーキである――が、風下のエレナが途端に足を止める。
「なんて美味しそうなものを持っているんですか……!?」
ベートが取り出したのはマタタビケーキであり、猫獣人の要素の強いエレナはその魅力に抗えない。
前方に兎型魔物がいるにもかかわらず、たまらず引き付けられ、エレナは一口食べてしまう。
「よし、行けアレク!」
ベートが合図を出すと、アレクは強化された敏捷で兎のもとへ。
エレナは追いかけたいのに、食べる手が止まらない。
「なにをしたんです!? 魅了!? バッドステータス!? 味方相手にそんなことするなんて!!」
怒るエレナに、ベートは答える。
「バッドステータスじゃない。嗅覚強化だ」
アレクを戦闘に参加させないため、エレナとアレクは異なる特性を付与された料理を食べていた。
それはすなわち、別の皿の料理を食べているということである。
ベートはアレクに戦闘経験を積ませるために、こっそりエレナの料理に『嗅覚強化』の特性を付与していた。
また、嗅覚が強化されたことを悟らせないため、消化に時間のかかる料理を作っていた。
強化された嗅覚でマタタビのにおいを嗅いでしまったエレナは、通常以上にマタタビに魅力を感じ、「悔しい~~~~!!」と言いながらも完食するまで動けなかった。
少しして、魔物を追いかけて森の奥に消えていたアレクが戻ってくる。
彼の腕には兎型魔物数匹と、格上であるはずの猪型魔物(ワイルドボア)があった。
さすがにかなり苦戦したらしく、アレクは傷だらけでボロボロ。エレナは思わず悲鳴を上げるが、しかしアレクは満面の笑みだった。
「姉ちゃん! 僕が倒したんだ!」
アレクにとって傷ついたことよりも、戦って勝った嬉しさが勝っている。
「子供には冒険も必要だろ?」
「…………」
ベートの言葉に、エレナは複雑そうに口をつぐむ。
アレクは気が付かない様子で、猪型魔物を手におおはしゃぎをしている。
「ねえねえ! ベートさんっ、これ食べられますか!?」
見たこともないくらい楽しそうなアレクに、エレナは「あなたの言う通りかもしれない」と観念する。
猪を調理スキルで解体しながら、どう調理するかを考える。
「猪か……使い道はいろいろあるが……」
ちらりと目を輝かせるアレクを見る。
「こういうときは、手の込んだ料理よりも、アレだな」
焚火を起こし、薬草を詰め、豪快に丸焼きにするベート。
いい匂いに、アレクとエレナは期待感を隠せずそわそわしている。
「美味しい!!!!」
猪の丸焼きを大喜びで食べる二人。
「自分が狩ったから格別だろう」
「いえ、ベートさんの腕がいいんですよ! 姉ちゃんが作ったときなんて――あいたっ!」
余計なことを言いかけ、アレクはエレナに叩かれる。
ベートは二人のやり取りを笑いながら眺める。
ここ数日この姉弟と接し、料理も何度か披露したが、そのたびに二人とも喜んで食べてくれる。
前のパーティでは、料理人というだけで馬鹿にされ、食事を喜ばれることはなかった。
ライオネルは偏食でよく残し、リーシュは甘いものばかり食べて他の料理はほとんど手を付けず、アイリスは自分の料理こそ食べるが、残された料理になにも思わない。
(たしかに俺は特性付与料理人だが……)
サポーターであるよりも前に、自分は料理人であるのだと、二人の姿に思い出す。
ベートにとっては、美味しく食べてもらえることが、なによりも一番うれしいのだ。
だが、穏やかな時間を踏みにじるように、ライオネルたちの元パーティが現われる。
彼らはベート追放時に立てていた作戦通り、無謀なクエストに挑むところだった。
たまたま出くわした彼らは、ベートが初心者パーティにいることに気付いて鼻で笑う。
「遠足か? おっさんにはこの程度のパーティがお似合いだな」
そのままアレクとエレナを獣人であることを理由に馬鹿にするライオネル。
ベートは売られた喧嘩を買おうとするが、ライオネルは取り合わなかった。
「俺たちは忙しいんだよ。俺の勇者の力を見込んで、町の連中が頼み込んできたんだ。洞窟の魔物を討伐してくれって」
ライオネルは余裕な態度だが、ベートは無茶であると気づいていた。
洞窟の魔物は数が多く、そのうえ炎を吐く竜種までいて、ライオネルたちだけでは難しい。
それどころか、下手に魔物を突けば凶暴化して、近くの町に危険が及ぶかもしれない。
どうにか制止しようとするが、ライオネルたちは「嫉妬だ」と聞き入れずに去って行ってしまう。
その後、午後になり、日が暮れる前に町へ戻ろうと森を出たところで、ベートは慌てて逃げるライオネルたちとすれ違う。
その様子から、ベートは彼らが討伐に失敗したことを悟る。
「まずいぞアレク! いそいで町へ戻れ!」
魔物の討伐に失敗し、おそらくライオネルたちは魔物に匂いを知られている。
このままだとライオネルを追って、町に魔物が襲来する。
ベートの知らせに、町中が緊張状態。
戦える人間は武器を持ち、町の入り口近くへ駆り出されているが、明らかに戦力が不足していた。
元凶のライオネルは怯えて使い物にならず、町には絶望感が漂っている。
現在は日が傾き始めたころ。魔物は日暮れから活発になる。
明るい今は現れる魔物も少ないが、夜になればおそらくは一斉に襲い掛かってくるだろう。
そのときは、この町はもうひとたまりもない。
「どうしましょうベートさん……」
アレクは、自分が何の力にもなれないことを歯がゆく思っている。
ベートは町の様子を眺め、覚悟を決める。
「料理を作るぞ」
町中の人に振るまうため、ベートは広場で盛大に料理をする。
料理には特性を付与する。竜種の炎に対抗するための炎耐性、戦えない女子供には防御力強化や敏捷強化、戦う男たちには腕力上昇など。
町の人々は「本当に大丈夫なのか」と不信感を抱いているが、それをアレクやエレナが説得する。
「獣人風情が」と馬鹿にする人もいたが、奴隷商の一件で助けられた親子も一緒に説得してくれて、町の人たちが徐々に受け入れ始める。
町の人たちの説得が終わったころに、「手伝うことありませんか?」とアレクが尋ねる。
「ああ、お前にはどうしても手伝ってもらいたいことがある」
ベートは町中の人たちを見て、竜種に対抗できる人間がいないことに気付いていた。
(可能性があるとすれば……)
今は弱くとも、輝かしい才能を秘めたアレクくらいだろう。そう思い、彼は最後に残っていたレベルブーストの保存食をアレクに渡す。
料理が終わり、町の人たちに食事をするうちに、日が暮れ始める。
不穏な気配が増す中、突然の吠え声が響き渡る。
魔物が現われたのだ。
町は騒然とする。最初は怯えて絶望していた町の人々だが、料理による『特性』の影響で魔物に襲われてもダメージがほとんどないことに気が付き、盛り返す。
反撃を開始する町の人々。
一方のライオネルは、ベートへの反発心から料理を食べていないため、必死に逃げ回る羽目に陥っている。
町の人々が優勢に戦う最中、洞窟のボスである竜種が現われる(このとき、鳴き声が二重に聞こえている)。
『特性』を付与されても竜種には勝てず、再び絶望感が漂う中、レベルブーストしたアレクが飛び出す。
町の人々の応援を受け、奮戦の末に勇者の力である『女神の加護』にて討伐。
が、それと同時にもう一体の竜種が現われる。
騒然とする中、竜種はエレナに狙いを定めて襲い掛かってくる。
アレクは慌てて駆け戻ろうとするが間に合わない。
ベートは咄嗟に包丁を抜き、竜種の急所を突いて討伐する。
彼は最強の特性付与料理人として知られた、『戦闘料理人ベルトルード』本人であった。
二匹の竜種を倒し、ベート達は町を守りきる。
大歓声。