「ふ、ふ、ふ……」
城下町を歩く私から、変な笑いがこみ上げてくる。町行く人たちが不審な目で私を見るけれど、そんなの今は気にしない。だって、今日はとってもいい事があったのだから。
(いやー、リベンジ達成ってやつね。気分がいいわー!)
こんなに気分がいいのは久しぶりかもしれない。それもこれも、すべてはエミリアちゃんに関することなのだけど。
(少しずつだけど、野菜も食べられるようになって……)
この世界に来たばっかりの頃、エミリアちゃんに出したミックスベジタブル入りオムライス。それを再び出してみた。今度はどんな反応をするだろうか……とても不安だったけれど、それは杞憂に終わる。
エミリアちゃんは、始めはミックスベジタブルに驚いてびくりと肩を震わせた。しかし、大きく深呼吸をして、ぱくり!とまずは一口食べたのだ。
「え、エミリア、大丈夫か?」
さすがのレオさんも動揺を隠せなかったらしい。エミリアちゃんの様子を真剣なまなざしで窺っていた。私もびっくりして言葉を失ったままエミリアちゃんの口元を見守る。もぐもぐと口を動かした後、ごくりっと喉を動かした。
「たべれた……」
一番驚いていたのはエミリアちゃん自身だったみたい。スプーンを片手に目を大きく丸めている。レオさんは「エミリア! よくやった!」と褒めたたえ、私は静かに拍手をする。エミリアちゃんは褒められたことが嬉しいのか、にっこりと笑みを見せた。
「ねえ、わたし、たべたわよね! これ、まえにコユキがつくってくれた料理でしょ? わたしがたべなかったやつでしょ!」
「うん、そう! すごいよ、エミリアちゃん!」
「ちょっとこわっかたけれど、あんがいイケる味だったわ」
そう言って、エミリアちゃんはパクパクと大きな口を開けてオムライスを食べていく。それに触発されたのかレオさんもモリモリと食べていき、お替りまでしていった。
あれだけ野菜が嫌いだったエミリアちゃん。野菜を取り除いて食べていたエミリアちゃんが、とうとう食べ始めた。その達成感に浸っていると、なんだかふわふわした気分になっていく。
「お、コユキ先生! 今日はいい魚入ってるよ!」
「ほんと!? じゃあ全部ちょうだい! お城に届けておいて」
「太っ腹だね! よしきた!」
魚屋さんの呼びかけに気前よく答えてしまうくらい。……お魚の使い道は、追々考えるとして。
「あら! コユキ先生じゃない~」
「ほんと、何だかご機嫌ね」
「いい事でもあったのかしら?」
料理番組を見てくれる奥様達が私を取り囲んだ。私が上機嫌な事情を話すと、奥様達はみな喜んでくれる。一国の王女様の健やかな成長は、国民の士気にもつながるらしい。
「あ、そういえば……コユキ先生に聞いてもらいたいことがあったの」
奥様の一人、ひょろっと長い首で目が1つだけのモンスターがそう口を開く。
「聞いてもらいこと?」
「コユキ先生にお話ししたら、魔王様に届くかしら?」
「もちろん! ちゃんと話を伝えるから、教えてもらえますか?」
レオさんから「何か噂話を聞いたら教えて欲しい」と言われている。私がどんっと胸を叩くと、一つ目の奥様は安心したように息を吐く。
「あのね……遠方に仕事に行った主人が聞いてきた話なんだけど……どうも、この国に対して反発しようとしている集落があるみたいなの」
「あら、私もその話聞いたことがあるわ。何でも、グラフィラ様を殺した輩の出身地だって」
「やだ! 怖いわ!」
グラフィラ様を殺めた人……それは、人間の勇者と呼ばれる存在だと聞いたことがある。再び魔国に勇者が攻め入ろうとしているのかもしれない。私の背筋はぞくっと震える。
「わかりました、ちゃんと魔王様にお話ししておきますね」
「よろしくね~」
「でも、コユキ先生がこの国に来てくれてとっても良かったわ。知らない料理を教えてくれるし、それに、魔王様に伝言も頼めるんだから」
「側近のエゴールは忙しなくってねぇ。コユキ先生の方が話しやすいっ!」
「あはは、ありがとうございます」
私は奥様方に手を振って別れを告げる。まだ今日の買い物が終わっていない。急がないと、エミリアちゃんの夕食作りが間に合わなくなる。早歩きで青果店に向かうと、店主さんが「お、コユキ先生」と声をかけてくれた。
「今日はずいぶんご機嫌だって聞いてますよ」
「いや~そうなんですよ。何買おうかな……全部買っちゃおうかな?」
「あ、コユキ先生。さっき城の使いが来てね、あまり買い物をさせないように気を付けて欲しいって」
「……え?」
「魚屋で大盤振る舞いしちゃったんでしょ? お城の食物庫が魚でいっぱいで困ってるらしいから、控えるように言ってくれって」
私の体がピキッと固まる。店主さんも「うちとしてもたくさん買って欲しいんだけどね」とぼやいた。
「でもコユキ先生が怒られちゃうし。必要最低限にしてくれって」
「……ワカリマシタ」
私はがっくりと肩を落として、必要な分だけを買って行く。私の出費は全てお城が払ってくれるとは言え……少し使いすぎたかもしれない。帰ったらエゴールがカンカンに怒っているだろうな。
(はぁ、ちょっと気が重たくなってきた)
行きと違って帰りは足取りが重たい。私はため息をついて、遠くに見えるお城を目指す。
城下町を歩く私から、変な笑いがこみ上げてくる。町行く人たちが不審な目で私を見るけれど、そんなの今は気にしない。だって、今日はとってもいい事があったのだから。
(いやー、リベンジ達成ってやつね。気分がいいわー!)
こんなに気分がいいのは久しぶりかもしれない。それもこれも、すべてはエミリアちゃんに関することなのだけど。
(少しずつだけど、野菜も食べられるようになって……)
この世界に来たばっかりの頃、エミリアちゃんに出したミックスベジタブル入りオムライス。それを再び出してみた。今度はどんな反応をするだろうか……とても不安だったけれど、それは杞憂に終わる。
エミリアちゃんは、始めはミックスベジタブルに驚いてびくりと肩を震わせた。しかし、大きく深呼吸をして、ぱくり!とまずは一口食べたのだ。
「え、エミリア、大丈夫か?」
さすがのレオさんも動揺を隠せなかったらしい。エミリアちゃんの様子を真剣なまなざしで窺っていた。私もびっくりして言葉を失ったままエミリアちゃんの口元を見守る。もぐもぐと口を動かした後、ごくりっと喉を動かした。
「たべれた……」
一番驚いていたのはエミリアちゃん自身だったみたい。スプーンを片手に目を大きく丸めている。レオさんは「エミリア! よくやった!」と褒めたたえ、私は静かに拍手をする。エミリアちゃんは褒められたことが嬉しいのか、にっこりと笑みを見せた。
「ねえ、わたし、たべたわよね! これ、まえにコユキがつくってくれた料理でしょ? わたしがたべなかったやつでしょ!」
「うん、そう! すごいよ、エミリアちゃん!」
「ちょっとこわっかたけれど、あんがいイケる味だったわ」
そう言って、エミリアちゃんはパクパクと大きな口を開けてオムライスを食べていく。それに触発されたのかレオさんもモリモリと食べていき、お替りまでしていった。
あれだけ野菜が嫌いだったエミリアちゃん。野菜を取り除いて食べていたエミリアちゃんが、とうとう食べ始めた。その達成感に浸っていると、なんだかふわふわした気分になっていく。
「お、コユキ先生! 今日はいい魚入ってるよ!」
「ほんと!? じゃあ全部ちょうだい! お城に届けておいて」
「太っ腹だね! よしきた!」
魚屋さんの呼びかけに気前よく答えてしまうくらい。……お魚の使い道は、追々考えるとして。
「あら! コユキ先生じゃない~」
「ほんと、何だかご機嫌ね」
「いい事でもあったのかしら?」
料理番組を見てくれる奥様達が私を取り囲んだ。私が上機嫌な事情を話すと、奥様達はみな喜んでくれる。一国の王女様の健やかな成長は、国民の士気にもつながるらしい。
「あ、そういえば……コユキ先生に聞いてもらいたいことがあったの」
奥様の一人、ひょろっと長い首で目が1つだけのモンスターがそう口を開く。
「聞いてもらいこと?」
「コユキ先生にお話ししたら、魔王様に届くかしら?」
「もちろん! ちゃんと話を伝えるから、教えてもらえますか?」
レオさんから「何か噂話を聞いたら教えて欲しい」と言われている。私がどんっと胸を叩くと、一つ目の奥様は安心したように息を吐く。
「あのね……遠方に仕事に行った主人が聞いてきた話なんだけど……どうも、この国に対して反発しようとしている集落があるみたいなの」
「あら、私もその話聞いたことがあるわ。何でも、グラフィラ様を殺した輩の出身地だって」
「やだ! 怖いわ!」
グラフィラ様を殺めた人……それは、人間の勇者と呼ばれる存在だと聞いたことがある。再び魔国に勇者が攻め入ろうとしているのかもしれない。私の背筋はぞくっと震える。
「わかりました、ちゃんと魔王様にお話ししておきますね」
「よろしくね~」
「でも、コユキ先生がこの国に来てくれてとっても良かったわ。知らない料理を教えてくれるし、それに、魔王様に伝言も頼めるんだから」
「側近のエゴールは忙しなくってねぇ。コユキ先生の方が話しやすいっ!」
「あはは、ありがとうございます」
私は奥様方に手を振って別れを告げる。まだ今日の買い物が終わっていない。急がないと、エミリアちゃんの夕食作りが間に合わなくなる。早歩きで青果店に向かうと、店主さんが「お、コユキ先生」と声をかけてくれた。
「今日はずいぶんご機嫌だって聞いてますよ」
「いや~そうなんですよ。何買おうかな……全部買っちゃおうかな?」
「あ、コユキ先生。さっき城の使いが来てね、あまり買い物をさせないように気を付けて欲しいって」
「……え?」
「魚屋で大盤振る舞いしちゃったんでしょ? お城の食物庫が魚でいっぱいで困ってるらしいから、控えるように言ってくれって」
私の体がピキッと固まる。店主さんも「うちとしてもたくさん買って欲しいんだけどね」とぼやいた。
「でもコユキ先生が怒られちゃうし。必要最低限にしてくれって」
「……ワカリマシタ」
私はがっくりと肩を落として、必要な分だけを買って行く。私の出費は全てお城が払ってくれるとは言え……少し使いすぎたかもしれない。帰ったらエゴールがカンカンに怒っているだろうな。
(はぁ、ちょっと気が重たくなってきた)
行きと違って帰りは足取りが重たい。私はため息をついて、遠くに見えるお城を目指す。