さっと顔が青ざめていく。せっかく帰る事ができたのに、目的を達成できないまま、また魔国に戻るのか……がっくりと肩を落とすと、後ろからレオさんの手が伸び、ドアノブを握った。次の瞬間、ガチャリと鍵が開く音が聞こえて来る。
「え! 開いた?!」
レオさんを見上げると、彼は深く頷いていた。交代するように私がドアノブを下げ、そのまま引いていくとドアがゆっくりと開いた。
「すごい! レオさん、ありがとう!」
「いや、大したことではないさ。簡単な魔法だ」
レオさんは少し照れた様子で、さっと顔を背けてしまう。その仕草がおかしくて、私の顔に笑みが溢れる。そのままドアを大きく開け、靴を脱ぐように伝えてから二人をアパートの一室に迎え入れた。
「ねえ、コユキ。コンビニよりいいものってなに?」
そうだった、無理矢理連れてきたのだった。エミリアちゃんは少しご立腹だ。
「え、えっとねぇ……」
私は部屋を見渡す。狭いワンルーム、必要最低限のものしかない部屋。彼女が喜びそうなもの……そうだ!
「テレビ! 魔国にないでしょ?」
「てれびぃ?」
私はテレビを指さす。しかし、エミリアちゃんは「まっくろな板じゃない」とご機嫌が直らない。私はリモコンを探し出し(狭くてもリモコンってすぐなくなってしまう)、電源ボタンを押す。すぐに画面に番組が映り出す。二人は飛び上がるほど驚いていた。
「な、なにこれ!」
「コユキ、板の中に人が!?」
二人の反応が新鮮で面白い。もっと喜んで欲しくて、私は番組表を見る。ちょうど子供向けのアニメがやっている時間だ。チャンネルを切り替えると、二人はまたびっくりして体を大きく振るわせる。
「すごーい! 動くえほんだ! しかもおしゃべりもしてる!」
すっかりエミリアちゃんはお気に召したみたいだ。テレビに向かって前のめりになったり、触ったりしている。レオさんは不思議そうに首を傾げていた。
「何なんだ、この【テレビ】というものは……こちらの世界に魔法はないと聞いていたのだが」
「私も詳しい仕組みは分かりませんが、電波を使って映像を受信する機械です」
「映像というと、動く肖像画や絵本みたいなものか?」
「まあ、そんな感じのことをイメージしてもらえればいいのかな?」
「ふむ……これはどんな映像を受信しているのだ? 子供向けのものだけなのか?」
レオさんも興味津々にテレビを見つめている。まるで子供みたいな横顔だ。
「それだけじゃなくて、ドラマ……演劇みたいなものを放送したり、ニュース……その日にあった出来事をお知らせしたり、天気予報もあったり。そうだ、料理番組もあるんですよ」
「ふむ、多岐にわたるわけか。すごいな、こちらの世界は」
真剣にテレビを見つめるその横顔にふっと笑みが溢れた。その笑顔を見ると、何故か嬉しくなってしまう。魔国親子がテレビに夢中になっている間に、持っていく写真を選ぶために私はアルバムを取り出す。私が悩んでいると、エミリアちゃんが見ていたアニメ番組は終わってしまい、繋ぎのためのコマーシャルが流れていた。レオさんは「これは広告か?」とすぐに気づく。
「……おいしそー」
エミリアちゃんから漏れたその言葉を、私は聞き逃さなかった。私はアルバムからテレビに視線を移す。ちょうどピザのCMをしていた。とろりと伸びるチーズはたしかに美味しそうだ。
「コユキ、これはなに?」
「ピザっていう食べ物だよ」
「へぇ……たべてみたいなぁ」
そう言ったエミリアちゃんのお腹がぐうっと鳴った。続けて私のお腹も。……これは、チャンスなのかもしれない。
「エミリアちゃん、ピザ、食べようか?」
「いいの!? コユキ、ピザ作れる?」
「作れるけど……せっかくこっちの世界に来たんだし、テレビのピザと同じものを注文しようよ」
私は棚から貯金箱を取り出す。当てもなく貯めていたお金、ピザを注文しても大丈夫なくらいはあった。
「どうやって注文するんだ?」
「電話でもできるんですけど……」
けれど、私のスマホは鍵と同様に大学の図書館にある。こうなったら、もう一つの手段で頼むほかない。私はテーブルの上に置きっぱなしにしていた白いノートパソコンを立ち上げる。レオさんはこちらにも身を乗り出す。
「これは?」
「パソコンって言って……文章を書く事ができたり、計算したり……とにかく、色んな事ができる機械です!」
「こんな薄い板でどうやって……」
パソコンの仕組みなんて私にはわからないので、適当な説明になってしまう。レオさんはパソコンをあらゆる角度から観察している。
「なるほど、この下に付いている板で文字を入力できるのか」
私が検索バーに宅配ピザ屋の名前を打ち込んでいるのを見て、レオさんはふむふむとなにかを理解したように頷いている。
「わたしもみたい!」
エミリアちゃんが私の膝に乗り、パソコンの画面を食い入るように見つめる。そこには彼女が食べたがっているピザの写真がたくさんあって、エミリアちゃんは「わぁ!」と嬉しそうな声を上げた。
「え! 開いた?!」
レオさんを見上げると、彼は深く頷いていた。交代するように私がドアノブを下げ、そのまま引いていくとドアがゆっくりと開いた。
「すごい! レオさん、ありがとう!」
「いや、大したことではないさ。簡単な魔法だ」
レオさんは少し照れた様子で、さっと顔を背けてしまう。その仕草がおかしくて、私の顔に笑みが溢れる。そのままドアを大きく開け、靴を脱ぐように伝えてから二人をアパートの一室に迎え入れた。
「ねえ、コユキ。コンビニよりいいものってなに?」
そうだった、無理矢理連れてきたのだった。エミリアちゃんは少しご立腹だ。
「え、えっとねぇ……」
私は部屋を見渡す。狭いワンルーム、必要最低限のものしかない部屋。彼女が喜びそうなもの……そうだ!
「テレビ! 魔国にないでしょ?」
「てれびぃ?」
私はテレビを指さす。しかし、エミリアちゃんは「まっくろな板じゃない」とご機嫌が直らない。私はリモコンを探し出し(狭くてもリモコンってすぐなくなってしまう)、電源ボタンを押す。すぐに画面に番組が映り出す。二人は飛び上がるほど驚いていた。
「な、なにこれ!」
「コユキ、板の中に人が!?」
二人の反応が新鮮で面白い。もっと喜んで欲しくて、私は番組表を見る。ちょうど子供向けのアニメがやっている時間だ。チャンネルを切り替えると、二人はまたびっくりして体を大きく振るわせる。
「すごーい! 動くえほんだ! しかもおしゃべりもしてる!」
すっかりエミリアちゃんはお気に召したみたいだ。テレビに向かって前のめりになったり、触ったりしている。レオさんは不思議そうに首を傾げていた。
「何なんだ、この【テレビ】というものは……こちらの世界に魔法はないと聞いていたのだが」
「私も詳しい仕組みは分かりませんが、電波を使って映像を受信する機械です」
「映像というと、動く肖像画や絵本みたいなものか?」
「まあ、そんな感じのことをイメージしてもらえればいいのかな?」
「ふむ……これはどんな映像を受信しているのだ? 子供向けのものだけなのか?」
レオさんも興味津々にテレビを見つめている。まるで子供みたいな横顔だ。
「それだけじゃなくて、ドラマ……演劇みたいなものを放送したり、ニュース……その日にあった出来事をお知らせしたり、天気予報もあったり。そうだ、料理番組もあるんですよ」
「ふむ、多岐にわたるわけか。すごいな、こちらの世界は」
真剣にテレビを見つめるその横顔にふっと笑みが溢れた。その笑顔を見ると、何故か嬉しくなってしまう。魔国親子がテレビに夢中になっている間に、持っていく写真を選ぶために私はアルバムを取り出す。私が悩んでいると、エミリアちゃんが見ていたアニメ番組は終わってしまい、繋ぎのためのコマーシャルが流れていた。レオさんは「これは広告か?」とすぐに気づく。
「……おいしそー」
エミリアちゃんから漏れたその言葉を、私は聞き逃さなかった。私はアルバムからテレビに視線を移す。ちょうどピザのCMをしていた。とろりと伸びるチーズはたしかに美味しそうだ。
「コユキ、これはなに?」
「ピザっていう食べ物だよ」
「へぇ……たべてみたいなぁ」
そう言ったエミリアちゃんのお腹がぐうっと鳴った。続けて私のお腹も。……これは、チャンスなのかもしれない。
「エミリアちゃん、ピザ、食べようか?」
「いいの!? コユキ、ピザ作れる?」
「作れるけど……せっかくこっちの世界に来たんだし、テレビのピザと同じものを注文しようよ」
私は棚から貯金箱を取り出す。当てもなく貯めていたお金、ピザを注文しても大丈夫なくらいはあった。
「どうやって注文するんだ?」
「電話でもできるんですけど……」
けれど、私のスマホは鍵と同様に大学の図書館にある。こうなったら、もう一つの手段で頼むほかない。私はテーブルの上に置きっぱなしにしていた白いノートパソコンを立ち上げる。レオさんはこちらにも身を乗り出す。
「これは?」
「パソコンって言って……文章を書く事ができたり、計算したり……とにかく、色んな事ができる機械です!」
「こんな薄い板でどうやって……」
パソコンの仕組みなんて私にはわからないので、適当な説明になってしまう。レオさんはパソコンをあらゆる角度から観察している。
「なるほど、この下に付いている板で文字を入力できるのか」
私が検索バーに宅配ピザ屋の名前を打ち込んでいるのを見て、レオさんはふむふむとなにかを理解したように頷いている。
「わたしもみたい!」
エミリアちゃんが私の膝に乗り、パソコンの画面を食い入るように見つめる。そこには彼女が食べたがっているピザの写真がたくさんあって、エミリアちゃんは「わぁ!」と嬉しそうな声を上げた。