『次は 立川 立川』

 車内アナウンスが流れる。

「アタシ、次で降りるんだ」
「あ、そうですか。それじゃあ……」

 東京都に入ったころには。あたりは完全に夕闇に包まれていた。僕の家はさらに東だから、ここで彼女とは別れることになる。

「あのさ、駿吾……」

 ためらいがちに和華乃さんは言う。

「もしアタシがさ、あの子と会う前にアンタに……」

 何を言おうとしているか察しが付いたから、僕はすかさず止めた。

「そういうのやめましょう? 気持ちは嬉しいけど……俺が好きになったのは、そうならなかった和華乃さんなんで……」
「……そっか」

 線路の音が変わる。鉄橋を渡っているようだ。川を渡れば減速が始まり、程なく立川に到着する。

「駿吾ってさ、ホント"いい人"だね。どうしようもないくらい」
「たはは……自分でもそう思います」
「そういう奴で良かった。もしさっき、変な下心出してたら……多分、駿吾のこと一生恨んだと思うから……」
「うわっ、あぶなかったぁー!」

 わざとおどけてみせる。

「ふふっ、それじゃあね」
「また飲みに行きましょう。もちろん下心抜きで」
「そだね。それじゃあ」

 電車は減速しながらホームに入る。そして彼女を放り出すと、更に東に向かって走り始めた。


「結局……"いい人"は辞められなかったわけか……」


 僕は明日の朝、上司へ言う謝罪の言葉を考え始めていた。

-完-