俺は兄貴に連絡を取った。
「兄貴? 侑斗だけど」
「お前何やってる、すぐに対応しろと言ったはずだ」
「つばさはそこにいるの?」
俺が何も言わないのに、つばさの身に何かあったとわかってる言い方だった。
「ああ、つばさちゃんは俺を訪ねて来た、不幸中の幸だ、何処に行ったかわからない可能性だってあったんだからな」
「ありがとう、助かったよ」
俺は兄貴に感謝してた。
「やっぱり、俺のこと疑ってる感じ?」
「いや、お前の妻でいる事に自信無くなったそうだ、ひと回り以上年上で、いつ病気が再発するか分からなくて、妻としての責任も果たせないから、お前が若い子に気が入っても仕方無いと言っていた」
「これから迎えに行くよ」
「いや、今晩は俺が預かる」
「つばさは俺の妻だ、行くから」
「侑斗、ちょっと待て、侑斗」
俺は兄貴の問いかけを無視してつばさの元に急いだ。
「つばさ、つばさ、迎えに来たよ、どこにいる?」
「侑斗」
「つばさ、帰ろう、あの記事は出任せだから、つばさを裏切る様な事はしてない」
「でも、私は・・・」
「俺を信じろ、つばさは俺の命だ、俺の側にいるだけでいいんだ」
「侑斗」
俺はつばさとマンションへ戻った。
「つばさ、俺はつばさと生きて行きたい、他の誰でも無いんだ」
「侑斗、でもね、私は侑斗に頼ってばかりで、迷惑ばかりかけて、耐えられないの」
つばさは俯いて、泣いていた。
「俺が生活していく上で、つばさの笑顔とつばさとの会話が一番だ、だから、妻らしい事しなくちゃって、無理して、苦しい、辛い思いや、顔されると余計に俺が辛くなる、家の事は家政婦頼んだり、食事はデリバリーにしたり、いつもつばさが笑っていられる様にしよう」
「侑斗」
俺はつばさを抱きしめた。
これから、一日でも多くつばさと生きて行きたい。
次の日、兄貴から呼ばれて病院へ行った。
「謝罪して許して貰えたか?」
「だから誤解だって、浮気何てしてねえよ」
「そうか、それならいい、つばさちゃんを大切にするんだぞ」
「ああ、それより話って、そのことか」
兄貴の表情が曇っているのに不安が大きくなった。
「この間の検査で、数値が上がってきている、入院をした方がいいんだが・・・」
「じゃあ、入院させるよ」
兄貴は少し考えて言葉を発した。
「お前、ちゃんと毎日病院へ来れるか?」
「大丈夫だよ、約束する」
「お前がつばさちゃんに取って薬だからな」
俺は兄貴と約束した。
そしてまた、つばさの入院生活が始まった。
日に日につばさは元気がなくなっていく様な気がした。
俺は毎日病院へ顔を出した。
つばさが寝てると、おでこにキスをする。
「侑斗、来てくれたの?」
「ああ、具合はどうだ」
「元気よ、侑斗が来てくれたから」
そう言ってカラ元気を出す。
「早く帰りたいな、侑斗と一緒がいい」
「そうだな、すぐ帰れるよ」
つばさは安心した様で、眠りについた。
兄貴に相談した。
「このままつばさを入院させて、数値は下がるのか? つばさの人生が残りすくないのなら、なるべく一緒に居たいんだ」
「そんな事はわからない」
「はっきり言ってくれ、つばさの余命はどれくらいだ」
俺は兄貴に食ってかかった。
「このまま何もしなければ、後半年くらいだな、でも諦めずに治療すれば」
「わかった、後半年だな」
「侑斗、本人には言うなよ」
「わかってるよ」
俺はある決意をした。
俺はつばさを退院させた。
「おい、侑斗、どう言うつもりだ」
「つばさは連れて帰る、通院させるよ」
「つばさちゃんの命を縮めるつもりか」
兄貴は俺に食ってかかった。
「死ぬまでベッドに縛り付けておくつもりかよ」
俺も一歩も引かず反撃をした。
「自分が何をしようとしているのか、わかってるか」
「わかってるよ、つばさとの思い出を作ろうとしている」
俺は病院を後にした。
「侑斗、私、退院出来るの?」
「ああ、うちに帰ろう」
「嬉しい、ありがとう、侑斗」
俺は会社に長期休暇を出し、つばさと旅行へ出かけた。
いろいろな観光地を巡り、二人の時間を作り上げた。
「侑斗、楽しい」
この旅行が、つばさの人生最後になるとは思いもしなかった。
俺とつばさは、お互いを求めあった。
最後の夜になるとは誰が想像出来ただろうか。
マンションに戻ると、つばさはすぐに眠りについた。
しばらく寝入っていた、まるでこのまま神に召されるのでは無いかと思う位に。
「つばさ、目を覚ましてくれ、まだ、お前に会えた嬉しかった事、俺の人生で今まで気づけなかった気持ちがあった事、いろいろまだ話したい事いっぱいあるんだよ、つばさ、つばさ」
俺は人生において初めて泣いた、兄貴に恋人を取られた時も、お袋に邪険にされた時も、負けず嫌いの俺は、決して涙を流す事は無かった。
これほど女を愛したことも・・・
つばさ、俺、これからお前のいない人生をどう過ごしたらいいんだよ、教えてくれ、つばさ。
その時、つばさが目を覚ました。
「つばさ、大丈夫か」
「侑斗、いやだ、なんで泣いてるの?」
「泣いてなんかいねえよ、目から汗が出たんだよ」
「そうなんだ」
つばさはニッコリ微笑んだ。
「ずっと寝てるから、もう起きないのかと心配したぞ」
「そう? そんなに寝てた? 夢見てた、侑斗が後ろ向いて私の前からいなくなっちゃうの、侑斗って呼んでも振り向いてくれなくて・・・」
「夢だな、絶対にあり得ねえことだから・・・」
つばさは手を俺の頬にあてて「侑斗、大好きよ」そう言って、また眠りについた。
「つばさ、つばさ」
何度呼んでもつばさは目を開ける事はなかった。
救急車を呼び、兄貴の病院へ向かって貰った。
「つばさ、しっかりしろ、もう少しで兄貴の病院だからな」
つばさは目を覚さなかった。
覚悟はしていた。
俺がつばさの命を縮めたんだ。
つばさ、許してくれ。
俺がつばさとの思い出を作りたかったばかりに、お前の命を・・・
救急処置室で兄貴はつばさの処置を行った。
しかし、つばさの命の炎は消えた。
全ての事が終わり、マンションに帰った。
いつのまにか眠っていた。
「侑斗、侑斗」
「つばさ?つばさなのか」
「ごめんね、ずっと眠っていて、話があるんでしょ?」
「つばさ、俺はつばさがいない人生をどう過ごせばいいんだ」
「侑斗は社長さんなんだから、これから、全社員の事を考えて、会社を盛り立てていかなくちゃ」
「つばさがいないと、元気が出ないよ」
「大丈夫、ずっと側にいるよ」
「つばさは俺の人生に無くてはならないパートナーだから」
「ありがとう、あ、もう時間、また来るね」
「つばさ、何処に行くの?」
つばさは消えた。
魂が天に召される前に、俺に会いに来てくれたのか。
つばさ、俺、頑張るよ、ずっと俺の側にいてくれ
つばさとの永遠の別れだった。
END