「おはよう、目黒くん大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
つばさは驚いた表情で俺を見つめた。
「どこか痛いの? 先生呼んで来るね」
俺はつばさの手を掴み慌てて止めた。
「つばさ、嘘、嘘、大丈夫だから、ここにいて?」
「良かったあ、びっくりさせないで」
「ごめん、あのさあ、そろそろ目黒くんじゃなくて、侑斗って呼んでくれないかな」
つばさは戸惑いの表情で恥ずかしそうに俯いた。
「呼んで見て、そうしたらもっと元気になれるかもしれないから」
つばさはしばらく悩んで、口を開いた。
「ゆ う と」
俺の心臓の心拍数が半端ない。
俺はつばさの腕を掴み、キスをした。
これが俺とつばさの初めてのキスである。
つばさは俺の突然のキスを受け入れてくれた。
めっちゃ嬉しかった。
今まで侑斗と何十回、何百回女達に呼ばれたが、つばさに呼ばれた響きは比べ物にならない位にドキドキした。
俺が入院した事は、たちまち広まった。
毎日、次から次へと彼女達が病室へやって来る。
つばさは全く顔を見せなくなった。
いや、そうではない、病室へ来ると、俺は彼女達に囲まれている為、つばさはいつも気遣って、そのまま病室を後にしていた。
そんな事とは知らず、久しぶりにつばさが病室へ顔を出した時、俺は文句を言ってしまった。
久しぶりではない、つばさは毎日来てくれていたのに・・・
「侑斗、大丈夫?」
「大丈夫じゃない、なんで毎日来てくれていたのに、一週間もご無沙汰ってどう言う事?」
「ごめんなさい」
「社長と会ってたの?」
つばさは怖い表情で俺を見つめた。
「ひどい、そんな事考えていたの?私は毎日来てたよ、来ると毎日病室には女の子が居て、入れなかった、だから遠慮してたんだよ」
つばさは目にいっぱいの涙を浮かべていた。
「ごめん、知らなかった」
「侑斗のバカ」
「つばさ!」
つばさは病室から飛び出していった。
俺はなんてバカなんだ。
何も知らず、嫉妬して、つばさの気持ちをわかろうともしないで、子供だよな、俺は。
つばさは彼女達のことを責めることもなく、かえって気遣いをしてくれたのに、ごめん。
俺はそっと病院を抜け出した。
つばさが危険な目に合って以来、俺のマンションで暮らしている。
つばさに謝らなくちゃ。
俺は自分の部屋に入った。
「つばさ」
つばさはびっくりして俺に駆け寄った。
「侑斗、どうしたの? 病院抜け出して来たの?」
「つばさに謝りたくて、ごめん」
「もう、いいから、私こそごめんね、社長とは会っていないから」
つばさは俺を支えてくれた。
俺はつばさとキスをした。
愛してるよ、つばさ。
この時、俺は大勢の彼女達との別れを決意した。
つばさだけをずっと愛すると誓った。
「病院へ戻らないと、みんな探してるよ」
俺はつばさと病院へ戻った。
ある日俺の病室へ白髪混じりの男性が訪ねて来た。
「お坊っちゃま、探しましたよ」
俺のことをお坊っちゃまと呼ぶこの男性は、目黒財閥の執事、朝日である。
そう、俺は目黒財閥の御曹司、そして目黒コーポレーション次期社長である。
「お怪我は大丈夫でございますか」
「ああ、大丈夫だ、もう子供じゃないんだから放っておいてくれ」
「そう言う訳には参りません、真斗様の病院へ移りましょう」
真斗とは俺の兄貴で、目黒コーポレーション次期社長の座を俺に押しつけて勝手に好きな女と結婚し、外科医の仕事をしている嫌なやつである。
「死んでも兄貴の病院へは行かない」
「侑斗様、奥様も大変お心配されております」
「あいつは兄貴だけが大事なんだ、心配された覚えはない」
朝日は大きなため息をついた。
そこへつばさがやって来た。
「侑斗、着替え持って・・・」
「はじめてお目にかかります、わたくし目黒財閥執事の朝日と申します、この度は侑斗様が大変お世話になり、ありがとうございました」
「目黒財閥? 侑斗様? 」
「朝日、もういいから今日は帰ってくれ」
「かしこまりました、ではまた後ほど伺います、失礼致します」
朝日は病室を後にした。
つばさはキョトンとした表情で俺を見つめた。
「侑斗、どう言う事?」
俺は目黒財閥御曹司であり、目黒コーポレーション次期社長であることをつばさには話していなかったのである。
「ごめん、俺、目黒コーポレーションの次期社長が決まってるんだ、俺には兄貴がいるんだが、外科医でさっさと好きな女性と結婚して、跡継ぎは任すとか言って、俺が引き継ぐ事になっちゃって」
「侑斗は目黒コーポレーションの社長になるの?」
「今すぐって訳じゃないけど」
つばさは一点を見つめて、考えこんでいた。
「つばさ、俺達は何も変わらないよ」
「私、侑斗とは付き合えないよ」
「どうして?」
俺は目の前が真っ暗になるような感覚に陥った。
「きっと婚約者が決まってる」
「飛鷹社長と一緒にするなよ、俺は違う」
「それに、ひと回りも上なんて、反対されるし、後継者を残すのに、若い奥さんがいいに決まってる」
つばさは取り乱していた。
「つばさ、落ち着いて、こっちにおいで」
俺はつばさの手を引き寄せ抱きしめた。
「大丈夫、俺には婚約者なんかいないし、社長になってもつばさと結婚する、後継者のことは気にしなくていいから」
つばさの手は小刻みに震えていた。
侑斗は退院する事になった。
私は侑斗との付き合いにピリオドを打つ決心をした。
会社に辞表を出し、私は会社を辞めた。
久しぶりに出社した侑斗は、私が辞表を提出した事を知って愕然とした。
つばさ、どうして俺を信じて待っていてくれなかったんだ。
マンションもつばさの荷物は、綺麗に片付いていた。
俺はつばさを探した。
しばらくして、つばさの居所が判明した。
「つばさ、探したぞ」
「侑斗、私では侑斗の結婚相手は務まりません」
つばさは泣いていた。
「つばさ、何も気にしなくていい、二人でいろいろと乗り越えて行けばいい」
つばさは本当に不思議な女だ。
将来社長夫人になれるなら、離れたりしない。
でもつばさは、いつも逆を行く、他の過去の女たちとは考え方が違うんだ。
俺はつばさを説得した。
「つばさ、今度デートしような、それに脇を支えてくれないとまだ、痛くてしようがないからな」
つばさは俺を見つめながら頷いていた。
私はなんて自分勝手な事をしたのかと反省した。
自分の身を呈して私を守ってくれた為に、痛くて辛い思いをしたのに、自分の事しか考えなくて、侑斗、ごめんね。
「侑斗、ごめんね」
侑斗は私を抱き寄せてキスをした。
「つばさ、ずっと一緒にいような、やっとつばさが俺を好きになってくれたのに、俺が自分の身分のせいでつばさを失うなんて、自分の身分を呪っちゃうよ」
私は大きく首を横に振った。
「私がダメなの、もっと侑斗に相応しい女性ならいいんだけど・・・」
「つばさは俺には勿体ないくらいの女性だよ、だって、今まで大勢の女性と付き合って来て、満足出来なくて、次から次と彼女作って、それでもこの人って言う女性に巡り会えなくて、でもつばさはつばさ一人で満足だし、つばさ以外は何もいらないって思える位に、つばさは大切な存在だから、俺の側を離れないでね」
「侑斗!」
「俺のマンションに戻ってくるよね」
「うん」
私は涙が溢れて止まらなかった。
この幸せがずっと続きます様にって願った。
侑斗は傷口の痛みが中々回復しなかった。
しばらく仕事を休む事になり、私は侑斗の看病に専念した。
「つばさ、ごめんね、デート行くって約束したのに・・・」
「大丈夫だから、気にしないで、侑斗の側にいられるから嬉しいよ」
私は侑斗にキスをした。
俺は傷口が裂けて、激痛に襲われた。
「痛え、ああっう」
「侑斗、侑斗、大丈夫、救急車呼ぶね」
俺は救急車で病院へ救急搬送された。
絶対に避けたい病院へ救急車は向かった、鷹見総合病院だった。
「鷹見先生、救急搬送された患者さんは、目黒侑斗さん、二十五歳です」
「目黒侑斗?」
俺は緊急手術を受ける事になった。
麻酔が切れて病室で気づくと、つばさが俺の側についていてくれた。
「侑斗、大丈夫?」
「俺、どうしたんだ?」
そのとき病室のドアをノックする音がして、一人の男性が入って来た。
「痛みはどうですか」
「兄貴」
「よう、侑斗、お前、ヤブ医者に縫合して貰ったんだな、だから裂けてきたんだよ」
「うるせえよ、兄貴には関係ないだろ」
「おい、再度縫合手術したの、誰だと思ってるんだ」
俺は何も言えず黙っていた。
鷹見総合病院外科医の鷹見真斗、俺の兄貴だ。
何故苗字が違うかって?兄貴の嫁さんは鷹見総合病院院長の娘である。
つまり婿養子の為、兄貴は鷹見になった。
そして、俺は目黒コーポレーション次期社長の役割を押し付けられた。
俺が兄貴に敵意を剥き出しにしている理由は他にもある。
それは後ほど語るとして、それより今、目の前の現実に俺の不安は集中した。
兄貴は超が付くほどのプレイボーイである。
その兄貴がつばさをじっと見つめている。
「兄貴、つばさに手を出したら殺すからな」
「へえ〜それほど大事な女性か、でもつばささんが俺を好きになったら、諦めろよ」
兄貴はじっとつばさに熱い視線を送っている。
「つばさ、俺の側に来い」
「ふ〜っ、首輪でも付けておくんだな」
兄貴は病室から出て行った。
「つばさ、兄貴には気をつけろ、わかったな」
「はい」
俺はつばさが心配で仕方なかった。
兄貴は欲しいと思ったものは必ず手に入れる、たとえ俺の大事な人でも・・・