「あ、見て!」
誰かが教室の窓から外を指さした。
一斉に振り返る。
高台の校舎から見渡せるほど遠いどこかの街で、ピンク色に輝く巨大な光の柱が立ち上っていた。
「本物、初めて見た」
「うわ、動画と一緒だね」
やがてその光は、すうっと空に消える。
あの光の柱が現れたところの、世界は消えるらしい。
「ニュースになるかな」
「どうだろうね」
何人かは、さっそくスマホで検索を始めた。
私はそんなことを全く気になんてしていない素振りをしながら、やっぱりネットに答えを探す。
その情報は、どこにも載っていなかった。
「うわ、まだどこにも出てないんだけど」
「早すぎなんじゃね、さすがに」
「そうかもな」
「写真撮っとけばよかったー」
クラスの皆はそう言った。
チャイムは鳴る。
授業は始まる。
なんてことはない、いつもの日常だ。
おかしなことがあったせいで、園芸部の観察記録の更新がまだ出来ていない。
何年か前の先輩が作ったとかいうアプリに書き込むやつだ。
誰もバージョンアップすることの出来なくなったそれを、たった一人で引き継いだ私は、世界で自分だけの知っているパスワードで開き、誰も見ていない記録を更新する。
天気予報から気温と湿度をコピペして保存すると、棒グラフと折れ線グラフまで勝手に伸びる、よく出来た仕組みだ。
無駄に能力値が高くて、誰も見ていないのに真面目に働いている。
私とは大違いだ。
昼休みになると、教室の他に行き場のない者同士で集まって弁当を食べる。
なんとなく一緒にいても、自分を邪魔だと思っていないだろう人たちだ。
人気アイドルの出演番組はチェックしている。
あの俳優とこの俳優はもちろん、アニメも漫画も漏らさない。
なぜならそれが、私たちの唯一の共通言語として認められているものだからだ。
「こないだの『クイズ・何でも初めて始めてナンバーワン!』見た?」
「見た見た! 面白かった~! 八神くん最高!」
軽やかな笑い声が辺りを包む。
あの子が好きなのはコレで、この子が好きなのはアレ。
いつも通り順番に話題を振ってから、多分満足したのは自分の立ち回り。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
あまり長居をしても申し訳ないので、すぐに遠慮して立ち去る。
たった一人の園芸部員であり部長という立場は、とても便利だった。
この時間にオンラインゲームのデイリーをクリアしながら草むしりをすることが、何よりも効率的だと気づいた。
放課後は早く家に帰りたいし、他の運動部と活動時間がかぶると、たまに面倒くさいことが起こったりなんかもする。
だとしたら衆人環視のきいた昼休みという環境はありがたかった。
ピアノが聞こえてきた。
あぁ、今日は昼休みも弾いているのか。
その旋律に、彼女のいい加減な鼻歌が混じる。
繊細で神経質な彼の音色は、もう聞けなくなってしまった。
スマホの音量を最大値まで上げてから、イヤホンをぶち抜く。
突然のゲーム音に驚いたピアノは、すぐに鳴り止んだ。
「すみませんでしたぁ~!」
一言謝罪を入れてから画面を飛ばす。
ざまぁみやがれ。
パンパンとカラスの墓に向かって両手を打ち合わせ、目を閉じ拝む。
なんか違うような気もするけど、気にしない。
私はもう一度満足して、その場を後にした。
その日の夜、チラリとみたスマホのネットニュース「地域」の欄に、学校の近くで光の柱が発生したと出ていた。
ヘッドラインだ。
私だってたまに気の向いたときには、それくらいのチェックはしている。
といっても、そこしか見てないんだけどね。
そんなもんでしょ。
ベッドに横になる。
朝になって、ちゃんと学校へ向かった。
誰かが教室の窓から外を指さした。
一斉に振り返る。
高台の校舎から見渡せるほど遠いどこかの街で、ピンク色に輝く巨大な光の柱が立ち上っていた。
「本物、初めて見た」
「うわ、動画と一緒だね」
やがてその光は、すうっと空に消える。
あの光の柱が現れたところの、世界は消えるらしい。
「ニュースになるかな」
「どうだろうね」
何人かは、さっそくスマホで検索を始めた。
私はそんなことを全く気になんてしていない素振りをしながら、やっぱりネットに答えを探す。
その情報は、どこにも載っていなかった。
「うわ、まだどこにも出てないんだけど」
「早すぎなんじゃね、さすがに」
「そうかもな」
「写真撮っとけばよかったー」
クラスの皆はそう言った。
チャイムは鳴る。
授業は始まる。
なんてことはない、いつもの日常だ。
おかしなことがあったせいで、園芸部の観察記録の更新がまだ出来ていない。
何年か前の先輩が作ったとかいうアプリに書き込むやつだ。
誰もバージョンアップすることの出来なくなったそれを、たった一人で引き継いだ私は、世界で自分だけの知っているパスワードで開き、誰も見ていない記録を更新する。
天気予報から気温と湿度をコピペして保存すると、棒グラフと折れ線グラフまで勝手に伸びる、よく出来た仕組みだ。
無駄に能力値が高くて、誰も見ていないのに真面目に働いている。
私とは大違いだ。
昼休みになると、教室の他に行き場のない者同士で集まって弁当を食べる。
なんとなく一緒にいても、自分を邪魔だと思っていないだろう人たちだ。
人気アイドルの出演番組はチェックしている。
あの俳優とこの俳優はもちろん、アニメも漫画も漏らさない。
なぜならそれが、私たちの唯一の共通言語として認められているものだからだ。
「こないだの『クイズ・何でも初めて始めてナンバーワン!』見た?」
「見た見た! 面白かった~! 八神くん最高!」
軽やかな笑い声が辺りを包む。
あの子が好きなのはコレで、この子が好きなのはアレ。
いつも通り順番に話題を振ってから、多分満足したのは自分の立ち回り。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
あまり長居をしても申し訳ないので、すぐに遠慮して立ち去る。
たった一人の園芸部員であり部長という立場は、とても便利だった。
この時間にオンラインゲームのデイリーをクリアしながら草むしりをすることが、何よりも効率的だと気づいた。
放課後は早く家に帰りたいし、他の運動部と活動時間がかぶると、たまに面倒くさいことが起こったりなんかもする。
だとしたら衆人環視のきいた昼休みという環境はありがたかった。
ピアノが聞こえてきた。
あぁ、今日は昼休みも弾いているのか。
その旋律に、彼女のいい加減な鼻歌が混じる。
繊細で神経質な彼の音色は、もう聞けなくなってしまった。
スマホの音量を最大値まで上げてから、イヤホンをぶち抜く。
突然のゲーム音に驚いたピアノは、すぐに鳴り止んだ。
「すみませんでしたぁ~!」
一言謝罪を入れてから画面を飛ばす。
ざまぁみやがれ。
パンパンとカラスの墓に向かって両手を打ち合わせ、目を閉じ拝む。
なんか違うような気もするけど、気にしない。
私はもう一度満足して、その場を後にした。
その日の夜、チラリとみたスマホのネットニュース「地域」の欄に、学校の近くで光の柱が発生したと出ていた。
ヘッドラインだ。
私だってたまに気の向いたときには、それくらいのチェックはしている。
といっても、そこしか見てないんだけどね。
そんなもんでしょ。
ベッドに横になる。
朝になって、ちゃんと学校へ向かった。