ピンクの柱問題が過去のこととなってから、数年が過ぎた。

いまはもう、それにおびえるヒトもコトもない。

「一般相対性理論では時間を限定しておらず、反転が成り立つ。いま現代においてブラックホールの存在が認められているのならば、同じ法則に従ってホワイトホールの存在を否定することは難しい。あの現象は、一過性のホワイトホール現象が地球に近いどこかで起きた影響を受けていたのではないか。『実在する』と結論づけるための予測と実証、この実証の部分が推論の域をでない限り、この証明は難しく……」

高校卒業後、就職しようかと思っていたのに、急に大学へ行きたくなった。

どうにも分からないことをそのままにしておくのは、苦手だったらしい。

「ただ、時間は不可逆的であるという難題が未だ残されており、その点において実証実験の……」

授業とは、寝るものではなくちゃんと聞くものだと、大学へ来て初めて知ったと言ったら、高校までの先生に怒られるかな。

大学の構内は、そこだけが別世界のよう。

門をくぐれば広がる世界は、外の世界とは完全なる異世界で、先生は証明がされていないと怒られるかもしれないけど、私はこの空間だけは、外界の時間を飛び越えていると思う。

「ゴメン、待った?」

ベンチに座っていた私に、そう声をかける。

「時間が可逆的だと言われたら、どうする?」

「……。どうもしない」

「どうして?」

「『いま』しかどうせ見ていないから」

「いましか見てないの?」

そう言うと、彼はじっと見下ろした。

「『いま』における未来と過去って、言った方がいい?」

「あぁ、なるほどね。納得」

手を伸ばす。

伸ばした手はすぐに白い手に触れて、ぎゅっとつながれる。

きっとこれも、永遠に変わらない普遍の法則。

「すきにすればいいさ」

晴れ渡る青い空のまぶしさに、私は目を細めた。



【完】