「なんだよ、こんなところにいたのか」

 その声に振り返る。

「びっくりした。急にいなくなってるから。どこ行ったのかと思った」

倉庫横に置いてきたはずのバスタオルを、すぐ横の机に置いた。

「なんでいるの?」

じっと目が合う。

彼は、ふぅとため息をついた。

「そんなの、こっちが知りたいよ」

手にはコンビニの袋を抱えている。

「ね、お腹空かない? そこのコンビニでパクってきた」

菓子パンとか惣菜とかの、飲み物が二人分しっかり詰め込まれている。

「ちょ、万引き? 勝手に取ってきちゃダメじゃない!」

「だって、誰もいないんだもん。本当に」

そういう問題じゃない。

こんな緊急事態だからって、していいこととダメなことはあると思う。

「ダメだと思う!」

「じゃ、生のジャガイモ食ってれば」

お高いアイスのパックを取り出す。

袋からはちゃんと2つあるのが透けて見えている。

私の分も取ってきてくれたんだ。

蓋を取り中のシールを剥がずと、それをスプーンですくって口に放り込む。

「マズい」

「えっ?」

「やっぱいらない。俺はこれじゃない方にする」

食べかけのアイスを差し出す。

彼の手の熱でわずかに溶け始めたそれを受け取った。

「実はもう一個もらってきたんだ」

 同じメーカーの別の味だ。

それを開けて食べる。

「うん。こっちがいい」

カップの表面が、しっとりと濡れている。

私はずっと、怖かったんだ。

彼の姿を見てほっとした瞬間、そのことに気づく。

真っ暗なままの教室は相変わらず真っ暗で、窓の外だけは誰もいない世界で、キラキラと輝いている。

「学校から外に出た?」

首を横に振った。

「そっか。この周辺、ざっと見て回ったけど、俺たち以外誰もいなかった」

甘いアイスはとろりと溶けて、喉を流れる。

「もう少し、真面目に考えた方がいいと思うよ」

「何を?」

彼は座っていた机から、ぴょんと飛び降りた。

「どこで寝る? 保健室? 校長室のソファもよさそうだったけど、用務員の宿直室にも布団はあった。干してはないけど」

校外のコンビニから持って来たその袋を私に差し出す。

「それとも、自分ちに帰ってみる?」

私はもう一度首を横に振った。

ここから離れるのも、一人になるのも怖かった。

私たちは保健室のベッドを動かし、間にカーテンを引いて眠った。