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 いったい、何が起こったのか。
 朋也には理解出来なかった。

 何か気に障ることでもしてしまったのだろうかと思ったが、思い当たる節は全くない。
 ただ、涼香を傷付けたことだけは何となく察した。

「女の気持ちって分かんねえ……」

 こういう時、誰に相談したらいいのだろう。
 紫織――は、とても言いづらい。
 涼香は紫織の親友だ。
 もしも、傷付けてしまったかも、なんて言ったら、紫織にこっぴどく叱られることは明白だ。
 かと言って、自分に告白してきた張本人である誓子には、なおさら相談出来ない。

 朋也はその場に立ち尽くしたまま、チノパンのポケットから携帯電話を取り出す。

 ほとんど無意識だった。
 指は、電話帳登録されている兄――宏樹の番号を選択して押していた。

 コール音が鳴り続ける。
 不意に我に返って通話を切ろうとしたのだが、それより先にコール音は途切れてしまった。

『お、朋也か?』

 向こうも番号を登録しているから、すぐに朋也からだと分かったらしい。
 挨拶を抜きに、いきなり、『どうした?』と切り出してくる。

『電話してくるなんて珍しいな。今頃になって家が恋しくなったか?』

「うるせえ。茶化してんじゃねえよ」

『あっははは! 冗談だよ、冗談! すぐにムキになるトコは昔っから変わらねえなあ』

 電話の向こうで笑い続ける宏樹。
 腹立たしく思いつつ、懐かしいやり取りに、ほんのちょっぴり心が和む。

『で、ほんとにどうしたんだ? もしかして、兄ちゃんに相談事か、ん?』

「――その〈まさか〉だったらどうするよ……?」

 朋也の台詞に、宏樹の笑い声がピタリとやんだ。
 まさか、本気で朋也が宏樹に相談事を持ちかけてくるなんて夢にも思わなかったのだろう。
 そもそも、宏樹以上に朋也本人が一番驚いているのだから。