「なら、よかった」
「う、うん。ありがとう…」
小さな声で呟いた三日月さんの頬は、少しだけ赤く染まっているようで、それを見た僕も、伝染したように顔が熱くなる。
おまけに、右手がやたらと熱い。
振り返ってみても僕は、女の子と手を繋いだことがない。
唯一あるとすれば、中学生のときのフォークダンスくらいで、そのときでさえも女の子の手に添えるので精一杯だった。
あのときの、どきどきした感情に似てる。
たまらなく恥ずかしくなって、彼女から視線を逸らして少し上を仰ぐと。
「………あ」
目の前の光景を見て、思わず声がもれた。
「向葵くん? どうしたの」
困惑した彼女は、声をかける。
僕は、あれ、と目の前に指をさす。
「……うわー、すごい」
僕たちの目の前には、大きな虹が空に浮かんでいた。
空はまだ灰色がかっていたけれど、その隙間から夕陽の光が差し込んで、目の前に浮かぶ虹は、はっきりとくっきりと見えた。
「……すご」
思わず、口をついて出た。
「綺麗だね。なんか、心に刺さるなぁ」
「…うん」
しみじみと呟いた彼女に、同感した。
今までは、景色を見たりしても綺麗以上の言葉は思いつかなかったけれど、今は違う。
なにか、心打たれるものがあった。