だったら、そんなの当たり前に経験しているはずなのに。


「ないよ、一度も」


と、わずかに声色が落ちた、気がした。


「だから、屋上が開いてるの知って、どうしてもしてみたくなったの!」


けれど、すぐに明るくなった彼女の顔を見て、今のは気のせいだったのかもと思った。


「開いてるって確認しに来たわけ?」

「え? うん、この前一度ね」


確認までしてるってもはや確信犯だな。

ていうか、べつに、


「授業中じゃなくてもよかったんじゃないの。休み時間とか昼休みとかさ」

「それじゃあ意味ないの!」


矢継ぎ早に言い返したあと、


「授業中に屋上で大の字で寝転ぶことに意味があるんだからね!」

「……サボって何の意味があるんだよ」


思わず呟くと、


「なんか青春って感じするでしょ!」


そう告げたあと、うーん、と背伸びをして気持ちよさそうに顔を緩ませる。


何が青春だよ。何が意味があるだよ。

どうせ、見つかったら怒られるのに。

僕には三日月さんの気持ちが全然理解できそうにない。


「それより向葵くんも寝転んでみたら?」


告げられて、視線を向ければ屋上の真ん中でほんとに大の字になって寝転んでる三日月さんが視界に入る。

その姿を見て、ドアに背もたれたまま立ち尽くす自分がバカらしく思えて、彼女のそばへと近づいた。