「おーい、プリントまだか?」
数人しかいない教室に担任の先生がやって来る。
他の人は聞こえているはずなのに、友達との会話に夢中で気づかないフリをしているらしい。
「…どうしたんですか?」
文庫本にしおりを挟んで、教卓の前へ向かう。
「おお、茅影。いやな、実はまださっきのプリントが届いていないんだが、知らないか?」
「…プリントですか?」
そういえば、一限目の授業で三限目までに回収して職員室に持って来なさい、と日直が言われてたっけ。
その本人は完全に忘れていないし。
でも、回収だけはしてたよな。
「多分ここに……」
教卓の中を覗くと、放置されているプリントの束が置かれていた。
「これじゃないですか?」
「ん? おお、これだこれだ。ありがとう、茅影」
「い、いえ…」
ありがとう、なんて照れくさいな。
でも、少しは誰かの役に立ってるのかな。
「ったく、今日の日直には今度雑用でもさせるかなー」
プリントを全員分あるか確認しながら、独り言を呟いた先生。
今日の日直は、真っ先に転校生に会いに行った藍原(あいはら)だ。
さっき小武に声かけてたやつ。
心の中で、ざまあみろ、と思った僕。