どれほど同じ姿勢でいただろうか。
 ふと、暗がりの中で、仄かに明かりが浮かんでいるのを感じた。

 俺は怪訝に思い、顔を上げる。と、そのまま瞠目してしまった。

 ベンチに座っているすぐ目の前で、ひとりの女が立っている。
 それだけならば別に驚きもしなかっただろう。
 問題は、その女の異常としか言いようのないファッションだった。

 ダウンジャケットを着込み、マフラーを巻いていても凍えそうなほど寒いのに、女の服装は見た目からしても寒々とした白いロング丈のワンピース一枚のみ、足元は、靴も履いていない全くの素足だった。

 ――こいつ何者だ……?

 俺に限らず、誰が見たってそう思うだろう。

 背中まで真っ直ぐに伸びたブロンドの髪に、深海を彷彿させる蒼い双眸。
 外見は申し分なしの美人だが、それでもやはり、〈妖しい女〉という認識はどうあっても拭い去れるものじゃない。

 女は表情ひとつ変えず、俺を見下ろしている。
 深い蒼にジッと見据えられると、こっちもいたたまれない。

 俺は女から視線を逸らした。
 女の双眸には、何もかもを透かし見てしまいそうな、そんな強い気が働いているような気がしたのだ。

「――はあ……」

 しばしの沈黙のあと、女から大仰な溜め息が漏れた。
 かと思ったら、「いつまでだんまりを続ける気だよ?」と、おおよそ女の外見からは想像も付かないほどの荒い語調で訊ねられた。

「こっちはせっかく、あんたに呼ばれたからわざわざ来てやったってのに……。私だってさ、年がら年中暇ってわけじゃないんだからね!」

 ――呼んだ? 俺が? この女を……?

 女の言っている意味が分からず、俺は眉間に皺を寄せながら首を捻った。
 そもそも、俺は人を呼んだ覚えがない。
 それ以前に、この辺りには俺以外は誰もいなかったはずだ。

「――あんた誰……?」

 まず、真っ先に浮かんだ疑問を投げかけた。

 女は先ほどまでのポーカーフェイスを崩し、俺と同様に眉をひそめる。
 そして、またしてもこっちが絶句してしまうようなことをサラリと告げてきた。

「私? 私は天使だよ。見て分かんない?」

 ――いや、分かんねえし……

 言葉には出さなかったが、心の中で即座に突っ込みを入れた。
 呆気に取られながら女を見つめていると、女はまた、盛大に溜め息を吐いた。