7月21日(木)から8月31日(水)までは学校は夏休み。会社の今年の夏休みは8月8日の週で土日を加えると9日間になる。混雑を避けて6日(土)から10日(水)までの5日間帰省することにした。

夏休みは受験勉強の天王山だけど、美香ちゃんにどうすると聞くと、気分転換したいから、連れてってという。

それで、折角なので、行きは軽井沢で1泊してから、金沢に入り、実家で3泊して帰ってくることにした。美香ちゃんは勉強道具を持参するという。

【8月6日(土)】
8月6日(土)に美香ちゃんの作ったお弁当を持って出発。軽井沢で下車。駅に荷物を預けて自転車を借りてサイクリングして見物。やはり夏の軽井沢は涼しい。

美香ちゃんも上機嫌。お昼は植物園でお弁当を食べた。3時に上田に移動。話題の真田城を見物、夕食は信州そばのうまい店へ行った。

宿泊は駅前のビジネスホテル。軽井沢のホテルは予約が直近だったため満室でようやく上田にホテルを見つけて予約した。

上田は会社の工場があって、入社時に2か月ほど研修でいたところで、このあたりの軽井沢や小諸にも土地勘がある。軽井沢は毎週休みに同期の仲間と見物に訪れていた。ただ、10年前とは随分変わっていた。

美香ちゃんは夏休みに入ると同時に、受験の準備をはじめていた。学校が休みだから家事をしても勉強時間は十分あった。

今日は気分転換になってよかったと喜んでいた。部屋はセミダブルでかなり狭いが、枕が二つ並んでいる。

美香ちゃんは狭いベッドがまんざらでもなさそう。そういえば、ベッドでははじめてだ。今日くらいは勉強を忘れてもいいでしょうと、しがみ付いてくる。

受験勉強が始まってから、遠慮してほどほどにしていたが、今日は良いかと張り切ってしまった。その後、爆睡。

【8月7日(日)】
次の日、上田から新幹線で金沢へ。11時には実家についた。もう結構な暑さだ。昼ごはんはまた近くのうどん屋さんへ。夏は冷やしうどんがうまい。

暑いので部屋を軽く掃除して、冷房を入れて、美香ちゃんは2階の寝室で4時までお勉強。僕は隣の自分の部屋で片付け。

祖父が電器関係の仕事をしていたので、家の部屋にはすべてクーラーがある。ただ、今の冷暖兼用タイプではなく、クーラーのみの古いタイプ。省エネと冬のために機会を見て、買い替えようと思っている。

4時になって日差しも少し和らいだので、二人で3泊4日分の食料の買い出しに、歩いて12~3分のスーパーへ。ここは野菜、果物、魚、肉類が中心。すごく安いと美香ちゃんが驚くくらいで、特に野菜と果物は東京の1/3位の値段。

このあたりは少子高齢化でお客はお年寄りばかり、あと20年もすると住む人がいなくなるかもしれない。限界集落に近づいている。都市一極集中の弊害だ。

夕食は夏向きの和食。確かに重いものは食べたくない。夕食の後片付けを済ますと美香ちゃんはまたお勉強。今晩はゆっくり寝ようねとパスの合図。美香ちゃんも「はい」と了解。昨晩は張り切り過ぎた。休養もしないと。

【8月8日(月)】
今日は朝の涼しいうちにお墓参り。結婚の報告もしなければならないので、もちろん美香ちゃんも一緒に。タクシーを呼んで、大乗寺山の墓地へ向かう。タクシーを待たせて、墓地の入口にある店で花と蝋燭と線香を買ってから、再び坂を上って行く。

中腹にお墓がある。祖父が見晴らしがよいと言って、ここに自分でお墓を建てた。タクシーを待たせて二人でお参り。金沢は新盆で7月にお墓参りをするので、7月のお墓参りの名残はもうすでに片付けられている。

祖父が選んだだけあって、見晴らしがよい。この辺りは古戦場であったという話を聞いたことがある。心地よい風が吹いている。これで結婚の報告が終わって、ほっとして帰宅した。1時間でお墓参りが済んで暑くなる前に帰れた。

それから、昼まで美香ちゃんはお勉強、僕は庭の草とり。5月の連休に草取りをしたが、もう雑草いや野草が一杯生えている。

今は、ドクダミが満開だ。祖母がドクダミは身体によいと、花が咲いた今頃、摘み取って干していた。お茶混ぜて飲むと癖がなくなるので夏から秋にかけて飲んでいたのを思い出した。

昼食はソーメン。大学生のころ、休日の昼食がソーメンだと、これじゃ力がでないと祖母に言っていたものだが、今はこれくらいの軽さの昼食が丁度良い。確かに、もう育ち盛りでもない。暑い時はソーメンが一番と二人で食べた。

午後も美香ちゃんはお勉強。僕は草取りに疲れてのんびり昼寝。気持ちいい。夏休みを満喫。

夕食は、ソーメンじゃ力が出ないでしょうと、肉野菜炒めとソーメンの残りのだし汁で作った澄まし汁。簡単で済みませんというので、勉強しながらありがとうとお礼。今日もゆっくり寝ようねとパスの合図。勉強しますと少し寂しげ。

11時ごろ、2階の寝室兼勉強部屋へ行くと、勉強終わったと抱きついてくる。一瞬その気になったが、明日は海水浴へ行く約束。朝早くからお弁当を作るので、思い留まって、そっと抱いたまま就寝。

【8月9日(火)】
朝、暑くなる前にお弁当を持って出発。金沢駅まではバスで15分、それから浅野川線北鉄金沢駅から電車で終点内灘駅までは20分足らずで到着。駅から徒歩20分くらいで内灘海岸へ、家から約1時間で海水浴場に到着。東京と比べると海がとても近い。

美香ちゃんがどうしても日本海で泳いでみたいというのでやってきた。学校へ戻ったら日本海で焼いて来たと自慢したいとか。家からこんなに早く着けるとは思わなかったと驚いていた。

浜茶屋(海の家)で着替えを済ませて、波打ち際へ向かう。幸い波は穏やかだ。ただ、10時ごろだというのに、もう日差しが強く気温もかなり高くなっている。足の裏が焼けるように砂が熱い。最初はゆっくり歩いていたが、耐えられず駆け足で波打ち際へ。

美香ちゃんはスクール水着、帽子をかぶらないので、手ぬぐいを頭に巻いてやる。かっこ悪いといったが、無理やり巻いた。僕は実家においてあった学生時代の海水パンツ。

海に入り身体を海水に浸す。水温は高くない。少し泳いで、波打ち際で砂遊び。美香ちゃんがきれいに焼くためにオイルを塗ってくれと言うので、丁寧に塗ってやる。余り焼き過ぎると後が大変だよといっても、焼きたいから一緒に焼こうと、オイルを塗ってくれる。

海を見ていると落ち着くねと美香ちゃん、もう顔が真っ赤になっている。東京よりも空気がきれいなためか日差しが強く感じられる。確かに気持ちがいい。

海水浴なんて何年ぶりだろう。美香ちゃんも海水浴は両親と小学生の時に行ったきりだという。どうりで張り切るはずだが、このあたりがまだ子供だ。

お昼になったので、浜茶屋へ戻ってお弁当を食べた。お茶も持参したもの。色白の美香ちゃんは日に焼けてもう真っ赤。大丈夫と聞いても「大丈夫、せっかく来たのだから焼かなくちゃ」と午後もさらに焼くつもり。

もうすでに焼き過ぎだから、少しだけだよといって、砂浜を走って波打ち際へ、少し日に当たってから、海に浸かって身体を冷やそうと、無理やり海水に浸からせる。海水に浸かると少しピリピリするというので、もう上がった方がよいと浜茶屋へ戻って着替え。

まだ1時過ぎだけど、これ以上いると疲れるから帰ろうと、二人駅へ向かう。駅前で、電車を待つ間にかき氷を食べた。冷たくておいしい。

帰りの電車では美香ちゃんが僕の肩にもたれてひと眠り。疲れたと見える。金沢駅で駅弁を二人分買って、タクシーで帰る。日焼けはかなり疲れるのでタクシーでも寝ている。

3時前には家に着いた。美香ちゃんはもうぐったり。クーラーを効かせた寝室で休ませる。今日はもう勉強どころではないだろう。

6時ごろ、寝室から降りてきた。身体がほてる、日焼けし過ぎたといっても後の祭り。赤い顔と赤い肌が痛々しい。

「だから言っただろう、焼き過ぎると大変だよって」

「これほどとは思わなかった。日焼けを甘く見ていた」

「とりあえず、お弁当を食べよう」

「食べ終ったら、冷たいシャワーを浴びたい」

「こういう時は温いシャワーにした方がいい。冷たいシャワーだと返って火照るよ」

「分かった」

「今日はお勉強をお休みにするから抱いて下さい」

「いいよ、喜んで」

シャワーを浴びて寝室で待っていると、バスタオルを身体に巻いた美香ちゃんが入ってきて、そのまま抱きついてくる。

「だめ、日焼けしたところがひりひりして集中できない」

「水着を着けていたところは大丈夫だろう」

「肩と背中がお布団に触れるとひりひりして、腿も触られると、ひりひりしてだめ」

「残念だけど今夜は諦めるとするか。濡れタオルで冷やしてあげる」

冷蔵庫からアイスノンを取り出して、水を入れた桶に沈めて、手ぬぐいを冷やす。冷えた手ぬぐいで、美香ちゃんの肩、腿、額を冷やしてやる。

「冷たくて気持ちいい。ありがとう」

「僕も腿がひりひりする」

「楽しみにしていたのに今夜は諦めます。そっと抱いて寝て」

やれやれ、お休み。

【8月10日(水)】
一晩寝て時間が経ったのと冷やしたので、ひりひりは幾分収まったみたい。7時に起きて、美香ちゃんは朝食と昼のお弁当を作った。今日はもう帰省する最終日で午後には東京へ向かう。

朝食後、9時から12時まで美香ちゃんはお勉強、僕は家の片付け。お昼のお弁当を家で食べて、1時にタクシーで駅へ。外はかなりの暑さ。2時前の「はくたか」で東京へ。

家には6時前に無事帰着。夕食は金沢で買ってきたお弁当。日焼けも落ち着いたので、お勉強の後、久しぶりに愛し合う。やっぱり家が一番落ち着いてできる。
【8月11日(木)山の日】
美香ちゃんに勉強させるためと休養させるために今日は食事以外の家事を僕がすることにした。そろそろ受験勉強の時間をできるだけ作ってやらなければならない。夏休みは受験勉強の天王山。

朝食の後片付け、掃除、洗濯、昼食の後かたづけ、スーパーへの買い物、洗濯物の取り込みと片付け、夕食の片付け、お風呂の準備をしてあげた。

それから、二人話し合って、これから受験が終わるまで、愛し合うのは週末だけにして、ウィークデイは抱き合って眠るだけにした。お互い我慢するしかない。

家事は、夏休み中は時間があるので、美香ちゃんがするが、夏休みの土日の休日は料理以外を僕がすることにした。

2学期は、ウィークデイの家事は美香ちゃんだけど、夕食の後片付けなどは僕がする。休日は、料理以外は僕がすることにした。

僕が家事をすることでプレッシャーになっているかもしれないけど、できるだけ勉強時間を確保してあげたい。美香ちゃんは甘えさせてもらうけど、必ず合格すると言っていた。

【8月14日(日)】
朝、2人で美香ちゃんの両親のお墓参りに行った。結婚してから気になっていたこと。お墓は五反田の近くのお寺にあるというので、ネットの地図で確認しておいた。

納骨してから来る機会が無くてごめんなさいとお墓の前でしばらく泣いていた。そして、圭さんと結婚して幸せに生活していますと報告していた。

美香ちゃんはお墓参りに連れてきてくれて本当にありがとうと何度もお礼を言っていた。両親が見守ってくれているので、受験きっと大丈夫と言ったら頷いていた。

【9月16日(金)17日(土)】
9月16日(金)、17日(土)に実力試験があった。美香ちゃんはクラスで1番、学年全体でも5番の成績だった。佐藤先生からはこのまま頑張れば合格できると言われたとのこと。気を抜かないで必ず合格すると言っていた。

受験では塾へいくところだが、時間のゆとりがないことと、美香ちゃんが自分でやるといったので、任せることにした。美香ちゃんは佐藤先生から問題集を推薦してもらい、それを購入して自分なりに受験勉強を進めていた。

ただ、週末の夜には、美香ちゃんは嬉しそうに抱きついて来るので、1週間分、愛し合った。「週末を楽しみにして勉強に身が入る。抱いてもらうと受験勉強のストレス解消になる。頭が真白になって、そのあと勉強の能率が上がるので、他の受験生より断然有利」と言っていたが、そうかな?
【10月10日(土)】
今日は金沢に一人で帰省した。大学を卒業して10年経ったのを機会に同窓会開催の案内が来た。美香ちゃんが受験勉強中で、一人で勉強させたいこともあり、1泊2日で帰省して出席することにした。東京は朝早い「かがやき」で出発した。

今回の出席の目的は、真奈美が幸せに暮らしているかの情報を得るためでもあった。彼女は山形の出身の同級生で4年生の研究室が同じ薬理学教室であった。卒業が迫った1月に僕は彼女を好きになってしまった。同級生の西方君と付き合っていたが別れたとの話を同じ教室の女の子から聞いていた。

今思うとこちらが一方的に好きになって、告白して付き合い始めたというのが本当のところで、彼女から好きだとは言われていなかったかもしれない。付き合っていたことは教室の皆には分からないようにしていたが、知られていたかもしれない。

卒業式の次の日の夜、お別れの食事にいったが、何を話したのか覚えていない。ただ、春の冷たい雨の中を相合傘で彼女のアパートまで送っていったことは憶えている。

別れ際、僕は何もできなかった。彼女を抱きしめることもキスをすることも。拒絶されることを恐れていたのかもしれない。ただ「電話するね」とだけ言ったことを覚えている。

それから、僕は研修先の上田へ、彼女は実家のある山形へ帰って病院の薬局に就職した。毎日、研修が終わった夜遅くに電話した。何を話していたのかよく覚えていない。ただ、いつも僕の方から電話していた。彼女からかかってきたことは一度もなかった。

研修が終わるころ彼女から手紙が届いた。両親が地元での結婚を希望しているので僕と別れたいとの内容であった。彼女は二人娘の長女と聞いていた。驚いて電話した。

彼女はただ、結婚できないから別れたいとだけ言った。そしてもう電話しないでともいった。それからやけ酒をあおって泥酔してゲロを吐くほど飲んだのを覚えている。

それから2~3年経って、彼女が元彼の西方君と結婚したと風の便りで知った。僕との交際と別れが契機になったのかもしれない。いきさつは分からないが、驚いたし、やはり彼女は西方君が好きだったのかとも思った。彼女は西方君とはじめに分かれた理由を僕に話さなかったし、僕も聞かなかった。

新幹線は便利で速い。11時頃には実家に到着した。到着するとすぐに家の掃除と庭の手入れを始める。同窓会が始まる6時30分までには時間がある。彼女は来ているだろうか?

5時30分にバスに乗って駅前のホテルの会場に向かう。早めに会場に着いていたいが、ラッシュアワーで道が混んでいる。6時過ぎに会場に到着した。受付を済ませる。

しばらくすると彼女が西方君と現れた。僕はすぐに彼女に気がついた。あの時と変わっていない。彼女も僕が出席していることに気が付いたが、目を合わせようとしない。声をかけようと迷ったが思いとどまった。

そうこうしているうちに、宴会場へ入ったが、彼女とは全く別の離れたテーブルに座ることになった。これでお互いに目を合わせることがない。

宴会が始まって各人の簡単な卒業後の自己紹介をすることになった。彼女は西方君と結婚して二人の子供がいて、今は山梨に住んでいるとのことであった。子供は山梨の夫の実家で預かってもらっているという。幸せそうな挨拶だった。自分が幸せなのを皆に知ってもらいたいから、二人で出席したのが何よりの証拠だ。

自分の番になったので、6月に結婚したことを報告した。ただ、女子高生と結婚したとは言わなかったが。彼女を含めて皆、拍手してくれた。これで僕も結婚して幸せになっていることが彼女に伝わったと思う。

宴会中に西方君が酒を注いで皆のところを回って、僕のところへもやってきた。彼の素振りから直感的に彼女は僕とのことを話していないと分かった。彼女の僕に対する誠実さが分かったので、出席してよかったと思った。

二次会で場所を移動したが、この時も彼女は僕の席から遠く離れたところに座った。僕は時々彼女を見ていたが彼女はやはりこちらを見ようとしなかった。

同じ研究室で出席したのは僕と彼女だけで、ほかのメンバーが居れば集まるところだったが、それをせずに済んだ。最後まで彼女とは一言も口を利かず、目も合わせずに同窓会は終了した。

急いで会場を離れ、駅のタクシー乗り場へ。もう11時を過ぎているが、駅前には人が多い。新幹線ができる前はこんな時刻は閑散としていたが、歩きづらいほどの人がいる。タクシー待ちの人はいないのですぐに乗車できた。

彼女はなぜ目を合わせようとしなかったのだろう。話しかけてほしくないとの意思表示は明らかであった。引け目を感じていたからか? こちらから声をかけなかったことを彼女はどう思ったことだろう。思いやりと受け取ったのか、まだ怒っていると受け取ったか? 

僕もなぜ声をかけなかったのか自分の思いが良く分からない。彼女が一人で出席していたなら声をかけたかもしれない。二人で出席していたので、遠慮したのかも、嫉妬したのかもしれない。

これでもう以後は同窓会には出席しないつもりだ。彼女とは一言も口を利かなかったが、彼女の僕に対する誠実さが確認でき、お互いにあのときの付き合いを覚えていて意識していることを確認できたから、そしてお互いに幸せに暮らしていることが確認できたのだから、これでお互いの思い出に区切りがついたと思う。そして誰にも話さずに胸の奥にしまっておくことができる。

タクシーで家に着くと、疲れと酔いもあってか、ほろ苦い思い出に浸ることなくすぐに眠りについた。

【10月11日(日)】
翌日の昼過ぎに、駅で美香ちゃんが気に入っている大好きな「圓八のあんころ」と駅弁を2つずつ買って、新幹線に乗車。メールでもこのことを連絡。これで美香ちゃんが夕飯の準備をしなくて済む。

最近見つけて気に入った昔の曲『さよならをするために』のフレーズを思い出す『過ぎた日の微笑みをみんな君にあげる。・・・あの日知らない人が今はそばに眠る。・・・胸に残る思い出とさよならをするために』どんなシチュエーションの曲か分からないが、今の僕にぴったりのフレーズ。

家に着くと、美香ちゃんがとんでくる。

「おかえりなさい」

「勉強はかどった?」

「まずまず。でもそばにいないと今頃なにしているのかと返って気になって。同窓会どうだった。昔の彼女に会えた?」

「皆、元気でやっているみたい。自分も結婚を報告しておいた。でも結婚相手が女子高生だとはとても言えなかった」

「本当のところを報告すべきだったと思うけど」

「そうだ、うらやましがられるように報告すべきだった。でも同窓会にでてよかった。これで学生時代の思い出とさよならできそうだから」

「どんな思い出?」

「ほろ苦い思い出だけど、もう忘れた。それよりも美香ちゃんを抱きたい」

「うれしい」
12月の模試の結果では、合格圏内に入っていた。このままがんばれ。年末年始の帰省は臨戦態勢で臨むために中止。正月休みは僕が家事に専念して美香ちゃんのサポートに徹することにした。

【12月23日(金)天皇誕生日】
一日早いクリスマスを二人で祝った。これまでクリスマスなんかには縁がなかった。イブは一人家へ帰って、テレビのクリスマス特集番組を見ることが多かった。今年は美香ちゃんの受験勉強があるので、3連休の1日目にこれを設定。あと2日はお勉強に充てる予定。

午前中に二人で近くのスーパーに買いものに行って、調理の手間が省けるローストチキン、クリスマスのオードブルセット、赤ワインなどを購入。ケーキ屋さんでショートケーキ2個購入。また、今日の昼食用のお弁当を2つ購入。お弁当を食べてから美香ちゃんは6時までお勉強。

6時から二人でクリスマスの夕食を準備。ただ、買ってきたものをならべるだけ。

「一日早いクリスマス、おめでとう」

「クリスマスがなんでおめでたいか分からないけど、私は今年のクリスマスは本当にうれしくておめでたいクリスマス。大好きな圭さんと二人きりで過ごせるクリスマス、去年の今ごろは想像もできなかった。本当にありがとうございます」

「僕も去年のクリスマスは買ってきた総菜を肴に、一人部屋で缶ビールを飲んでいた。今日は可愛い妻と二人でささやかだけど楽しいクリスマスを祝っている。とても想像できなかった。3月から本当にいろんなことがあった。乾杯しよう」

出張のみやげに買ってきたお気に入りのワイングラス2個、デザインは違っているが、僕は青いガラス、美香ちゃんは赤いガラス。美香ちゃんは未成年だから、グレープジュースを注いで、これからの二人に乾杯した。

「このあとのお勉強はどうするの」

「今日はクリスマスイブイブ、お勉強は一休みします、頭を休めることも大切。寝ている間に記憶が固定されるとか聞いたことがあります」

「今夜はゆっくり愛し合えるね」

「二人の記念すべきクリスマスにしたいから思いっきり可愛がって」

あすは連休2日目でゆっくり朝寝できる。愛し合った後、美香ちゃんは僕の腕の中で死んだように眠った。これで勉強の記憶が固定されるといいけど。

【12月31日(土)】
今日は大晦日。美香ちゃんのお勉強は順調に進んでいるみたい。10時から二人で年末のお買い物。玄関の簡単なお飾りとパックの鏡餅、年越しそば用にそばとてんぷら、正月の食材などを買い込んだ。

美香ちゃんがお正月に勉強に専念できるようにお節料理のセットを2人前、通販で申し込んでおいたので、午後には配達される予定だ。これでお正月の準備が整った。

家に帰って簡単な昼ご飯。その後、美香ちゃんは5時までお勉強。僕は、正月の飾付、お鏡をセット、カレンダーを交換、洗濯物の取り込みや部屋の整理整頓などを行う。

5時から美香ちゃんは夕食の準備。夕食は簡単に年越てんぷらそば。でも美香ちゃんはだしを鰹節からとって作った。こんな年越そばは初めてでおいしい。

食事後にお風呂に入ってから「これから12時までお勉強するから、その後抱いて下さい」と言って美香ちゃんはお勉強。

僕はテレビのボリュームを絞って紅白を見る。年々流行の歌についていけていないことに気付いている。

12時、小さいがどこかで除夜の鐘が聞こえる。

「除夜の鐘が聞こえるよ」

「ほんと、小さいけど除夜の鐘」

「今年のお勉強は終わりです。今年の締めに抱いて下さい」

寝室で二人布団に入って抱き合う。美香ちゃんの身体が冷たくなっている。

「身体が冷たくなっているよ。大丈夫? 風邪をひくよ」

「ギュッと抱きしめて温めて下さい」

抱きしめて、身体をさすっているうちに美香ちゃんの身体が段々温かくなってくるのが分かった。それから部屋の暖房を一番強くして、愛し合う。来年も良いことが一杯ありますように!

【1月1日(日)】
朝、目が覚めたがもう9時に近い。寝床には美香ちゃんがいない。朝食の準備かな?

「おめでとうございます」

「食事の準備ができています」

「お正月はゆっくりで良いと言っていたはずじゃないか。よく眠れた?」

「私も今起きたばかりです。朝と昼の兼用の食事です。着替えて来て下さい」

テーブルに注文して届いたおせちセットが並んでいる。

「お雑煮にお餅を幾つ入れますか?」

「3つかな」

「私は2つ」

のんびりした二人初めてのお正月の食事は良いもんだ。

「これがお昼兼用の食事で、夕飯もこのおせちの残りでお願いします」

「缶ビールが1本あれば、これで十分なご馳走だ」

「助かります」

「食事が済んだら、近くの洗足池公園にある千束八幡神社へ初詣に行こう。来年は明治神宮へ行こう。今年は勉強もあるから近場で済まそう」

「散歩している時にあったあの神社ですね」

「この辺りでは一番大きい神社かな」

それから、二人で初詣でに出かけた。10時頃だというのに意外に長い行列ができていたのに驚いた。列はカップルや家族づれがほとんど。長い列だったが、15分くらいでお参りができた。美香ちゃんはおみくじを引いた。

「大吉が出た」

「こいつは春から縁起が良い」

「圭さんはやはり引かない?」

「引かない。美香ちゃんの大吉で十分。少し運を分けてもらえればありがたい」

「もちろんです」

美香ちゃんは大満足で帰宅した。もちろん僕も。それから美香ちゃんは勢いづいてお勉強。

6時に残りのおせちで夕食。夕食後にお風呂に入って、美香ちゃんはまたお勉強。僕はテレビを見るが、正月番組はどこも同じでおもしろくない。録画してあった映画を見ていたが、11時ごろ、美香ちゃんがやってきた。

「へへ、今日は『姫始め』ですよね」

「『姫始め』を知っているんだ。大晦日の夜が『姫納め』でお正月の初めてが『姫始め』」

「お勉強済んだので、今日もお願いします」

「姫始めは1月2日ともいわれているけど、お互い我慢できそうにないね」

「我慢していたら、お勉強に集中できないので。抱いてもらうとすっきりして、また、集中できるんです」

「そういうのなら、もちろん協力するけど、姫始めが済んだらできるだけ勉強に集中して、もちろんプレッシャーになるつもりはないけど」

「よく分かっています」
【1月16日(土)17日(日)】
1月16日(土)17日(日)にセンター試験があった。国公立薬学部のセンター試験受験科目は5教科7科目。センター試験得点率85%、偏差値65が合格圏。自己採点の結果では大丈夫とのこと。2次試験までは、あと40日位。2次試験の科目の数学、化学、英語の3科目に絞って、最後の追い込み。がんばれ!

【2月25日(土)】
前期日程の試験は2月25日(土)に行われた。前日に試験場の確認にでかけ、当日は朝早く、余裕をもって出かけた。美香ちゃんは4時半ごろに疲れた様子で帰宅した。

どうだったと聞くと、全力を尽くしたから、悔いはないと言って、ソファーに寝転んで眠ってしまった。毛布を掛けてそのままそっとしておくことにした。疲れたんだなあ。

美香ちゃんのために、ご飯を炊いて、夕食にカレーライスを作った。まずまずの出来か?

6時過ぎになって、美香ちゃんが目を覚ました。ごめんなさいと言いて目をこすりながらテーブルにやってきた。

「夕飯はカレーを作ってみた。気に入るかわからないけど」

「すみません。今日はごちそうになります」

「疲れたみたいだね。14年前を思い出すよ。受験なんか2度としたくない」

「受験させてもらってありがとうございました。がんばりました。合格するといいけど」

「あれだけがんばったんだから、いいじゃないか。悔いはないだろう」

「はい。明日から家事はすべて私がやります。長い間のご協力感謝します」

「当然のことだから気にしないで」

「明日、学校へ行って佐藤先生に報告してきます。卒業式が3月4日(土)で、合格発表が6日(月)一人で見に行ってきます」

「分かった。不合格なら後期日程で頑張ればよい」

「今日は、抱いて下さい。頭を空っぽにしたいから」

「いいよ。久しぶりだから思いっきり」

ぐったりした美香ちゃんをいつものように後ろから優しく抱いて眠ろうとする。

「結婚してこんなに優しく愛してもらうのはもう8か月になります。いやいやさせられていた期間よりもずっと長くなって悪い夢も見なくなりました。今、私とっても幸せです。これからもこの幸せがずっと続くように毎日神様にお祈りしています」

美香ちゃんが腕を握り締めてくる。

「美香ちゃんが幸せと思っていてくれて嬉しい。悪いことが忘れられてよかった。これからも優しくするよ」

やはり気にしていたんだ、時間が解決してくれることもあるんだなと、強く抱き締めた。

【3月4日(土)】
3月4日(土)の卒業式は佐藤先生や副校長へのお礼の挨拶もあるので、二人で臨んだ。佐藤先生に挨拶すると、お二人のおかげで僕たちも結婚できたと反対にお礼を言われた。山崎先生とは春休み中に式を挙げるとのことだった。

美香ちゃんも、今日は左手の薬指に結婚指輪をしている。結婚していることが学校で知られるようになっても、指輪はしないで、ネックレスに婚約指輪と結婚指輪をとおして、目立たないようにしていた。まずは無事、高校を卒業できたことを祝いたい。

【3月6日(月)】
3月6日(月)発表の日、美香ちゃんは一人で見に行くとのこと。発表は午後1時。

「結果が分かったら電話かメールをして」と言って出勤した。

「不合格でも、絶対に電車に飛び込んだりしないで」

「そんなことは絶対ありません。ご心配なく」

「後期日程もあるからあきらめないで」

「大丈夫です」

1時過ぎに美香ちゃんから電話。

「どうだった」と聞くと、「合格した」という。それを聞いて安心して力が抜けた。「おめでとう、気を付けて帰って」と電話を切った。ほっとした。よかった。

家に帰ると、美香ちゃんがとんできて抱きついた。

「合格おめでとう」

「ありがとう。圭さんのお陰です。とってもうれしい」

「美香ちゃんの努力の結果だよ。肩の荷が下りた」

「合格発表の帰りに五反田のお寺の両親のお墓に合格を報告してきました」

「それはよかった」

それから、自分でお祝いのディナーを作ったと豪華な食事が用意してあった。こんなにうれしい思いで食べる夕食は結婚した時以来で久しぶりだ。

夕食を片付けた後、二人でお風呂に入って、身体を洗いあって、寝室へ。美香ちゃんがしがみ付いてくる。

さんざん泣きじゃくった後で、これからは思う存分できるといってけろりと笑顔を見せた。それから今までのことを思い出しながら愛しあった。

美香ちゃんはもうぐったりしている。小さな声で「おしっこがしたいけど、腰がだるくて歩けない。トイレに連れて行って」と言う。こちらも疲れているところだが、なんとか抱っこしてトイレに運ぶ。

「終わるまで前で待って居て」というので、待っていると「寝室まで抱っこしていって」というが、「もうかんべん、おんぶにしてくれ」と、今度はおんぶで寝室まで運ぶと、二人倒れ込んで眠りに落ちた。疲れた・・・。
【3月9日(木)】
3月9日(木)に休暇を取って、二人で大学へ入学手続きに行った。入学手続き締切の3月15日(水)までに入学金と授業料などを納めなければならない。駅のキャッシュコーナーで僕の口座から必要額を引き出す。大学の窓口で手続きを終えてこれですべて完了。受験は終わった。

帰りに新橋と西千葉の中間地点と考えられる船橋と市川に途中下車して、引越し先を二人で探した。なかなか適当な物件が見つからない。二人とも気乗りがしないので、今回はとりあえず引き上げて、引越し先探しは次の機会とした。

合格のお祝いに二人で東京駅近くのビルのレストランでフランス料理のディナーを食べた。

「船橋と市川、どちらも気乗りがしないね。どうも街の雰囲気になじめない」

「私もそう思った。長原から千葉まで1時間10分くらいだから通学可能だと思うので、引越しはやめた方が良いと思います。長原の街が好きです」

「もしそうするなら、通学時間が長くなる分、家事を協力しよう」

「大丈夫と思いますが、帰りが遅くなったら手伝ってください」

「2年後輩の山本君が去年マンションを買ったけど、通勤時間が1時間45分かかるそうだ。東京では通勤時間は2時間以内であれば良いと言われているから、このままでもいいか。引越しを止める代わりに近くにもっと広いマンションを借りるのが良いと思う。美香ちゃんに勉強部屋が必要だから」

「そっちの方が良いかもしれません」

後日、マンションの管理人さんに結婚したので、もう少し広いマンションに替わりたいが、良さそうな物件を知らないかと聞いたところ、このマンションに2LDKの事故物件があるとのこと。

昨年夏に高齢の女性が孤独死したとのこと。そう言えばいつも挨拶していた品の良い高齢の夫人と最近合わなくなっていたのを思い出した。亡くなられたのか、知らなかった。都会の生活とはこういうものだ。隣人の死にも気が付かない。

マンションのオーナーに事故物件のことを聞いてみると、賃料を下げても未だに入居者が決まらなくて困っているとのこと。

結婚したので、もっと広いところを考えているが、妻と相談してみるといったところ、今の部屋と同じ賃料でよいという。

それじゃあと美香ちゃんに電話すると、気にしないので構わないというので、転居することに決めた。

美香ちゃんは「知っていて挨拶をしていた人だから大丈夫でしょ、それに圭さんも実家はお墓のそばでなれているでしょ、同じ賃料なら広い方が良いに決まってる」と上機嫌だった。

【4月2日(土)】
4月2日(土)に引越し屋さんを頼んで転居した。2LDKの大きいクローゼット付の部屋を美香ちゃんの部屋に、小さめの部屋を僕の書斎にした。寝室はその時々でそれぞれの部屋を寝室にすることした。これで新しい生活のスタートができる。

【4月5日(水)】
4月5日(水)に入学式がポートアリーナであった。学生は12時集合で1時開会。美香ちゃんが是非来てほしいというので、休暇をとって一緒に出席した。美香ちゃんは嬉しそうな誇らしげな顔をしている。式の終了後にまた一緒に帰る。

途中、美香ちゃんに入学祝いをプレゼントしたいと、結婚指輪を買った銀座のティファニーに立ち寄った。

「入学祝いをしたいけど、美香ちゃんにはブレスレットをしてほしいと思っている。いつか電車でブレスレットをつけている女性を見かけたけど何気ない服装にブレスレットがとても似合っていた」

「ブレスレット、思ってもみなかったけど、圭さんがしてほしいなら喜んでします」

「美香ちゃんは色白だから、気軽にできるシルバーの細いのが似合うと思う。最近は皆スマホを持っているので腕時計をしなくなった。女性のきれいな手が寂しく見える」

「この細い鎖みたいなのをお願いします」

「せっかくだからつけて帰って。いつも身につけていてくれたらうれしいけど」

「ありがとう。もちろんです」

結婚して約9か月になるが、今から考えてみれば、可愛いJKを妻にしていたなんて、男冥利に尽きる。

まして、これから6年間も美人の女子大生を妻にできるなんて、会社でも話さないようにしなければ。評判になったら嫉まれて転勤にでもなりかねない。本当に、人助けはしておくべきだ『情けは人のためならず』

駅を出ると雨が降ってきた。春の雨だ。去年の3月3日(木)の春の雨の日に出会って、相合傘で家まで帰ったことを思い出した。

もう1年以上前のことだが、昨日のことのように思い出される。あの時の春の雨はとっても冷たくていやだった。美香ちゃんもその時を思い出しているみたい。手を強く握ってくる。

「圭さんと初めて出会って家へ連れて行ってもらったあの日も雨の日だった」

「随分前のことにも思えるし、昨日のことのようにも思える。辛い時間は長く感じるけど、楽しい時間はあっという間に過ぎる」

「辛いことはいつまでも覚えているけど、楽しいことは忘れるのが早い気がする」

「楽しい時間を大切にしようね」

「いつまでも忘れないように」

今日の春の雨はあの時よりもずっと暖かい。これから一雨毎に春らしくなってくる。あの時と同じように相合傘で家へ帰るけど、今は二人とも身も心も温かい。めでたし、めでたし。

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