弾が切れ、マガジンを外して充填。
 スコープで現場を確認するも標的は未だ動かず。

 しかし時間の問題だ。
 田中さんが姿を見せるのが先か、他の生徒に見つかるのが先か。
 銃弾は残り、マガジン一つ分。

 私は息を吐き、スコープで理科準備室を覗く。
 ん? 誰だ、あれ。
 女子生徒? 生徒会のメンバーではない。まさか他の腕時計の持ち主か?

 でもこの距離ならたとえ銃弾が届いても正確に狙うことは不可能のはず。
 もし私と同じスナイパーライフルタイプの銃でも既に構えている私の方が早く撃てる。

 ん? なんだ? なにをしている? 制服の中から何か取り出して。いや、大きいな、質量おかしいだろ。なんだあれ。筒?

「え」

 スコープの中で女子生徒は膝立ちになり筒状の何かを肩に担ぐ。

「ファイヤー!」

 田中さんと繋がっていたスマートフォンからそう聞こえ、白い煙とともにこちらに向かってくるミサイルがだんだんと大きくなっていく。


 耳をつんざく爆発音とともに部活棟の屋上が煙で満ちている。

「智恵子ちゃん!」

 ロケットランチャーを肩から下ろす彼女は一年生の吉田智恵子ちゃん。智恵子ちゃんはまたも制服の中からミサイルを取り出し、ロケットランチャーに装填。何もかもが私とは規格外だ。

「田中先輩も会長目当てだったとは気が付きませんでした。でも、私が会長をいただきます!」
「違う違う! 私は木原先輩狙いだから!」
「木原? 誰ですかその人」
「えぇ……」
「いきなり爆破なんてひどいじゃない」

 スマートフォンから高梨会長の声が聞こえる。

「さすが会長、避けましたか」
「あなた一年一組の吉田智恵子さんね。私を狙うなんて、なにが目的?」
「決まってるじゃないですか。会長に私を好きになってもらうためですよ。ていうか、この腕時計を持ってて、天使から武器を貰ったのなら、みんな目的は同じでしょ?」

 みんなと同じではないことに苦しみながらもがいている高梨会長にとってその言葉は地雷だ。

「あなたたちと一緒にしないで」

 凛とした声の中に怒りの気配を感じる。

「さすがですね。でも」

 智恵子ちゃんは再びロケットランチャーを構える。

「私は会長が大好きです。もちろん、性的な意味で!」

 音楽室からは吹奏楽部の演奏が漏れ聞こえる。

 題名はリヒャルト・ワーグナーの『ワルキューレの騎行』だ。