階段を登り、特別教室棟の三階へ来たが木原先輩の姿はなかった。
 一番端の音楽室からは吹奏楽部のチューニングが響いている。

 私は扉についた小窓を覗きながら歩みを進める。

 美術室。いない。
 美術準備室。いない。
 コンピュータ室。いない。
 残すは理科室。だけどいない。

 もう下の階に降りてしまったのか。そもそも木原先輩がなんの目的でどこに向かっているのか見当がつかない。私がいうのもなんだがウロウロしすぎだ。

 理不尽な腹立ちを覚えながら私は足が急ブレーキ。
 理科室の隣、普通の教室の半分しかない理科準備室の奥に窓の外を眺めている男子生徒の人影が見えたから。

 扉に手をかけると普段施錠されているはずの扉がすんなり開く。壁に建てつけられた棚には試験器具や薬品がびっしりと並んでおり、埃っぽいような鼻が痛いような、とにかく化学っぽい匂いがした。
 木原先輩はまだ私に気づいていない。

 今なら!

「木原先輩っ! ごめんなさい!」

 私は拳銃を構え、トリガーを引く。

 パンッ!

 すると木原先輩は体を硬直させ、そのまま床へと倒れこむ。しかし変だと直感した。それは人形のような動きだった。
 床に倒れた男子生徒に近づき、覗き込むとそれは男子生徒の制服を着た、カツラをかぶせた人体模型だった。

「なにこれ?」
「見つけたぞ!」

 振り向くと昇降口で声をかけてきた生徒会の生徒が扉に立ちふさがる。しまった、逃げ場がない。

「罠か!」
「罠? なんの話だ?」

 飛びかかる生徒会の生徒に驚き、しゃがむと凍った地面を踏むような音とともに、生徒会の生徒はその場に倒れこむ。

「なにが起こったの?」

 瞬間、涼しい風が頭を撫でる。後ろを見上げると窓には小さな穴が空いていた。
 生徒会の生徒からスマートフォンの着信音が鳴り、起き上がった生徒は電話に出ると「わかりました」と告げ、私にスマートフォンを差し出す。それを受け取ると生徒は魂が抜けたように理科準備室から出ていった。

 私は恐る恐るスマートフォンに耳を当てる。

「……もしもし」
「もしもし、高梨マーガレットです」

 高梨マーガレット先輩。うちの学校の生徒なら誰もが知っている完璧才女の生徒会長だ。通話越しの声にも品がある。

「どうも。私は」
「あなたも天使から受け取ったのでしょう。拳銃を」
「え」