7. アクシデント

 (5月10日)

 私(田村)はその日、移動日であったため新幹線で東京から新大阪まで行き、その後、貸しきりバスで大阪市内のホテルへ向かう途中であった。

 バスに乗ってから15分ぐらい経った頃、急ブレーキにより私達の乗っていたバスが停まった。

 私は前方に座っていたため、横断歩道を自転車で渡ろうとしていた女性が倒れていたのが見えた。

 恐らく信号無視で女性が渡ろうとしていたと思われた。幸いにもその女性はバスに接触しなかったため、すぐに立ち上がった。 

 それを見て心配になった私は、バスのドライバーに、
 「近くに停めて、待っていて頂けますか?」と言い、バスから降りた。

 「大丈夫ですか? 怪我はされていませんか?」と私は尋ねると、

 「すみません。急いでいたもので、赤信号なのに渡ろうとしてしまって.....」と謝罪をした。

 女性が足を少し引きずっていたのに気付き、

 「もし、よろしければ、近くまでご一緒しましょうか?」と私は言った。

 その女性は丁重に断ったのだが、
 「でも、足を少し怪我されているようですから」と頑固に私は言うと、

 「ご迷惑をかけまして、申し訳ないです」と彼女は言った。

 バスを待たせていたため、彼女にこちらで少しだけ待ってもらうように伝え、私はバスの停車場所へ走って行った。

 「私は後でタクシーで行きますので、先に行って下さい」とドライバーに言って、戻ろうとした時に平田コーチと目が合った。
 
 平田コーチは、私より6歳年上である。プライベートも含め、よくお世話になっており、いろいろな相談にものってくれる先輩なのだ。 

 その平田の目が心配そうに見えたため、私は手で大丈夫だという合図を送った。