34. 大地に奇跡が...

 「大地、大地、もう一度目を開けて!」
 とひとみが泣きながら言うと、

 「大地、死ぬんじゃないぞ。パパもママも大地が死んだら許さないからな」
 と幸雄が言った。

 ひとみは、その後もずっと大地の手を握り続けていた。
 「ひとみ、ジャガーズが優勝したよ。田村選手がサヨナラホームランを打ったみたいだ。大地に見せてあげたかったな」と幸雄が言うと、

 「あなた!」と大きな声を出した。

 「どうした、そんな大きな声を出して」

 「大地の手が動いたの」

 「嘘だろ?」

 「嘘じゃないの。こちらに来て」
  とひとみが興奮気味に言うと、

 幸雄は大地のところに来て、大地の手を握ると少しではあったが、大地が握り返したのだ。

 「大地、大地、パパだよ。わかるか?」


 そして、その数分後に大地はゆっくりと目を開けたのだ。ひとみはすぐにナースコールを押して、

 「大地が目を開けました。すぐに来てください」

 「パパ、どうしたの? パパとママ、どうして泣いているの?」

 「なんでもないよ。すごく嬉しいことがあったから」と幸雄が言うと、

 「タムがホームランを打ったこと?」

 「どうして、タムがホームランを打ったことを知っているの?」とひとみが聞いた。

 「だって、タムがホームランを打ったのを見ていたの。タムと約束をしたんだよ」と大地は言った。

 幸雄は、大地がきっと夢を見ていたのであろうと思ったのだが、そのことは大地には言わなかった。そして、現実と重なっているところがあったが、それは単なる偶然だと二人は思っていたのだ。

 阿部医師と看護婦が急いで駆けつけた。そして、大地の脈拍などを測ると、

 阿部は信じられないような顔をして、
 「奇跡が起きました。大地君は回復されています。ただ、理由は分からないのですが」と阿部は二人に伝えた。

 「大地、助かって良かったね」
 とひとみは涙を流して、大地を抱きしめた。

 「ママ、嬉しいことがあったから泣いているの?」
 と大地が聞いた。

 「そうよ。大地が病気を退治してくれたから嬉しかったの」
 とひとみが言った。

 「だったら、ママ、タムにお礼を言ってね」

 「どうして、タムにお礼を言うの?」

 「だって、タムと約束をしたの。タムがホームランをたくさん打ったら、また会おうねと言ったんだよ」と大地が言った。


 幸雄とひとみは、大地の話をほとんど信じてはいなかったが、今までいろいろと田村には大変お世話になったということもあり、明日連絡を入れることにした。