29. 危篤の大地

 大地は2日前に、集中治療室から個室へ変わったのである。その理由は回復の見込みが、ほぼ厳しいと医師の阿部が判断をして、このあと少しでも家族と一緒に居られるようにという阿部の優しさでもあった。

 そして、ついに大地の体調がだんだんと危なくなってきたのだ。


 阿部は両親に、
 「大変申し上げにくいのですが、大地君はあと数日持つかどうかの状態です。後は大地君の体力と精神力だけです。ただ治療につきましては、残念ですが医師として、これ以上のことはできないのです」

 「あなた、大地は死なないよね?」
 とひとみが涙を流しながら幸雄に言った。

 「大地、お前は強い男の子だろ。絶対に死ぬんじゃないぞ。大地の大好きな田村選手もお前のことを応援しているからな。そうだ、大地、今日はジャガーズの最後の試合がある日だよ」と幸雄は言い、大地のベッド近くにあるテレビをつけようとした。

 大地は当然テレビを見ることはできないし、音声も聞くこともできないと分かってはいたが、あえて幸雄はそのようにしたのだ。