五兄とは年が近かった。四つの差があったが、彼は親しみある雰囲気で、佳純とよく遊んでくれた。この家にとって、または父にとって、佳純はようやくできた一人娘だった。

 父にはよくかわいがられた。兄たちのことを鬼のような形相で怒鳴りつける父も、佳純と接する時は表情を崩して、でれっとした顔になった。

 父の大きな手のひらで頭を撫でられる時、上手く力加減ができていないために、少し痛かった。父は体格もよく、母とともに田舎の大きな日本家屋で、五人の息子と一人の娘を育て上げた。
 
 佳純の故郷は日本の中でも特に田舎の地方の村だった。そこで子どもを六人も持つ家は珍しかったので、伊織家はよく目立っていた。両親は明るくて社交的な面があったため、あの時の佳純の世界はまだ平和だった。

 母が亡くなり、父が男手ひとつで六人の子どもを育てなくてはならなくなった日まで。

   ○

 ぼんやりと、雨の降る外の景色を見ているうちに、バスは住宅街に入っていた。

 はっと気づいてあわてて停車ボタンを押し、バスのほうも、はっと気づいたように止まると、佳純は腰を上げて座席から立ち上がり、バスを降りた。