セイルキメラ、グレータークロコダイル。
二体の強力なモンスターを討伐し、俺とシトネは帰路につく。
倒したモンスターの死体は、ギルドから提供される保管用魔道具に収納し、そのまま持ち帰る。
「便利だね、このボール」
「でも収納できるのは一体だけだし、半日しかもたないけどね」
「そうなの? じゃあもっとたくさん倒した時はどうするの?」
「貴重な素材だけ取るか、ギルドに後から依頼して回収してもらったりかな」
ウルフとかゴブリンみたいに数の多いモンスターは、倒しても適当な部位だけ持ち帰ることがほとんどだ。
大した金額にならないし、倒した証明にさえなれば良い。
そもそもこの魔道具、ギルドから貰うために結構な金額がいるからな。
「今回の二体はどっちも貴重だし、部位によっては高値が付く。あと放置しておくとよくないことに繋がる可能性もある」
「よくないことって?」
「他のモンスターが死体を食べたり、取り込んで凶暴化したり」
「そんなこともあるんだ!」
「モンスターの中には、他の種族を食らって力をつけた種類もいるってことだよ」
そしてそういう種類のモンスターほど、狡猾で恐ろしい。
冒険者の仕事をしていると、モンスターの罠にはまって無残な最期を迎える者も少なくないと聞く。
実際に俺も、似たような現場に出くわしたことがあるから、おとぎ話みたいな話でもない。
今でも思う。
あの時もっと力があれば、助けられた命もあるのに……
「リン君?」
「何でもない。あとは戻るだけだな」
「うん! 今夜はアルフォース様も帰って来るんだよね?」
「一応はそうなってるな」
師匠のことだから、やっぱり帰れなかったとか普通にあり得る。
今は本当に忙しそうにしているし、文句も言えないのが複雑な気分だよ。
それから俺とシトネはまっすぐギルド会館へ戻った。
建物に着くころにはすっかり夕日も沈み、帰還した冒険者でにぎわっている。
「わぁ~ すっごい人だね!」
「朝はもっと多いぞ」
「そうなの!? これより多いと困っちゃいそうだよぉ」
ギルド会館の中には飲食店が併設されている。
情報交換の場として用意されたテーブルと椅子には、この時間になると酒を飲み楽しんでいる者たちでごった返す。
こういう風景こそ、冒険者らしいと思えなくもない。
依頼から無事に帰還して、生き残ったことを喜びながら、仲間と一緒に飲み食いする。
一人で活動していた俺には縁遠い話だ。
「帰ろっか!」
「そうだな」
ただ、今の俺はそれを虚しいとは思わない。
一緒に帰る人がいて、共に競い合う仲間もいる。
充実していないなんて、思うはずないだろ?
「あ、そうだ。うーん……いないか」
「どうしたの?」
「いや、エルがいたら挨拶だけしておこうかと思ったんだけど」
「……」
発言してから気付く。
さっきまで機嫌がよかったシトネが、あからさまに不機嫌になっている。
エルのことは迂闊に話すべきじゃなかった。
シトネが徐に俺へ手を伸ばしている。
またつねられるのかと思って身構えた俺だったが、彼女はちょこっとだけ服をつまんで引っ張るだけだった。
「ねぇ、リン君」
「な、何だ?」
「私にはくれないの? あの腕輪」
「えっ、腕輪?」
ああ、エルに渡した緊急事態用の魔道具か。
「エルちゃんにはあげたのに、私は貰ってない」
「それはまぁ、シトネは強いし。エルは情報屋で戦えるわけじゃないから、何かあったら困るだろ?」
「……そうだけどさぁ」
むくっと膨れるシトネは続けて言う。
「私だって、また悪魔に襲われるかもしれないよ?」
「それは大丈夫だろ? 俺が傍にいて守れば良い」
「……へっ?」
キョトンとするシトネに、俺は言い切る。
「どうせこの先もずっと一緒にいるんだし、あんなのなくてもシトネが呼べばすぐに駆け付けるよ」
「……リン君」
あれ?
今なんか俺……凄いこと言った気がするけど……
「そっかぁ~ じゃあ仕方がないねぇ~」
急に表情がとろけだすシトネを見て、余計なことは気にしないことに決めた。
「ま、まぁほしいなら後で渡すけど?」
「ううん! リン君が一緒にいるからいらないよ!」
「そ、そうか」
上機嫌になったシトネにホッとしながら、俺は夜空を見上げてため息を漏らす。
二体の強力なモンスターを討伐し、俺とシトネは帰路につく。
倒したモンスターの死体は、ギルドから提供される保管用魔道具に収納し、そのまま持ち帰る。
「便利だね、このボール」
「でも収納できるのは一体だけだし、半日しかもたないけどね」
「そうなの? じゃあもっとたくさん倒した時はどうするの?」
「貴重な素材だけ取るか、ギルドに後から依頼して回収してもらったりかな」
ウルフとかゴブリンみたいに数の多いモンスターは、倒しても適当な部位だけ持ち帰ることがほとんどだ。
大した金額にならないし、倒した証明にさえなれば良い。
そもそもこの魔道具、ギルドから貰うために結構な金額がいるからな。
「今回の二体はどっちも貴重だし、部位によっては高値が付く。あと放置しておくとよくないことに繋がる可能性もある」
「よくないことって?」
「他のモンスターが死体を食べたり、取り込んで凶暴化したり」
「そんなこともあるんだ!」
「モンスターの中には、他の種族を食らって力をつけた種類もいるってことだよ」
そしてそういう種類のモンスターほど、狡猾で恐ろしい。
冒険者の仕事をしていると、モンスターの罠にはまって無残な最期を迎える者も少なくないと聞く。
実際に俺も、似たような現場に出くわしたことがあるから、おとぎ話みたいな話でもない。
今でも思う。
あの時もっと力があれば、助けられた命もあるのに……
「リン君?」
「何でもない。あとは戻るだけだな」
「うん! 今夜はアルフォース様も帰って来るんだよね?」
「一応はそうなってるな」
師匠のことだから、やっぱり帰れなかったとか普通にあり得る。
今は本当に忙しそうにしているし、文句も言えないのが複雑な気分だよ。
それから俺とシトネはまっすぐギルド会館へ戻った。
建物に着くころにはすっかり夕日も沈み、帰還した冒険者でにぎわっている。
「わぁ~ すっごい人だね!」
「朝はもっと多いぞ」
「そうなの!? これより多いと困っちゃいそうだよぉ」
ギルド会館の中には飲食店が併設されている。
情報交換の場として用意されたテーブルと椅子には、この時間になると酒を飲み楽しんでいる者たちでごった返す。
こういう風景こそ、冒険者らしいと思えなくもない。
依頼から無事に帰還して、生き残ったことを喜びながら、仲間と一緒に飲み食いする。
一人で活動していた俺には縁遠い話だ。
「帰ろっか!」
「そうだな」
ただ、今の俺はそれを虚しいとは思わない。
一緒に帰る人がいて、共に競い合う仲間もいる。
充実していないなんて、思うはずないだろ?
「あ、そうだ。うーん……いないか」
「どうしたの?」
「いや、エルがいたら挨拶だけしておこうかと思ったんだけど」
「……」
発言してから気付く。
さっきまで機嫌がよかったシトネが、あからさまに不機嫌になっている。
エルのことは迂闊に話すべきじゃなかった。
シトネが徐に俺へ手を伸ばしている。
またつねられるのかと思って身構えた俺だったが、彼女はちょこっとだけ服をつまんで引っ張るだけだった。
「ねぇ、リン君」
「な、何だ?」
「私にはくれないの? あの腕輪」
「えっ、腕輪?」
ああ、エルに渡した緊急事態用の魔道具か。
「エルちゃんにはあげたのに、私は貰ってない」
「それはまぁ、シトネは強いし。エルは情報屋で戦えるわけじゃないから、何かあったら困るだろ?」
「……そうだけどさぁ」
むくっと膨れるシトネは続けて言う。
「私だって、また悪魔に襲われるかもしれないよ?」
「それは大丈夫だろ? 俺が傍にいて守れば良い」
「……へっ?」
キョトンとするシトネに、俺は言い切る。
「どうせこの先もずっと一緒にいるんだし、あんなのなくてもシトネが呼べばすぐに駆け付けるよ」
「……リン君」
あれ?
今なんか俺……凄いこと言った気がするけど……
「そっかぁ~ じゃあ仕方がないねぇ~」
急に表情がとろけだすシトネを見て、余計なことは気にしないことに決めた。
「ま、まぁほしいなら後で渡すけど?」
「ううん! リン君が一緒にいるからいらないよ!」
「そ、そうか」
上機嫌になったシトネにホッとしながら、俺は夜空を見上げてため息を漏らす。